原題:the brown bunny

静かな哀しみと、激しい愛の情熱に彩られた魂の映像詩

2003年/アメリカ・日本/カラー/90分/ヨーロピアン・ビスタ/SRD 製作:キネティック、トライエム、レントラック、パイオニアLDC、電通、葵プロモーション 配給:キネティック

2004年12月03日よりDVD発売開始 2003年11月22日よりお正月、シネマライズほか全国ロードショー公開

公開初日 2003/11/22

配給会社名 0026

解説



新しい才能の誕生を鮮やかに印象付けた長編処女作『バッファロー’66』から5年、世界中が熱望していたヴィンセント・ギャロ監督・主演最新作『ブラウン・バニー』がついに完成した。自ら主演し、演出するタイプの監督の中でもアーティストとしてひと際特別なポジションにいるヴィンセント・ギャロは、生まれ故郷バッファローを舞台にした前作に続き、かつてプロのバイクレーサーとしてアメリカ各地を転戦していたキャリアを下敷きに、バド・クレイという新たなキャラクターを生み出した。『バッファロー’66』以前から構想し、“本当にやりたかったことが実現できた”とギャロ自身が語る本作は、旅にさすらいながら記憶に刻んだアメリカ大陸へのラブレターであると同時に、女性との愛に求める純粋さと失意の想いが詰め込まれた傷だらけの物語である。その魂のこもった誠実な語り口は観る者の心を裸にし、深い感銘を与える。
タイトルの“ブラウン・バニー”は、物語の中の小さなエピソードに由来している。主人公バド・クレイは旅の途中、かつての恋人デイジーの母親の家を訪ねる。そこで遠い日の思い出と寸分違わぬ茶色い子ウサギを見つけるのだ。子供のまま永遠に歳をとらないデイジーのブラウン・バニー。それは二人の愛の日々に連なる美しくミステリアスな伏線となって観客の心に
そっと留められる。
 250ccフォーミュラーⅡのバイクレーサーであるハド・クレイは、東海岸ニューハンプシャーでの最終戦を3位で終え、次のレースが行われるカリフォルニアヘと旅に出る。レースマシンを積んだ黒いバンでのアメリカ横断の一人旅。雨に煙るハイウェイ、暮れなずむ荒野、地平線まで続く一本の道、現れては消えて行くフロントガラス越しの景観を通して、観客はバドの旅
の道連れとなる。道すがら出会う女性たち、ヴァイオレット、リリー、ローズ。彼女たちが花の名前であることにバドは心惹かれ、ときにはカリフォルニアヘの旅について来てくれるよう懇願する。しかし、すぐにそんな行為には何の意味もないことを思い知る。ハドは失った恋人デイジーを忘れることができないのだ。互いに愛し合った日々の記憶から哀しみがとめどなく溢れ出す。そして長い旅が終りに近づいた時、テイジーは彼の前に姿を現す。デイジー役の女優のキャスティングには長い時間が必要だった。しかし最終的にクロエ・セヴィ二一がヒロインに決定した瞬間、純粋かつ過激な愛の物語はくっきりとした輪郭を現し始め
た。ガールズ・カルチャーのミューズであり、『KIDS/キッス』(’95)やアカデミー賞助演女優賞ノミネートの『ボーイズ・ドント・クライ』(’99)以後、本作では大人の女性としてのオーラを強烈に放つ女優へと大きく成長し、ヴィンセント・ギャロに全幅の信頼を置いた愛の演技を披露している。このラストシーンの衝撃は二人の演技の激しさだけによるものではない。そこには胸をえぐるような真実が隠され、見終わった直後に観客自身がバド・クレイと共に道に迷っていたことに気付くのである。ヴィンセント・ギャロが最も用心深く、繊細に作り上げた、センセーショナルにして悲劇的な津身のラブシーンである。
『ブラウン・ハニー』は2003年カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、前代未聞のバッシングと賞賛の嵐を巻き起こした。カンヌ終了後も、ヴィレッジ・ボイス紙かギャロを擁護、ニューヨーク・オブザーバー誌が3頁にも渡って特集を組むなど多くのメディアを論戦に巻き込み、本作は2003年カンヌ映画祭出品作品の中で世界的に「最も有名な作品」になった。
 映画製作の全てを自分自身のこだわりで貫く完全主義者ヴィンセント・ギャロのアウトロー的姿勢は、すでに『バッファロー’66』の時代から一触即発の「火種」であり続けた。歯に衣着せぬ毒舌、カンヌ映画祭コンペティション部門にエントリーされた約300本のアメリカ映画を差し置き、たった3本のうちの1本として“アメリカ代表”に選ばれたこと、ラストシーンに仕掛
けられた激しいラブシーン。ギャロに反感をもつ保守派勢力にとっては、どれをとってもギャロを攻撃するに十分な材料であり、果たしてブーイングは上映のオープニング・クレジットにギャロの名が現れたときから始まった。世界初のマスコミ上映が明けた翌日、スクリーン・インターナショナル、バラエティ等のトレード誌に本作の政治的こき下ろし記事が掲載される一方で、ル・モンド、リベラシオン、カイエ・ドゥ・シネマ、テレラマ、ポリティス、ユマニテ、ザ・テイリー・テレクラフなど多くのヨーロッパ系新聞、雑誌が作品の美しさと独創性を激賞。ヴィンセント・ギャロとクロエ・セヴィニーとの大胆な愛の演技も、「全身全霊を捧げなければ生まれ得ない、映画史に永遠に刻まれるラブシーン」と褒めたたえた。
 因みに、カンヌ映画祭で上映されたフィルムは、映画祭での上映のみを目的として制作された特別バージョンである。世界に先駆けて日本で配給される『フラウン・バニー』の公開フィルムはカンヌ映画祭以後約3ヶ月を費やして最終的な編集とポストプロダクションがなされた全世界配給のための「完成バージョン」である。

