明日への遺言
原題:Best Wishes for Tomorrow
2008年/日本/モノクロ・カラー/110min./35mm/ 配給:アスミック・エース
2008年08月08日よりDVDリリース 渋谷東急ほか全国公開中
(C)2007 『明日への遺言』製作委員会
公開初日 2008/03/01
配給会社名 0007
解説
日本アカデミー賞受賞の小泉堯史、藤田まこと、富司純子 主演最新作
今だからこそ、この「遺言」を明日の世界に届けたい──
実在の人物・岡田資の、「愛」と「誇り」に満ちた生涯
これは「戦争映画」ではない
極限状態下において、信念を貫き誇り高く生き抜いた一人の男と、それを見守る家族との深い絆と愛の物語である。
『雨あがる』『博士の愛した数式』と日本中に温かい感動を届け、今最も良質な映画を贈り出すと注目される小泉堯史監督。大岡昇平の名著「ながい旅」に感銘を受けてから約15年、本作『明日への遺言』は満を辞しての映画化となる。「自分への挑戦」と語る小泉監督の熱い想いの下に集まったのは、藤田まこと、富司純子、西村雅彦、蒼井優、田中好子ら様々な世代を代表する豪華俳優陣と、綿密なるオーディションから選び抜かれたアメリカ人俳優勢。さらにナレーションとして竹野内 豊、主題歌には森山良子が参加。一級のスタッフ・キャストが創り上げた「本物の映画」。本物から溢れ出る力が観る者の心を強く揺さぶる。
誇りや品格を忘れてしまった現代。岡田資の誇り高く生きる姿に込められたメッセージ=次の世代への「遺言」。今この時代に一石を投じる、潔く人間味溢れる映画の誕生である。
「法戦」にたった一人立ち向かい、日米の心を揺さぶった衝撃のドラマ
これは実話である──
第二次世界大戦終了後、元東海軍司令官・岡田資中将は、名古屋空襲時における一般民衆への無差別爆撃を実行した米軍搭乗員処刑の罪に問われ、B級戦犯として戦犯裁判にかけられた。岡田中将の弁護人フェザーストン主任弁護人と対するバーネット検事、裁判官のラップ大佐をはじめ、裁判を実施するのは戦勝国アメリカ。岡田中将は自己の信念を曲げることなく、すべての責任は指令を下した自分にあると主張。法廷闘争を法における戦い、「法戦」と名づけ飽くまで戦い抜こうとたった一人立ち向かった。連日法廷に立つ夫の姿を、不安を抱きつつも毎日じっと傍聴席から見守る妻・温子とその家族。言葉を交わすことは許されないが、笑いを交換することでお互いを深く支え合う夫婦の姿がそこにあった。「司令官は、その部下が行ったすべてにおいて、唯一の責任者である」 部下を守り全責任を負う覚悟を見せる岡田中将の潔い佇まいは、次第に、敵国の検事や裁判官をはじめ法廷内にいる全ての人を魅了し心動かしていく。そして、判決が下る ──
岡田資が命を懸けてまでも伝えたかったこと、守り抜いたものは何だったのか──
誇りや品格といった人間としての美徳を失おうとしている現代にこそ観て欲しい
バブル崩壊以来なかなか克服できない経済不況で、方向性を見失った日本。さらに近年、企業汚職や政治不安をはじめ、リーダー不在を示すニュースが連日のように報道される。そんな中、多くの人が人生に不安を覚え始め、日本に品格を取りもどすことを提案した本が次々とベストセラーを記録。
本作の主人公・岡田資は、B戦犯として法廷にありながら、自らの戦争犯罪を潔く認め、司令官として言うべきことを堂々と主張し戦い抜いた。部下が命を預けることが出来るほどの信頼関係と尊敬の念を抱く人物──最後まで自分の信念を貫き、責任を全うするという、潔く清清しい態度は今の日本人が見失った、理想の上司、リーダー像といえるだろう。筋を通し、責任を全うした岡田資中将のような誇り高き日本人がいたという事実が、混沌とした現代を生きる我々に本人にとって大きな希望となることを願う。
日米実力派俳優の競演
