犬と猫と人間と
原題:Dogs,Cats & Humans
かわいいですか? それとも かわいそうですか?
2009年/HD/16:9/日本/118min 配給:東風
2010年06月26日よりDVDリリース 2009年10月10日よりユーロスペースにてロードショー、ほか全国順次公開
(c)2009.group Low Position
公開初日 2009/10/10
配給会社名 1094
解説
町を歩けばあちこちで目にする光景——散歩中の犬や、路地裏でくつろぐ野良猫たち。しかし、全ての犬と猫が幸せな一生を送れるわけではありません。空前のペットブームの影で、日本で処分される犬と猫は年間30万頭以上。一日に1000匹近くが殺されている現実があります。あなたは、犬と猫たちのことをほんとうに知ってますか?
捨てられた犬と猫をめぐる旅が始まります
一人の猫好きのおばあさんの「不幸な犬猫を減らしたい」という思いから、この映画は生まれました。
そのあばあさんは言います。「人も好きですけど、人間よりマシみたい、動物の方が」
そして、犬と猫をめぐる旅が始まります。完成までには、4年が費やされました。監督は、ドキュメンタリー映画『あしがらさん』で路上にいきる人々に寄り添った飯田基晴。大上段にふりかぶらず、犬と猫が歩くような低い視点から、人と犬猫の関係をしっかり見つめます。
犬と猫をとおして見えてくる人間の姿映し出されるのは、鉄柵の向こうから悲しげな目で見つめる犬、行政施設に持ち込まれる生まれたばかりの子猫たち。更には、動物愛護先進国・イギリスの姿。動物たちのほのかなユーモアや、捨てられた命を救うため奮闘する人々の苦悩。繰り返し登場するのが、しろえもんという一匹の犬。そのしろえもんをめぐる“しつけ”の様子は、動物と人間の関係を考えさせられます。
そんな知られざる多くの現実の先にあるのは、感傷を乗り超える、ささやかな希望に違いありません。
ストーリー
〇プロローグ——
猫おばあちゃんの願い
監督・飯田と一人のおばあさんの出会いから映画は始まる。
その女性、稲葉恵子さんは、今まで多くの捨て猫を世話してきた。しかし年とともに自分の限界を感じ、飯田にこう持ちかけた。「大人も子供も見て、動物を大切に思ってもらえるような映画を作ってほしい。私が生きているうちに完成させてくれればいい」。別れ際、「なぜそんなに猫のことを?」と問われた稲葉さんは、「人間も好きだけれど…、動物のほうがましみたい」と答えた。
〇ペット大国≠ペット天国
飯田は「ペット大国」日本の現状を知るうちに、それは必ずしも動物にとって恵まれた状態ではないことに気づく。ペットを家族の一員とする人々も多い反面、営利優先のペットショップは多く、無責任な飼い方や不法投棄も後を絶たない。
結果として、日本全国で1日当たり1000匹近くの犬猫が処分されている。どうしてこうなるのか、何とかならないのか?
その思いが、飯田を突き動かし始める。
〇灰になる命 見守られる命
まずは行政の収容施設を訪ねることにした。しかし施設内の取材は容易ではない。ようやく協力してくれたのが、千葉県動物愛護センター。そこでは持ち込まれる多数の犬猫のうち、大半が炭酸ガスで処分される。それでもひっきりなしに、人は犬猫を預けに来る。飯田はつぶやく、「思わず、人間であることが嫌になった」。
次に訪れたのは民間の保護施設、神奈川県動物愛護協会。そこで出会ったのは、噛み癖のある気難しい犬・がじろう、夏には長い毛を丸坊主にされてしまうデニーとサンデー、出戻りのしろえもん、ひょうひょうと施設内をうろつく野良猫のにゃんだぼなど、個性的な犬や猫たち。ここも犬猫を預ける人、捨てる人が後を絶たない。生活保護を受けるため、泣きながら2匹の愛犬を預けに来た女性や、子猫が施設の入り口に捨てられる現実に出会う。
愛護協会は、野良猫の避妊去勢にも力を入れており、毎年1000匹以上の野良猫に手術を施す。しかし、すでに妊娠している猫の堕胎手術は、獣医にとってもつらいこと。子宮の膜を通して毛柄が分かるまで成長した胎児が見える。避妊去勢手術が正しいのか間違っているのか、誰にも言えるものではない。ただやっていくしかない。そう呟く獣医の姿を見て、不幸な命を減らそうとする人々のジレンマを知る。
行政と民間の連携が行われていると聞き、訪れたのは神戸市動物管理センター。ここでは、ボランティアグループ・日本動物福祉協会CCクロが譲渡対象の犬の世話を行っている。しかし救えるのはまだまだ一部に過ぎない。危険な犬を譲渡して施設の評判を落とし、引き取り手がいなくなってはいけないのだ。救える命に限りがある以上、選別もやむを得ないのが現実。また、無責任な飼い主の尻拭いにも関わらず、しばしば非難される職員たちも重い決意を秘めていた。「好きだからこそ、最期まで大切に扱って処分してやれる。」この道40年というCCクロのリーダー松田さんは言う、「殺処分ゼロなんてあり得ない。でも少なくすることはできる。」
〇しろえもんのしつけ
