原題:City of Glass/玻璃之城

わたしは あなたを忘れた日はなかった

☆ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2000出展作品 第35回台湾金馬奨 5部門序章 /第18回香港金像奨 12部門ノミネート

1998年/香港(中国)映画/広東語/110min・全7巻/カラー/ビスタサイズ(1:1.85)/ドルビーSR 製作:ゴールデン・アミューズ/配給:(株)アミューズ

2000年11月24日DVD発売開始 /2000年11月24日ビデオレンタル開始 2000年4月1日(土)より岩波ホールにてロードショー

公開初日 2000/04/01

配給会社名 0008

公開日メモ 香港では98年10月に公開され大ヒットを記録、台湾金馬奨11部門ノミネート、香港金像奨では12部門ノミネートされた。

解説

「披璃の城」は「宋家の三姉妹」(97)で記録的な成功を収めたメイベル・チャン監督の最新作である。本作には二つの世代のラブストーリーが織り込まれている。
1970年代に香港大学のキャンパスに芽生えたラファエルとヴィヴィアンのロマンティックな愛。彼らの悩める青春時代は、当時のファッションやブラザーズ・フォーの「トライ・トゥ・リメンバー」などのスタンダード曲が効果的に使われ、みずみずしく描かれる。そこには失われてゆくものへの痛切な思いがこめられでいて、美しくも哀しい。
もう一つは97年、香港返還という歴史的イベントを迎える彼らの子どもたち、デイヴィッドとスージーの愛。彼らが親の秘められた日々をたどるなか、愛を育んでゆく姿には香港の未来への限りない祈りがこめられている。

本作は、メイベル・チャンとアレックス・ロー(脚本・プロデューサー)が、母校である香港大学の思い出深いキャンパスをフィルムに残したい、という想いから始まった。それは学生たちの恋や、悩み多き青春を見つめてきた記念ホール(何東夫人女子寮 Lady Ho Tung Hall)が98年6月、半世紀にわたる歴史に幕を下ろすことになると聞いたからだ。

おりしも生まれ育った街・香港は、英国から中国に返還されようとしていた。ガラスのようなきらめきに包まれた街・香港。過去から未来ヘ———メイベル・チャンは20余年の歳月に描くそれぞれの人生と愛に、激動の香港現代史を重ねて、変わりゆく故郷への心からの愛を謳っている。

香港大学(University of Hong Kong)は1911年の開校以来、国際的に活躍する数多くの香港エリートたちを輩出してきた名門校である。香港島北西の緩やかな丘陵に16ヘクタールを越える広大な敷地を有する。これまで映画にはあまり描かれることはなかったが、その美しい外観とともに、70年代と90年代の学生たちの生活を垣間見ることが出来るのも非常に興味深い。劇中、デイヴィッドとスージーが過去の歴史を調べている図書室も香港大学のものであり、”?”マークのソファーはそのトレードマークとなっている。

撮影は97年新年のロンドンにはじまり、7月1日の返還に沸く香港、そして翌98年2月から4月にかけて香港とロンドンで行われた。
原題「玻璃之城」の“城”は“都市”の意味であり、全体で“ガラスの都市・街”という意味を持っている。そのタイトルのように、香港の象徴でもある林立するガラスばりのビル群をぬって飛行機が離発着する啓徳空港や、ビルの合間に残る古い建物、学生たちがたむろする開発地区の居住地など、映画では刻々と変わりゆく香港がいたるところに描かれている。
また香港島・湾仔(ワンチャイ)で行われた香港返還の式典がクライマックスシーンとして描かれる。チャールズ皇太子の演説が行われ、英国旗”ユニオンジャック”と”香港政庁旗”に替わり、中国の”五星紅旗”と香港特別行政区のシンポル“紫荊花(ハナズオウ)”を描いた旗が掲揚され、江沢民主席が香港特別行政区の誕生を宣言する。

