ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ
原題:HILARY AND JACKIE
妹はチェロの天才だった。でも人生の天才ではなかったのです。
1999年アカデミー賞〔最優秀主演女優賞〕エミリー・ワトソン ノミネート 1999年アカデミー賞〔最優秀助演女優賞〕レイチェル・グリフィス ノミネート
1998年/イギリス/121分/カラー/スコープ・サイズ/ドルビーSRD ブリティッシュ スクリーン アンド ザ アート カウンシル オブ イングランド プレゼンツ/ オックスフォード フイルム カンパニー プロダクション/ 制作:インターメディア フイルムズ アンド フィルムフォー 提供:日本ヘラルド映画/テレビ東京 配給:日本ヘラルド映画 オリジナル・サウンドトラック:ソニー・クラシカル
2000年3月4日より 日比谷みゆき座ほか全国東宝洋画系劇場にてロードショー! 2000年7月7日よりDVD発売、ビデオレンタル開始
公開初日 2000/03/04
配給会社名 0058
解説
天才とは神が家族に与えた重荷だったといえるかもしれない。
そして、その天才が女性だったら————
変わった人間になるより普通の人間になる方がやさしいと思うなら、それは間違っている。家族の中に天才がいたら、その一家は彼を中心に廻り、彼の才能を延ばす為の日々を送ることになる。天才とは神が与えた重荷であったといえるかもしれない。そして、その天才が女性だったら…。彼女の才能の前に繰り広げられた華やかな世界と対照的に、女性としてのあまりにも傷つきやすく不器用な人生を知っているのは、“天才の家族”として幼いころから彼女のそばにいた姉だけだった。イギリス音楽界最高のチェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレ。彼女の死後12年が経った今でもエルガーの協奏曲の演奏では彼女を越える者はいないと称えられ、28歳の頂点の時に不治の病にかかり、ステージを降りた伝説の女性である。
彼女はその数奇な人生が故に神聖化されてきたが、ジャクリーヌの私生活を彼女の姉が執筆した著書を映画化した本作は、赤裸々な私生活の描写に対して、公開前に欧米では抗議のストが起きたほどだった。しかし、本作で描かれるのは、幼い頃から天才と呼ばれ才能を開花して頂点を極めた力強さとそれとは対照的な彼女の内面の救いようのない傷つきやすさ、そして、平凡な生活を選んだ姉の羨望と嫉妬に揺れる妹の姿である。その姿は、大きな感動を世界に巻き起こし、本年度アカデミー賞主演女優賞、助演女優賞ノミネートをはじめ数々の賞に輝き、大ヒットした。
音楽好きの母に育てられた優等生の姉ヒラリーと、おてんばで気の強いジャクリーヌ。二人が幼少の頃、二人そろってはじめてパーリーの音楽コンクールに出場。
ヒラリーはフルートで優勝し暖かい拍手を送られた。しかしジャクリーヌが賞を取ると、観客の拍手はわれんばかりの熱狂的なものに変わり、ヒラリーは何が起こっているのかわからなくなった。彼女はそこから逃げ出し、身を隠したが、誰も彼女がいないのに気づかなかった。始めて味わう姉妹の間のライバル意識。彼女は妹を愛している。でも、この瞬間からすべてが変わっていき、姉は混乱し、小さな存在になってしまう。仲のよかった姉妹はこうして少しずつ異なる人生を送り始める。妹の才能の前には、姉は音楽家になることを諦め、平凡な人生を歩むしかなかった。しかし、妹のジャクリーヌにとっては姉が得た平凡な女の幸せこそ、手にしたかったものだった。