ストーリー



ニューハンプシャーで開催されている250ccフォーミュラーⅡレースの最終戦。爆音とともに疾走する何台ものモーターサイクルの中で一際目立つメタリック・ゴールドのHONDAが3位でデェッカーフラッグを受ける。次のレースは5日後、カリフォルニアで開催される。必死に戦ったレーサーをねぎらうセレモニーもなく、3位に入賞したバド・クレイはレース終了後まもなく黒いバンにマシンを積み、カリフォルニアヘとアメリカ横断の旅に出る。レース場近くのガソリンスタンドで給油したバドはヴァイオレットという女性に出会う。その花の名前に心惹かれ、衝動的に彼女を旅に誘う。しかし、半ば強引に同意させたにも拘らず、彼女を置き去りにしたまま出発してしまうのだ。東海岸から内陸へ向かって走り続けた翌日、一軒の質素な家の前でバドは車を停める。そこには彼の恋人デイジーの母親レモン夫人が暮らしていた。幼なじみとして育ち、自然にデイジーと愛し合うようになった隣家のバドのことを、レモン夫人は覚えていなかった。バドは居間で飼われている茶色い子ウサギを見て動揺する。レモン夫人はそれはデイジーのものだというが、バドの遠い思い出の中のものと全く変わらぬその姿は、まるで永遠に歳をとらないかのようだった。娘が電話をくれないとこぼす母親に、彼女はロサンゼルスで自分と一緒に暮らしていると告げる。子供はいるのかと訊ねられ、バドは小さな声で「生まれるはずだった」と答える。バドとデイジーの幸せな日々はすでに失われてしまった。かつて愛し合い、今も愛し続けるデイジーへの想いから哀しみがとめどなく溢れ出す。広場のベンチで孤独な時を過ごしていたりリーという女性と束の間心を通わせるが、すぐに心を閉ざし、立ち去ってしまうバド。ラスベガスではローズという娼婦をドライフに誘いながら、苛立ちを抑えられず彼女をすぐにハイウェイで降ろしてしまう。長い旅の果て、カリフォルニアに到着したバドは、かつてデイジーと二人で暮らしていた小さな家を訪れる。この家で、この庭で、ふたりは愛し合い、幸せな日々を送っていた。ひと気のない家の戸口で何度もデイジーを呼び出すが返事はなかった。バトはホテルで待つと彼女に手紙を残してそこを去る。やがてホテルの部屋で待つバドのもとへ、テイジーがやって来た。離れていた日々の隙間を埋めるように、二人は少しずつ愛の記憶を呼び戻していく。

スタッフ

監督・プロデューサー・脚本・撮影・編集・ヘアメイク・衣装・美術:ヴィンセント・ギャロ
カメラ・オペレーター:オザワ・トシアキ、ジョン・クレメンス、ヴィンセント・ギャロ
照明:オザワ・トシアキ
音声:リック・アッシュ、ジョン・メーテ
音楽:テッド・カーソン、ジェフ・アレクサンダー、ゴードン・ライトフット、
   ジャクソンCフランク、マティス・アッカルド・カルテット

キャスト

バド・クレイ:ヴィンセント・ギャロ
デイジー:クロエ・セヴィニー

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