原題:For Ever Mozart

1996年10月27日フランス初公開

1996年/フランス・スイス/85分/カラー/ドルビーステレオ/全4巻、2,307M/1x1.37 日本語字幕:映画史字幕集団2002(柴田駿、松岡葉子他) 字幕監修協力:蓮實重彦、浅田彰 配給:フランス映画社

2004年07月24日よりDVD発売開始 2002年6月29日よりユーロスペースにてロードショー公開

(C) 1996 JEAN-LUC GODARD

公開初日 2002/06/29

配給会社名 0094

解説


ゴダールの90年代以後の35ミリ劇場用長編映画は、「ヌーヴェルヴァーグ」(90)、「新ドイツ零年」(91)、「ゴダールの決別」(92-93)、「JLG/自画像」(93-95)、「フォーエヴァー・モーツアルト」(96)、「愛の世紀」(01)の6作品あり、その間、ビデオによる全8章の大作「映画史」(88-98)が並走しているが、「フォーエヴァー・モーツアルト」は、なかでも最も明るさと快活さが特徴で、光と響きで疾走する映画だ。製作時期は「映画史」3ABを発表し4Aを制作した頃に重なっている。世界プレミアは96年ヴェネチア国際映画祭。

 物語は演劇、戦争、映画、そして音楽の4つの流れで構成される。
 映画監督ヴィッキー・ヴィタリスはマルローの《希望》を舞台化する《希求》の準備中に、<男爵>と呼ばれるプロデューサーに「宿命のボレロ」という映画の監督を頼まれる。一方、ヴィッキーの娘カミーユは、従弟たちとともに、戦火のサラエヴォに戯曲を上演しにいくという。父ヴィッキーもやむなく、サラエヴォへの旅に向かう。

 出演者には、この作品を最後に世を去ったヴィッキー・メシカをはじめ、ほとんどなじみの顔がいないが、それでいて発端からゴダールならではの超スピードの展開が始まる。「ヌーヴェルヴァーグ」や『フランス映画の2×50年』のゴダール作品でウエイトレス役で登場して少しおなじみのセシル・レゲールをはじめ、全員がすばらしい存在感で生き生きと登場している。いっぽうスタッフはそうそうたるつわものぞろいだ。撮影のクリストフ・ポロックは「新ドイツ零年」(91)以来の、サウンドのフランソワ・ミュジーは「フレディ・ビュアシュへの手紙」(81)以来の、ゴダールの映画作品ヴィデオ作品を通じての重要なスタッフ。製作はフランス・スイス合作で、アラン・サルドはフランス映画界で最も精力的な活動を誇るプロデューサーで「勝手に逃げろ/人生」(80)以来ゴダール作品のほとんどを製作しており、スイス側のヴァルトブルガー女史は「右側に気をつけろ」(87)以来ゴダールの信頼を得ていてアンゲロプロスの「こうのとり、たちずさんで」やカラックスの「ポーラX」もサポートしている名プロデューサーだ。音楽は、モーツアルトはもちろん、ベートーヴェンも登場し、ECMの音源によるケティル・ビヨルンスタの“THE SEA”からのパッセージが鮮やかにつかわれている。

 “ジョン・フォード!”の叫び声とともに「映画史」4Aの章で登場した美しい一瞬の全体が浜辺の撮影シーンであらわれるのをはじめ、どのシーンも、凄まじい美しさの映像力でぐいぐい進展する。「ウイークエンド」が60年代ヌーヴェル・ヴァーグ時代に別れを告げ、劇映画に封印を刻した黙示録とすれば、ゴダールの20世紀最後の劇映画「フォーエヴァー・モーツアルト」は戦争の世紀に対する黙示録と言えるだろう。

ストーリー

 波止場に近い道を、サビーヌと呼ばれる女が、黒いリムジンに乗る〈男爵〉と呼ばれる男が、男爵がボカと呼ぶ男が公会堂に急ぐ。公会堂の玄関に貼られているポスターは、マルローの《希望》を翻案した戯曲《希求》が近く上演されることを予告している。その作者ハリーがジュネーヴ新聞の女性記者の取材を受けていて、ホールでは映画監督ヴィッキー・ヴィタリスが、甥のジェロームを助手に、《希求》の演出のために俳優のオーディションを始めるところだ。
 男爵は旧世代の映画プロデューサーの大物。娘ソランジュに、ページをめくらなきゃ、時代は変ってるのよ、と反対されながら、久しぶりの新作「宿命のボレロ」の製作で復活しようと執念を燃やしていて、腹心のボカ、秘書のサビーヌをひきつれ、ハリーの紹介をたよりに、「宿命のボレロ」の監督を引き受けさせようと自らヴィッキーに会いにきたのだ。
 ヴィッキーがオーディションのために選んだのはマルローの《希望》の“戦争とは単純、肉片に鉄片をくらわせることだ”という一節。志望者たちはつぎつぎ、“戦争”の一言を発するだけでヴィッキーのきびしい“ノン”の声で落選していく。
男爵の「宿命のボレロ」の監督依頼にもヴィッキーの答えは曖昧だ。ヴィッキーはオーディションを中断し、年末休みの間にマドリッドに行って本を探すという。甥ジェロームはヴィッキーの娘カミーユから長い手紙を受け取ったばかりで、彼女のことが心配だ。

