原題:REDACTED

信じるな、自分の目で見ろ。

2007年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞[最優秀監督賞]受賞 2007年テルライド映画祭正式出品 2007年トロント国際映画祭正式出品 2007年ニューヨーク映画祭正式出品

2007年/アメリカ、カナダ/カラー/90分/ 配給:アルバトロス・フィルム

2009年03月06日よりDVDリリース 2008年10月25日、シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー

公開初日 2008/10/25

配給会社名 0012

解説



イラクで何が起こっているのか、私たちは本当に知っているのだろうか?
巨匠ブライアン・デ・パルマの怒りと哀しみが、新たな問題作となって結実した!
 ブライアン・デ・パルマの『リダクテッド 真実の価値』は、2006年にイラクで実際に起こった衝撃の事件—米兵による14歳の少女レイプおよび彼女を含む家族4人惨殺事件—を題材に、哀しみと怒りをもって戦争の残虐性を直視した渾身の野心作である。その挑戦的なテーマと斬新な撮影方法で、2007年ヴェネチア国際映画祭に大きな衝撃を与え、賛否両論の嵐を巻き起こした末に、優秀監督賞である銀獅子賞に輝いた。
『カジュアリティーズ』(89)でベトナム戦争での集団強姦殺人を描いたデ・パルマが、「映像こそが戦争を止める」という信念のもと、9.11以降、主流と異なる意見が排除されがちな空気や圧力が蔓延するアメリカを相手に、ここに新たな挑戦状を叩きつけた。
それは、今なお繰り返される嘆かわしく残酷な戦争の実態を伝える以上に、私たちに届けられている報道のあり方を問いかけてくる。

ドキュメンタリーを越えた“リアル”
あらゆる映像を駆使したフィクショナル・ドキュメンタリー
『リダクテッド 真実の価値』は、斬新な手法によって語られるフィクショナル・ドキュメンタリー。HDビデオによって撮影されたドキュメンタリーと見まがう複数のフィクション映像を用い、それらを組み合わせることで“真実”に肉迫する。
 映画の柱となるのは、兵士が撮影したプライベート・ビデオの映像。そこに映し出されるのは、若い兵士たちの日常であると同時に、悲惨な事件を引き起こすに至るひとつの“物語”である。その“物語”は、フランスのドキュメンタリー、アラブ系TVやヨーロッパのTVニュース、従軍記者の取材映像素材、武装派集団によるネット上の映像、YouTube、兵士の家族のチャット、軍の監視カメラの映像等々、現代に溢れる様々なフォーマットや異なる視点を持つ様々な映像の引用によって、立体的に語られてゆく。これらの映像は時に目を覆いたくなる程に生々しく、リアルに戦場の空気を伝えてくるが、実はすべて役者によって演じられ緻密に演出されたフィクションである。
兵士たちは何故誤った行動を起こすに至ったのか?その過程を覗き見する感覚で、私たちは彼らの、そして被害者たちの地獄を共にする。フィクショナル・ドキュメンタリー『リダクテッド 真実の価値』は、ドキュメンタリーを越えた “リアル”さを持って私たちに迫りくる。それは、何が“リアル=現実”なのかという逆説的な疑問を投げかけてくるのである。

戦争よりも恐ろしいこと、それは真実のリダクテッド(削除編集)だ。
「イラクではマス・メディアは政府の広告塔に成り下がった」と嘆くデ・パルマ。実際のレイプ殺人事件は、やがて明るみに出て、アメリカ国内外で報道されたものの、この事件がはらむ真の地獄や映像、この事件にとどまらぬイラクの惨状は、マス・メディアの報道では伝わってはいない。本作のラストでは、戦争で殺され、傷つけられたイラクの民間人たちの本物の写真が何枚も映し出される。黒く塗りつぶされた彼らの目は、訴訟を回避するために映画会社がデ・パルマに強制したもの。つまり、本作自体がリダクト(削除編集)されていると言う皮肉がここに存在する。「虐げられた人々の顔を尊重することもできない」と憤りながらも、デ・パルマは本作をもってして、リダクト(削除編集)されるというのはどういうことかを訴えている。そして、情報が報道機関を通して私たちに伝わる時「表現方法やイメージによって、見る側の思想や意見がいかに影響されるか」という新たな問題までをも生み出してくる。
映画の中で浮かび上がる“真実”をどう捉えるのか?何を信じるべきなのか?自分の目はそれを見極められるのか?そもそも戦争は“真実”を知らないことが引き起こす悲劇なのではないか?ということを、映画は主張しているのだ。

