原題:MEIN FUEHRER

2007ローラ賞(ドイツ映画賞) 最優秀助演男優賞ノミネート(ジルヴェスター・グロート) 2007サンフランシスコ・ユダヤ映画祭 表現の自由賞受賞 2007モスクワ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品 2007モントリオール世界映画祭正式出品作品 2007バルティック・パール映画祭正式出品作品 2007コペンハーゲン国際映画祭正式出品作品 2007ドイツ映画祭パリ正式出品作品 2007ワルシャワ国際映画祭正式出品作品 2008 ドイツ批評家協会賞 最優秀男優賞 (ウルリッヒ・ネーテン)

2007年/ドイツ/カラー/95分/ 配給:アルバトロス・フィルム

2009年04月24日よりDVDリリース 2008年9月6日(土)より、Bunkamuraル・シネマほかにて全国順次ロードショー

公開初日 2008/09/06

配給会社名 0012

解説



〈史実をベースにした新たな視点で、独裁者ヒトラーを描く衝撃と感動のヒューマン・ドラマ〉

 1944年12月、連合軍との戦いに疲弊しきったナチス・ドイツの命運は、もはや風前の灯火だった。宣伝相ゲッベルスは来る新年の1月1日に、ヒトラー総統の大演説によって国威を発揚する起死回生の計画を思いつく。しかし肝心のヒトラーは鬱状態で、執務室に独りで引きこもっている有様。わずか5日間でヒトラーに全盛期のカリスマ性を取り戻させるという困難な任務を託されたのは、元俳優のユダヤ人教授だった……。
 数々の映画祭に出品され、本国ドイツで大ヒットを記録した『わが教え子、ヒトラー』は、悪名高き独裁者アドルフ・ヒトラーの人物像を新たな視点で掘り下げた話題作である。世界的な大反響を呼び起こした『ヒトラー 〜最期の12日間〜』、アカデミー外国語映画賞を受賞した『ヒトラーの贋札』などを例に挙げるまでもなく、21世紀の今もナチスとヒトラーは歴史映画の重要なモチーフであり、語られるべき多くの真実が未だに眠っている。その流れを汲む『わが教え子、ヒトラー』は、“ヒトラーに演説指導した人物が存在した”という驚くべき史実にアイデアを得て、巧妙なフィクションを織り交ぜた衝撃と感動のヒューマン・ドラマだ。

〈ドイツ映画史上においてセンセーショナルな皮肉とユーモア、知性に満ち溢れた問題作〉

 政治家にとって言葉は命。類い希なスピーチの才能によって民衆を熱狂させ、強大な権力者にのし上がってきたヒトラーにとってはなおさらである。そんなヒトラーが第二次世界大戦末期には病に苦しみ、精神的に不安定だったことも歴史上の事実。自らオリジナル脚本を執筆したダニー・レヴィ監督は、ゲッベルスからヒトラーの再生を命じられた“教師”を何とユダヤ人に設定し、意外性抜群で鋭い皮肉のこもったストーリーを映画化した。
 ちなみに『イカれたロミオに泣き虫ジュリエット』『ショコラーデ』などで知られるレヴィ監督自身もユダヤ人。ヒトラーを描くにあたっては神経質にならざるを得ないドイツ映画界において、本作ほどヒトラーをユーモラスかつ“人間味豊か”に表現してみせたセンセーショナルな作品は史上初であろう。宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルス、軍需大臣アルベルト・シュペーアらのナチス最高幹部、愛人エファ・ブラウン、さらにはヒトラーの愛犬ブロンディまでも交えた群像劇が、スリルとブラックユーモアたっぷりに展開。型破りなアプローチで歴史の本質に迫ったレヴィ監督の演出は、大胆かつ繊細に冴え渡り、観る者の知的好奇心を刺激する快作に仕上がっている。

〈『善き人のためのソナタ』のウルリッヒ・ミューエが“ヒトラーの演説指導者”を体現〉

 幼少期のトラウマを告白して孤独で惨めな姿をさらし、暗殺の恐怖にうろたえるヒトラー。そうした独裁者の意外な一面のみならず、彼への1対1のセラピーを行う演説指導者グリュンバウムのキャラクターもこのうえなく興味深い。ユダヤ人のグリュンバウムにとって、当然ヒトラーは最も忌むべき憎悪の対象だ。心の壊れかけた無力なヒトラーを殺すチャンスは、今まさに目の前に転がっている。しかし最愛の妻と子供たちを強制収容所から救い出すためには、ナチスへの忠誠を尽くさねばならない。その激しい葛藤の果てに訪れる壮大なクライマックスの演説シーンで、グリュンバウムはいかなる行動に打って出るのか−−。これは家族と同胞のユダヤ人のために、ナチスへの抵抗を貫いた男の人間愛の物語。グリュンバウムが決死の思いでたどる壮絶な運命に、心揺さぶられぬ者はいないだろう。
 そして主演を務めるのは、数々の映画賞に輝いた大ヒット作『善き人のためのソナタ』で絶賛された旧東ドイツ出身の名優ウルリッヒ・ミューエ。迫害されるユダヤ人の悲哀を滲ませながらも、家族を深く慈しみ、ヒトラーやゲッベルスと力強く渡り合うグリュンバウムを、静かな気迫をこめて体現した。これが惜しくも遺作となったミューエの入魂の名演技を、しっかりと胸に刻んでおきたい。

