ふたつの時、ふたりの時間
原題:Et la-bas,quelle heure est-il?
台北−パリ めぐり逢わない愛
2001年/台湾・フランス/カラー/35mm/116分/字幕:小坂史子 配給:ユーロスペース、サンセントシネマワークス
2003年01月25日よりDVD発売開始 2002年11月22日よりDVD発売開始 2002年2月23日よりユーロスペースにて公開
公開初日 2002/02/23
配給会社名 0131/0095
公開日メモ いったい死は、残された生ける者たちに何をもたらすのか……?『ふたつの時、ふたりの時間』は、このふたりの身の上に襲いかかった父の死から生まれてきたものだ。
解説
死は残された生ける者に何をもたらすのか
■蔡明亮は新作の着想を、いつも自身と常に彼の作品で主演を演じてきた李康生(リー・カンション)の周辺に発生した身近な出来事から得てきた。
1997年、『河』を完成し『Hole』の撮影に入る前日のこと。李康生の父親(『愛情萬歳』のラストの公園で、新聞を読む老人として登場していた)は、自身の手でその命を絶つ。1992年、蔡明亮も父を癌で亡くし、しばらくその死の影に怯えて生活した経験を持っていた。
いったい死は、残された生ける者たちに何をもたらすのか……?
『ふたつの時、ふたりの時間』は、このふたりの身の上に襲いかかった父の死から生まれてきたものだ。
台北、そしてパリへ
■初めて台湾を離れた場所に設定されたもう一つの舞台=パリ。フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』の引用。フランス・ヌーベルヴァーグの神童ジャン=ピエール・レオーと、『風の輝く朝に』『ロアン・リンユイ 阮玲玉』等で知られる香港ニューウェイブの女神・葉童(イップ・トン)の起用。そして『青い夢の女』『青いパパイアの香り』の撮影監督ブノア・ドゥロムと、『グリーン・デスティニー』でアカデミー賞最優秀美術賞に輝いた美術監督・葉錦添(イップ・カムティン)、中国語圏随一の録音・音響デザイナーとしてエドワード・ヤンや侯孝賢、スタンリー・クワンらの作品を担当してきた杜篤之(ドゥー・ドゥーツー)の蔡明亮組への加入……。そのどれもが、これまでの彼の仕事では考えられなかった冒険。そこには過去の成功に安住しない彼の、新たな挑戦への気概が充分すぎるほどにみなぎっている。
ふたりの主役を得た蔡明亮作品
■作中で死ぬ「父親」を演じているのは、『青春神話』『河』に続いて主人公シャオカンの父親役を演じる苗天(ミャオ・ティエン)。その死にショックを受け神がかり的な行動を見せはじめる妻も、いつものとおり陸?静(ルー・イーチン/旧名:陸筱琳)が演じている。ふたりの息子である主人公シャオカン役が、蔡明亮全作品で主演を務め、言わばトリュフォーにとってのジャン=ピエール・レオーに相当する存在の李康生によって演じられていることは言うまでもない。そしてそのシャオカンの腕時計を携えてパリに出かける女は、『エドワード・ヤンの恋愛時代』で瑞々しくも確かな演技力を開花させ、『河』ではシャオカンの旧友を演じていた陳湘?(チェン・シアンチー)である。『ふたつの時、ふたりの時間』は、蔡明亮映画に初めて関わる新しい血を彼ら蔡明亮組常連の旧い血が包容力豊かに受け止めてみせた作品とも見ることができるとともに、李康生と陳湘?というふたりの主役を得て、新しい地平に立った作品であるともいえるだろう。
ストーリー
■シャオカンは台北の路上で腕時計を売っている。ある時、まもなくパリに旅立つという女性シアンチーと偶然出会う。夫の急逝後、彼の魂を呼び戻そうと祈り続ける母親をどうすることも出来ず、シャオカンはシアンチーとのつかの間の記憶に逃げ込もうとする。遠く離れた彼女との間に橋をかけるように、台北中の時間をパリ時間に合わせるために走り回るシャオカン。その頃パリでは、シアンチーがシャオカンとの繋がりを思わせる不思議な出来事に遭遇していた…。
台北の時間を壊そうと奔走する男。異邦人としての孤独を映し出すように生きる女。一度逢ったきりで、二度とめぐり逢うことのないふたりの男女。時間だけがふたりを結びつけ、やがてそれは交わることのない愛へと変異していく。ふたつの都市をつなぐ儚く脆い時間。それのみが愛のちからを得て、地表をめぐっていく……。
底なしの「ひとりの時間」を経て……
■『青春神話』『愛情萬歳』『河』そして『Hole』と、一作ごとに自己の作品世界を研ぎ澄まし、深化させてきた蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)。そこで描かれてきたのは、物質文明の成れの果てとしての荒涼とした都市の寂寞であり、そこに生きる人間たちの希薄な関係性であり、またそれでもなお一人ひとりの肉体がその内側にどうしようもなく抱える、自らの力では律しきれないマグマめいた何ものか(それは時に苦痛であり、時に肉欲でもあった)だった。蔡明亮映画の主人公たちは、まるで広大な暗闇の中で通信手段を奪われたまま離れ離れに放置された人物たちのように、ただただ底無しの「ひとりの時間」が広がる場所で生きていく。
ただ、これまでの作品と『ふたつの時、ふたりの時間』が異なるのは、パリのひとりの時間と台北のひとりの時間が、ばらばらのまま絶望の深淵に放り出されるのではなく、両者の手を結び合わせようとする何か優しげで柔らかな気配が微かに響きわたっていることだろう。
その気配をもたらすのは、ひとりの人物の死だ。
スタッフ
監督・脚本:ツァイ・ミンリャン
共同脚本:ヤン・ピーイン
撮影監督:ブノワ・ドゥロム
美術監督:ティン・イップ
録音・音響デザイナー:ドゥー・ドゥーツー
編集:チェン・シェンチャン
キャスト
リー・カンション
チェン・シアンチー
ルー・イーチン
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