おわらない物語-アビバの場合-
原題:Palindromes
2004年ヴェネチア映画祭コンペティション部門出品
2004年/アメリカ/100分/ヨーロピアンビスタ/ドルビーSRD/字幕翻訳:石田泰子/ 提供:ニューセレクト/ 配給:アルバトロス・フィルム
2005年12月02日よりDVDリリース 2005年6月4日より、シネマライズにてロードショー!
公開初日 2005/06/04
配給会社名 0012
解説
<アメリカ映画界の鬼才トッド・ソロンズ>
いじめられっ子のとことん救われない日常をエア板『ウェルカム・ドールハウス』で注目を浴び、続く『ハピネス』はジョン・ウォーターズ監督に「この10年で最高の一本」と言わしめ、『ストーリーテリング』ではあらゆるタブーをえぐりだし、新作を発表するたびになにかと物議を醸すニュージャージーの孤高の詩人トッド・ソロンズ。その肝の据わった社会風刺の姿勢が常に観客を激しく二分し、一作ごとに熱狂的なファンを増やしている。04年ヴェネチア映画祭コンペ部門に出品されたのを皮切りに世界中の映画祭においてもっとも衝撃的な作品として話題を集めた待望の新作『おわらない物語-アビバの場合-』は、ガス・ヴァン・サントやギャスパー・ノエをして「きみのベスト作品だ!」と言わしめた。各国でも続々と公開が決定しており、アメリカ、フランス、イギリス、日本はほど同時公開となる模様である。一見普通の人々の意外なダークサイドを、鋭い観察力と辛らつなユーモアで描いた過去の作品同様、本作でも舞台をニュージャージー郊外におき、そこに住む社会的タブーを連打する。小児性愛、若年層の性交渉、中絶…とりわけ中絶問題は昨秋の米国大統領選においてもプロチョイスVSプロライフとして最も議論が白熱した論争のひとつである。「ハリウッドはこのような衝撃的なテーマに近寄りたがらないので、資金調達が大変だった」とソロンズ監督は語る。
<アビバとドーン(『ウェルカム・ドールハウス』)>
物語はソロンズが96年に発表した『ウェルカム・ドールハウス』の主人公、したたかないじめられっ子ドーン・ウィーナーの葬式というなんとも皮肉で衝撃的なシーンで幕開けする。本作の主人公はドーンの従妹にあたるアビバだが、映画の冒頭でドーンを葬り去ることにより『ウェルカム・ドールハウス』との関連性を断ち切り新たな少女の物語を語り始める。従姉の死を前に押さないアビバが「私は決してドーンのようにはならない。絶対に幸せになる。」と固く心に誓うところからアビバのおわらない物語が始まるのだ。
葬式で弔辞を読むのはドーンの兄マーク・ウィーナー。マシュー・フェイバーが『ウェルカム・ドールハウス』と同じ役を演じているのも興味深い。
<8人のアビバ>
12歳の少女アビバを演じるのは、肌の色や年齢、そして性別さえも異なる8人の役者たち—ジェニファー・ジェイソン・リーを含む二人の成人女性、13歳から14歳の4人の少女、そして12歳の少年と6歳の少女である。ちなみに子供たちはみな本作が映画初出演である。シチュエーションごとにアビバ役は唐突に入れ替わりそれぞれが心を打つシーンを受け持っているが、それでも「アビバはアビバ」なのである。ソロンズいわく、「ある人物に対してどのくらい共感できるかに関して、その人物の性別や年齢、人種というものは関係がない。人々が外見によってもつイメージを崩したかった。そのためにアビバの外見にはできるだけバリエーションをもたらすようにした。サイズや見た目が変わろうとも、アビバの中身は同じ性質を持ち続けるのだ。」
<愛を探して-アビバの場合->
12歳の少女アビバは、母親になって子供に絶対的な愛を与えたいと熱望していた。両親の友人の息子を相手になんとか実現にこぎつけるが、娘の妊娠に大きなショックを受けた母親は、彼女にむりやり中絶手術を受けさせる。それでも夢をあきらめきれないアビバは家を出る。そしてたどり着いたのは、アビバが今まで出会ったこともないような障害者の子供たちが仲良く暮らす家、サンシャイン・ホーム。そこはまるで楽園のよう。あらゆる欠陥もハンディキャップも大いなる宗教的な喜びとともに受け容れ、歌い踊る障害を持った子供たち。彼らのファンキーなゴスペルバンドが提供する奇妙なアミューズメントは「普通の子供が歌ったり踊ったりしても決まり悪い思いはしないのに、なぜ逆は気まずいのか?」というソロンズ一流の問題提起といえるであろう。
アビバの家族は中絶の権利を主張する一方、娘の意見は尊重しない。サンシャイン・ホームは中絶反対派だが殺人を企てる。ある形で命を奪う家族と、別の形で命を奪う他の家族との狭間でアビバは宙ぶらりんになっているのだ。ソロンズは語る「誰が悪人か善人かなんてことはどうでもいい。この映画は基本的には母になり、子供に絶対的な愛を与えたいを願う女の子アビバの冒険物語で、究極的には愛についての物語である。僕の作品がすべてそうであるように、報われない愛、禁断の愛、自己愛を描いた物語だ。愛のない物語など、語るに値しないのだから。」
<おわらない物語-回文->