香港では98年10月に公開され大ヒットを記録、台湾金馬奨11部門ノミネート、香港金像奨では12部門ノミネートされた。

ストーリー

1996年、大晦日のロンドン。
トラファルガー広場は新年を祝う人々で沸き返っている。そんな中を車が一台、猛スピードで突っ込んできて、スリップをして壁に激突した。時は午前O時、車中のラファエルとヴィヴィアンは、新年の到来を告げるビックベンの鐘の音と人々の歓声を聞きながら、息絶える。
翌日、ニューヨークでは新年最初の惨事として事故はトップニュースで報じられた。偶然ニュースを見たラファエルの妻テレサは、香港にいるはずの夫の事故を信じられず取り乱し、代わりに息子のデイヴィッドが遺体を確認しにロンドンヘ行くこととなった。そして警察の取調室で香港から来たヴィヴィアンの娘スージーと出会う。
二人とも香港生まれだが、デイヴィッドは10歳の時に、迫り来る香港返還の混乱を避けるため、両親に連れられアメリカに移住。その後、父ラファエルは事業のため単身香港に戻り、デイヴィッドは母の元、ニューヨークで育てられた。一方、スージーは、父ピン・チンがカナダで移民専門の弁護士事務所を経営しているが、彼女は香港に住む母ヴィヴィアンの元で育てられたのだった。二人は互いに自分の親を奪われたという思いで反目しあいながらも、遺品の受取りと火葬を無事に済ませたが、その後にもうひとつやらなけれぱいけないことがあった。…それは、ラファエルとヴィヴィアンが共同名義で購入した香港の家を処分することだった。

香港。二人はラファエルとヴイヴイアンが住んでいた家へと向かう。そこには父と母の香港大学時代からの数々の想い出の写真や品々が飾られていた。
父と母のことが知りたい…二人はラファエルとヴィヴィアンの大学時代からの共通の友人である弁護士デレクを訪ねる。デレクは学生時代から、20年の歳月にわたる二人の愛を見守ってきた唯一の友人だった。「二人の離婚手続きも、いずれ自分がやると思っていたんだが」と言う彼は、デイヴィッドとスージーに大学時代の想い出を語り始める…。

英国式教育に基づいた伝統ある名門校・香港大学のキャンパス。ラクロスの練習をする女子生徒をはやしながらランニングする男子生徒たち。彼らに気を取られている隙にゴールを決めたヴィヴィアン。フェンス越しにラファエルと目が合った…それが二人の出会いだった。
ゲストを招いた厳粛な女子寮の夕食時に、バラを一輪手にしてベランダから忍び込むラファエル。その強引さに呆れながらも、彼女は土曜日のダンスパーティの誘いを受ける。
ダンスナンバーにのせて踊る二人は、パーティ会場を抜け出し互いの気持ちを確かめ合う。
二人の過去を知るにつれ、デイヴィッドとスージーの間には憎しみよりも初めて知る父母の若き日々への興味とともに、ある種の連帯感が芽生えてくるのだった。ある夜、スージーは開発地区にある学生たちの居住区ヘデイヴイッドを連れて行く。香港を嫌っていたデイヴィッドも同世代の香港人と交流するうち、少しずつ親しみを感じるようになっていく。

時は1970年代。甘く楽しい大学生活の一方、ここ香港でも学生運動の波は押し寄せていた。座り込み、そして機動隊との衝突。主導者の一人として拘留されたラファエルは無事釈放されるが、抑圧された香港の現実に絶望し、出国を決意する。
「いつか香港に美しい橋を架けたいんだ、英国のケンブリッジ(康橋)やアメリカの金門橋のような美しい橋を。どこに橋を架けるか、空から探そうか。いつかセスナの免許を取ったら、最初の日に君と空を飛ぼう」…夜景が一望できる公園でラファエルはヴィヴィアンに将来の夢を語る。そして新学期には香港を雛れフランスヘ行くことを告げ、自分で作った手の塑像を渡す。そこには生命線、運命線など手相すべてにヴィヴィアンの名前が刻まれていた。
香港とフランス———二人の間で聞き取りにくい国際電語のやり取りが続く。互いに深く信じ愛し合いながらも、途切れ途切れになる電話だけではその寂しさを埋めることは出来なかった。ヴィヴィアンの父の死、昼夜休むことなく働くラファエル…やがて二人とも、身近に自分を支えてくれる相手に巡り合う…。
二人が離れぱなれになったいきさつを、ヴィヴィアンの母である祖国から聞くスージーとデイヴィッド。祖母はスージーに、「あんないい青年はめったに見つからないわよ」とデイヴィッドのことをけしかける。少しずつわだかまりが消えていくとともに、互いを意識し始める二人だった。