やがて22歳で天才ピアニスト、ダニエル・バレンボイムと結婚したジャクリーヌは結婚生活と演奏生活の両立に心身ともに疲労、混乱し遂に姉の夫とのセックスを要求する。ジャクリーヌにとって大人になっても姉は憧れの人で、姉の持っているものはすべて自分のものにしたかったのだ。それから再び演奏活動に復帰したジャクリーヌの演奏はさらに輝きを増し、世界中を魅了。まさに名実ともに自らの地位を確立したと思えた時、突然、極度のストレスが原因といわれる難病、多発性硬化症にかかり、ステージを下りなければならなくなってしまう。ジャクリーヌは28歳。それから14年間の闘病生活。そして、最後の日、見舞いに来たヒラリーに抱かれて少女時代のことを思い出したジャクリーヌは大好きな姉につぶやいた。「子供の頃にいったでしょ。私のことは心配しないでって」。
本作の製作はジャクリーヌ・デュ・プレを演じる女性を探し出すことから、難題が課せられた。テクニック的な問題を克服すること——チェロをマスターし、多発性硬化症の兆候を表現すること——はそれだけで大変なことだが、この役はそれに加えて、ジャクリーヌの人生42年間にわたるさまざまな感情を表現する必要がある役である。1996年『奇跡の海』でゴールデン・グローブ賞にノミネートされたエミリー・ワトソンに大役が決まったのは当然のことだった。今度は幼いジャクリーヌを演じる俳優探しが始まった。何百人もの幼いチェリストがイギリス中で撮影され、キャスティングの公開審査が行われた。そして演技の経験はないが、目に野生味があり、ジャクリーヌの魂を映し出したような11歳のオーリオル・エヴァンスが選ばれた。『ミュリエルの結婚』『マイ・スウィート・シェフィールド』の名女優、レイチェル・グリフィスがヒラリー・デュ・プレを、『エリザベス』のジェイムズ・フレインがダニエル・バレンボイムを演じた。
監督はドキュメンタリーで数々の賞を受賞し、本作で長編デビューを飾ったアナンド・タッカー、脚本は『ウェルカム・トゥ・サラエボ』のフランク・コトレル・ボイス、撮影監督には『オセロ』のデビッド・ジョンソン、編集は『マイ・フレンド・メモリー』、『ファニー・ボーン』のマーティン・ウォルシュ、衣裳デザインが『オルランド』と『鳩の翼』でアカデミー賞ノミネートのサンディ・パウエル。映画の中でチェロを演奏するはキャロリン・デイル。彼女は幼い頃、ジャクリーヌの演奏を聞いてチェロを始め、現在、ロンドン・フィル・ハーモニック、ロイヤル・リヴァプール・フィル・ハーモニック他で活躍するチェリストである。
コンサート・シーンではイングリッシュ・ノーザン・フィル・ハーモニック・オーケストラの300人の演奏家が集められ、生前のジャクリーヌと共に演奏した経験がある彼らは、“ジャッキーそのものだ”とエミリー・ワトソン演じる姿に涙した。実際のジャクリーヌ・デュ・プレが演奏したエルガーの協奏曲は本作のピークを迎えたコンサートのシーンと、病気になったジャクリーヌがレコードを聞くシーンで使用され、ジャクリーヌの人生と重なるような激しい音色には誰もが圧倒されるだろう。そして、生前彼女が愛用した名器、ダビドフ・ストラデイバリウスは、今、ヨーヨー・マの手にある。
ストーリー
幼い姉妹、ヒラリーとジャクリーヌは遊ぶ時も寝る時もいつも一緒。クリスマスの朝、二人が目を覚ますと音楽好きな母アイリスが作った美しい挿し絵入りの新しい楽譜がベッドサイドにおかれてあった。彼女たちはベッドから飛び出すと、フルートとチェロをつかんで、二人だけの特別な音楽の世界に飛び込んだ。
優等生の姉、ヒラリーはフルート演奏でいつも優勝し、母アイリスにとっては自慢の娘だった。そして、BBCから彼女に演奏依頼の話が来た時、妹のジャクリーヌは自分も連れていって欲しいと言い出す。しかしいざついて行くと演奏の邪魔をして録音をめちゃくちゃにしてしまう。勝ち気なジャクリーヌはそれから一日もチェロの練習を欠かさず、めきめき上達していき、やがて街の音楽コンクールで二人揃って優勝していく。