 ヴィッキーはマドリッドで本を見つけて戻ってきた。妹シルヴィーに自慢するその本は、フランコが蜂起してスペイン内戦が勃発した1936年に共和派の大統領だった文学者で政治家のアサーニャの著書、《ドン・キホーテはいかにして作られたか》という本だ。かつてスペイン内戦に参加したヴィッキーとシルヴィーの兄妹だが、シルヴィーにとって緊急の問題は、戦火のサラエヴォでスーザン・ソンタグがベケットの《ゴドーを待ちながら》を上演したことを批判して、哲学者フィリップ・ソレルスがル・モンド紙に、サラエヴォにはむしろマリヴォーがふさわしいと書いたのに刺激されたカミーユが本気になり、息子ジェロームをたきつけてサラエヴォに行こうとしている危なっかしさだ。ジェロームとカミーユは本屋でマリヴォーを探すが見つからず、あったのはミュッセの《戯れに恋はすまじ》。従姉カミーユと従弟ペルディカンの恋にロゼットがからむ名作戯曲だが、ヒロインと同じ名の偶然の重なりに、カミーユの心は決まった。
 シルヴィーの家での家族会議。過激な娘カミーユは父ヴィッキーと叔母シルヴィ
ーを批判し、現代の子は親に従わず祖父母の世代に従うと出発を宣言し、ジェロームがカミーユに従う。さらに、黙ってなりゆきを見守っていたアラブ人のメイドのジャミラも、二人と行動をともにすると言う。ロゼット役がみつかったと無邪気に
喜ぶジェローム。ヴィッキーも、演出家が必要だからと説得され、マドリッドで《サラエヴォ・ノート》の著者ゴイティソーロから聞いた、90年代のヨーロッパは30年代をラヴェルのボレロのように反復しているだけとの言葉をかみしめ、若者たちのサラエヴォヘの旅に出発することを決意する。
 戦火のサラエヴォヘ、「宿命のボレロ」の海辺の撮影地へそして、モーツァルトがあらわれるコンサートへ旅が展開する・・・

スタッフ

監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール
撮影:クリストフ・ポロック
録音:フランソワ・ミュジー
衣装:マリーナ・ツリアーニ
美術:イヴァン・ニクラス
音楽:ケティル・ビョルンスタ、デイヴィッド・ダーリング他
  (THE SEA、ECM1545)
 ベートーヴェン、モーツアルト(ピアノ協奏曲第27番、K.595)
製作:アラン・サルド、ルート・ヴァルトブルガー
資料協力:澤田直、山道佳子、郷雅之、尾方邦雄
宣伝協力:堀江加奈子、冨田三起子
配給:フランス映画社
共同提供:シネフィル・イマジカ
協賛:TRANS CONTINENTS

キャスト

映画監督ヴィッキー・ヴィタリス:ヴィッキー・メシカ
ヴィッキーの娘、哲学教師カミーユ:マドレーヌ・アサス
ジャミラ(シルヴィーの家のメイド、"ロゼット"):ガリア・ラクロワ
女優:ベランジェール・アロー
ジェローム(ヴィッキーの妹シルヴィーの息子):フレデリク・ピエロ
ヴィッキーの妹、シルヴィー:シルヴィー・エルベール
男爵、フェリックス:ミシェル・フランチーニ
男爵の娘、ソランジュ:ヴァレリー・ドラングル
ボカ(男爵の映画会社の嘱託):マックス・アンドレ
サビーヌ(男爵の秘書):サビーヌ・バイユ
作家ハリー:ハリー・クレフェン
ジュネーヴ新聞の女性記者:ナタリー・ドルヴァル
ポール、国防大臣:マルク・フォール
サラ、大臣の姪:サラ・ベンスーサン
赤十字派遣代表:フランソワ・サヴィオーズ
赤十字派遣代表の女性補佐:ジュリエット・スビラ
国際軍の女兵士ヤスナ:ヤスナ・ジヴァノヴィチ
国際軍の将軍:ヴァレリオ・ポペスコ
ダントンに似た小部隊長:ジェラール・ボーム
グザヴィエ(黒いコートのチーフ助監督):グザヴィエ・ブーランジェ
ドミニク(見習助監督):ドミニク・ポゼット
老助監督:アンドレ・ラコンブ
リュドヴィク(犬を連れている製作担当):アラン・ムーセイ
スクリプター:ステファニー・ラガルド
撮影監督ボリス・カウフマン Jr.:スタニスラス・ガチョウ
娘のセシル、撮影助手、クローク:セシル・レゲール
モーツアルト:ユリアル・ウインター

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