原題:MA FEMME EST UNE ACTRICE

2001年11月14日フランス初公開

2001年/フランス/カラー/95分/DTS / Dolby Digital 配給:シネマパリジャン

2004年02月04日よりDVDリリース 2004年02月04日よりビデオリリース 2003年6月28日よりシネ・アミューズにてロードショー

公開初日 2003/06/28

配給会社名 0043/0013

解説


シャルロット・ゲンズブール……フランスの女優、はにかみや、キュート、おしゃれ、永遠のフレンチ・ロリータ、セルジュとジェーンの娘……そして、俳優イヴァン・アタルの妻……。
『なまいきシャルロット』『小さな泥棒』から『フェリックスとローラ』へ……。今やフランスを代表するスター女優となったシャルロット・ゲンズブールについて、誰もが抱くそんなイメージ=虚像と真実の狭間に肉薄しつつ、女優を妻に持った平凡な男の苦悩に満ちた葛藤の日々を、スピーディーな展開とコミカルな味わいを絶妙にブレンドさせて描く『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』は、そのシャルロットの私生活でのパートナーであるイヴァン・アタルの長編監督デビュー作である。
スター女優シャルロットを妻に持つメリットは、予約で一杯のトレンド・レストランに電話一本で席が確保でき、スピード・オーバーの違反キップも大目に見てもらえる。ドレス・コードの厳しいクラブも顔パスでオーケー。そんな“結構なご身分”とは裏腹に、夫たるイヴァンの存在はまったく無視。男としてのメンツは丸つぶれだ。しかも、いざ撮影に入れば、名うてのプレイボーイ男優とのラヴシーンに、高まる嫉妬心はどうしても抑えることができない!

『愛されすぎて』『ラブetc.』でもシャルロットと三角関係に陥る恋人を演じたイヴァン・アタルが、この自らの長編監督デビュー作では、人気女優を妻に持ってしまった平凡なスポーツ記者の、男なら誰しも憧れる幻想の裏に潜む苦悩を、ナルシシズムとは無縁の自己パロディとも思える軽妙洒脱さで体現。また監督としても、嫉妬と疑惑が深い影を落とす愛のドラマを、都会的なセンスあふれるほろ苦いコメディー・タッチのうちに描き、セザール賞第1回監督作品賞となる好評で迎えられた。また、ニューヨーク近代美術館の「新人監督/新人作品」特集で上映されことも話題になった。
イヴァンは、「これまでスクリーンではお目にかかれないシャルロットを見たかった」と語るように、撮影前、シャルロットに前代未聞のリハーサルを行った。オフィスの机の上で歌を歌わせたり、踊らさせたり、大声で叫ばせたり。こういった一連のパフォーマンスによって、シャルロットの心は自由に解き放たれ、素のままの彼女自身をスクリーンに息づかせることに成功したという。
たしかに、この『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』のシャルロットは、スターの威厳を感じさせる美しさをたたえながら同時に、ちょっと厚かましくて、魅力的な微笑を絶やさず、確信犯的におかしいという、今までにないシャルロット像を見せてくれるし、1日10リットルのミネラルウォーターを飲むことで、ダイエットするという美しさの秘密も明かしてくれる。それにも増して胸を打つのは、撮影現場で女優という仕事の真髄を心から味わっているシャルロットの姿であり、その悲喜劇と背中合わせのひたむきさは感動的でさえある。
けれど、「これは私自身じゃないわ」とシャルロットは言う。撮影中、「観客が私と役を混同するんじゃないかと神経質になったこともあった」と不安を吐露するが、それを乗り越えたのもまた、監督であり共演者、そして名パートナーであるイヴァンの愛に支えられたからだった。シャルロットはこう述懐する。「たぶん、今までの女優生活の中で、こんなに愛されたことはなかったわ」。ラストで、劇中のふたりは赤ん坊の誕生を予感させるが、実生活ではシャルロットはこの映画を撮影後の昨年11月、2番目の子供アリスを出産している。

イヴァンの嫉妬の炎をかき立てるイギリス人俳優でプレイボーイのジョンを演じるのは、『コレクター』『テオレマ』から『プリシラ』『イギリスから来た男』と長年に渡り多才な活躍を見せるテレンス・スタンプ。撮影の待ち時間を利用してスケッチを描きながら「俳優なんてさっさと辞めて、絵に集中したい。本物の芸術にね。演技は空しい」とうそぶくジョンは、どこか実生活のスタンプ自身と重なりあい、微笑ましささえ感じさせる。そして、早朝のグリーンパークで太極拳をしているところ、イヴァンからチーズを顔面に投げつけられるという傑作シーンまで、すっかりリラックスしたスタンプの演技が楽しい。

