裸のマハ
原題:VOLAVERUNT
マハ、あなたは誰?
2000年サン・セバスチャン国際映画祭主演女優賞(A.S.ギジョン)
1999年10月1日スペイン公開
1999年/スペイン=フランス合作映画/1:2.35/シネマスコープ カラー/ドルビーデジタルSRD/5巻/2,582.7m/95min 特別後援:プラド美術館展 提供:タキコーポレーション、東芝デジタルフロンティア、シネマパリジャン 配給:シネマパリジャン
2002年09月26日よりビデオ発売&レンタル開始 2001年5月3日より銀座テアトルシネマにてロードショー
公開初日 2002/05/03
配給会社名 0043
公開日メモ ゴヤの名作“裸のマハ”のモデルとなった女性は、いったい誰だったのか? 絵画界で初めて“陰毛”を描いたとされる禁断の絵をめぐる数奇な女たちの物語。
解説
19世紀を代表するスペインの宮廷画家フランシスコ・ゴヤ。彼が描いた世紀の名画《裸のマハ》には、そのドラマティックな誕生秘話にもましてミステリアスな真実が隠されていた。
1802年7月、スペインの王宮を揺るがす事件が起きた。社交界の華として、サロンに君臨したアルバ公爵夫人が謎の急死を遂げたのだ。公爵夫人と時の王妃マリア・ルイーサとの対立は、誰もが知るところ。ふたりは貴族社会の覇権を争い、あるいは宰相マヌエル・ゴドイの愛をめぐって、激しい確執を繰り広げていたのだった。そしてゴドイが寵愛してやまない愛人ペピ一夕・トゥドーの存在が、女たちの葛藤にもうひとつのドラマを生み出してゆく。果たしてアルバ公爵夫人は自殺したのか、それとも毒殺なのか?そして、他殺ならば犯人は、その動機は何だったのか?
ゴヤが描いた不世出の名画《裸のマハ》は絵画史上、初めて女性の裸体画に陰毛を描いたとして、発表当時、騒然たるセンセーションを巻き起こし、後に異端審問所に告発されたという、いわく付きの絵画である。
『ハモンハモン』『おっばいとお月さま』などラテンの激しい情熱のうちに、胸を打つ詩情あふれる作品を撮り続けるスペイン映画界の巨匠ビガス・ルナ監督は、今もなお諸説ふんぷん、深いミステリーを残したアルバ公爵夫人の死をモチーフに、その《裸のマハ》にまつわる女たちの愛と憎悪、嫉妬と葛藤のドラマを、エロティシズムあふれる眼差したっぷりに描き出した。
公爵夫人は、今際のきわで「ヴォラヴェルント、私は飛び去ってゆくのよ」と言い残して、息を引き取った。その言葉には、一休どのような意味が隠されていたのだろうか?奇しくも時代はナポレオンのスペイン侵攻前夜、今まさに最後の欄熟の花盛りだったスペイン宮廷に、ひとつの名画をめぐって200年間、誰にも知られることのなかった女たちの愛が秘められていたのである。
これまで、《着衣のマハ》のモデルとされていたアルバ公爵夫人。しかし《裸のマハ》にはしっかりと陰毛が描かれている。公爵夫人は、当時流行していたフランス式に陰毛を脱毛していたのだった。それならば一体、モデルは誰だったのだろうか?
