少年の誘惑
原題:Boys Story/吸引
夏の匂い、そして、少年の憧れと性への0目覚め。 忘れていた、大切な、ひと夏の想い出。
2000年/日本=中国合作/ビスタサイズ/72min 提供:ムービーテレビジョン、パグ・ポイント、JCP 配給:ムービー・テレビジョン
2002年6月1日よりシアター・イメーンジフォーラムにてレイトロードショー公開
公開初日 2002/06/01
配給会社名 0102
公開日メモ 1973年夏。そこには、偶然エアーポケットの如く出現した〈子供たちの解放区〉だった・・・。文化大革命後期、北京の古い町並みが残る路地・胡同=フートンを舞台に、少年のイノセントを性への好奇心を繊細なタッチで綴った、一夏の物語。
解説
イノセントな性の目覚めを繊細なタッチで綴った中国ニューウェーブの登場!幼い頃、誰もが体験するちょっぴりエッチな好奇心…この作品は、そんな好奇心に胸ドキドキの少年が過ごしたひと夏の物語。本作のタイトル『少年の誘惑』とは少年が誰かを誘惑するのではなく、<天然の為せる技>彼自身の内部から突き上げてくるピュアな衝動に誘惑されるという意味。また、本作はその内容故に、撮影は正規の手続きを得ていず、中国本国での公開は今のところ全くの未知数という異例の作品となった。
66年に始まり10年以上の長きにわたって続いた文化大革命時代の中国。それは、抑圧され、自由の奪われた暗く悲惨な時代という観点から語られることが多い。実際、当時下放されたり、思想を批判されたりした大人たちにとっては、そのようにこの時代を総括することもあながち間違いではないだろう。だが当時を少年として北京で過ごしていた人間にとって、文革時代とは陽光が燦欄と輝く、またとない自由で開放的な時代に他ならなかった。
『少年の誘惑』はこの時代(73年)の人けの途切れた化京を舞台に、そこで親の監視、監督を離れて自由を謳歌した少年たちの日々を赤裸々に綴った作品である。
同様の視点からこの時代の北京の少年の生きざまを描いた作品に『鬼が来た!』姜文(チャン・ウェン)監督のテビュー作『太陽の少年』(原題「陽光燦燗的日子」)があるが、『少年の誘惑』もまた、まさに『太陽の少年』さながらの燦爛と輝く陽光があたり一面に横溢。その中で『少年の誘惑』は、当時の北京で成長期を過ごした少年の内面を、より個人的でミニマルな視点から、とりわけ男同志の友情や性への目覚めに焦点を当てて描いている点主人公は、ダーシャオと呼ばれる悪がき少年。両親ともに下放された環境で夏休みを迎えた彼は、やはり両親が下放して不在の親友シャーダンとの遊びに明け暮れる毎日だ。その中で二人は、他の誰よりも強い絆で結ばれていく。。。一方、シャーダンには大人びた魅力を発散する姉ウェンウェンがいて、ダーシャオは彼女の姿を目にするうち、次第に彼女への憧れと性への目覚めを心の内に秘めはじめる。だが彼にとってこのきらめきに満ちた日々は、そう長くは続かない。文革同様、それはあくまでも時限的であっけなく終わりをつげられるものに過ぎなかったのだ……。
このユニークな着想に基づく作品を発表した監督は、奇しくも姜文と同じ63年生まれの楊?(ヤン・シン)。これまで美術の方面で国際的に活躍してきた彼の、これは映画監督デビュー作。監督自身、北京に生を受けていることからも察せられるように、このデビュー作は多分に監督本人の自伝的側面を持っている。文革時代の北京を少年として過ごしてきた者なら誰もが忘れることのできない、二度と戻っては来ない天国的な日々への懐かしみと憧憬。その思いを、詩的な構成と美術畑出身ならではの流麗な映像で、鮮烈に、そして静謐に炙りだしてみせた。尚、08年の北京オリンピックの為に、再開発が現在急ピッチで進められ、次々に取り壊される前の古い街並み、胡同(フートン)を、本作は辛うじてカメラに収めた。
『少年の誘惑』は、この新人監督の初仕事を、数多くの中国映画の名作を手掛けてきた経験豊かなスタッフたちが支える形で製作されている。撮影は、『太陽の少年』をはじめ、.張芝謀(チャン・イーモウ)の『有話好好説』、ジョアン・チェンの『シュウシュウの季節』等の撮影助手を務めた範捷濱(ファン・ジエビン)。照明は、やはり『太陽の少年』をはじめ張芝謀(チャン・イーモウ)の『紅コーリャン』『菊豆』、陳凱歌(チェン・カイコー)の、『さらば、わが愛/覇王別姫』『始皇帝暗殺』等を手掛けた紀建民(チー・チエミン)。そして美術は『山の郵便配達』の宋軍(ソン・チェン)が担当している。
