原題:Pora Umierac

2007年/ポーランド/104分 配給:パイオニア映画シネマデスク

2011年4月16日より岩波ホールほか全国ロードショー

公開初日 2011/04/16

配給会社名 0147

解説


ワルシャワ郊外の緑に囲まれた木造の古い屋敷、その家で愛犬フィラデルフィアと静かに暮らす一人の女性アニェラ、91歳。年老いてなお美しく、そして誇り高く生きる彼女は、戦前に両親が建てたその家で生まれ、成長し、恋をし、夫と暮らし、一人息子ヴィトゥシュを育ててきた。夫はとうに他界し、息子も結婚して家を出ていた。共産主義時代に政府から強制された間借人もようやく出ていき、アニェラは今、さほど長くはない自らの余生と彼女が愛する家をどうするか考えていた。その家で彼女が体験した忘れることのできない甘美な思い出の数々と、いろいろなことが思い通りにはいかずに歯がゆい現実、息子の家族に同居を拒否された寂しさに、健康への不安…。やがて彼女が下す人生最後の決断。彼女がただひとつだけ遺そうとしたものとは…。鮮烈なまでに美しいモノクロームの映像と、世界現役最高齢の名女優が魅せる奇跡の演技で詩的に描き出す、ある女性の人生最後の日々。数々の名作を生み、数多くの名匠を世に送り出してきたポーランド映画界からまた1本、深い感動を呼ぶ珠玉の名作が誕生しました。

主人公のアニェラを演じるダヌタ・シャフラルスカは、撮影時91歳。1927年に初舞台を踏み、第二次大戦後初のポーランドの長編映画「禁じられた歌(Zakazane piosenki)」(47)に出演するなど芸歴は83年に及び、95歳になる現在も舞台女優として現役を続けているポーランドの伝説的名女優。その他、アニェラの息子を『殺人に関する短いフィルム(Krótki film o zabijaniu)』(88)、『カティンの森(Katyń)』(07)などの名優クシシュトフ・グロビシュが演じるのをはじめ、映画の冒頭すぐに登場する病院の女医に『天国への300マイル(300 mil do nieba)』(89)、『借金(Dług) 』(99)のベテラン、マウゴジャタ・ロジュニャトフスカ、アニェラの家に盗みに入ろうとする少年ドストエフスキーに『僕がいない場所(Jestem)』(05)のカミル・ビタウなど。そして、忘れてはいけないのが愛くるしい表情でダヌタと息の合った名演技を披露する愛犬役のフィラデルフィア。メス犬役を演じたオス犬の彼は、グディニャ・ポーランド映画祭で特別賞を受賞しました。また、画家、彫刻家、建築家、詩人としても有名なアメリカ在住のポーランドを代表する国際的なアーティスト、ヴィトルト・Kが公証人の役で特別出演し、俳優デビューを飾っているのも見逃せません。
監督・脚本は、『カラス達(Wrony) 』(94)、「何もない(Nic)」(98)、日本で公開された前作『僕がいない場所(Jestem)』(05)など、子どもを主人公にした傑作の数々で、多くの映画賞を受賞し、国際的にも高く評価されている気鋭の女性監督ドロタ・ケンジェジャフスカ。現在では製作が非常に難しい驚異のモノクローム映像を実現させたのは、ドロタの夫でもあり、リドリー・スコット製作、ケヴィン・レイノルズ監督の『トリスタンとイゾルデ(Tristan & Isolde)』(06)など、ハリウッドでも活躍する現代ポーランド最高のカメラマンで、本作ではプロデュースも手掛けるアルトゥル・ラインハルト。音楽は、ドロタの『カラス達(Wrony) 』(94)やピータ・グリーナウェイ監督の『レンブラントの夜警 (Nightwatching)』(07)、ポーランド映画祭で上映された『裏面 (Rewers)』(09)などのヴウォデク・パヴリク。美術は『ファイア・アンド・ソード (Ogniem i mieczem)』(99)、『ショパン 愛と哀しみの旋律 (Chopin. Pragnienie miłości)』(02)のアルビナ・バランスカが担当しています。
なお、本作は2007年グディニャ・ポーランド映画祭において主演女優賞・録音賞・観客賞・批評家賞、ポーランド映画賞において主演女優賞、ウィスコンシン映画祭において観客賞を受賞しています。

