原題:Phoenix

2014年/ドイツ/カラー/98分 配給:アルバトロス・フィルム

2015年8月15日(土)より Bunkamuraル・シネマほかにて全国順次ロードショー

Ⓒ SCHRAMM FILM / BR / WDR / ARTE 2014

公開初日 2015/08/15

配給会社名 0012

解説


『東ベルリンから来た女』の監督・主演トリỼが描く、第二次世界大戦直後 第二次世界大戦直後の深い葛藤

ベルリンの壁崩壊の9年前、1980 年の旧東ドイツを舞台に、西側への脱出計画を胸に秘める女医を描いて、2012 年ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)に輝いた『東ベルリンから来た女』。クリスティアン・ペッツオルト監督は、ふたたび主演女優ニーナ・ホスと、同僚の医師を演じたロナルト・ツェアフェルトを起用、緊迫感に満ちた心理劇を作り上げた。ニーナ・ホスは収容所から生還したユダヤ人女性を、ロナルト・ツェアフェルトがその夫を演じる。ユダヤ人たちが強制収容所に送られることを、ただ見守っていた普通のドイツ人たちも登場させつつ、戦争によって引き裂かれた夫婦、家族、友人の心理を克明に表した、「収容所のその後」を描く傑作が誕生した。

収容所から生還した妻と、変貌した妻に気づかない夫。再会が2人の心の痛手を炙り出す

ネリーは、顔に大怪我を負いながらも強制収容所から生還。親友のレネとともにドイツに戻り、顔の修復手術を受ける。レネは、パレスチナに建設されるユダヤ人国家へ2人で移住する計画を立てているが、ネリーの願いは夫ジョニーを見つけ出し過去を取り戻すこと。顔の傷が癒える頃、ネリーはついにジョニーと再会するが、妻は収容所で亡くなったと思い込んでいるジョニーは、容貌の変わった彼女を妻とは気づかない。そして、亡くなった妻になりまし遺産を山分けしようとネリーに持ちかける—。
ジョニーの妻に戻ることで戦前の幸せな日々に戻れると信じるネリーと、不自然なほど、目の前の女性が妻本人であることに気づかないジョニー。戦時中の直視に耐えられない記憶を、2人はそれぞれに拒絶することで、今を持ちこたえようとしているのだろう。だが、外見が戦前の姿に戻っても、起きたことを否定しては前に進めない。ついにそのことに気づいたとき、ネリーは初めて未来へ向かって一歩を踏み出すのだ。

光と闇のコントラストを鮮やかに表出させたフィルム・ノワール

「この作品は、本質的にはフィルム・ノワールなんだ」と語るクリスティアン・ペッツォルト監督。ガレキがあちこちに積み上がる終戦直後の街は、夜は暗闇に覆われる。ジョニーが暮らす地下室のアパートには色彩が乏しく、殺伐としている。ネリーがレネに決意と希望を語る寝室は真っ暗なままだ。一方、ネリーとジョニーが自転車で駆け抜ける林は、戦争などなかったかのように、みずみずしい緑で彩られている。ラストでネリーが向かう窓には光があふれている。明暗のコントラストをくっきりさせることで、この世界は暗闇だが、光もまた存在することを鮮やかに示しているのだ。「我々はフィルム・ノワールとテクニカラーを繋げようとしたとも言えるかもしれない。だからこそ、フィルムで撮影した。より温かみがあり、力強い生命力をもたらすからだ」と監督は語っている。

抑制された感情表現で見事に人物像を浮かび上がらせた名優たち

ネリーとジョニーに起きた過去の出来事は少ないセリフで語られるのみで、回想シーンは一切ない。2人とも、自分の体験を言葉にすることができない。人間性を否定され、顔まで破壊されたネリーは、自分を見失い、怯えた険しい表情でうつむいている。『東ベルリンから来た女』では凛とした女医を演じたニーナ・ホスの、まさに別人のような表情の一瞬一瞬がネリーの過酷な体験を如実に物語るのだ。ほかの人々がすぐにネリーと認識するのとは対照的に、彼女を妻と認めようとしない一点に、ジョニーの心の闇の深さが見てとれる。彼はまた、自分が戦時中に何をしたのか、一度も言葉にしない。『東ベルリンから来た女』では心優しい青年医師を演じたロナルト・ツェアフェルトは、この容易には理解できない難しい役どころを、ときに戸惑いの表情をにじませながら、見事に演じきった。

