地中海映画祭2000 第13回東京国際映画祭 カネボウ女性映画週間出品作品 第47回カンヌ国際映画祭「カメラ・ドール」特別賞受賞 シカゴ映画祭 最優秀新人監督賞 トロント国際映画祭国際批評家賞受賞 サンフランシスコ国際映画祭サタジット・レイ賞受賞

1994年/チェニジア=フランス/カラー/ヴィスタサイズ/127分 配給:エスパースサロウ

2001年9月28日DVD発売&レンタル開始 2001年9月28日ビデオ発売&レンタル開始 2001年2月10日より中野武蔵野ホールにて公開

公開初日 2001/02/10

配給会社名 0087

公開日メモ この物語は、過去と向き合った「娘」の「母」に対する痛ましくも敢然とした決着の物語なのである。

解説


母の思い出
 母ケディージャは、王宮に仕える召使だった。来客があれば、歌を歌い、ベリーダンスを踊る。子を授からない皇太子シド・アリの夜伽をし、アリヤを生んだ。召使とはいえ王宮から出ることも許されない、奴隷同然の身の上。当時歌手・踊り子は娼婦と同じだった。主人の言いつけに従うだけの人生。愛する人の名を呼ぶことすら許されない。そんな境遇にあって、母ケデーィジャの支えは、娘アリヤと皇太子シド・アリへの密かな思いだった。だがシド・アリの弟に関係を迫られ、妊娠した母は悲劇的な結末を迎えることとなる。

娘の決意
 娘アリヤは、王宮から連れ出してくれた恋人ロトゥフィの子を宿している。だが、恋人は出産を望んではいない。それはアリヤが酒場で歌う歌手で召使の子だからかもしれない。鬱々と優れない日々。そんなとき、少女時代優しく接してくれて、もしかしたら父なのではないかと思ったこともある皇太子シド・アリの訃報に触れ、10年振りに王宮を訪ねる。母のこと、閉塞した幼い日の思い出。封印した過去が一気によみがえる。時をおいて振り返る母の人生。かつて、憐れみ蔑んだはずの母が、シド・アリへの愛を貫き、慈しんで自分を育ててくれたことに気がつくのだった。アリヤは愛する人の子を生み育てることを決意する。
「母」をめぐって
 アリヤは子を宿す身となって初めて、忌まわしい過去の思い出とともに封印した母ケディージャの人生を振り返る。かつて、その不憫な境遇に甘んじる姿が苛立ちを催させたケディジャの精一杯の愛情に気付き、ケディージャを認め、自らも「母」になる決意を固めた。
 「娘」は「母」に対し、同性として厳しいまなざしを向け、時には反発、侮蔑、否定さえする。しかし、「娘」は「母」に成ることに直面して初めて、「母」の本当の気持ちが解り始める。それは時代や状況を超えた「母」と「娘」の普遍的な関係である。「娘」が「母」に成るには自分の母との一時的な決着をみなければならないのかもしれない。
 この物語は、過去と向き合った「娘」の「母」に対する痛ましくも敢然とした決着の物語なのである。

