原題:AFFLICTION

これはわたしの兄の奇妙な犯罪行為と失腺の物語である……

☆みちのく国際ミステリー映画祭'99出品作品::http://www.lantecweb.com/mystery/index.html ☆98年度アカデミー賞 最優秀助演男優賞(ジェームズ・コバーン)受賞 ☆98年度アカデミー賞 最優秀主演男優賞(ニック・ノルディ)ノミネート ☆98年度ゴールデングローブ賞・主演男優賞ノミネート ☆98年度ニューヨーク映画批評家協会賞・最優秀主演男優賞受賞 ☆98年度ロサンゼルス映画批評家協会賞・主演男優賞部門次点

1997年アメリカ/カラー/ヴィスタサイズ/ドルビーステレオ/114分 日本語字幕:林完治/配給:東北新社

2000年11月24日よりビデオ・DVD 同時発売/レンタル開始! 2000年6月24日よりシネマカリテにて公開!

公開初日 1999/06/24

配給会社名 0051

解説

人生の大いなる謎は苦労ではなく苦悩である シモーヌ・ヴェーユ(「神の愛と苦悩」)

 ポール・シュレイダーがラッセル・バンクスの「狩猟期」を映画化すると聞いたポール・オースターは「二人で行う芸術活動は神の存在の証明となろう」と賛辞を贈った。英文にして500ぺ一ジにも及ぶバンクスの長編小説の重厚さ、奥深さを削ぐことなく、シュレイダーが書き上げたその脚本は、原作者バンクスをして「不思議な感覚だった。自分が見ている夢の中へ入っていくようで、実は他人の夢だったという感じだ」と謂わしめたほどである。雪に閉ざされた過疎の町を舞台に、鹿狩りの最中に起きた事故死の捜査と平行して父と息子の対立、暴力による支配といった社会問題から現代アメリカの暗部をえぐり出すこの作品は、監督として、また「タクシードライバー」はじめ数々の傑作を書いた脚本家として、シュレイダーがこれまで追求してきた主題を描き出す。原作に惚れ込んだ彼は、情念に駆られる男を演じることに比類なき才能を発揮するニック・ノルディを主人公ウェイト役に据え、その父にジェームズ・コバーン、そして物語の語り部でもある弟にウィレム・デフォーを起用。さらに撮影監督に、アトム・エゴヤンとのコラボレーションで知られバンクス原作の「スウィート・ヒアアフター」でも撮影を担当しているポール・サロシーを擁し、万全の体制で映画化に挑んだ。
 そして、人間の性に根ざした深遠なるテーマを辛辣なリアリズムと目も眩む雪景色の中に描いた本作は、重厚な作風ながら、98年度アカデミー賞においてノルディ、コパーンがそれぞれ主演、助演男優賞にノミネートされ、本作で真骨頂を拓いたコパーンが助演男優賞に輝くという快挙を成し遂げた。

 雪深い寂びれた町に住む警官ウェイト・ホワイト八ウス。彼にとって人生は辛いものだった。子供の頃はアル中の父の暴力に伝え、妻とは離婚して、現在は壊れたトレーラーハウスに住む。一方、一人娘を連れて町を出た彼女は裕福な男と再婚している。町を去るチャンスがあった者はとっくに出て行き、大学教授である弟ロルフもその一人だった。警官といっても重要な役目は学校の横断歩道での交通整理で、地元の名士から小遣い稼ぎの雑用を請け負うウェイトは、孤独を癒すために酒を飲んだり、恋人のマージと過ごしている。ある日、州の組合幹部が狩りの最中に事故死する。しかし、その背後に陰謀があると疑った彼は独自に調査を開始する。ウェイトにとって、この事件の解決はこれまでの人生を取り戻す契機になるはずだったが、父と同じ足跡を迫ることに怯え運命を変えようともがけばもがくほど、彼は破滅に向かってひた走っていることを知る…。

