寝耳に水
消し去りたい失ったことの痛み。 わたしを忘れないで、と彼女は死後も彼の耳に囁く。
2000年TOKYO FILMeX参加作品
2000年/日本/33分/ヴィデオ作品 製作・配給:映画美学校/アテネ・フランセ文化センター 主催:映画美学校/アテネ・フランセ文化センター
2007年6月2日(土)〜15日(金)の2週間、シネマアートン下北沢でレイトショー公開
“シネマGOラウンド”公開記念イベント&トークショー開催!::http://www.cinematopics.com/cinema/news/output.php?news_seq=1561
公開初日 2001/06/22
公開終了日 2001/07/07
配給会社名 0218
公開日メモ 映画美学校の講師をつとめる気鋭の4人の映画作家が、生徒たちとのコラボレーションにより製作した“シネマGOラウンド”のRound2!
解説
井川耕一郎は、密室の想像力の作家である。それはピンク映画の脚本や過去に撮られた8mm作品(『せなせなな』『ついのすみか』)でも一目瞭然だ。『寝耳に水』も、そうした井川的想像力に満ちた世界が全面展開されている。井川は狭い室内に全宇宙を閉じ込めてしまおうとする。そのため、全体が判然としない極端なアップ・ショットを多用し、挟まれる黒味や素抜けの間にさまざまなマテリアルのイメージを重ね合わせていくのだ。そして、ナレーションや字幕で絶えず時制は横滑りする。坂口の回想で、3年前、後輩の長島と過ごした一晩の出来事が語られる。長島はSM雑誌の切抜きを見せた。それは処女のマゾヒストの投稿だった。署名は仮名となっていたが、その田代弘美という名は交通事故で死んだ長島の彼女と同じ名前であった。長島はその投稿された奴隷契約書にとりつかれていたのだ。もうひとつ、ファーブルの「昆虫記」の狩人バチに捕まったゾウムシの挿話が、SM関係の比倫として、効果的に使われる。『寝水に水』(英語では、A box on the ear)とは、思いがけないことを突然聞いて驚く様を言うが、ここでは文字通り、夢のなかで田代弘美が奴隷契約書を燃やすイメージにとりつかれた長島の耳に水が注がれるという情景(それは弘美が火を消しに来たのだというのだが)となる。火と水が特権的なイメージとして繰り返し現れるが、長島がマッチ棒で組立てたやぐらが燃え上がる瞬間はとりわけ素晴らしい。そして極小が極大と同化するようなスケール感の失調が印象的だ。キャメラが長島の耳の穴を通り抜けると、弘美の声が響いてくるのである。かくして、坂口と長島の間に、弘美をめぐる三角関係があったらしいことが見えてくる。そして、長島が自殺してしまったことが語られる(なお坂口の瞳に映る団地から落ちてゆく布団のイメージは、アニメーション作家新谷尚之による力作である)。『寝耳に水』は、死をめぐる想像力によるエロティシズムの探求である
《監督からのコメント》
ニ年前の秋、山本周五郎原作、田坂具隆監督、鈴木尚之脚本のオムニバス時代劇『冷飯とおさんとちゃん』(65)を見た。どの話も面白かったが、特に「おさん」なは心を動かされた。セックスの最中に女の口から漏れる異言のように謎めいた言葉。その言葉のはらむ恐怖が男たちの証言の中から少しずつ浮かび上がってくる巧みな構成。裸もからみもないのにエロティックなこの映画の文体を自分なりに受け継いでみたいと私は思った。そうしてできあがったのが『寝耳に水』である。
撮影中には笑える出来事が何度かあった。「カメラ、耳の穴に寄っていく」というたった1行のト書きを読んでスタッフの生徒たちから
「耳の穴の模型を作って撮影しよう」という意見がでたときもそうだ。打ち合わせから一ヶ月後、撮影現場に着いた私は呆然となった。その模型は六畳間いっぱいにつくられ、耳の穴の中ではまるまる太った猫が昼寝していたのだ。たった十秒のカットのために何てバカなことを。いや……しかし、今おれは世界で一番賛沢な現場にいるのかもしれん。そう思うと、私は大笑いしてしまった。
最後に学校側スタッフを代表して、4人の出演者とアニメーション監督の新谷さんに感謝の言葉を述べたい。どうもありがとう。
ストーリー
真夜中、ぽたり、ぽたり……と滴り落ちる水の音がどこからか聞こえてきて、坂口(清水健治)に昔のことを思い出させる。それは、友人の長島(山崎和如)がふらりと訪れて坂口に話した奇妙な体験談だった。
「痛い、痛い、一緒にいたい……」。長島の部屋でふいにそう呟いた恋人の弘美(長宗我部陽子)は、数日後、交通事故で亡くなってしまう。一体、あの言葉は何だったのか? 弘美は死を予感していたのか?
長島は彼女を失った痛みを忘れようとするが、あるとき、雑誌の投稿欄に彼女の名前を見つけてしまう。彼に呼びかけているかのようなその投稿はあの世からのメッセージなのか……
長島は投稿した女性に手紙を書き、会おうとするが、拒絶されてしまう。心の中に残っていた弘美への思いにまた火がつき、苦しみだす長島。悪夢の中で、誰かこの火を消してくれ、と求めると、水を滴らせながら、女がひっそりと枕もとに立った。彼女は亡くなった弘美であった……
スタッフ
監督・脚本:井川耕一郎
撮影:大城宏之/遠山智子/橋本彰子
照明:尾崎淳一/浅野学志/土屋直人
録音:宮田啓治/光池拓郎
スクリプタ:四方智子
編集:浦山三枝
編集助手:荻野健一/川野由加里
アニメーション:新谷尚之
耳模型製作:湊博之
衣裳:鈴木紀子
車輌:白石賢士
助監督:佐藤宏紀/浦井崇/石住武史
制作補:大野敦子/柴野淳
制作:北岡稔美
原案:秘境PLAYエキストラ'90年10月号
プロデューサー:松本正道/堀越謙三
アソシエイト・プロデューサー:山口博之/安井豊/大坪真理
撮影アドバイザー:宮武嘉昭
録音・整音アドバイザー:臼井勝
編集アドバイザー:筒井武文
ネガ編集:相沢尚子
現像・テレシネ:SONYPCL
リレコ:シネマンブレイン
製作:アテネ・フランセ文化センター/映画美学校
キャスト
弘美:長曽我部蓉子
恵子:山之内菜穂子
坂口:清水健治
長島:山崎和如[ベターポーヅ]
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