劇中、アルバ公爵夫人は、「ナポリの黄色、見ただけで死ぬわ。コバルト紫は嗅ぐだけで血液が固まり、何より過激なのはヴェネローゼ緑」とゴヤの愛用していた絵具に潜む猛毒について説明している。
『裸のマハ』は、あたかも公爵夫人、王妃、そしてペピータと3人の女性が毒の華を撒き散らすように、今もなお歴史の狭間に横たわるミステリーに対して、大胆かつドラマティックな推理を物語のエッセンスに盛り込みながら、その真実に新たなスポットライトをあてた、『アマデウス』にも通じる魅惑的なピカレスク・ロマンなのである。
事件の鍵を握るペピータに扮するのは、『ハモンハモン』でスペインを代表する若手女優となり、近年ではハリウッド映画でも活躍、『バニラ・スカイ』では主演のトム・クルーズとのロマンスなど、賑やかな話題を振りまくペネロペ・クルス。宰相ゴドイの愛人でいながら歴史の表舞台から姿を消した一女性の、情熱的な愛と失われた恋の悲哀を、大胆なヌードも厭わない体当たりで体現、またあでやかなフラメンコの舞姿を披露するなど、女優としてさらなる新境地を開いた。ここにはハリウッド映画では見られない女優ペネロペの魅カの本質があふれている。
一方、美貌と財カ、そして何より才知によってスペイン社交界の女主人に君臨したアルバ公爵夫人には、『雲の中で散歩』でキアヌ・リーヴスの恋人を好演したアイタナ・サンチェス=ギヨン。自由奔放かつ華麗な社交の影で、誰からも本気で愛されない空しさと老いの恐怖を抱えた公爵夫人の苦悩を、気品あふれる誇りのうちに凄みたっぷりに演じきり、見事、サン・セバスチャン映画祭最優秀女優賞に輝いた。また、食欲に権カに固執する王妃マリア・ルイーサには『暗殺の森』『星降る夜のリストランテ』など、イタリアを代表する名女優ステファニア・サンドレッリが演じ、わずかな出番ながらさすがの貫録を見せつける。
彼女たち3女優の火花散る競演が、時代の徒花となった権カと嫉妬が渦巻く反たちの人間ドラマをより魅カ的に迫カあるものにしているのは間違いないところだ。
対する男優陣もクセ者ぞろいだ。稀代の画家フランシスコ・ゴヤには『苺とチョコレート』『バスを待ちながら』のホルヘ・ペルゴリア。本音を押し殺しながら、瞬間的に事の真相を見抜くゴヤの内面を、視線の表情のみで浮かびあがらせる迫真の演技は、新時代のゴヤ像を造形したといったも過言ではない。対するマヌエル・ゴドイ大統領には、ジョニー・デップ主演の『ブロウ』でもペネロペと共演しハリウッド・デビューを飾った、『パズル』のジョルディ・モリャ。「英雄色を好む」と言わんばかりに、セックスアピールを誇示しながら、権カと女性に対してなみなみならぬ関心を注ぐしたたかな宰相の野心を、いつになく重厚な演技で説得カあるものにしている。
原題の“ヴォラヴェルント”とは、ゴヤとアルバ公爵夫人の関係が終焉を迎えた後、1799年の名画《カプリチョス》「彼女は飛び去った」に記された一フレーズだが、ここでは謎を抱えながら死出の旅に出た公爵夫人の思いを投影させているのと当時に、センシュアルな官能のイメージとして象徴的なモチーフとしているところに、《着衣のマハ》と《裸のマハ》の偏し絵同様、ビガス・ルナらしい人間心理の多重構造の遊び心を発揮している。
アントニオ・ラレッタの原作「ヴォラヴェルント」を基に、脚本はビガスと、『ハモンハモン』以来、彼とは絶妙な台詞のコラボレーションを築いている女性脚本家クカ・カナルス、そしてシャンタル・アケルマン監督の『カウチ・イン・ニューヨーク』を手掛け、ビガスとは前作“La femme de chambre du Titanic”でも組んだジャン=ルイ・ブノワ。