声なき声が、胸に突き刺さる…
『アンタッチャブル』(87)『ミッション:インポッシブル』(96)『ブラック・ダリア』(06) など次々と話題作を放ってきた監督ブライアン・デ・パルマ。アメリカの神経を逆撫でするような題材で挑んだ本作で、アメリカ人が最も嫌うアメリカ人となってしまった。しかしこれこそが暴れ馬デ・パルマの面目躍如といえるかもしれない。
デ・パルマが創造したキャラクターはいずれもリアルである。凶暴性を秘めたフレーク、弁護士の職を持つ良識家のマッコイ、ハリウッドを夢見るサラサール、興味は「ファック」のラッシュ、文学青年のゲイブ…。長篇映画出演経験のほとんどない若い俳優たちの自然な演技によって体現される、まさにリアルな人間たち。映画は、彼らに寄り添いながら、惨劇への急降下を冷徹に見つめる。
フランスのドキュメンタリー・フィルムとして撮影されたシーンのBGMで流れるのは、ヘンデルの「サラバンド」。スタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』(75)で、死の予兆や死と隣り合わせの苛立ちを際立たせたこの繰り返しの旋律は、本作においても苛立ちや怒りを引き起こす巨大な退屈の象徴として効果的に挿入されている。
映画は、兵士の魂を腐敗させる戦争、罪なき人々の命を軽視する戦争への怒りに満ちている。そして、何より哀しみを感じさせるのは、イラクの被害者たちの声なき声だ。

<Redacted>
タイトルのRedactedとは、「編集済み」を意味する言葉。
告訴に繋がり得る、「取り扱い注意」の情報が削除された文書や映像を指す。刺激的な情報を文書、例えば兵士の手紙などから削除することを意味する法律用語。

ストーリー



2006年4月。イラク、サマラの米軍駐留地。
 雑然とした兵舎で、メキシコ系のサラサールが、仲間達にカメラを向けている。彼は、ビデオ・ダイアリーを撮影して映画学校に入学するという目論みから兵役に志願した。ビデオに写るのは、故郷に妻を残して入隊した弁護士のマッコイ、「ファックと戦闘」に目がない貧しい南部出身のフレークとラッシュ、文学青年のゲイブ等、いずれも若い兵士たち。伍長のマッコイは、「この中で誰かが死ぬ。それが現実ってもんだ」と語るが、彼らの任務地は検問所であり、戦場でも撮る気のサラサールにとって、大した映像が撮れていないことが不満だった。
 検問所の兵士は、自爆テロや狙撃の格好の標的だ。彼らは、暑さのなか、55Kgの装備の重みと、緊張のなかの退屈に耐えながら立ち続ける。減速の指示を無視して、猛スピードで走り込んできた一台の車。必死に止めようとする兵士達。と、あっけなく、フレークの銃が火を噴いた。“停止線を越えた車は、検問所を自爆テロで攻撃するとみなし”たのだ。だが、乗っていたのはテロリストなどではなく、産院へと急ぐイラク人の妊婦とその兄だった。撃たれて血に染まった妊婦は、病院での手当もむなしく死亡した。(この2年間で検問所で殺された2000人のイラク人のうち、“敵”は60人だけだという‥)
 兵舎で、フレークが、サラサールの“取材”に答える。「任務を遂行しただけさ。人を殺したらビビると思ってた。でも魚を殺した程度だ。」
 それを聞いたマッコイは、「自分の女房が妊娠していると考えろ!」とフレークに怒りをぶつける。
 6月末。彼らの駐留はいつ終わるとも知れず、新たな作戦に参加することも、帰国することもできない。死と隣り合わせの検問所の横では、地元の少年達がサッカーで遊ぶ日常的光景が繰り広げられている。だが、そこにも安全はない。瓦礫の散乱する一角に近づいたフレークとロジャーの不用意さを警告し、2人の安全を確保した曹長のスイートは、次の瞬間、捨て置かれたボールに仕掛けられた爆弾で壮絶な死を遂げた。
曹長の爆死を目の当たりにしたフレークは、恐怖と怒りから生来の過激性を露にしてゆく。「俺たちも殺される。9.11みたいに」「ジハード好きな野郎を吹っ飛ばすぜ!」ロジャーもフレークに呼応するように興奮を募らせる。
 ある夜、彼らは、「戦争遂行に役立つ証拠」捜索の任務で、一軒の家に踏み込む。読めもしないアラビア語の書類を証拠とみなすロジャー。泣き叫ぶ家族達の前で、抵抗もしない男に頭巾をかぶせ、逮捕するマッコイやゲイブたち。
 検問所は子供たちの通学路になっている。逮捕された男の娘2人は、毎日、検問所を通って学校に通っていた。下心のあるロジャーは、15歳の姉の身体チェックにますます入念になる。
 7月。フレークは、カード遊びを楽しみながら酒に酔った眼で、「娘の家へ押し入ろう。先手を打ちに行くんだ。女こそ戦利品だ!」と言い出す。その“遠足”を撮影したいという欲望から、同行を決めるサラサール。マッコイの伍長としての権威も、良識も、彼らの異様なテンションの前では無力だった。彼は、「兵士たちの安全を守るため」という自己弁護のもと、一緒に赴くことになる。
 その夜、装備をつけ、「大量破壊兵器を捜すんだ!」とわめくフレークとロジャーを先頭に、サリーとマッコイは、少女の家へと向かった。

スタッフ

監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ
プロデューサー:シモーン・アードル、ジェニファー・ワイス
編集:ビル・パンコウ
撮影監督:ジョナサン・クリフ
プロダクション・デザイナー:フィリップ・バーカー

キャスト

パトリック・キャロル
ロブ・デヴァニー
イジー・ディアス
タイ・ジョーンズ
ケル・オニール
ダニエル・スチュワート・シャーマン

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