原題:Holy Motors

「カイエ・デュ・シネマ」誌2012年度ベストワン 2012年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品 2012年シカゴ国際映画祭 ゴールド・ヒューゴ賞、シルバー・ヒューゴ賞主演男優賞、撮影賞受賞 2012年シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭 最優秀作品賞、監督賞受賞 2012年ロサンゼルス映画批評家協会賞 外国語映画賞

2012/07/04フランス公開

2012年/フランス/カラー/115分/DCP/ドルビーSRD 提供:ユーロスペース、キングレコード 配給:ユーロスペース 宣伝:テレザ

2013年4月6日(土)、ユーロスペース、シネマカリテほかにて全国順次ロードショー

(C)Pierre Grise Productions

公開初日 2013/04/06

配給会社名 0131

解説


「不死鳥」カラックスの再生!
 『ホーリー・モーターズ』は、レオス・カラックス監督が『ポーラX』(99)以来13年ぶりに完成した待望の新作長編であり、カラックスならではの映像美とミステリアスな物語に長年の想い、そしてカラックス自身の人生が込められた、堂々たる傑作である。
 夜明けから深夜までの1日をめぐるオスカーの旅。オスカーによって演じられる年齢も立場も違う11の人格は、人々の喜びや欲望、苦悩そして後悔がこめられた人生のアバタ—。人生を演じる疲労にさいなまれながらも、オスカーは生きてゆくことの美しさへの渇望に突き動かされ、誰かの人生を演じつづける。そして白いリムジンはオスカーを乗せ、架空の時間を生きるもうひとつの生き物として、美しく、そして気高くパリ市内を走るのだった——。

 長編デビュー作『ボーイ・ミーツ・ガール』から『ポンヌフの恋人』へと続く「アレックス3部作」で主人公を演じた“カラックスのアルターエゴ”ドニ・ラヴァンが再び主演し、カイリー・ミノーグやエヴァ・メンデスといったゴージャスな共演者を配して、デジタルカメラで撮影された『ホーリー・モーターズ』は、デジタル時代におけるカラックスの帰還と新たな「再生」を決定づけ、「不死鳥(フェニックス)カラックス」なる呼称まで現れた。
 久しく待たれた新作、しかも飛び抜けてオリジナルな本作が、2012年のカンヌ国際映画祭中盤で登場したときの衝撃と熱狂を、カイエ・デュ・シネマ編集長ステファヌ・ドゥロルムは、カフカの言葉を引いて「僕らの内にある凍った海を斧で叩き割った」と評し、ジャン=ミシェル・フロドンはル・モンド紙に「異論の余地なく、カンヌのコンペを支配した」と書いた。審査員の判断とは異なり、批評家の多くは『ホーリー・モーターズ』がカンヌの最優秀作の一本という評価で一致していた。
 カンヌ映画祭での熱狂は英語圏へも波及し、「今年のもっとも挑発的な映画」「創意とエネルギー溢れる映画」(サイト&サウンド誌)「エクスタティックな映画」(ニューヨーカー)といった絶賛や、北米でもっとも歴史あるシカゴ国際映画祭の最優秀作品賞(ゴールドヒューゴ賞)最優秀男優賞、最優秀撮影賞(ともにシルバーヒューゴ賞)のトリプル受賞、ロサンゼルス映画批評家連盟賞(外国語映画賞)、全米映画批評家協会賞の主演男優賞(2位)ほか、各地の映画批評家協会賞で外国語映画賞・主演男優賞でベスト1やノミネートが続出している。各紙誌の年間ベストテンでも「カイエ・デュ・シネマ」(仏)「フィルム・コメント」(米)、「ザ・ニューヨーカー」(米)、「インディーワイヤー」(米)他で1位、「ヴィレッジヴォイス」(米)2位、「サイト&サウンド」(英)4位と軒並み高い評価を得ている。

