原題:THE SEA WATCHES

黒澤明が、最後に撮りたかったのは、 ラブ・ストーリーだった。

日活創立90周年記念作品

2002年/日本/日活/ビスタ/全7巻/3,256m/上映時間:1時間59分/SRD・SR 配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

2004年12月22日よりDVD発売開始 2003年01月22日よりDVD発売開始 2002年7月27日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー公開

(C)2002「海は見ていた」製作委員会

公開初日 2002/07/27

配給会社名 0042/0006

公開日メモ 巨匠黒澤明が生前に自ら映画化すべく完成させていたシナリオ「海は見ていた」が、同じく巨匠、現代の日本映画界を支える名監督である熊井啓の手により映画化

解説


■映画人たちに讃えられ、観客を魅了し、今も輝き続ける“世界のクロサワ”
 スピルバーグ、コッポラを始め内外の映画人たちに讃えられ、その逝去後も尊敬を一身に集め続けている、“巨匠”黒澤明。1990年には米アカデミー賞協会より名誉賞を授与され、98年、88歳で惜しまれつつこの世を去るまで生涯30本の映画を精力的に作り続けた。彼の作品は日本では勿論のこと、海外でも新作同然の人気を誇り、2002年、NFT(イギリス国立フィルムセンター)で大回顧展が開かれるなど、世界の観客を魅了し続けている。

■巨匠が念願した、幻の企画がついに映画化!
 映画界の巨匠に、たった一つやり残した“幻”の企画があった……。94年に31作目として脚本を完成、撮影寸前まで準備が進められていながら、製作費などの問題で断念せざるを得なかった“宿願”の映画が。その映画が、本作『海は見ていた』として時を越えて、今、ここに蘇る。

■黒澤明が最後に伝えようとしたもの、それは“ラブ・ストーリー”
 原作は黒澤監督が愛読した作家で、映画化作も『椿三十郎』(「日日平安」)『赤ひげ』(「赤ひげ診療譚」)『どですかでん』(「季節のない街」)以来、4作目を数える山本周五郎による短編「なんの花か薫る」「つゆのひぬま」。巨匠が我々に伝えようとし、脚本化したもの、それは意外にも“ラブ・ストーリー”だった。江戸の“粋”の世界と、女の切なくも激しい“恋”を描くこの作品に懸けた黒澤監督の熱い想いを受け継ぐことが出来る監督とは誰なのか?
■“巨匠”から“巨匠”へ………受け継がれる“魂の希望”の物語
 「自らの遺志を託せる監督はただひとり」、巨匠は答えを持っていた。『海と毒薬』などの骨太の作品を撮る一方、『忍ぶ川』『サンダカン八番娼館・望郷』という女性を真正面から描いた名品を手掛けた熊井啓監督である。かねてから、熊井監督の女性を撮る手腕に賞賛を惜しまなかった黒澤監督が「熊井さんにやってもらいたいものがある」と話していたという。熊井監督は、尊敬する黒澤監督の万感の思いを引き継いで映画化を決意した。

■黒澤作品のテーマ“受け継ぐこと”を実証した“光と影”のリレー
 黒澤作品は『姿三四郎』以来、“師(或いは父、先輩)”から“受け継いでいく者”のドラマを描いてきたとも言える。
本作でも、気風のいい姐さんから純粋な女が「想い」を受け継ぐことが大切なテーマの一つになっている。奇しくも映画の内容と同じく、黒澤監督という偉大な映画人から、それを受け継ぐ熊井監督へ、映画という“光と影”のリレーが実現したのだ。

■舞台は壮大なる文化都市“江戸”日本発“粋”が世界を駆けめぐる
 新世紀を迎え、ヨーロッパでは日本ブームが再燃している。
最先端のクリエイターたちがこぞって来日。茶道、華道の隆盛も耳に新しいが、銀座エルメス・ビルの造形が、町屋の影響を受けていたという逸話は記憶に新しい。19世紀前半、百万都市として文化の欄熟期を、ロンドン、パリに先駆けて迎えていた“江戸”。この時代に輩出した広重、北斎、歌麿などの日本画家は、多くのヨーロッパの芸術家を魅了し時代を席巻した。この一大文化都市を背景に黒澤、熊井が再び世界へ“真の粋”を発信する!