ストーリー



ワルシャワ郊外の緑に囲まれた木造の古い屋敷、91歳になるアニェラは、戦前に両親が建てたその家で生まれ、成長し、恋をし、夫と暮らし、一人息子ヴィトゥシュを育ててきた。夫はとうに他界し、息子も結婚して家を出ていた。共産主義時代に政府から強制された間借人もようやく出ていき、アニェラは今、その家で愛犬フィラデルフィアと静かに暮らしていた。彼女は息子とその家族がその家で同居してくれることを願っていたが、市街で暮らす息子夫妻にも孫娘にもそんな考えはまるでなかった。息子は年に数回、孫娘を連れて顔を見せに来たが、アニェラは嫁と折り合いが悪く、滅多に顔を見ることもなかった。
一日中ほとんど家にいるアニェラの日課は、双眼鏡で両隣の家を覗くことだった。片方の家は週末だけ主人がやってくる成金の愛人宅か何かのようで、アニェラはその家の住人たちが嫌いだった。もう片方は若いカップルが開いている子供たちのための音楽クラブで、楽器の練習や子どもたちの声で毎日騒々しい。しかし、アニェラは子どもたちに愛情を注ぐカップルに好感を持っており、元気な子供たちの姿は息子の小さい頃を思い出させてもくれた。だが、カップルはどうやら、その場所をクラブのために使えなくなるようなトラブルを抱えていた。
ある日、金持ちの方の隣人の使いを名乗る男がやってきて、アニェラに対し唐突に家を売って欲しいと言い出す。アニェラは破格で買い取るという申し出をあっさりと断って男を追い返すが、隣人はその後もしつこく電話を掛けてきては家を売るように迫るのだった。
アニェラはこのところ体調に不安を抱えていた。物忘れはひどくなり、突然めまいに襲われることもしばしばだった。彼女は自分の人生があまり長くないことを察していた。アニェラにとって唯一の気がかりは、美しい思い出をたくさん与えてくれた、彼女の人生そのものでもある家のことだった。だが、彼女が元気なうちにその家から出ていくことなど考えられなかった。
アニェラはもう一度息子一家を説得しようと、8歳になる孫娘にその家に住む気はないかと尋ねるが、過保護に育てられた孫娘は祖母に対する思いやりのかけらもない。「修復するより燃やしちゃえば?」と言い放つばかりか、家よりも指輪が欲しいとねだる始末だった。さらに、その夜、アニェラは信じていた息子のヴィトゥシュが、何の断りもなく、隣人宅で彼女名義のその家を売る相談をしているのを目撃して愕然とする。さらに驚いたのは同席していた嫁が、身勝手なヴィトゥシュの行為を非難していることだった。
ショックを受け、何もかも嫌になったアニェラは、自ら命を絶つことさえ考えたが、あっさり思い直し、翌日大胆な行動に出る。彼女は音楽クラブを開いている隣人宅へ向かうと若いカップルにある提案をする。それは、2階に自分が住み続けることを条件に、家を彼らのクラブに寄贈するというものだった。カップルは大喜びでその提案に応じ、すぐに公証人が公正証書を作成した。アニェラはピアノの置いてあった床下に長い間隠してあった高級な宝石類も、家の修復代に充てるようにと差し出してしまう。彼女が息子の家族に残そうとしたのは、息子の妻への指輪ただ一つだけだった。
やがて、修復された家が優しい木洩れ日に包まれる中、家中に音楽クラブの子どもたちの元気な声が響き渡った。
アニェラにはもう思い残すことは何もなかった…。

スタッフ

監督・脚本:ドロタ・ケンジェジャフスカ
撮影:アルトゥル・ラインハルト
美術:アルビナ・バランスカ、アルトゥル・ラインハルト
編集:ドロタ・ケンジェジャフスカ、アルトゥル・ラインハルト
音楽:ブウォデク・パブリク

キャスト

ダヌタ・シャフラルスカ
クシュシュトフ・グロビシュ
バトルィツィヤ・シェフチク
カミル・ビタウ
ロベルト・トマシェフスキ
ビトルト・カチャノフスキ
マウゴジャタ・ロジニャトフスカ
アグニェシュカ・ポトシャドリク

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