原題の“palindromes”とは「回文」という意味である。「しんぶんし」「たいやきやいた」のように、上から読んでも下から読んでも同じ言葉、つまり本作は結末に向かって進むのではなく回文のように出発点に戻る“おわらない物語”なのである。劇中に登場するAVIVA、BOB、OTTOなどの名前も回文である。ソロンズはこの“言葉遊び”によって、どこから見ようと「その中身は変わらない」ことを示している。円を完成させるように物語の終盤で、アビバは家に戻ってくる。火傷しかねない問題を次々とつきつけながら、本作は軽やかで、さながらおとぎ話である。アビバは「不思議の国のアリス」のアリスのように、冒険の旅にでてふたつの世界を行き来する。そして「オズの魔法使い」の終盤で、ドロシー、カカシ、ブリキマン、そして臆病なライオンが、それまで自分たちにかけていると思っていたものを、実は自分たちがもともと持っていたのだ、自分たちがまったく変わっていないのだということを知ったように、不器用に愛を求めるアビバも家に帰って自分は何も変わっていないことに気がつく。賢い者はいつまでも賢くあるし、思いやりのある者はいつまでも思いやりを持っている。勇敢な者はいつまでも勇敢で、故郷は故郷であり続ける。つまるところ、物事はいつまでに変わらず、回文のように、世界は今までも、そしてこれからも、変わらないまま反転してゆく。
自分は自分でしかありえないというソロンズ定理は一見運命論的な悲観主義にも聞こえるが、独特の繊細でかつおどけた悲観主義は「変われない、すなわち変わることを強要する力からの解放」という意味においては極めて楽観的な世界観であり、本作は悲観と楽観が回文するソロンズ世界そのものといえるであろう。
<ソロンズを囲む豪華キャスト&スタッフ!>
アビバの母親を演じるのはジム・ジャームッシュやスパイク・リーなどインディペンデント作品からメジャー作品まで幅広く出演をこなすエレン・バーキン。ソロンズは最初からエレンをイメージしていた。快諾した得れんは撮影後ソロンズを「今まで出会った中で最高の監督」と絶賛している。他に数々の受賞歴があるジェニファー・ジェイソン・リーなど個性的なキャストが顔をそろえる。音楽は『ストーリーテリング』に引き続きネイサン・ラーソンが手がけ、彼の妻であるカーディガンズのヴォーカリスト、ニーナ・パーションがテーマ曲を歌っている。
ストーリー
“ドーン”
物語は自殺を遂げたアビバの従姉、ドーン・ウィーナーの葬儀のシーンから始まる。『ウェルカム・ドールハウス』の主人公、したたかないじめられっ子であったドーンはレイプされ、自分の分身がこの世に生まれてくることに耐え切れず自ら命を断ったのだった。まだ幼いアビバは母親を見上げて、自分は自殺した従姉のようにはならずに、絶対に幸せになって子供を産んで母親になることを固く心に誓う。
“ジュダ”
数年後、アビバは12歳。一人娘として何不自由なく育てられていた。ある日、両親の友人宅に家族で遊びに行き、その家の発育盛りの息子ジュダに、母親になる夢を語る。すかさず彼はアビバの上に乗っかって、セックスをするのだった。
“ヘンリー”
父と母はアビバが妊娠していることを知って大きなショックを受ける。頑として子供を産みたいと主張するアビバに母は「お腹の中の子供は、まだオデキのようなもの。ママも昔ヘンリーと名づけた男の子を宿したけれど、色々な事情があって中絶を選び、後悔はしていない」と説得する。むりやり病院に連れて行かれたアビバの中絶は失敗し、二度と子供の産めない身体になるのだった…。そのことはアビバには知らされず「万事うまくいった」と話す母。
“ヘンリエッタ”
中絶した赤ちゃんが女の子だったことを聞かされ、アビバは心の中で“ヘンリエッタ”と名づける。母になる夢をどうしてもあきらめられないアビバは家を出る。行きずりでジョーと名乗るトラックの運転手と一夜をともにし、自分の名前はヘンリエッタと伝えるが、ほどなく捨てられてしまう。
“ハックルベリー”
あてどもなくひとりで川のほとりをさまよい歩くアビバ。まるでハックルベリー・フィンのようなアビバの冒険が始まった。
スタッフ
監督・脚本:トッド・ソロンズ
プロデューサー:マイク・S・ライアン、デリック・ツェン
撮影:トム・リッチモンド
プロダクション・デザイナー:デイヴ・ドーンバーグ
衣裳:ヴィクトリア・ファレル
キャスティング:アン・グールダー
編集:モーリー・ゴールドスタイン、ケビン・メスマン
音楽:ネイサン・ラーソン
キャスト
マシュー・フェイバー
アンジェラ・ピエトロピント
ビル・ビュエル
エマニ・スレッジ
エレン・バーキン
バレリー・シュステロブ
リチャード・メイサー
ヒラリー・B・スミス
ダントン・ストーン
ロバート・アグリ
ハンナ・フリーマン
スティーヴン・シンガー
レイチェル・コア
スティーブン・アドリー・ギアギス
シャロン・ウィルキンズ
アレクサンダー・ブリッケル
アシュリー・ハーツッグ
リサ・ジャズ・リフキンド
ドンテ・ヒュイー
デブラ・モンク
ウォルター・ボビー
タイラー・メイナード
コートニー・ウォルコット
ジョシュア・エバー
クッシュ・カーパラニ
シドニー・マトサック
デビッド・カストロ
リチャード・ライル
シャイナ・レヴァイン
イブラヒム・ジャファー
ジェニファー・ジェイソン・リー
アンドレア・デモスセネス
ジョン・ジェムバーリング
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