■川の流れの情感が物語を生む隠れた主役、それは“深川”
 本作の舞台は深川である。深川と言えば、現在臨海開発の地域と目され、東京のキーポイントタウンと考えられている。今では既に忘れられつつあるが、東京は“水の都”として昔から映画人が好んで描いてきた。名匠、成瀬巳喜男監督作『流れる』など傑作が多い。なかでも海と川の近接したなかで広げられる悲喜劇は、ヨーロッパでもルキノ・ヴィスコンティ『ベニスに死す』など洋邦を問わず作家の想像力をかき立てるのであろうか。江戸・深川の潮の香りと川の流れの情感が、世界の観客を映像のイリュージョンに誘うに違いない。
■時代を貫<普遍のストーリー、それは恋物語  “川向こう”と呼ばれる江戸・深川はずれの岡場所(幕府非公認の私娼地)“芦の屋”で、この恋物語は幕を上げる。 海風薫るこの場所で働く女たちには哀しいルールがある。 それは「客に惚れてはいけない」こと。しかし、ひとは誰しも恋をする。うら若い私娼、お新も例外ではない。姐さん分の菊乃の心配をよそに、偶然助けた若侍に恋をしてしまう。しかし、身分の違いから、それも懐く終わりを告げる。傷心癒えない彼女の前に、悲運のため屈折した青年良介が現れる。 粗暴な彼の中に見え隠れする純粋さに、彼女は惹かれていく。しかし、彼女を取り巻く様々な人生模様を吹き飛ばすかのような大嵐が目前に迫っていたのだった……。 ■結集したキャスト、スタッフの極上のアンサンブルが映画史を変える! “粋”な遊女、菊乃を演じるのはカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いた『うなぎ』の主演で世界にその存在をアピールした清水美砂。恋に生きる女、お新に扮するのは、熊井啓監督『日本の黒い夏−冤罪−』で初々しい印象を残した遠野凪子。お新と激しく恋に落ちる良介には、新世代の映画俳優のスタイルを切り開いた永瀬正敏が、また若侍房之助に若手ながら滋味深い味わいを残す実力派吉岡秀隆が扮する。黒澤・熊井の世界を支えるスタッフも、日本家屋の美しさを配置する美術に木村威夫、叙情を巧みに映しとる名手、撮影の奥原一男、時に激しく時に優しい調べの音楽を松村禎三が、“粋”を衣裳によって表現しきる黒澤和子がそれぞれ担当。日本映画界屈指のメンバーがここに結集。既に決定している世界公開で、極上のアンサンブルが響き渡ることは必至である。