そのまっすぐな演技が伝える、人間の深い愛と潔い生き方
理想の上司No.1ともいえる岡田中将を演じるのは「この役に運命を感じる」と力強い意気込みで挑む藤田まこと。第四十二回文化庁芸術祭・芸術祭賞をはじめ数々の受章暦に裏付けられたと演技力と存在感で、外国の弁護人、検察官、裁判官を相手に堂々の裁判を戦い、人間の優しさと厳しさ・人生の機微を見事演じきる。「法戦」に挑む夫を見守り続ける妻・温子役には、06年『フラガール』で各助演女優賞を受賞、07年紫綬褒章受章が記憶に新しい富司純子。夫を凛々たる態度で支える妻を表情と佇まいのみで表現する難役でありながら、スクリーンで圧倒的な輝きを放つ。フェザーストン役には『GODZILLA』『エンド・オブ・デイズ』のロバート・レッサー。敗戦国の岡田資を弁護する米国主任弁護人を熱演。バーネット主任検察官役にはあのスティーヴ・マックィーンの息子、フレッド・マックィーン。俳優に転進後『ローレライ』に続き2本目の映画出演となるが、その演技力とスター性は必見。裁判長のラップ大佐役をリチャード・ニール。裁判中の駆け引き、岡田の判決を下す表情が素晴らしい。裁判の証言者として西村雅彦、蒼井優、田中好子らが参加、静謐ながら堂々とした演技が胸を打つ。そして『冷静と情熱のあいだ』以来6年ぶりの映画参加となる竹野内豊がナレーションに初挑戦。映画全体を客観的な視点で紡ぎ、物語を推し進めるという極めて難しい役割を熱演。歴史的背景や事実説明を明確なものにしている。
日本映画界屈指の匠の才能、技術が集結
一級のスタッフにしか創り得ない、歴史に残る「本物の映画」
2001年第24回日本アカデミー賞最優秀賞主要8部門受賞、第56回ヴェネチア国際映画祭緑の獅子賞受賞の初監督作品『雨あがる』から『阿弥陀堂だより』『博士の愛した数式』と、日本中に温かい優しさと感動を届けてきた小泉堯史監督。満を持しての映画化となる本作『明日への遺言』の原作は文学界の巨匠・大岡昇平の名著「ながい旅」。音楽は小泉監督とは3本目となる加古隆が、岡田資や家族らの心情を美しく厚みのあるヴィオラの音色を中心に表現。そして「涙そうそう」「さとうきび畑」をはじめ数々の国民的大ヒット曲を手掛ける森山良子が、映画主題歌の初書下ろしに挑戦。温かく切ない歌声が観る者の心に響き渡る。撮影は『まあだだよ』『雨あがる』で日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞した上田正治。録音に『八月の狂想曲』『鉄道員』をはじめ日本アカデミー賞最優秀録音賞歴16回の紅谷愃一。照明を『カンゾー先生』で日本アカデミー賞最優秀照明賞を受賞した山川英明。美術に『阿弥陀堂だより』で日本アカデミー賞優秀賞を受賞した酒井賢。衣裳に黒澤明、山田洋次をはじめ数々の名匠作品を手掛ける黒澤和子と、小泉監督作品に欠くことのできない日本映画界屈指の匠が顔を揃えた。
ストーリー
昭和23年3月、元東海軍司令官・岡田資中将は、B級戦犯としてスガモ・プリズンに入所していた。
日本国内における戦争犯罪と見なされた事件については、横浜地方裁判所が法廷として用いられた。岡田中将とその部下に対する起訴理由は、捕虜となった 38名の米軍搭乗員に対し正式の審理を行わず処刑を行った、ということであった。岡田中将をはじめとする被告人20名のうち、15名は斬首処刑の執行者であった。(※1)
主尋問がはじまるまでの約1ヶ月ほどは、証人への尋問が続いた。
検察側は、略式手続は不当で、岡田中将の行為は殺人である、との証言を引き出した。
対して弁護側は、処刑された搭乗員はジュネーブ条約の定める捕虜ではなく、無差別爆撃を行なった戦争犯罪人であると主張した。(※2)