また、イヴァンの姉で、ユダヤ人としての生き方に徹底的にこだわり、生まれくる赤ん坊を割礼するかどうかで夫のヴァンサンと口論の絶えないナタリーに、『私を忘れて』(特殊上映)で脚光を浴び、ジャン・ヴィゴ賞受賞経験も持つ新鋭女性監督ノエミ・ルヴォウスキー。アルノー・デプレシャンの『魂を救え!』の共同脚本でも知られる彼女が、初の女優挑戦作にして本職はだしの好演をみせ、セザール賞助演女優賞にノミネート、彼女の夫で、“いい女”に目のないヴァンサンに扮する『青い夢の女』『ルーヴルの怪人』の個性派俳優ローラン・バトーと丁々発止の名コンビぶりをみせている。

そのほかの共演者としては、イヴァンの通う演劇ワークショップの生徒のひとりで、イヴァンを誘惑するジェラルディーヌに、フランソワ・オゾンの『焼け石に水』『8人の女たち』で絶賛された注目の若手女優リュディヴィーヌ・サニエ。笑い声の絶えないコケティッシュな魅力で、“今ドキ”の女の子をさりげなく演じている。また、シャルロットとジョンが共演するイギリス映画の監督デヴィッドには、『アザーズ』『24アワー・パーティ・ピープル』のキース・アレン。ユーロスターで隣り合わせになる美人女優の夫役で、『愛する者よ、列車に乗れ』『LOUISE(TAKE2)』のロシュディ・ゼムが特別出演、イヴァンと対照的な“女優の夫”役で、絶妙のアクセントとなっている。

イヴァンにこの映画を撮るよう、強く勧めたプロデューサーは、『テス』『傷ついた男』『愛人/ラマン』『王妃マルゴ』など数々の名作を手掛け、『チャオ・パンタン』『愛と宿命の泉』の監督としても知られるクロード・ベリ。彼は、かつてセルジュの初監督作品で、ジェーンが主演した『ジュ・テーム…』、そして女優シャルロットの飛躍作となった『小さな泥棒』を製作するなど、シャルロット一家とは浅からぬ縁がある。また彼の息子トマ・ラングマンが、『愛されすぎて』でシャルロットとイヴァンの三角関係のひとりを演じていたのは、偶然だろうか。
イヴァンを支えるスタッフには、気鋭の若手が揃った。ドキュメンタリーを思わせる、臨機応変なカメラワークをみせる撮影は、『プリンセシーズ』(映画祭上映)のレミ・シュヴラン。パリの最新クラブからロンドンのテートギャラリー、テムズ川を望む夜景など好ロケーションを美しく捕らえた映像は、今の時代の空気感を絶妙に切り取っており、目を奪われる。
衣裳デザインを、シャルロットとは『なまいきシャルロット』や『小さな泥棒』からの付き合いで、最近では『奇人たちの晩餐会』『ニコラ』『父よ』の売れっ子ジャクリーヌ・ブシャール。いかにもシャルロットのプライヴェートとオーヴァーラップするベージュ色のトレンチコートやフォーマルな黒のロングドレス、色鮮やかな毛糸の帽子をはじめ、劇中映画としてスチュワーデスの制服と水玉の赤いネクタイまで、さすがおしゃれシャルロットに相応しい、ディテールにもさりげない工夫を凝らしている。
美術デザインは『絹の叫び』『感傷的な運命』(映画祭上映)など古典劇に手腕を発揮するカーチャ・ヴィショップが生活感あふれるリアルな現代的映像空間に新境地を開いた。

そして音楽を、“現代の吟遊詩人”とも評される注目のジャズ・ピアニスト、ブラッド・メルドーが担当しているのも話題だ。イヴァンのたっての希望による起用だが、全編に流れるムーディーなオリジナル曲の魅力は言うに及ばず、たとえば、シャルロットに会いたくて、いてもたってもいられないイヴァンが一路、パリからロンドンへ急行するシーンで、昨年末、心臓発作で急逝したジョー・ストラマーの《ロンドン・コーリング》が流れるなど、既成曲の使用法などにも、さすがセンスの良さを感じさせる印象的な選曲を見せている。