ストーリー



 江戸・深川。将軍のお膝元である八百八町の町の中でここは、大川(隅田川)の向こう“川向こう”と称され、ちょいと吉原、辰巳の遊びに飽きた粋人や訳ありの衆が集う岡場所(私娼地)がある、葦繁る外れの町とされていた。
 そんな深川のお女郎宿“葦の屋”で働く、まだ若く器量よしのお新(遠野凪子)は、女将さんやら姐さん方から「客に惚れてはいけないよ」と哀しい掟を教えられていた。
 ある夜、お新は町で喧嘩して刃傷沙汰を起こし逃げてきた若侍・房之助(吉岡秀隆)をかくまってやる。気丈で優しいお新の人柄に惹かれた房之助は、勘当された身の上ながら彼女の元に通いつめる。「惚れてはいけない」と思うお新は、会うことを拒み悩むが、房之助の「こんな商売をしていても、きっぱりやめれば汚れた身体もきれいになる」という言葉に心動かされる。
 その言葉を立ち聞きして感動した姐さんたちは、彼女のために一肌脱いでやろうと提案する。なんと、お新の客を全部引き受け、お新には他のまかない事をしてもらうというのだ。この姐さん衆のまとめ役、武家の出だという触れ込みの菊乃(清水美砂)は、気のいい隠居善兵衛(石橋蓮司)の身請け話とヒモの銀次(奥田瑛二)との腐れ縁が断てない悩みを抱え揺れている分、お新の純な恋を暖かく見守る。
 そんな恋路にも終わりが来る。房之助が勘当を許された報告にやって来た際、お新と姐さんたちに自分の婚礼の話を晴れやかに告げたのだった。憤りを隠せない姐さん衆、突然の告白に動揺するお新。そんな彼らに房之助は当惑する。彼はただ、お新を姉妹のように慕っていただけだったのだ…・・。
 一時は寝込むほど傷ついたお新も、徐々に立ち直りかけていた。そんな彼女の前に一人の謎めいた青年が現れる。名を良介(永瀬正敏)と言い、寡黙な彼が少しずつ自分の
厳しい生い立ちを語るにつれ、同じ境遇の宿命を背負った人間だと、お新は理解する。不幸に打ちのめされ、自暴自棄になった良介を優しく励ますお新に対して、菊乃は「そんな男はヒモになるのがオチだ」と諦めるようにさとす。その菊乃には、銀次に宿場八王子に身を売られる危機が迫っていた。
 お新をめぐる人生模様の糸が絡まり合った、ある夏の日。雷鳴の轟音と共に激しい雨が降りしきる。やがて嵐に変わり、川は氾濫、高潮の兆しも見せ始める。逃げまどう人々をよそに“葦の屋”を守ろうと居残る菊乃とお新。そこへ火事場泥棒さながらに金と菊乃を奪いに銀次がやってくる。力ずくの銀次を良介は七首で殺めてしまう。菊乃に、ほとぼりが冷めるまで姿を消せと促され、逃げる良介……。そんな中、水位は増し、菊乃もお新も逃げ場を失い“葦の屋”の屋根まで追いつめられる。「みんな水に浸かってだめになるのなら、一番いい着物を着よう」と、とっておきの着物を身にまとい二人は屋根へ登る。
 海に呑み込まれた“葦の屋”の屋根の上、お新を明るく励ます菊乃は自分の真実の素性を明かす。その時だった、小舟に乗った良介が助けに現れたのは。しかし、その小舟は3人は乗れない廃船同然のあり様。菊乃は「今度こそ立派な男を釣り上げたねえ。二人でしっかりおやり」と全財産を与え、自分はここに残ると明るく言う。
 ひとりぼっちの屋根の上、満天の星空を見上げながら、立ち上がって伸びをした菊乃の表情は明るく晴れやかだった……。

スタッフ

製作総指揮:中村雅哉
製作:町田治之/宮川鑛一/安藤孝四郎
   里見治/鳥山成寛/依田弘長
堀籠俊生/小田祐治
企画:黒澤久雄
プロデューサー:猿川直人
原作:山本周五郎
「なんの花か薫る」「つゆのひぬま」(新潮社刊)より
脚本:黒澤明
監督:熊井啓
制作:豊忠雄/遠藤雅也
撮影:奥原一男
照明:矢部一男
美術:木村威夫
音楽:松村禎三
編集:井上治
録音:小川武
衣裳:黒澤和子
音楽補:山本純ノ介
監督補:鈴木康敬
キャスティング:吉川威史
スクリプター:小山三樹子
VFXスーパーバイザー:川添和人
スチール:目黒祐司
色彩計測:沖村志宏
助監督:伊藤嘉文
製作担当:木次谷良助
製作:「海は見ていた」製作委員会
   日活株式会社/株式会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
   株式会社テレビ東京/株式会社インタービジョン/サミー株式会社
   株式会社マル/ソニーPCL株式会社
   ソニー・シネマチック株式会社/エー・アイ・アイ株式会社
   日本ロードサービス株式会社
製作協力:株式会社黒澤プロダクション
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント/日活

キャスト

菊乃:清水美砂
お新:遠野凪子
良介:永瀬正敏
房之助:吉岡秀隆
お吉:つみきみほ
おその:河合美智子
おみね:野川由美子
梅吉:鴨川てんし
権太:北村有起哉
八番組:加藤隆之
向かいの女郎:土屋久美子
善兵衛:石橋蓮司
銀次:奥田瑛二

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