ストーリー












1945 年6 月。ドイツ降伏の翌月、レネは顔に大怪我を負った親友ネリーを連れてドイツに戻る。以前はロンドンの聖歌隊に所属していた声楽家でユダヤ人のネリーは、前年の10 月に検挙されて強制収容所送りになり、銃で顔をめちゃくちゃにされたのだった。
レネはネリーと暮らす家を見つけ、家政婦も雇う。顔の手術を受ける際、まったく別の顔にすることを薦める医師をさえぎり、ネリーは元の顔に戻すことに固執する。

〈ユダヤ機関〉で働く弁護士のレネは、2人でパレスチナに移住する計画を立てている。「パレスチナにユダヤ人国家を作るのよ。奪われたものは取り戻す」と語るレネに、ネリーは反対も賛同もしない。
やっと顔の傷が回復してきたネリーの唯一の願いは、夫ジョニーを見つけだし過去を取り戻すことだった。だが、レネは再会に反対する。その2か月前、
〈ユダヤ機関〉でレネはジョニーを見かけていた。彼は、ネリーの検挙直前に提出した離婚届けを盗み出そうとしたのだった。レネは「ジョニーは裏切り者よ」と言うが、ネリーはその言葉を聞き流す。
夜間にひとりで外出したネリーは、アメリカ兵相手のクラブ「フェニックス」で、ピアニストだったジョニーが掃除夫として働いているのを発見。翌日ふたたび「フェニックス」を訪れたネリーが、私娼と勘違いされて店を追い出されたところで、ジョニーが声をかける。「金儲けをしよう。似ているんだ、僕の妻に。妻は収容所で死に、一族も全滅した。妻を演じてくれ。そして妻の財産を山分けしよう。2万ドル渡せる」。そう語り、自分のアパートにネリーを連れて行く。

筆跡を真似させ、かつてパリで買った靴を履かせ、赤いドレスを着せる。どんなに彼女が妻に似ていようとも、ジョニーは「妻は収容所で死んだ」という思い込みから離れようとしない。「赤い服とパリの靴では収容所帰りに見えない」「収容所のことを聞かれたら何を話せばいい?」と言うネリーに、ジョニーは「収容所からの生還者には誰も関わりを持ちたがらない。収容所の話なんて聞かれるはずがない」と答える。彼は、彼女が実際に収容所に行ったとは思いもしていないのだった。

ある夜、ジョニーの家から抜け出したネリーは、レネの寝室の暗がりで告げる。「彼は私を見てもわからなかった。辛かったわ。
私は一度死んだの。その私を彼はネリーに戻してくれた。パレスチナには移住しないわ。彼と一緒にいる。彼といると、昔の私に戻れるの」
43 年の冬、ジョニーはユダヤ人の妻ネリーを友人夫婦のボートハウスに隠した。今、その友人宅にネリーを行かせ、ジョニーは木陰で様子を見守る。庭にいた夫人はすぐにネリーが誰だかわかる。ネリーが逮捕されたとき、夫婦は家の窓からただ見ていただけだった。「助けようがなかったの」と泣く夫人は、続けて、逮捕直後にジョニーが来訪したことを口にする。それは、レネの「ジョニーは裏切り者よ」の言葉を裏付けるものだったが、それでもネリーは別のシナリオを考える。妻が心配でボートハウスに来たのを当局から尾行されてしまったのだ、と。ジョニーはその推測を肯定も否定もしない。
いよいよ来週、列車でベルリンに行き、旧友たちのもとに「生還」することに。ネリーはレネの家に行き、家政婦から知らされる。数日前にレネが銃で自殺したことを。レネはネリーへの手紙に、ジョニーが出した離婚届けの写しを入れていた。「私たちは過去には戻れない。私には前進もない。生きている人より死者に惹かれるの」と手紙に書かれていた。

ベルリン駅に降り立ったネリーを、旧友たちとジョニーが出迎える。みんなで食事をしているとき、ネリーは席を立ち、ジョニーにピアノを弾かせて、レネとの約束の曲「スピーク・ロウ」を歌い始めるのだった—。

スタッフ

監督:クリスティアン・ペッツォルト
脚本:クリスティアン・ペッツォルト
共同脚本:ハルン・ファロッキ
原作:ユベール・モンティエ著「帰らざる肉体」(早川書房/品切重版未定)
撮影監督:ハンス・フロム
編集:ベッティナ・ブーラー
プロダクションデザイン:K・D・グルーバー
衣装デザイン:アネット・グター
音楽:シュテファン・ヴィル
製作総指揮:ヤチェック・ガチェコフスキ、ピオットル・シュトエレキ
プロデューサー:フロリアン・ケルナール・フォン・グストフ、ミハイル・ヴィーバー

キャスト

ネリー・レンツ:ニーナ・ホス
ジョニー・レンツ:ロナルト・ツェアフェルト
レネ・ヴィンター:ニーナ・クンツェンドルフ

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