ストーリー



 1944年12月25日、ナチス・ドイツは連合軍との戦いに相次いで敗れ、完全な劣勢に陥っていた。そんな国家存亡の危機にナチスきってのアイデアマンである宣伝大臣ゲッベルスは、ある名案を思いつく。来る1945年1月1日、ヒトラー総統の演説の場をベルリンに設け、100万人の市民を前にした雄々しいスピーチを何台ものカメラで撮影。それをプロパガンダ映画に仕立ててドイツ中で上映し、国民の戦意を劇的に高揚させようというのだ。すでにベルリンの街は廃墟と化していたが、たいした問題ではない。建築家でもある軍需大臣シュペーアが巨大なオープンセットを造り上げ、ヒトラーのパレードを盛り上げる手はずになっていた。ところがこの計画には大きな問題があった。肝心のヒトラーが心身を病んで自信喪失しており、とてもスピーチなどできる状態ではなかったのだ。
 ヒトラーをわずか5日間で再生するための教師として、ゲッベルスが白羽の矢を立てたのはアドルフ・グリュンバウム教授だった。戦前には世界的なユダヤ人俳優として名を馳せたグリュンバウムは、かつてヒトラーに発声法を指導した実績があり、総統の内にくすぶる執念を甦らせるには最適の人物と見込んだのだ。ゲッベルスのアイデアは膨大な事務手続きを経て遂行され、グリュンバウムはザクセンハウゼン強制収容所からベルリンの総統官邸へと移送された。ハムとチーズのサンドイッチを与えられ、ゲッベルスと対面したグリュンバウムは自らが置かれた皮肉な状況に戸惑いを隠せなかったが、収容所に残された妻エルサや4人の子供と一緒に暮らせることを条件に、困難な任務を引き受けることにする。愛する家族を救うには、それ以外の選択肢はない。しかし同胞のユダヤ人のことを思えば、これは憎きヒトラーを殺す千載一遇の機会でもあった。
 トレーニングの初日、グリュンバウムはヒトラーを運動着に着替えさせ、彼の体をほぐすことから始める。しかしいきなりハプニングが起こった。ボクシングのポーズをとり、ユダヤ人を侮辱する言葉を発したヒトラーを、ついパンチでノックアウトしてしまったのだ。執務室の様子は隣室のゲッベルス、シュペーア、ヒムラーらの幹部がマジックミラー越しに監視していたが、意識を取り戻したヒトラーからは何のお咎めもなし。ほっと胸をなで下ろしたグリュンバウムは、次にヒトラーをソファに寝かせ、心理セラピーを開始する。ヒトラーは父親に抑圧された幼少期を思い出し、涙を流すこともあった。ふとしたスキに凶器を手にしたグリュンバウムは独裁者の殺害を試みるが、トラウマに取り乱すヒトラーの哀れな姿を目のあたりにして実行を思いとどまる。
 グリュンバウムの指導の効果で、ヒトラーに復活の兆しが見え始める。グリュンバウムはこの重責に見合う新たな報酬として、ゲッベルスにザクセンハウゼン収容所の同胞たち全員の解放を要求。ゲッベルスはそれに激怒し、グリュンバウムと家族を収容所に送り返してしまう。しかしグリュンバウムのことをすっかり気に入っていたヒトラーは、教師の交代を断固として受け入れず、ゲッベルスはしぶしぶグリュンバウムを総統官邸に呼び戻すはめになった。ヒトラーの全幅の信頼を得たグリュンバウムは、まるで催眠術師のように彼を自在に操り、トレーニングの追い込みをかけていく。
 かくしてヒトラーは見違えるように最盛期を彷彿とさせる威光を取り戻したが、演説を翌日に控え、思わぬトラブルが発生した。メイク担当の女性が誤ってヒトラーの髭を半分剃り落としてしまったのだ。自慢の髭を失ったヒトラーは激しく動揺し、失語症に陥ってしまう。ここでも頼れる存在はグリュンバウムだった。グリュンバウムがステージの下に身を隠して演説原稿を読み上げ、ヒトラーが口パクで聴衆にアピールするという段取りが急遽整えられる。しかし演説当日、グリュンバウムはヒトラーさえも想像しない驚くべき行動に出るのだった……。

スタッフ

脚本・監督:ダニー・レヴィ
プロデューサー:シュテファン・アルント
エグゼクティブ・プロデューサー(WDR):バルバラ・ブール
エグゼクティブ・プロデューサー(ARTE):アンドレアス・シュライトミュラー
エグゼクティブ・プロデューサー(BR):ベッティーナ・ライツ
エグゼクティブ・プロデューサー:マルコス・カンティス
ライン・プロデューサー:ペーター・ハルトヴィヒ
撮影:カール-F・コシュニック
撮影・セット撮影:カーステン・ティーレ
プロダクション・デザイナー:クリスティアン・アイゼレ
セット&VFXスーパーバイザー:フランク・シュレーゲル
美術:ダリウス・ガナイ
衣装:ニコル・フィッシュナラー
メイク:グレゴアー・エックシュタイン、ジャネット・ラッツェルスベルガー
サウンドエンジニア:ラウル・グラス
ミキシング:フーベルト・バートロメ
編集:ペーター・R・アダム
オリジナル音楽:ニキ・ライザー
キャスティング:ジモーネ・ベアー

キャスト

ウルリッヒ・ミューエ
ヘルゲ・シュナイダー
ジルヴェスター・グロート
アドリアーナ・アルタラス
シュテファン・クルト
ウルリッヒ・ネーテン
ランベルト・ハーメル
ウド・クロッシュヴァルト
トーステン・ミヒャエリス
アクセル・ヴェルナー
ヴィクトアー・シェーフェ
ラース・ルドルフ
ヴォルフガング・ベッカー
ベルント・シュテーゲマン

<ゲスト出演>
イリヤ・リヒター
カティヤ・リーマン
メレット・ベッカー
マリオン・クラハト
ティム・フィッシャー

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