ストーリー



 歌い女アリヤは毅然とした面持ちからおもむろに口を開く。歌うはいつもの恋い唄。宴の客は聞きもせず、おしゃべりに興ずるばかりだ。いらだちを押さえるアリヤ。だが、アリヤをいらだたせているのはその事ばかりではない。同棲する恋人ロトフィが、二人の子の出産を望んでいないからだ。憂いさつのる日々が続いていたのだ。
 その夜、アリヤにショッキングな知らせが届いた。かつて幼いころ、実の父のように可愛がってくれたシド・アリが死んだというのだ。
 シド・アリは10年前に廃位されたチュニジア王政最後の皇太子だった。瀟洒な王宮に住み、多くの召使を抱えていた。アリヤの母ケディージャは、昼は厨房で働き、夜は王族とその来客の前で踊る召使の一人だったのである。
 翌日、アリヤは10年振りに王宮を訪ねる。凋落とともにあった王宮は当時からさして豪奢なものではなかったが、時を経てアリヤの目に映る王宮はまるで生気のないうらぶれたものだった。だが、懐かしい人と会い、かつて過ごした処を巡るうち、そこかしこに幼い頃の幻影を見るのだった。
 王宮に時を同じくして二人の女の子が生まれる。皇太子シド・アリの弟シ・ベルジの王女サラと召使ケデーィジャの子アリヤだ。子のいないシド・アリはアリヤを可愛がり、またその可愛がりようが、まわりをしてアリヤはシド・アリの子と思わせるに足る程だった。家族のいない召使仲間もたった一人の幼子を慈しんだ。それはあたかも、王宮の外に出ることもままならず、王族の命令に絶対服従をしいられる殆ど奴隷の境遇を、努めて明るくふるまい、忘却を装うことでやりすごしている彼女らが、「小さな希望」を育むかの様だった。
 アリヤはやがて初潮を迎え、サラとの身分の差などもなんとはなく気付き始める。また同時に父親が誰であるかをケディージャのみならず、他の召使にもしつこく聞くようになった。若い女召使が王族の夜伽をする事、母ケディージャもシド・アリのお気に入りである事もアリヤの知るところとなる。ショックを受けるアリヤ。さらにケディージャがシ・ベルジに強引に関係を迫られるところを目撃するに及んで、アリヤの心の針は振り切れてしまうのだった。
 気を病み、ベッドに横になったきり、笑う事もできなくなったアリヤを心配するケディージャ。しかしなす術もない。ある日、アリヤを見舞ったサラはウードを演奏して聞かせる。その音色に久々に顔を綻ばせたアリヤ。それを見たケディージャは仲間のハッダとなけなしの貯えを出し合い、アリヤにウードを買い与えた。嬉しさの余りアリヤはケディージャに抱きついた。アリヤはウードを手に好きな唄を歌うようになった。
 黄昏の王宮に落日の時が近付いていた。王宮の外は不穏な空気を孕み、ラジオからはフランスと独立派の衝突のニュースが流れてくる。そんなとき、ハッダの息子の友人が警察の手を逃れて、召使の部屋にかくまわれる事になった。ロトフィである。年の近い男と接する事がなかったアリヤはロトフィが気になっていく。ロトフィも美しいアリヤに引かれていった。そのころ、ケディージャは新たに身ごもったのを知り愕然とする。シ・ベルジの子の可能性が強いからだ。自ら腹部を痛打し流産を促す。しかし、思うようにはいかない。
 王朝最後の時が目前に迫るある晩、王女サラの婚礼がひらかれた。かねてよりアリヤに歌の才能をみていたシド・アリはケディージャに、アリヤを宴で歌わせるように言い付けた。だが、ケディージャは自分と同じ道を歩かせたくないと強く思うのだが、言い付けには背けない。バンドの前で歌いはじめるアリヤ。その美しい声に哀切な詩に皆が驚き、賞賛のつぶやきがもれる。だが、アリヤが2曲目に歌ったのは王宮では禁じられていたチュニジア独立派の唄だった。チュニジア独立派の唄を歌うアリヤの声が宴の会場に響く頃、ケディージャからは苦悶の嗚咽がもれるのだった…。

スタッフ

監督・脚本・編集:ムフィーダ・トゥラートリ
撮影:ユセフ・ベン・ユセフ
製作(チュニジア側):アハメド・バハエッディン・アティヤ
   モハメド・トゥラートリ
製作(フランス側):リチャード・マグニエン
音楽:アヌアル・ブラヒム

キャスト

アーメル・ヘディリ
ヘンド・サブリ
ガーリア・ラクロワ
ナジィア・エルギー
カーメル・ファザーア
サーミー・ブアジア

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