音符と昆布
2008年/日本/カラー/75分/ 配給:エピックレコードジャパン
2008年1月26日よりシネマート六本木他全国順次ロードショー
©2007「音符と昆布」製作委員会
公開初日 2008/01/26
配給会社名 0862
解説
—今朝、見ず知らずのお姉さんが訪ねてきました。
お姉さんは、火星人でした。
作品を重ねるごとに注目度を高めてきた、
映像と音楽の新たなカタチを創造する “cinemusica (シネムジカ)”シリーズ、
待望の第4弾がついに完成!
一見ごくフツーの女の子にみえるけれど、大きな負い目を2つ抱える小暮もも。ひとつはお母さんがいないこと。そしてもうひとつは、嗅覚がないこと。「可能性はけっしてゼロじゃない」とフードコーディネーターとして働いている。フツーの人よりも、フツーの人には分からない分、努力を重ねてなんとか生きのびてきたこれまでの人生。傷ついても、手当てしようなんて思わない。それは傷ではないと自分に言い聞かせて前へ進んできたのだ。そんな彼女を襲った「マーズ・アタック」級の一大事が、意外にも彼女を大きく変えていく。─突然訪ねてきた、生まれて初めて出会う実の姉・かりん。姉がいることすら知らなかったももは戸惑う。だけどさらに戸惑ったのが、まったく理解不能な「火星人」のようなお姉さんだということ。実は、かりんは自閉症のひとつのタイプである「アスペルガー症候群」なのだ。コミュニケーションというキャッチボールが苦手、規則的なものに対して異常なまでに執着する…など社会で生きづらい障害を持つかりん。一方通行の関係に苛立ちと失望を繰り返しながらも、やがてももは、すべてを受け入れようと覚悟を決め、かりんをぎゅうっと抱きしめた─。
観るもののこころを優しく包み込む、欠陥を抱える愛すべき姉妹の愛の物語。
リアリティを追い求めた、唯一無二のキャスティングが実現
本作が心に触れる作品になるか否かは、小暮姉妹の姉で、アスペルガー症候群という運命を背負うかりんを演じる女優にかかっていると言っても過言ではなかった。この難役に抜擢されたのは、『ジョゼと虎と魚たち』、『ストロベリーショートケイクス』などで実力派女優として進化し続ける、池脇千鶴。当初、井上春生監督は綿密な演出プランを練って現場に臨んだが、池脇の存在感に圧倒され、大きな賭けに出た。それは、彼女に限りない自由を与えること。そして、そんな存在こそ小暮家にとってのかりんに他ならない。スクリーンに収まりきらないほどに、かりんをいきいきと魅力的に演じ、なおかつ物語に深いリアリティを与えることに成功している。
一方、かりんと好対照をなす、妹・もも役に『NANA2』で一躍若手人気女優の仲間入りを果たし、進境著しい市川由衣。実は池脇より前にこの役に決定していたのが市川だった。もものイメージそのままに、一見イマドキのキュートなルックスでありながら、内面に今にも壊れそうな繊細さを覗かせる、稀有な持ち味をいかんなく発揮。抑えた繊細な演技で、悩めるももを見事に演じきった。
ももの恋人で、劇団詐欺師の脚本家・箭内聡役に『きみにしか聞こえない』の若手注目株、石川伸一郎。ともすれば重くなりがちな物語にコミカルな味を加えている。
また、母親・妙子役に、元国際線の客室乗務員で、現在はタレント、エッセイストとして幅広く活躍する、島田律子。自閉症の弟について綴った「私はもう逃げない〜自閉症の弟から教わったこと〜」に感銘を受けた井上監督たっての希望で出演が実現した。かりんに振り回されて鬱屈とした妙子を、感傷的にならず率直に淡々と演じ、少ない登場シーンながら強い印象を残す。そして父親で、作曲家の浩二役に宇崎竜童。ミュージシャンの他に、俳優としても引っ張りだこの宇崎が、抜群の存在感で脇を固める。
音楽プロデューサー 松尾潔 × CHIX CHICKS
今回は、平井堅やCHEMISTRYのプロデュースで知られるヒットメーカー・松尾潔が音楽プロデューサーを担当。井上監督と歌詞や楽曲について話し合いを重ね、物語の世界観を重層的に紡ぎだす瑞々しい楽曲を作り上げた。歌うのは、女性6人からなる実力派ガールズコーラスグループ、CHIX CHICKS(チックス チックス)。松尾が生みの親となり、結成当初よりプロデュースしてきた逸材だ。〝女性コーラスグループ〟というジャンルを新たに仕掛け、ミュージックシーンに旋風を巻き起こす。挿入歌の「Blue Love Letter」はカラフルなポップスで姉妹の心模様を鮮やかに映し出し、ラストを盛り上げる主題歌「Soul Mate」はじんわりとぬくもりを感じさせ、物語の余韻を長引かせる名曲だ。
ストーリー