岡田中将は、略式裁判の正当性を訴える。「われわれは日本の歴史と運命を共にしなければならない、これが東海軍全体の考えであった。しかし米空軍は優勢で、まったくのその日暮らしを送っていたので、翌日のために計画を作ろうにも見通しが立たなかった。日々、直面している問題について、第一総軍の指令を仰ぐことは不可能であった」
中将は法廷闘争を法による戦い、「法戦」と名づけ、飽くまで戦い抜こうと考えていた。
3日目の公判で、彼は「責任の筋を辿って行けば、司令官たる私の方へ来る。司令官は、その部下が行ったすべてについて、唯一の責任者である。」と発言した。
この頃から、彼の態度、言葉によって、全面的に責任を取ろうとしていることが明らかになってきた。(※3)
弁護側主尋問が終了した夜、スガモ・プリズンの浴室内には、”故郷(ふるさと)”を歌う声がこだましていた。若者たちは、岡田中将と一緒にいる喜びに満ち、いまだ公判中でありながらも笑顔が浮かんでいた。
4日目の公判。結婚式を1週間後に控えた、岡田中将の長男・陽(あきら)とその婚約者・純子が現れた。二人の結婚した姿を傍聴席に見せて安心させたい、という家族の思いやりであった。フェザーストン弁護人は、法廷の合間に、若い二人が寄り添う愛らしい様子を身振りでしめして、みなを笑わせた。弁護人と中将の間には親愛感が生まれていた。法廷内をゆっくり歩き回りながら弁論する堂々たる態度。余裕のあるそぶり。彼が弁護人であることに、岡田中将の妻・温子 (はるこ)は深く感謝した。連日、傍聴席で中将の姿を見つめる家族、そして最愛の妻・温子の存在。言葉を交わすことは許されないが、笑いを交換するだけで、岡田中将にとっては非常に心強いものであった。
バーネット検察官は2ヶ月間、執拗極まる敵だったが、一面で時々紳士らしい姿も見せ、時にはアッと思うほど岡田中将に有利な論告をした。中将の証言は、 20日の午後以来、中2日の週末の休廷をはさんで、既に7日に及んでいるが、答弁に少しの乱れも見せてはいなかった。5人の裁判委員、3人の検察官の面々とも、質疑の要領が分かり、親愛感が湧いているように思えた。その日、中将の長女・達子が、赤ん坊を抱いて入ってきた。万感の想いで赤ん坊を抱く岡田中将を見詰める検察官、弁護人、そして裁判長。
東海軍の公判は結審となり、5月19日、判決が申し渡された。
判決、岡田資、絞首刑───。
岡田中将は軽くうなずき、5人の裁判委員を見上げる。
手錠を掛けられ左右に寄り添うM・Pと退場する彼は、法廷を出る間際、接近しえた温子へ告げた。「本望である」(※4)
なすべきことは、なし終わった───。
処刑の前々夜、中将は妻・温子にこう書き遺す。
「温子よ、短い様で永い、又永い様で短い此世は、そなたにはえらい世話になったね。
御礼の言葉もないよ。そなたの誠実さと私に対する純愛は、公人としての私を十二分に働かせしめた。余生尚有れば、十二分に老妻をいたわってと想うて居たが、今は私の強い業力思念を以て御護りする事に致しませう。家族も一同も共に、共に……私は今、久遠の命を確信しています」
その晩は、月夜であった。中将はブルー・プリズンから、13ゲートまで、手錠をかけられた手に数珠を持ち、両側を監視兵に挟まれて行く。刑場の扉の前、「御機嫌よう……」
そう言って、ドアの光の中へシルエットとなって消えていった。
昭和24年9月17日、午前零時半であった───。
スタッフ
監督:小泉堯史
製作:原正人、豊島雅郎
原作:大岡昇平
脚本:小泉堯史、ロジャー・パルバース
制作:シネマ・インヴェストメント、アスミック・エース エンタテインメント
キャスト
藤田まこと
富司純子
ロバート・レッサー
フレッド・マックイーン
リチャード・ニール
蒼井優
田中好子
LINK
□公式サイト□IMDb
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す