また、エラ・フィッツジェラルドの名唱による《バードランドの子守唄》が流れるタイトルバックには、ルイーズ・ブルックスやマレーネ・ディートリッヒ、ベティ・デイヴィス、グレタ・ガルボからジーナ・ローランズまで、きら星のごとくハリウッドに輝く往年のスター女優たちのブロマイドがオーヴァーラップする。モノクロームのそれらの写真が囁きかける女優たちの蠱惑的な眼差しが、この映画のテーマを暗示しているかのようで、長編初監督作品に注ぐイヴァンのそんなスタイリッシュな遊び心も必見である。

ストーリー


僕はイヴァン(イヴァン・アタル)。パリで暮らす35歳のスポーツ記者さ。趣味のサッカー狂が高じて、今はケーブルテレビでスポーツ・ニュースの編集をしている。家族は妻ひとり、子供はまだいない。仕事と結婚を両立させた生活を、それなりにエンジョイしている僕は、ごく平凡な男なんだ。ただひとつ、妻が女優のシャルロット(シャルロット・ゲンズブール)だということをのぞけばね……。

パリの女優たちはみんな狂ってる。僕のような男が、女優と出逢う確率なんて、ほんの1/120に過ぎない。僕はシャルロットと出逢って、たちまち恋におちた。けれど、結婚して初めて、女優と一緒に暮らすのがどれだけ大変なことか、実感することになったんだ。ディナーに繰り出して、姉貴のナタリー(ノエミ・ルヴォウスキー)と彼女の夫ヴァンサン(ローラン・バトー)たちとテーブルを囲んで談笑していても、シャルロットに対するファンからのサイン攻めはひっきりなしで、いい加減、うんざりしてしまう。せっかく、食後に夜の散歩を楽しんでいても、目ざとい奴らに見つけられたらもう最悪、お構いなしに記念写真をせがまれてしまう。ホント、バカにならなきゃやってられないよ!僕には、そんな私生活なんてあってないようなスター女優としての暮らしを、それでもシャルロットが何とか楽しんでいるらしいのが、不思議でならないんだよ。え、そんなとき、僕はって?なすすべもなくシャルロットを見つめるだけで、せいぜいファンのカメラカバーを外してやるのが関の山さ。スピード違反で車を止められても、パトロール警官はシャルロットの微笑みひとつで大目に見てくれるし、満席の人気レストランも電話越しのシャルロットの甘い囁き声で簡単に予約が取れてしまう。でも、彼らの注意は、いつも僕を通り過ぎて、シャルロットに注がれる。そう、シャルロットの夫は、この僕なんだ!

それにしても、今日のシャルロットはいつになく陽気だ。もしかしたら、明日からロンドンのパインウッド・スタジオで撮影開始の新作映画を控えて、心が浮き立っているのかもしれない。なんたって、共演者があの名うてのプレイボーイ、ジョン(テレンス・スタンプ)ときているのだから、それも不思議じゃない。だから、僕は嫉妬で狂いそうになる。しばらく、パリとロンドンに離れての別居生活。何もシャルロットのことを疑っているわけじゃないよ。一見、仕事があるからってクールを装うけれど、本音を言うなら、撮影所に付いて行きたいほど心配さ。だって、スクリーンでシャルロットのラヴシーンを観ているだけで、落ち着かなくなって、周囲の観客の反応を確かめたくなってしまうぐらいなのだから。

その頃、姉のナタリーは生まれてくる赤ん坊を割礼するかどうかで、ヴァンサンとの間で、ひと悶着起こしていた。どこまでもユダヤ教のしきたりにこだわりたいナタリーに対して、ヴァンサンは僕の子供はユダヤ人じゃないと主張して譲らない。旧友のジョルジュ(リオネル・アブランスキー)と再会して、「いっそ、彼のような模範的なユダヤ人と結婚すればよかったわ」と悪態をつくナタリー。女って怖い。でも、僕はそのジョルジュにこう言われて、むかつく心を抑えることができなかったんだ。「女優の妻なんてゴメンだ。妻のヌードをみんなに見られて平気なのかい?」。気がついたら、僕は奴を殴っていたよ。なぜって、ズバリ図星を突かれたからさ。