駆け出しのフードコーディネーター・小暮もも(市川由衣)は、古びた大きな木造の一軒家に父親・浩二(宇崎竜童)と二人で暮している。幼いころに両親は離婚して母親はいない。作曲家の浩二も多忙で家を空けることが多く、いつもひとりぼっちだ。これがフツーなんだとずっと思っていたが……。
その日も、浩二は映画音楽の録音でパリへ出かけて不在だった。
恋人の劇団詐欺師の脚本家・箭内聡(石川伸一郎)を呼んで一夜を過ごし、朝ごはんの準備をしていたももは、突如きなくさい予感がする。何かが起こる……!そしてその予感は見事に的中した。呼び鈴が鳴って扉を開けると、見たことのない若い女性が立っている。身の回りの物一式を詰めこんだトランクを抱え、目線がおぼつかない。渡されたメモを見ると、ここの住所と「困ったときはここを訪ねる・妹のももがいる・父より」と書いてある。そして、この女性(池脇千鶴)は「小暮かりん、25歳です」と名乗った。
開口一番「昆布茶漬けを頂ければと思います」と言い出すかりん。だが奇しくも朝食のメニューは昆布茶漬け。昨日から何も食べていないと言い、あっと言う間に平らげた。さらに干し椎茸の戻し汁をいれるとなおおいしいとアドバイスする始末だ。
ももは、さっそく浩二にメールで問いただした。姉がいるなんてはまったく聞かされていない。だが戻ってきたメールは、浩二らしいいい加減そのもの。かりんは紛れもなくももと同じ遺伝子を持つ姉で、「かりんは、百聞は一見にしかず、まずは体験しなさい」と突き放されてしまう。「脳卒中で倒れた母に、救急車を呼ぶことを知らない、そんな姉さんだ」と。母親が亡くなっていたことも初耳だった。
かくして、かりんともも—小暮姉妹のまったくかみ合わない共同生活が始まった。
かりんは火星人と同じくらい、理解不能な女の子だった。
言葉を交わしても、会話が成立しない。滔々とウンチクを語る。散らかっていた部屋のあらゆる小物を、几帳面に色分けし整頓するという具合だ。廊下に紐を渡すと、持参してきた大量のポラロイド写真を吊るしたりしている。どれも街灯の写真だが、かりんにとっては「音符」なのだという。どうやら1枚欠けている街灯の写真を捜すためにこの家に来たようだが……。
社会のフツーをはるかに超えているかりんに、ももは振り回されっぱなし。ついにイライラが限界に達したももは、かりんが作った干し椎茸の戻し汁を目の前で流しに捨ててしまう。すると、かりんは悲鳴をあげて発作を起こした!
かつてかりんが母親・妙子(島田律子)と二人で暮していた幼い頃、脳卒中で倒れた妙子をかりんが発見したのは、亡くなってしばらく経ってからだった。大理石のようになって動かなくなった母親を前に、かりんは途方に暮れて見ていることしかできなかった。そんな辛い事件が干し椎茸の戻し汁を捨てた後に起こったため、かりんのなかで固く結びついてしまったのだ。
ももは、浩二からかりんが自閉症のひとつのタイプである「アスペルガー症候群」だと明かされた。同情したいところだが、ももにそんな余裕はない。彼女もまた「嗅覚がない」という欠陥を抱えているからだ。「可能性はけっしてゼロじゃない」とあえてフードコーディネーターとして働き、努力を重ねてなんとか生きのびてきた。その苦労を分かったような口を聞くかりんに、またイライラしてしまうもも……。
だが、かりんが暮している福祉施設からかりん見あたらないと連絡が来たとき、ももは思わず「知らない」と答えていた。心の奥底で、なにかがゆっくりと変化していた。
かりんが来た翌日の朝、ももとかりんは並んで顔を洗った。かりんは、ももの鼻が利かなくなったのは自分のせいであること、そしてお詫びをしたいという。ようやく、ももはかりんがここにやって来た理由に気付く。音符のポラロイド写真を一生懸命捜していたのは、子守唄を完成させてももに聞かせてやりたいという一心からなのだ。「ワタシのたったひとりの妹ですから」と言ったかりんの言葉は、どこまで意味を分かって言ったものなのかは分からない。だが、ももの目にじんわりと涙が溢れた。
予定を早めて浩二が帰国してきた。
さっそく浩二を責めるもも。危険な世間から守りたいという妙子の希望があったとはいえ、なぜ二人を引き離し、かりんを福祉施設に入れたのかと。死ぬまで身近にいることが一番辛いことかもしれない。でもそれを引き受けるのが家族ではないのか。
ついに例の無くなったポラロイド写真の撮影場所が明らかになった!それは、ももとかりんがまだ幼いころ一緒に暮していたときに住んでいた家の前の景色だ。そこはもうすでに更地になって街灯は撤去されているが……。
なんとか奇跡を起こしたい、かりんのために。自分のために。
ももが思いついた奇想天外な計画とは—。
スタッフ
監督・脚本:井上春生
撮影:中村夏葉
キャスト
池脇千鶴
市川由衣
石川伸一郎
島田律子
宇崎竜童
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