わしは人間が好きや。 優しくて、おかしくて、ちょっぴり哀しくて、京都の下町を、白衣のセンセが駆け抜ける

2000年/日本映画/カラー/上映時間1時間45分/ビスタサイズ/配給:東京映像工房

2001年11月21日ビデオ発売&レンタル開始 2000年9月30日より池袋シネマ・ロサにて感動のロードショー公開

公開初日 2000/09/30

配給会社名 0003

公開日メモ わしは人間が好きや。 優しくて、おかしくて、ちょっぴり哀しくて、京都の下町を、白衣のセンセが駆け抜ける

解説


この物語は戦後の京都・西陣を舞台に、ひとりの少年が医者である父親や家族、周囲の人々との交流を通して大人へと成長していく姿をハートフルに描いた作品です。山城白身が書き下ろした、自伝「現代河原乞食考」(解放出版社刊)の父親とのエピソードを軸に、野上龍雄が脚色。21世紀を前にして忘れるにはまだ早い時代、昭和の父や母の姿、家族の絆や温かさ。そして人の哀しさ、滑稽さ、何よりも人としての在り方をさりげなく、しみじみと伝える物語に仕上げています。山城は監督としてメガホンを取るとともに、人情味にあふれ芝居、浄瑠璃好きの父・寿一郎を白ら演じ、気丈でやさしい、女医でもある母・静江を松坂慶子が、家族思いのあたたかい祖母をベテランの丹阿弥谷津子、そして、家族同然の看護婦・睦子役を小島聖という、演技派の女優陣がメインキャストに顔を揃え、小学生の太市をドラマ「少年H」の久野雅弘、中学生の太市をNHK「ぴあの」など数々のドラマに出演している尾上寛之、二人の名子役を加えての山辺家を中心に物語は進みます。そして、、家を取り巻く、戦後という時代に生き、京都ならではの街に息づく人々を、日本映画を代表する錚錚たる名優が演じています。一癖二癖ある個性派陣、石橋蓮司、蟹江敬三、原田大二郎、火野正平の競演。

艶やかに花を添える佳那晃子、片岡礼子。そして山城との往年の名コンビを思い出させるような故・川谷拓三の子息、仁科貴の、父を彷彿させる熱演。これらの俳優により時にコミカルに、時に涙する人問ドラマが繰り広げられます。

撮影は平成11年の秋、紅葉美しい京都で約1ヶ月に渡り行われました。山城監督の生まれ育った、知り尽くした土地なだけに、生活感溢れる、温もりのある京都の情景が彩り鮮やかに映し出されています。ただし、当時の街並は広い範囲では現存せず、ラストシーン太市が自転車で駆け抜ける引きの背景はCG合成で仕上げられ、新旧の技術により美しく懐かしい日本、京都の風景が描かれているのも見所の一つです。

ストーリー




戦後問もない京都上京・千本西入ル。狭い道に低い家並み、流れ屋根の織屋、北野天満宮や千木釈迦堂、細い路地の隅々に庶民の生活が漂う佇まい、そこで僕・山辺太市(久野雅弘)の父・山辺寿一郎(山城新伍)は開業医をしていた。

父は「センセ来とくんなはれ」と声がかかればいっでもどこへでも自転車で駆けつけ病人やケガ人を治療し、貧しい人々からは治療代を取ることはなかった。そして少しでも時間があれば好きな芝居や浄瑠璃の稽古に出かける。つまり家、病院にはほとんどいることはなかった。産婦人科医の母・静江(松坂慶子)と看護婦のむっちゃん(小島聖)は留守を預かっていたが、それでも父不在で診療できない日が多く、僕が学校から帰ってきた時、むっちゃんがだれかのいたずらで、吹き出しで文字が書き足され「本日またまた休診なり」となった札をしぶしぶ表にかけていることが多かった。

父が居ても居なくても、なぜか狭い待合室には患者さんとは関係なく、連日、闇屋(火野正平)、売れない役者(仁科貴)、飲み屋のおかみ(佳那晃子)、ヤクザ…とにかく色々な人が集まっては、賑やかに世間話や花札に興し、ちょっとした社交場になっていた。医者らしくない父を慕うのはそんなご近所ばかりではなかった。病人も病気も様々。貧しいわけでもないのに大学病院に行けず、人目を偲んで深夜に駆けこんでくる映画スター(原田大二郎)やヤクザの親分(石橋蓮司)など、ちょっと変わった患者さんも少なくなかった。

そんな風に昼夜問わず働く父母に代わって、僕と弟・次郎の傍にはいつも祖母(丹阿弥谷津子)がいてくれた。毎日学校に僕の弁当を届けるのが祖母の日課だった。僕はそれがとても恥ずかしかったが、祖母は校庭の隅で遊ぶ、学校に来られない貧しい子たちにも毎日、”お昼”を届けていた。

大好きな祖母が亡くなって数年後、僕は中学生(尾上寛之)になった。町並は変わらないが、賑やかだった病院の待合室にいつもいた常連の姿はなくなっていた。ある日、常連だった在日韓国人のキムさん(なにわゆうじ)が交通事故で死んだ。貧しかったけど最期は苦しまずにラクに死ねたことを、神様は人間を最後に帳尻が合うよう、平等に作ってくれていると僕は思った。それに対して父は激怒した「人間、どこが平等や!人間は生まれながらにして人間なんや。ゆえに平等である努力をするのだ!」あんなに怒った父を見たのは初めてだった。

いつの問にか弟の次郎は将来、画家になることを決めていた。父は僕の進路を気にしていた。密かに僕が医者になることを望んでいる父に、どうして医者になったのかを聞いてみた。「人間が好きやから医者をやっとんのや、お前は人間嫌いか」「しんきくさいわ、自分、人だけで出来るもんをやりたい」父は怒らなかった。「わしは親らしいことをなにもしてやれなかったのに、お前は自分の意見をはっきり言える子になったのが嬉しい」初めて父と男同士で向かい合った気がした。

その年の冬、父が倒れた。気丈な母が僕を相手に話をすることが多くなった。嫁いだむっちゃんが戻り、常連たちが家族のように集まってきた。入退院を繰り返しながら、でも最期まで父はいつもと変わりなく明るい、威厳のある父だった。そんな父の姿、生き様を僕はいつまでも忘れることはないだろう…。

スタッフ

監督:山城新伍
製作:野田一彦
プロデューサー:片岡公生、月野木隆、水野純一郎
原作:山城新伍
(現代河原乞食考より)解放出版社刊
脚本:野上龍雄
音楽:坂田晃一
撮影:安田雅彦
照明:井上 武
美術:重田重盛
録音:中路豊隆
編集:宮島竜治
助監督:原田 徹
企画協力:鍋島壽夫(東映東京撮影所)、佐生哲雄(松竹テレビ部)
製作協力・配給:東京映像工房
製作:サイプロダクション、松竹京部映画
宣伝:カマラド

キャスト

松坂慶子
丹阿弥谷津子
小島 聖
火野正平
原田大二郎
尾上寛之
久野雅弘

仁科 貴
なにわゆうじ
あいはら友子
坂田利夫
蟹江敬三
石橋蓮司

片岡礼子
中野英雄
佳那晃子

山城新伍

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