パーリーの音楽コンクールで、ヒラリーはいつものように賞を受賞し暖かい拍手を受ける。その直後彼女は、今まで経験したことのない熱狂的な拍手を聞く。その拍手は最後に出場した9歳のジャクリーヌへの賞賛であった。ヒラリーは本物の拍手に驚くのだが、ジャクリーヌはいつかこうなるとわかっていたかのように、当然のことと受け止めていた。ヒラリーはその時はじめて、妹への嫉妬に当惑し、不安になって、その場から逃げ出してしまう。
母アイリスはこの日からジャクリーヌの才能に気づき、彼女の才能を伸ばす為に、一流のチェリスト、プリーズの元へジャクリーヌを通わせることを決意する。そうして、一家は彼女の為に廻り始めるようになり、音楽が好きな姉のヒラリーでさえもジャクリーヌの脇役にならざるを得なかった。プリーズの指導の下、ジャクリーヌは自分の才能を磨く為に学校生活も家庭も犠牲にして、夢中でチェロのレッスンに明け暮れてく生活を歩み始める。
1965年、ロイヤル・フェスティバルホールでのプロ・デビューも大成功に終り、ジャクリーヌの、プロとしてのキャリアが華々しくスタートする。彼女の才能が広く認められたことを我がことのように喜ぶプリーズは、匿名のパトロンから彼女にダビドフ・ストラディバリウスというチェロの名器を贈られたことを話す。このことは彼女が今や世界屈指のチェリストとして認められたことを物語っていた。
〈ヒラリーの巻〉
ヒラリーはジャクリーヌの最初の外国公演に同行するが、ヒラリーの目からみると、ジャクリーヌは急によそよそしくなり、気むずかしくなっていった。ワールド・ツアー最後の数ヶ月間、彼女から贈られてくるのは汗の染み付いた洗濯物だけになり、家族とのつながりは途絶えがちになっていく。ヒラリーは国立音楽大学に通うが自分の才能に自信を失い、フルートの試験にさえ落ちてしまう。楽器を上手に演奏する自分と、生まれながらの天才であるジャクリーヌとは生きていく道が違うことを痛切に感じる。そして、同じ大学に通う若い指揮者のキーファと結婚する決心をするのだった。ジャクリーヌにそのことを告げると、結婚なんて意味が無いと姉を馬鹿にするが、ヒラリーに対抗するかのように、その直後、国際的ピアニスト、ダニエル・バレンボイムとのイスラエルでのユダヤ教による結婚式を行う。その模様は全世界のテレビで天才同士の結婚と話題になるニュースとなった。ジャクリーヌとダニエルはそれから精力的に世界中でコンサートにまわり、平凡な家庭夫人となったヒラリーは次第に妹との連絡を絶たざるを得なくなる。
ある日、何の前触れもなく、ジャクリーヌが憂鬱な顔をして、田舎に住むヒラリートキーファの家にやってくる。夫と子供達一緒で満ち足りた人生をうらやみ、キーファとセックスをしたいと言い出すが、ジャクリーヌの心身ともに大きな異変を感じたヒラリーはあり得るはずのないことを求める妹の願いを簡単に拒否することはできなかった。心配したヒラリー夫妻は、ダニエルを自宅に呼びよせ、夫婦仲を取り持とうとするが、彼が来てもジャクリーヌの不幸が確かになるだけだった。意を決したヒラリーは、夫に妹の為に寝てほしいと頼むのだった。そしてジャクリーヌはようやく自分の居場所を見つけたかのように落ち着きを取り戻し、平和な日々を得ることができる。しかし、妻の妹と寝る生活に苦しむキーファと夫婦喧嘩をたび重ねるようになった様子をみたジャクリーヌは黙って家を出て行く…。
〈ジャクリーヌの巻〉
コンサートでの成功の後、ジャクリーヌには次々と海外でのコンサートが待ち受け、いつもホテルからホテルへと移動する生活が続くようになる。ホテルでは電話がこわれていたり、服を洗うこともできず、電話が壊れていても外国語で苦情も通じない。家族もそばにいないなか、チェロだけがたった一人の友達だった。そんな孤独な日々を過ごす頃、彼女はパーティでダニエル・バレンボイムに出合う。チェロを取り、それを通して彼に語りかける。ほかに意志を通じさせる手段がないので、二人は何時間も何時間も一緒に即興演奏をする。初めて心の通う人ダニエルと出会い、彼女は自分に幸福をもたらしたチェロに感謝するのだった。