出演は、主役のダーシャオ役に、87年生まれの新星・李元直(リー・ユアンジー)。その親友シャーダン役に、89年生まれでテレビドラマで子役として活躍する田鴿(ティエン・ゴー)。少年期という微妙な年頃を、単なる美化や無邪気さを表に出した造形を超えた、良い意味で複雑な表情で印象深く演じてみせた。一方、シャーダンの姉ウェンウェン役は、中央戯劇学院出身で、『清唱静聴』『劉天華』に出演の陶蓉(タオ・ロン)が扮し、瑞々しい色気と存在感を発揮している。
なお、監督の楊?と同じ60年代生まれの監督たちは、それ以前の世代の中国監督が基本的には国営のスタジオの下で政府の許可を得て映画を製作してきたのに対し、しばしば国営スタジオを飛び出し、政府当局の審査をも通すことなく作りたい映画を作るという方法を取ることが多くなってきている。『東宮西宮』『クレイジー・イングリッシュ』『ただいま』の張元(チャン・ユアン)、『ルアンの歌』の王小師(ワン・シャオシュアイ)、『ふたりの人魚』のロウ・イエ、『沈む町』の章明、『一瞬の夢』『プラット・ホーム』のジャ・ジャンクーらが、その代表格。彼らはその多くの(または全ての)作品を、中国国内では公開不可となることを承知で、創作の自由のために敢えてこうした方式で製作してきた。
それを可能としたのは、海外でのこの世代に対する圧倒倒的な評価、期待を背景にした外国資本の関与による部分も少なくないが、本作『少年の誘惑』も同様の方式を採用。日本資本との合作で、製作、完成にこぎつけている。文革時代=自由に満ちた輝きに満ちた時代ととらえ、そこで思春期に達した少年の日常をその性的な側面も含めて描いた本作も、この方式だったからこそ製作可能となったといって過言ではないだろう。
ストーリー
1973年、文化大革命真っ只中の北京、天安門の西側・西城区。大人たちはこぞって田舎に下放され、そこは突然エアーポケットの如く出現した、“子供たちの解放区”になっていた。
待ちに待った夏休みがやってくる。少年ダーシャオも、父は南方へ、母は東北へと下放され、2〜3か月は戻ってくる気配もない。御飯を作ってくれるおばあちやんがいるほかは誰からも監督されることのないこの絶好の環境のなかで、彼はしばしば親友のシャーダンの家へ入り浸って夏休みを過ごす。シャーダンの家もまた、両親は下放され、いつ帰ってくるとも知れない状況。家ではウェンウェン姉さんが一人、シャーダンの面倒をみていた。
川で泳ぎ、カタツムリを捕まえ、メンコをし、ビーダマで遊び、凧上げに興じ、他の少年との喧嘩に明け暮れる。きらめくように楽しい休み。互いにさまざまな「勝負」で勝敗を競いながら、ふたりは他のどんな同年代の仲間よりも強い絆で結ばれていった。
そんな中ダーシャオは、いつもシャーダンの世話をするウェンウェン姉さんの様子に接して、次第に彼女への秘かな思いと性への目覚めを覚えていく。寝床に横たわる彼女、ゴム跳びに興じる彼女、洗濯物を干す彼女……。ダーシャオはそんな彼女の一挙一投足を、食い人るように見入っていた。やがてある日、彼はふと普段は人目に晒されることのない彼女の柔肌まで目撃してしまう。一方、シャーダンも知らず知らずの内に、“別の方向”の性に目覚めていく——。
そんな夢みるようにワクワク、ドキドキさせられる出来事に満ちた楽しい夏休みも、だが永遠に続くわけではなかった。ある日突然、ダーシャオの家庭の引越しが決まる。「これから僕は、誰と遊べばいいの?」と悲しみにくれるシャーダン。ダーシャオは「泣くなよ。休みの時には必ず遊びにくるから」と彼を慰め、彼と姉のために特別美味しいアイスクリームを買ってきた。
そして、ついに別れの日がやつてくる……。
スタッフ
製作総指揮:李珍
製作:畠中基博、諸橋健一
プロダクション・スーパーバイザー:李珍、畠中基博
監督・脚本:楊?
録音:励和平
編集:朱拉
音楽:高松華
美術監督:呂威
美術:宋軍
撮影:範捷濱
キャスト
ダーシャオ:李元直
ウェンウェン:陶蓉
シャーダン:田鴿
ジンジン:徐海燕
マーガン:郭燕超
マーガン姉:楊月瑶
シアオドン:白大鵬
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