眠りから覚めたカラックスの壮大な夢のヴィジョン
 男が眠りから覚めて、自らの指の鍵で映画館へと続く不思議な扉を開く——。本作のプロローグに現れるこの男をカラックス監督自らが演じる『ホーリー・モーターズ』は、これまで以上に謎に満ちたシュルレアリスティックな作品であり、この導入部をみても監督にとって個人的要素を含む特別な作品であることがわかる。本作は過去のカラックス作品のどれとも似ていないが、そのエモーショナルな画面はすべてと通じ合い、より深化されている。
 ドニ・ラヴァンが次々と異なる人生を旅しつつ、狂気をはらんだ多様な<愛>を描きだす。これは、生と死、夢と現実、闇と光、男と女、本物と分身、人間と動物といったあらゆる「境界」を越えて展開するカラックスの壮大な夢のヴィジョンといえる。どのエピソードでも主人公と(異なる年代の)女性との関係が描かれ、最後のパートでは雌のチンパンジーとまで共演するが、それぞれのエピソードは相互に異なる精神、美学で描かれている。

 また、エンドクレジットに突然挿入される写真が示すように、この映画はカラックスのパートナーであり2011年に急逝したカテリーナ・ゴルベワ(注1)に捧げられている。そのためか、本作は死のトーンと生(再生)のトーンとがたえず入れ替わり、重なり合いながら進む。ショスタコーヴィチの葬送行進曲(弦楽四重奏曲第15番変ホ短調)が何度か流れ、ラスト近くではジェラール・マンセの「ルヴィーヴル」(Revivre=もう一度生きるの意)が印象的に流れる。

 冒頭の映画館の出所不明の映画の音から誰もが知っている『ゴジラ』の音楽に至るまで、映画にまつわる記憶もまた随所に織り込まれている。コクトーやブニュエル、ジャン・ルノワールの『コルドリエ博士の遺言』(59年)を思わせる部分、そしてタイトルバックから何度も挿入される1880年代のE=J・マレイの連続写真(注2)。ラストシーンでリムジン運転手役のエディット・スコブが仮面をかぶるのは、ジョルジュ・フランジュの『顔のない眼』(60)の記憶に他ならない。交通事故で顔を失い仮面をつけて暮らす少女クリスティアヌを演じたのは若き日の彼女自身だからである。

 またジュリエット・ビノシュと『ポンヌフの恋人』を思い出させる「サマリテーヌ百貨店」(注3)の廃墟ではカイリー・ミノーグが「わたしたちは誰だったの?」と歌い出すが、彼女が演じるジーンは40才で謎の死を遂げたジーン・セバーグの幻影だろう。カイリーが歌うジャック・ドゥミ風の楽曲はカラックスが作詞し、伴奏のみプリレコで歌は撮影時に歌われた。
 ドニ・ラヴァンが人物から人物へ旅するアイデアの元には、カラックスが黒澤明へのオマージュとして日本を舞台にした短編で彼が複数の役を演じる企画があり、過去の自作、現実の人物(たとえば元IMF専務理事のドミニク・ストロス=カーン)やカラックス自身が見た夢(殺し屋のシーン)などからエピソードが着想され、『TOKYO!』の「メルド」をニューヨークやベルリンで撮る企画も吸収する形で構成されている。

ストーリー







ひとつの人生からもうひとつの人生へ、旅を続けるオスカーの1日。
ある時は富豪の銀行家、またある時は殺人者、物乞いの女、怪物、そして父親へと、次々に姿を変えてゆく。
オスカーはそれぞれの役になりきり、演じることを楽しんでいるように見えるが…、
どこかにカメラはあるのだろうか?
彼はただひとり、スレンダーでブロンドの運転手セリーヌを唯一の供に、メイク道具を満載した舞台裏のような白いリムジンで、パリの街中そして周辺を移動する。
まるで、任務を遂行する隙のない暗殺者のように。行為の美しさを求めて。アクションの原動力を求めて。
そして彼の人生に登場した女たちや亡霊たちを追い求めて。
だが彼の家、家族、そして休息の場所はいったいどこにあるのだろうか?

スタッフ

監督:レオス・カラックス
製作:マルティーヌ・マリニャック、モーリス・タンシャン
脚本:レオス・カラックス
撮影:カロリーヌ・シャンプティエ、イヴ・カペ
衣装デザイン:アナイス・ロマン
編集:ネリー・ケティエ
セットデザイン:フロリアン・サンソン

キャスト

ドニ・ラヴァン
エディット・スコブ
エヴァ・メンデス
カイリー・ミノーグ
エリーズ・ロモー
ミシェル・ピッコリ
レオス・カラックス
ナースチャ・ゴルベワ・カラックス
レダ・ウムズンヌ
ジェフリー・キャリー
アナベル・デクスター=ジョーンズ
ジャンヌ・ディソン

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