神奈川動物愛護協会では、出戻り犬・しろえもんに困っていた。人懐っこいのだが、やんちゃで興奮すると手に負えない。
このままではもらい手も見つけてやれない。そこでチェーンで首を絞める体罰式のしつけが行われるようになる。服従するようになるが、しろえもんから笑顔が消え、過大なストレスが生じていた。
〇多摩川の猫を見つめる夫婦
小西修さんは多摩川全域を廻り、捨てられた猫の世話をし、写真に収め続けている。無責任な人間によって増える野良猫たち。虐待され傷つき、殺された猫たちを何匹も見てきた。「人間が地球上で最も残酷で、最も嘘つきで、見栄っ張り」。彼は猫と同じ目線でカメラを構える。妻の美智子さんも、多摩川河川敷の猫たちを長年休むことなく世話している。2007年9月、台風が多摩川周辺に大きな被害をもたらした。行方不明になった猫たちを探す美智子さんは語る。「捨てる人がいるなら、助ける人もいなければ、動物は救われない。」
〇犬捨て山
山梨県に、かつて「犬捨て山」と呼ばれ、マスコミも多数報道した場所がある。人々に忘れられた今も多くの犬が暮らす。小林昭雄さんは電気・ガス・水道のないこの飼育場に、住み込みで犬の世話を続ける。様々な愛護団体が来たが皆、カンパだけ集めて去っていったという。今も関わるのは、大学生のボランティアたちと、マルコ・ブルーノさん。地獄そのものだったという「犬捨て山」を、協力して少しずつ改善してきた。犬たちのこの現状は、日本の社会問題なのだとマルコさんはしみじみ話す。
〇しろえもんのその後
神奈川県動物愛護協会に新たなトレーナー、山本央子さんがやってくる。しろえもんに対し、フードやおやつをご褒美に使う、褒めて伸ばすしつけを試みる。食いしん坊のしろえもんは夢中で取り組むが、施設スタッフにしつけの方針をめぐる混乱が生じる。
〇崖っぷち犬騒動
徳島県動物愛護管理センターで、「崖っぷち犬」が譲渡会に参加した。「崖っぷち犬」は、崖で身動きが取れなくなり救出される模様を、テレビで生中継された話題の犬だ。全国から「崖っぷち犬」の引き取り希望が殺到した。しかしこの騒動の裏には、地方の様々な課題を見つけることができた。「崖っぷち犬」の人気とは裏腹に、施設には多くの野良犬が収容され処分を待つ。また、近隣住民が処分施設建設に反対するなか、徳島県では移動処分という新たな仕組みが生み出されていた。そして、捨てられた子犬のもらい手を探す子どもたちにも出会った。仲間と小遣いを出し合って一生懸命子犬を育てる子どもたちは、幼いながらも大人以上に命の尊さを実感しているようだった。
〇イギリス
動物愛護の先進国・イギリスの見聞録。ペットショップでは犬猫が売られていない。ロンドンにはなんと野良猫もいなかった!犬猫は、専門のブリーダーか、保護施設からもらってくるのが一般的なのだ。保護施設の充実ぶりに、日本との差を見せつけられる。また、アニマルライツ(動物の権利)を訴える団体も訪ねる。動物を人間が所有し、利用し続けている現状を変えていかねばと、アニマルエイドの責任者は強く訴える。
〇動物愛護と平和
映画の依頼主、稲葉さんの希望で訪ねた獣医師・前川博司さんは、昭和20年代から日本動物愛護協会に勤めてきた人物だった。長らく病院長として動物を救うとともに、処分も行うなか、人間の業をまざまざと感じてきたという。前川先生は、さらにこう述べる。「動物を可愛がる精神を持つのは、人間が平和で裕福でないと難しい」。飯田は、戦時中の犬の状況を調べ出し、この言葉の真意を知ることとなる。
〇エピローグ
しろえもんには、また新たなしつけトレーナー藤本聖香さんが関わるようになっていた。藤本さん、スタッフ、しろえもんの間に信頼関係ができたとき、しろえもんだけでなくスタッフも笑顔を取り戻していた。
最後に岩手県にある、樹木葬(墓石の代わりに樹木を植えて埋葬する)墓地を訪ねる。ここには、映画の依頼主、稲葉さんが眠っている。映画制作が間に合わず、生きているうちに作品を見せるという約束を果たせなかったことを深く詫びた。美しい緑の梢に囲まれたその場所で、飯田は「人間より動物のほうがまし」と言った稲葉さんの気持ちが今なら分かる、だからこそ、懸命に命を救おうとする人々の姿に惹かれたのだと振り返る。
スタッフ
企画:稲葉恵子
監督:飯田基晴(『あしがらさん』)
撮影:常田高志・土屋トカチ・飯田基晴
音楽:末森樹
製作:映像グループ ローポジション
配給:東風 宣伝協力:スリーピン
助成:芸術文化振興基金
キャスト
[主な出演者・団体]
財団法人 神奈川県動物愛護協会
千葉県動物愛護センター
神戸市動物管理センター
徳島県動物愛護管理センター
社団法人 日本動物福祉協会 CCクロ
SWEET HEART 動物の命の大切さを考える部
前川博司(元日本動物愛護協会附属動物病院長)
マルコ・ブルーノ
小西修・美智子
山本央子
藤本聖香
Dogs Trust
Battersea Dogs & Cats Home
Animal Aid
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