 物語は主人公の弟ロルフの語りで進められてゆく。兄と同じ血、父による暴力の記憶をもつ彼にとって兄の身に起きた事件を語ることは、自分と兄を苦しめている強迫観念から逃れる”厄払い”の意味をもつ。原作の冒頭でフランスの女流思想家シモーヌ・ヴェーユの言葉を引用し、バンクスが人間に課せられた大いなる謎と定義するウェイトの苦悩こそ、この映画のもうひとつの主題である。アメリカきってのストーリーテラーであるシュレイダーは前半、組合幹部の事故死へのウェイトの強い疑問を描写し観るものを映画に引き込むが、次第に我々はこの事件を契機に運命の呪縛から逃れ、人生を好転させようともがくウェイトの苦悩に圧倒されてゆく。その苦悩によってかえって破滅に近づいて行く皮肉な展開からこの作品はしばしばギリシア悲劇の「オイディプス王」に甘ぞらえて評されるが、苛立ちから酒量の増えるウエイトの姿が次第に彼の畏れていた父グレンと重なってゆくところは、彼もまた体内に脈打つ血の記憶、そこに刻まれた「暴力の刻印」に抗えなかったという人間の性に根ざした悲劇性を象徴し、やるせない。
 しかもウェイトが望んだ人生の好転とは、暖かな家庭を築くというささやかなものである。しかし、そんな家庭環境とは無縁だった彼にとってそれは思いのほか難しく、その苛立ちは彼の酒量、果ては暴力という形になって不幸心悪循環を招いてしまう。家庭内の暴力はアメリカだけでなく、日本でも最近になって急速に表面化し、社会問題となりつつあるが、映画はさらにその奥深くにある暴力の悪循環という辛い真実を突きつける。それは、これまでも社会の暗部を描き、人間真理を鋭くえぐり出す洞察カを評価されてきたシュレイダーだからこそ取り組めた難しい主題と言える。

ギリシア悲劇「オイディプス王」
 「父を殺し、母を娶る」という予言を受けたオイディプスは運命を畏れ、父母の国コリントスを離れて旅に出る。途中スフィンクスの謎を解いてデバイを救った彼は、死んだ前王に代わりデバイの王となり、その妻を妃とする。疫病によって再びデバイは危機に瀕しオイディプスは神託を求める。国に潜む前王殺しの犯人が元凶と知った彼は犯人探しの御触れを出すのだが、次第に明らかになるのは自らの出生の秘密、そして王の死に関する事実…。彼が暴いた真実とは、父と知らず父を殺し、母と知らず母を撃った自らの運命であった。皮肉な運命に打ちひしがれたオイディプスは自ら両目をつぶし、国を追放される身となる。

ストーリー

兄ウェイト・ホワイトハウス(ニック・ノルティ)はローフォードという小さな、経済的にも寂びれた町で暮らしていた。冬になれば雪に閉ざされてしまう歴史もなければ未来も見えてこないような町だ。彼にとって人生は辛いものだった。暴力的で酒浸りの父グレン(ジェームズ・コパーン)のおかげで私も兄も子供の頃の生活は地獄のようだった。高校時代に知り合ったリリアン(メアリー・ベス・八一ト)と兄の2度に渡る結婚生活は既に終わりを告げてむり、壊れかけたトレーラー・ハウスに住む兄とは対照的に、彼女は娘のジル(ブリジット・ディエルニー)を連れて町を出て行き、彼よりずっと裕福な男と再婚してし
まった。おかげで兄は娘にもめったに会えない始末である。ローフォードを後にするチャンスがあった者はみな町を離れていった。今では部会で大学教授をしている弟の私(ウィレム・デフォー)も高校を卒業すると、二度と戻らないと告げ、家と町から逃れた。町で唯一の警官とはいっても兄の最も重要な役目は学校の横断歩道での交通整理ぐらいなもので、小遣い稼ぎのために地元の有力者ゴードン・ラリビエール(ホルムズ・オズボーン)の雑用を請け負っている彼は孤独を癒すために行き付けの店で酒を飲んだり、ウェイトレスをしている気立てのいいガールフレンド、マージ・フォッグ(シシー・スペイシク)と過ごしていた。そして深夜度々私に長い電話をかけてきた。