1992年、香港。来たる香港の中国返還に備えた北京語の語学スクールで、運命の再会をするヴィヴィァンとラファエル。久しぶりの再会を祝し、食事をしながら互いの近況を語り合う。レストランのオーナーに誘われ、“トライ・トゥ・リメンバー”を唄うラファエル。二人の脳裏に甘く切ない過去がよみがえる。
その日からヴィヴィアンのことが忘れられず、ラファエルは彼女の家の前に車を停め、窓越しにぽんやり外を眺める彼女の姿を見つめていた。そして、かつて彼女に贈った手の塑像が窓辺に飾られていることに気づき、思わず電話をかけ「一緒にセスナの操縦を習わないか?」と誘う。互いに別々の道を歩み、家庭もあり、かつての二人には戻れないことを痛いほどわかりながら、誘いを断れないヴィヴィアン。
つかの間の二人だけの時間。失われた時を取り戻すかのように、2機のセスナが空を舞う。
そんなある雨の夜、何度も押し慣れたラファエルの携帯電話の番号…なかなかかけることが出来ずにいたヴィヴィアンは思い切ってコールボタンを押す。「もしもし…」電話に出たラファエルの声に、救急車のサイレンの音がかぶって聞こえてきた。家の前を通る救急車…思わず窓辺に駆け寄るヴィヴィアンは、窓の下に止めた車の中で電話をとる彼の姿を見つけ、どしゃ降りの雨の中、飛び出していく。ずぶ濡れのまま車の中で激しく抱き合う二人は、もう離れられないことを確信するのだった。
郊外の一軒家を見つけ一緒に暮らし始める二人。想い出の写真や品々を飾り、アンティークショップで見つけてきた郵便ポストにはずっと大切にしまってあった手紙を入れ、離れ離れだった20年という時を埋めていくのだった。
しかし互いに家庭のある身…わかりきっていることでも、セスナの練習をする飛行場にラファエルの妻が現れたり、香港大学の同窓会で互いに妻と夫を伴って顔を合わせたり、と現実に引き戻され苦悩する日々が続く…。
ヴィヴィアンが念願のセスナの免許を取得したその日は、彼女の誕生日。二人で処女飛行に出て誕生日を祝うことにしていたはずが、そこに現れたのは友人のデレクだった。ラファエルから預かったプレゼントと花束を手にしたデレクに、ヴィヴィアンは問い詰める。「また奥さんがやってきたのね!彼は私のことを本当に愛しているの?なぜ私と奥さんの二人を同時に愛せるの?もうこんな関係、気が狂いそう!」

ロンドン———ヴィヴィアンを追いかけてイギリスに渡り、彼女の姿を探し求めて車を走らせるラファエル。諦らめきれずにテムズ川のほとりにたたずむ彼は、沈んだ表情で橋を歩く彼女を見つける。
デイヴィッドはもう少し香港にとどまりたいと思うが、ニューヨークの母から帰りを急かされていた。ある夜、デイヴィッドは香港でつくった曲を香港の思い出に、と思い切ってスージーにプレゼントする。そしてその曲に彼女の中国名をつけようと尋ねたとき、二人とも同じ”康橋”(英国ケンブリッジの中国名)という名であることを知る。ラファエルとヴィヴィアンの想いの深さを感じると同時に、あらためて父と母を失った悲しみにくれるのだった。

1997年6月30日、香港。
返還の歴史的瞬間を一目見ようと群衆でごった返すビクトリア湾で、時間を気にしながらデイヴィッドとスージーを待つデレクがいた。人込みを掻き分け、小さな包みを手にして現れた二人は、午前零時に打上げる花火の中にヴィヴィアンとラファエルの遺灰を注ぎ込むのだった。カウントダウンと同時にスイッチが押された。いたるところで打上げられた何万発もの花火があたり一面を鮮やかに彩り、香港は一世紀半にわたるイギリス統治から祖国中国へ返還され、香港特別行政区が誕生した。一段と高まる人々の歓声の中、ヴィヴィアンとラファエル、二人の愛はいまようやく天空高く昇華されていく。新しい香港の誕生と、そして若い二人スージーとデイヴィッドの新たな愛の始まりを予感させながら…。

スタッフ

監督:メイベル・チャン
脚本:アレックス・ロー
撮影:ジングル・マ
美術:ブルース・ユー
編集:モーリス・リー
音楽:ディック・リー、チウ・ツァンヘイ
(オリジナルサウンドトラック:ソニーミュージックエンタテインメント)
プロデューサー:アレックス・ロー
アソシエイトプロデューサー:ドリス・ツェ
プロダクションマネージャー:クラウディア・チュン
製作総指揮:レイモンド・チョウ、大里洋吉

キャスト

ラファエル(港生):レオン・ライ
ヴィヴィアン(韻文):スー・チー
ウーリー・スージー(康橋):ニコラ・チェン
デイヴィッド(康橋):ダニエル・ン
デレク(陳浩):ビンセント・コク
ピンチン(ヴィヴィアンの夫):イーソン・チャン
テレサ(ラファエルの妻):ポーリン・ヤム

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