光と影の陰影に富んだ映像の中で人間心理のミステリーを浮き彫りにした撮影監督は、『死んでしまったら私のことなんか誰も話さない』のヴェテラン、パコ・フェメニア。また美術デザインを『電話でアモーレ』『ヴィゴ』のルイス・パレス、衣裳デザインを『シラノ・ド・ベルジュラック』でアカデミー賞、セザール賞などを総なめにし、『愛の報酬/シャベール大佐の帰還』『プロヴァンスの恋』、そしてビガスの“La femme de chambre du Titanic”でスペインのアカデミー賞といわれるゴや賞を受賞したフランカ・スクァルシアピノが手掛け、それぞれ19世紀初頭のスペイン宮廷を豪華絢欄に再現した造形美も見逃せない。
なお木作は、99年のゴヤ賞で、撮影、美術デザイン、衣裳デザイン、特殊メイクの4部門で候補となり、キリストの礫を再現した巡礼者の一行をアンダルシアの広大な草原の中で映し撮ったスケールあふれる壮大なロケーション効果も話題をよんだ。
ちなみに“マハ”とは伊達女の意味。果たして、あなたの眼にはペピータ、アルバ公爵夫人、それとも王妃マリア・ルイーサ、時代を激しく華麗に生き抜いた彼女たちの誰が“マハ”と映るだろうか?もしかしたらそれこそがこの謎をひもとく鍵といえるかもしれない。そう、これは養沢かつ芳醇な大人のミステリーなのである。
ストーリー
1802年7月、スペインは輝いていた。
時の王妃マリア・ルイーサ(ステファニア・サンドレッリ)が絶大なる権カを誇っていたスペイン宮廷。その一方で、名家の出身で美人の誉れ高いカイエターナ、アルバ公爵夫人(アイタナ・サンチェス=ギヨン)が社交界の華として、王妃に勝るとも劣らない権勢を欲しいままにしていた。
折しも、アルバ公爵夫人所有のマドリード・ブエナビスタの屋敷では、彼女の姪マヌエリータ(ヴィルジニア・チャヴァッリ)とアロ伯爵(アルヴァロ・ロボ)の婚約の宴が繰り広げられている宴席には、野心家の総理大臣マヌエル・デ・ゴドイ(ジョルディ・モリャ)と彼の妻になったばかりのチンチョン伯爵夫人(マリア・アロンソ)。さらにゴドイの愛人ペピータ・トゥドー(ペネロペ・クルス)に加え、ゴドイの存在を快く思わぬ皇太子フェルナンド(ゾエ・ベリアトゥア)、それに公爵夫人の財産を狙う友人たちが顔をそろえていた。そして腹に一物を抱えたそんな彼ら招待客たちに交じって、当代随一の宮廷画家フランシスコ・ゴヤ(ホルヘ・ペルゴリア)の姿があった。
ところが、せっかくの祝いの宴にもかかわらず、どこか様子のおかしいアルバ公爵夫人は、屋敷の一角を占めるゴヤのアトリエに客人を招き入れるや、絵具の説明を始める。そんな公爵夫人のエキセントリックな振る舞いは、人々の心にただならぬ波紋を巻き起こしまう。というのも、公爵夫人の屋敷はここ2週間に3度、放火されたこともあり、彼女は極度の人間不信に陥っていたのだ。
今まさに女盛りのアルバ公爵夫人は、ゴドイの愛人として享楽的な日々を過ごす一方、ゴヤとも親密な関係を結んでいた。かつて気分の優れない公爵夫人を慰めるため、絵具を使って特別な化粧を施したことがあったゴヤは、絵具に潜む毒について、こう注意を与える。「お気をつけください。コバルト紫は砒素酸。ナポリ黄と、何より激しいヴェネローゼ緑。そのどちらも猛毒の青酸カリです」。しかし公爵夫人は、事もなげににこう囁くのだった。「ナポリ黄で死ぬほうが、黄熱病よりマシだわ」と。