ダニエルはいつも忙しく精力的にコンサートをこなし、名声は高まる一方だった。
二人の仲は国際的な話題となり、おとぎ話のような才能ある音楽家カップルとなる。彼らは音楽ファンの熱狂的な賞賛に応えて、たえまなく世界を公演するが、ジャクリーヌはつむじ風のようなダニエルとの生活疲れ果て、演奏中に弦を落としたり小さな失敗が始まる。彼女はいつも疲れを感じていて、自分が精神障害になるのではないかと恐れ、遂には姉夫婦の元へ逃げ込み、心身ともに疲れたジャクリーヌはキーファとのセックスを求め、平凡な家族の一員となり、ようやく平和な時を得るのだった。
その後、演奏活動を再開するが、兆候は以前よりもひどくなり、指の感覚を失い、音が聞こえなくなり、演奏会で失敗する。医者から多発性硬化症と診断され、それを聞いたジャクリーヌのもとへヒラリーは駆けつけるが、彼女は、自分を取り囲むマーゴット・フォンティーン等の有名人達が見舞いに来てくれるから大丈夫だと対応し、さらに両親や兄弟が今までに自分につらくあたったと言って責め、それが病気の原因にもなったとほのめかす。
1975年、ダニエルはオーケストラ・ドゥ・パリの主席指揮者に指名され、パリで暮らすようになる。やがて、彼がパリから週末に帰れないと電話がかかる。ジャクリーヌは受話器の先に聞こえる赤ん坊の泣き声を耳にし、夫がフランスで別の生活をしていることを知る。
それからの長い闘病生活の間、ジャクリーヌは自分の世界にひきこもり、現役時代のレコードを聞いたりするしかなかった。死期が近づいた1987年の巨大ハリケーンのさなかに、ヒラリーは彼女に会いにくる。うるさい名士や取り巻きを押しのけ、ヒラリーは驚くほど長い間会っていなかった妹に対面する。彼女はジャクリーヌを胸に抱き、子供時代の話を彼女にする。二人だけの特別な世界をイメージしながら浜辺で遊んでいた時、幼いジャクリーヌに見知らぬ女性が話しかけた。
「何も心配しないでいいのよ。」驚いたジャクリーヌが泣き出しそうになって、ヒラリーが抱きしめたこと。1987年10月19日、ジャクリーヌ享年42歳。悲報は全世界に報じられ、世界中のファンが彼女の死を哀しんだ。
スタッフ
製作総指揮:ガイ・イースト、ナイジェル・シンクレア、ルース・ジャクソン
製作:ニコラス・ケント、アンドリュー・ペーターソン
監督:アナンド・タッカー
撮影:デビッド・ジョンソン
脚本:フランク・コトレル・ボイス
編集:マーティン・ウォルシュ
美術:アリス・ノーミントン
音楽:バリントン・フェロング
キャスティング:シモーヌ・アイルランド、ヴァネッサ・ペレイラ
録音技術:デビッド・クローガー
衣装:サンディ・パウエル
原作:ヒラリー・デュプレ&ピエール・デュプレ共著
『風のジャクリーヌ』ショパン社刊
キャスト
ジャクリーヌ・デュ・プレ:エミリー・ワトソン
ヒラリー・デュ・プレ:レイチェル・グリフィス
ダニエル・バレンボイム:ジェイムズ・フレイン
キーファ・ファインジ:デビッド・モリシー
デレク・デュ・プレ:チャールズ・ダンス
アイリス・デュ・プレ:セリア・イムリー
ピエール・デュ・プレ:ルペルト・ベニー・ジョーンズ
ウィリアム・フリーズ:ビル・ペーターソン
ヤング・ジャクリーヌ:オーリオル・エヴァンス
ヤング・ヒラリー:キーリー・フランダース
ダイム・マーゴット・フォンテーン:ニール・ボーン・ポーター
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