 その年のハロウィーンで、兄は娘のジルにひどく惨めな思いをさせられる。週末を彼と過こすために泊まりで来ているのに家に帰りたいと言い出したのである。それもラリビエールがハロウィーンのために催したパーティでだ。ジルが目分よりも母親と裕福な義理の父親をよく思っているのは明らかで、兄にはそれが気に入らない。彼は親権を取る決心をする。ハロウィーンが過ぎると、町は鹿狩り目当ての観光客で一時的に活気づく。ラリビエールの命で、今年は兄の友人ジャック・ヒューイット(ジム・トゥルー)が州の組合幹部エバン・トワンプレー(ショーン・マッキャン)の狩りの案内をすることになっていた。プロ野球選手として将来を嘱望されていたのに腕を痛めてあきらめた若いジャックは、この町で何とか有意義な人生を見出そうとしていた。

 その冬はじめての吹雪の中、兄は学校の前で交通整理にあたっていた。そこでトワンプレーの義理の息子メル・ゴードン(スティーヴ・アダムス)が兄を無視してスピード違反を犯す。ゴードンの違反を取り締まろうと兄は家に押しかけるが、トワンプレーが狩りの最中に自分の弾に当たって亡くなり、それどころではなくなってしまう。兄の心には疑惑が湧いていた。トワンプレーに同行したジャックが事故を目撃していない、死体にも触っていないと証言したのである。彼の袖には血が付いていたのにだ。夜、いつものように電話をしてきた兄は自分の推理を話す。ラリビエールがトワンプレーの義理の息子ゴードンと共謀してジャックを雇いトワンプレーを殺したのではないか。一帯の土地を買収しスキー・リゾートを建設しようという秘密を隠すために。私は彼の話に賛同した。ほどなくして兄は独自に調査を開始した。実をいうと、彼は時を同じくしてマージにプロポーズもしていた。しっかりした家庭をもてば、もっとジルに会えるようになるだろうという考えがその背後にはあったのだろう。兄はマージを紹介しようと両親を訪れたが、そこで彼を待っていたのは父が起こしたボイラーの事故による母の死であった。家族の不幸の時には帰るという唯一の例外によって、私はかつて捨てたローフォードの地に再び足を踏み入れた。母の葬儀には信心深い妹夫妻とその子供達、そしてリリアンとジルも同席した。アル中の父はそんな時でも飲んだくれて悪態をついている。ところが、意外にも年老いた父に責任を感じた兄は、葬儀を終えるとマージを説得し父の農場へ移ったのだった。それは破滅への序曲であった。

 兄は親権取得のために弁護士を探していた。以前から悩まされていた歯の痛みは急にひどくなっている。ゴードンやラリビエール、ジャックに対する執拗な捜査のせいで兄は職を失った。酒量の増える兄と父グレンに疲れたマージは農場から出て行こうとしていた。兄はそんなマージを引き止めようとし、止めに入ったジルを殴ってしまう。結局、マージはジルを連れて農場を後にした。この最悪の出来事、急速な運命の暗転はなぜなのか?追い込まれた兄は自分の運命も自分自身もどうすることもできないでいた。そんな兄にとって父の「お前も俺と同じだ」という言葉は辛かった。兄と父は口論になり、遂に取り返しのつかない事が起こってしまう。もはや兄の絶望感は頂点に達していた。そしてそれは予想外の形で暴発するのだった…。

スタッフ

監督・脚本:ポール・シュレイダー
原作:ラッセル・バンクス
製作:リンダ・レイズマン、エリック・バーグ
撮影:ポール・サロシー
編集:ジェイ・ラビノウィッツ
製作デザイン:アン・プリチャード
音楽:マイケル・ブルック

キャスト

ウェイド・ホワイトハウス:ニック・ノルティ
グレン・ホワイトハウス(ウェイドの父):ジェームズ・コバーン
ロルフ・ホワイト八ウス(ウェイドの弟):ウィレム・デフォー
マージ・フォッグ:シシー・スペイセク
リリアン:メアリー・ベス・ハート
ジル:ブリジット・ティエルニー
ジャック・ヒューイット:ジム・ドゥルー
ゴードン・ラリビエール:ホルムズ・オズボーン
エバン・トワンプレー:ショーン・マッキャン
メル・ゴードン:スティーヴ・アダムス

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