原題:BERESINA oder Die letzten Tage der Schweiz

倒錯の迷宮で・・・ "スイス最期の日"を描く、デカダンスと混濁の世界

1999年カンヌ国際映画祭“ある視点”部門正式出品作品

1999年/スイス・ドイツ・オーストリア/1時間48分/カラー/35mm/ドルビーデジタル 配給:ユーロスペース

2001年4月28日より、渋谷ユーロスペースにて陶酔のロードショー公開

公開初日 2001/04/28

公開終了日 2001/06/29

配給会社名 0131

公開日メモ 「ベレジーナ」とはロシア(現ベラルーシ)の河の名だが、1812年ロシア遠征から敗退するナポレオン軍(スイスの傭兵も多数参加)の「ベレジーナの戦い」の舞台となり、スイス・ドイツ語圏ではスイス的英雄主義の代名詞、この映画でも狂信的な秘密愛国組織「コブラ」の精神として、その歌の一節がクーデター指令の暗号に使われる。

解説

《背徳の幻想世界で・・・・・・》
『ラ・パロマ』『ヘカテ』といった幻惑と陶酔の虚構世界で、また『カンヌ映画通り』『トスカの接吻』といったドキュメンタリーで、つねに音楽的で耽美的な幻想をくりひろげ、現代ヨーロッパ映画界に燦然と輝く監督ダニエル・シュミット=撮影レナート・ベルダの名コンビ。その待望の新作が『ベレジーナ』(副題「スイス最期の日」)である。
坂東玉三郎を主役に日本で撮影した『書かれた顔』(95年)以来4年ぶり、久々のフィクション作品となる『ベレジーナ』は従来とは趣向をかなり変え、現代スイスの政財界を風刺したブラック・コメディとなった。”シュミット的コメディ”への期待からすでに前評判が高かったが当のスイスで99年の封切直後、映画とよく似た高官スキャンダルや辞職騒ぎが起こる偶然も重なって興収トップの大ヒットとなり、シュミットは”スイス映画界の巨匠”の評価を改めて不動のものにした。

「ベレジーナ」とはロシア(現ベラルーシ)の河の名だが、1812年ロシア遠征から敗退するナポレオン軍(スイスの傭兵も多数参加)の「ベレジーナの戦い」の舞台となり、スイス・ドイツ語圏ではスイス的英雄主義の代名詞、この映画でも狂信的な秘密愛国組織「コブラ」の精神として、その歌の一節がクーデター指令の暗号に使われる。一方、スイス・フランス語圏で「これはベレジーナだ」と言えば最もひどい災厄を意味する慣用句といい、こうしたスイス社会のズレ・逆説・二面性をシュミットは軽妙に対比してみせる。

シュミットらしく観客の意表をつくこうした語り口とシュルレアリスム的なユーモア感覚で、スイスをめぐる神話・表象・クリシェなど様々な無意識的イメージが組み合され”神話的迷宮”の中の荒唐無稽な国スイスが描き出される。憧れの国スイスを熱烈に賛美するイリーナは、早くスイス国籍を得てロシアの郷里から一族郎党を呼び寄せようと実力者に画策。一方、この”もっともブニュエル的な”シュミット映画の中で、政府・銀行・軍・TV局などの要人たちは鏡が乱反射するようにイリーナと倒錯的な変態プレイに耽っていく。とくにクーデターの暗殺シーンやラストの戴冠式のブラックユーモアは滑稽にして痛烈、シュミットの面目躍如だ。ブニュエル映画を愛し、学生時代に本人にインタビューしたこともあるシュミットは、足フェチの連邦裁判官のシーンではブニュエルヘのオマージュとして『小間使の日記』(63年)を引用。『ベレジーナ』をシュミット版『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』(72年)と評する声もある。

《”スイス最期の日”を描いた迷宮の物語》
過剰に美化された真白のスイスと闇の中に隠された真黒なスイス。その対比の背景には”世界で一番美しい国”スイスで90年代に起こった銀行スキャンダル(第二次大戦中のユダヤ人財産の着服やマネー・ロンダリング疑惑)、政財界汚職、ヨーロッパ統合に対する孤立政策の不安がある。また劇中の「コブラ」と似た組織は1960年代バーゼルに「ターゲット」という名で実在し、その標的は実際に国立銀行頭取や大統領、連邦裁判官など政府要人だった。

そのスキャンダルを基に、”スイス最期の日”を描いた迷宮の物語『ベレジーナ』。ダニエル・シュミット独特のデカダンスとユーモアによって、映像のラビリンスヘとさらに迷い込むだろう。

ストーリー

《もっともブニュエル的なシュミット映画》
繊細なピアノが静かに不安なメロディを奏で始め、画面には”ein Film von DANIEL SCHMID”の文字。久しぶりにシュミットの”ドイツ語映画”である。歌もふんだんに歌う新人エレナ・パノーヴァが演じるヒロイン、ロシアからきた若く美しく官能的な女性イリーナがレナート・ベルタの見事なライティングと構図のもとその美貌をあらわす。役柄はコールガールだが、サイレント映画の女神たちのような魅惑と神聖さだ。しかし次の瞬間、彼女は老軍人の銃で射殺され、場面はシュミットが”ミッドナイト・ブルー”とよぶ美しい夜景に。華やかなパーティと打ち上げ花火、そこヘロバート・アルトマン映画から抜け出たようなジェラルディン・チャップリンが黒い扇子を手に登場。場面が戻ると、先ほど死んだはずのヒロインは再び老軍人と談笑し、再び銃で撃たれる。

スタッフ

監督:ダニエル・シュミット
製作:マルセル・ホーン
脚本:マルティン・ズーター
撮影:レナート・ベルタ
美術:カトリン・ブルナー
音楽:カール・ヘンギ
衣装:ビルギット・フッター
配給:ユーロスペース

キャスト

エレナ・パノーヴァ
ジェラルディン・チャップリン
マルティン・ベンラス
ウルリヒ・ノエテン
イヴァン・ダルヴァス
マリーナ・コンファローネ
シュテファン・クルト
ハンス・ペーター・コルフ
ヨアヒム・トマシェフスキー

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