だから、僕は週末を利用して、ロンドンにシャルロットを訪ねてみた。テムズ川にビッグベンが臨むホテルのスウィートで、僕たちは久しぶりに甘い愛のひとときを楽しんだ。年齢の離れたパイロットとスチュワーデスの恋物語を、シャルロットがスタジオで演じている間も、僕の脳裏をシャルロットのラヴシーンがよぎり、悩ませ続ける。思いあまって、スタジオの重い扉を開けた僕の目前に飛び込んできたのは、何と全裸姿のスタッフたち。そうして、その奥にはジョンとともに裸でベッドに横たわるシャルロットが!あまりの衝撃に、僕は気絶してしまった。そんな激ショックの僕に、シャルロットはこう言うんだ。「あれは、ほんの冗談なのよ」って。必然性のないヌードシーンをシャルロットが「みんなが脱げば、私も脱ぐわ」と拒否したのを真に受けた監督デヴィッド(キース・アレン)の指示の結果があれだったんだ、と。「映画という仕事が判らない」。シャルロットの言葉が言い訳にしか聞こえない僕は、すごすごとパリに舞い戻る。そんな僕にシャルロットは、ただこう言うだけだ。「愛してる。でも、仕事は続けるわ」

まるで宗教がかってる。これじゃ、“映画大家族教団”じゃないか。僕は、この“変態的でおぞましい仕事”の本質を理解するため、演劇のワークショップに通うことにした。そこで講師に、「即興で“花の誕生”をやってみて」と命じられ、おっかなびっくり心のおもくままに演じてみたところ、なぜか生徒たちに大受けてしまった。そのうちのひとり、ジェラルディーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)という若い美女が、僕に好奇心たっぷりの興味津々な眼差しを投げかけてきたものだから、さすがとまんざらでもない僕なのだった。ところが、彼女たちの話が思いがけずシャルロットの話になったとき、僕はユーロスターに飛び乗って、ロンドンの撮影所に一目散に駆けつけてしまうのだった。

いきなりホテルに押しかけた僕は、「ジョンと寝たのか」とあからさまな嫉妬心をあらわにシャルロットを詰問してしまう。とことん執拗にシャルロットを追い詰めた、我ながらサディスティックだと判りながら、こうなったら追及の手を緩めることはできなかったのだ。すると、シャルロットも逆ギレしてしまう。「偏執狂だわ!」。そう叫ばれたら、僕は衝動的にホテルから飛び出し、深夜のロンドンの街を、パブからパブへ、彷徨うしかないじゃないか。ウォルタールー駅で夜を明かし、いざパリ行きの列車に乗り込んだところ、偶然、美人女優と台詞合わせをしている夫(ロシュディ・ゼム)と隣り合わせになってしまった。思わず、「女優と暮らすにはガッツが必要だ」と励ましの言葉をかけたのはいいけれど、余計なお世話、結果は悲惨だった。殴られた僕は、唇の端を切ってしまう始末だった。

ひとりロンドンで暮らす日々は、否が応にも寂しさが募る。何をするにも、気分が優れず、落ち込むばかり。あの日以来、シャルロットからは何の連絡もなく、ああ、妻の仕事を見下していたと、ひたすら反省!の僕だけれど、ある夜、ジェラルディーヌに誘惑されるまま、彼女と路上でキスしてしまった。上機嫌で酔っ払ってしまった僕は、交差点の向こうに立っていたジョルジュから、シャルロットがパリのクラブ「バルトーク」にいると聞かされ、慌てて駆けつける。ドレスコードに引っかかるとかで、ガードマンに入店拒否された僕が店先で寒さに震えながらシャルロットを待ち伏せしていると、ようやく彼女が現われた。どうして黙ってたんだと、シャルロットを問い詰めようというところで、彼女からジェラルディーヌとのキスを目撃していたことを告げられ、返す言葉を失ってしまう僕。でも、もう言葉は必要なかった。ただ僕に会うだけのために、貴重なオフの日にパリに戻ってきてくれた、そのシャルロットの気持ちが嬉しかったからさ。「君は大女優だ」。思わずシャルロットを抱き寄せて、情熱的に唇を重ねる僕の思いに、もはや嘘も嫉妬もなかった。もしかすると、こんな僕でもこの数日間で、少しは大人の男に成長したのだろうか。

しばらくして、ナタリーに男の赤ん坊、その名もモーゼが誕生した。ヴァンサンはこれまでの態度を一変させ、我が息子の割礼式の準備に、嬉々として取り掛かっている。そしてシャルロットは、初めての甥っ子の誕生に目を細めてこう言うんだ。「可愛いわ」。そう、今度は僕とシャルロットが、親となる瞬間の喜びを噛み締める番なのかもしれなかった……。

スタッフ

監督・主演:イヴァン・アタル

キャスト

シャルロット・ゲンズブール
イヴァン・スタンプ

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