その翌朝、ゴヤのもとに公爵夫人危篤の知らせが届く。急ぎ夫人の寝室を訪ねると、息も絶え絶えのカイエターナは、「あなたと愛しあいながら消えていきたいの。“ヴォラヴェルンド”、私は飛び去ってゆくのよ」と言い残して、あっけなく落命してしまう。失意に沈むゴヤは、気分を落ち着かせるため、公爵夫人愛用の水差しグラスに手を差し伸べると、その底に他ならぬ“ヴェネローゼ緑”の染料が沈澱しているのを発見するのだった。果たして、公爵夫人は自らその命を絶ったのだろうか、それとも、何者かに毒殺されたのだろうか?こうして事の真相を追求することを決意したゴヤは、ゴドイの屋敷を訪ねるのだった。
そのマヌエル・デ・ゴドイ、彼こそが王妃マリア・ルイーサを影で操ろスペイン宮廷の実質的な支配者だった。総理大臣を務める野心家の彼の周囲には、常にスキャンダルがついて回っている。王妃との愛人関係は言うに及ばず、その一方では王妃のライバルでもあるカイエターナとも肉体関係を持ち続けている。そして自らの権勢をさらなるものとするために、スペイン国教の枢機卿(フェルミ・レイクサッチ)の妹チンチョン公爵夫人を正妻に迎える政略結婚をし、挙げ句の果ては愛人のペピータを自分の屋敷に住まわせていたのだった。権カと欲望に毒されている彼の影で、女たちの嫉妬や憎しみは日増しに膨れあがっていくばかりであろ。とりわけ彼をめぐる王妃マリア・ルイーサとアルバ公爵夫人の火花は、いちだんと激しさを増してゆくのだった。
ちょうどその頃、ゴヤはゴドイの命を受けて、世紀の名画となる《裸のマハ》を完成させた。しかしこの絵が、彼女たちの運命を大きく変えろことになろうとは、この時、ゴヤ自身はもちろん、誰も想像することすらできなかった……。
スタッフ
監督:ビガス・ルナ
脚本:ピガス・ルナ、クカ・カナルス
台詞脚色:ジャン=ルイ・プノワ
原作:アントニオ・ラレッタ「ヴォラヴェルント」
(ノベライズ「裸のマハ」徳間文庫刊)
撮影:パコ・フェメニア
衣裳デザイン:フランカ・スクァルシアピノ
美術:ルイス・ヴァレス“コルド”
結髪:マノロ・カレーテロ、アニー・マランディン、
メイク:ロールデス・ブリオネス、パイエット
衣裳制作:アテリエ・デュ・コスチューム、コルネホ、ブランカート・イ・ポンペイ
キャスティング:コンソル・トゥーラ
編集:ケヌート・ペルティエ
音響:ジル・オルティオン、アルベール・マネラ、リシャール・カサルス
音楽:アルベルト・ガルシア・デメストレス
特殊効果:レイス・アバデス
製作:マテ・カンテロ、ステファーヌ・ソルラ
共同製作:イヴ・マルミオン、サラ・ハリウア
制作会社:マテ・プロダクション、MDAフィルムズ、UGC YM
制作協力:UGCインターナショナル
共同制作:ビア・ディジタル、テレビジョン・エスパニョーラ、カナル・プリュス(フランス)
協カ:プログラマ・メディア・デ・ラ・ウニオン・ユーロピア、イ・ポール・ユリマージュ
製作総指揮:マテ・カンテロ
キャスト
カイエターナ、アルバ公爵夫人:アイタナ・サンチェス=ギヨン
ペピ一夕・トゥドー:ペネロペ・クルス
マヌエル・デ・ゴドイ:ジョルディ・モリャ
フランシスコ・デ・ゴヤ:ホルヘ・ペルゴリア
王妃マリア・ルイーサ:ステファニア・サンドレッリ
国王カルロス四世:カルロス・ラ・ローサ
皇太子フェルナンド七世:ゾエ・ベリアトゥア
ピニャテリ:ジャン・マリー・ホアン
グロニャール:オリヴィエ・アシャール
カタリナ・バラハス:エンパル・フェレール
コルネル将軍:エンリケ・ヴィリェン
チンチョン伯爵夫人:マリア・アロンソ
ロメロ:カルロス・バルデム
イシドロ・マイケス:アルベルト・デメストレス
枢機卿:フェルミ・レイクサッチ
オスナ公爵夫人:アヤンタ・バリッリ
オスナ公爵:エンリケ・レイエス
アロ伯爵:アルヴァロ・ロボ
マヌエリー夕:ヴィルジニア・チャヴァッリ
裁判長:チェマ・マゾ
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