2007年/日本/カラー/48分/ 配給:幻冬舎×東映アニメーション

2007年8月11日(土)〜8月24日(金)、【追加上映】アップリンクXにて連日 13:00ロードショー 2007年7月7日(土)〜7月20日(金)、アップリンクXにてレイトロードショー

© ZAKURO PROJECT/TOEI ANIMATION CO.,LTD.

公開初日 2007/08/11

公開終了日 2007/08/24

配給会社名 0847/0854

解説



「人間喜劇」 × 「映画」

 89編の小説、2000人以上の登場人物によってバルザックが構築した巨大な作品群「人間喜劇」より、新鋭深田晃司監督は「ざくろ屋敷」と「二人の若妻の手記」という二つの物語を機軸に据えて、絵と音を慎重に構成しながら、単なる文芸作品に止まらない映画世界を作り上げることに成功した。
 ここでは、静止画を中心にドラマを形作る禁欲的な表現手法のもと、古典技法による緻密な絵画が観る者の想像力を捲き込みながら、映画にしかなしえない空間と感情の持続が試みられている。静の時間が、ごく密やかに動へと転じていくその演出は、光への詩情あふるる配慮とあいまって、見る者の心を奪うだろう。

「人間喜劇」 × 「テンペラ画」

 「知られざる傑作」という短篇の中で展開されるバルザックの絵画論に着想を得、画家深澤研はそこで語られる絵画の二つの方式、「素描」と「色」を融合するために、西欧絵画の原点といえるテンペラと油彩の混合技法を用い、単なる物語説明を超える絵画世界を作り上げた。
 テンペラによって形態、つまり骨格を形作られ、油彩によって色彩、つまり生命を与えられた絵画たちは、19世紀初頭フランスにおける芸術の二大潮流である新古典主義(素描の様式)とロマン主義(色の様式)、そしてその後に続く現実主義、印象派に至るまでの美術史への確かな目配せを感じさせながら、その緻密な素描と清新な色彩により実に多様な表情を見せてくれる。
 母子の幸せな日々を綴る序盤における柔らかなタッチは、母の病の進行に呼応するかのように細緻さを増していき、安易な感傷を拒否する硬質なリアリズムへと変容していく。見る者の凝視を誘わずにはいられないその筆致は美しく、ロワール地方の光線をスクリーンに甦らせていく。

「人間喜劇」 × 「劇団青年団」

 声優には、「静かな演劇」の旗手であり、海外における評価も目覚しい劇団青年団(平田オリザ主宰)の俳優達を起用。映画・テレビでも活躍する志賀廣太郎、青年団創設期からのベテランでミュージシャンとしても活動するひらたよーこ、若手からは堀夏子に山口ゆかりと、実力派が参加している。監督と俳優たちは、お互いのイメージを擦り合わせながら半年間にわたり稽古を重ね、時空間の交錯する「ざくろ屋敷」の対話世界を具現化していった。その「声」たちはポリフォニックに構築され、静謐な画面にかけがえのない「時間」を刻みつけていく。

「人間喜劇」 × 「古楽」

 この映画において、音楽はただのBGMではない。19世紀フランスの母子の生活をスクリーンに再構築するための重要な要素のひとつとして音楽は捉えられ、徹底的なこだわりが施されている。演奏には全てクラヴィコードやフォルテピアノ、ミュゼットなど、バルザックの生きた当時に実在した古楽器が使用され、古楽器奏者として名高い上尾直毅を中心に、前田りり子、荒木優子ら古楽のエキスパートが録音に参加している。上尾直毅の奏でる、イギリスのモーツァルトと呼ばれ21歳で夭折した天才作曲家ジョージ・フレデリック・ピントの『ピアノのためのグランドソナタハ短調』第2楽章は必聴の名演である。
 また、ソプラノ歌手鈴木美紀子の歌う主題歌「A la claire fontaine(澄んだ泉で)」は、「ざくろ屋敷」の舞台となるトゥーレーヌ地方に古くから伝わる民謡で、ラディカルな映画作家として多くの傑作を残したマルグリット・デュラスがその著作「ヤン・アンドレア・シュタイナー」の中で引用していることでも知られている。

「人間喜劇」 × 「ざくろ屋敷」

 監督と画家は、フランスに今なお現存する「ざくろ屋敷」を実際に訪れ、世界的にもほとんど前例のない「ざくろ屋敷」内部の取材に成功した。帰国後、文芸監修に仏文学者鹿島茂氏を迎え、綿密な考証と取材写真をもとに、バルザックの愛したこの館を正確に再現し、甦らせた点も注目である。

ストーリー



19世紀フランス、ロワール河近くの丘隆地帯に建つ「ざくろ屋敷」に、ある日、謎めいた夫人とふたりの男の子が移り住んできた。母子は、屋敷から離れず、密やかな生活を営んでいる。街の人々は美しい夫人の素性について噂をするが、誰もその過去を知ることは出来ない。
 静かな、3人だけの美しい日々が季節と共に過ぎていく。しかし、ロワールの光に満ちたその生活には、常に不安の影が差していた。ある逃れられない病気から、夫人には死にゆく時が刻一刻と近づいていたのだ。

スタッフ

原作:オノレ・ド・バルザック
文芸監修 :鹿島茂
脚本・監督:深田晃司
絵画・美術:深澤研
音楽・演奏:上尾直毅
プロデューサー:北崎広実、竹本克明、宮田三清
アシスタント・プロデューサー:田中仁、光岡良介
編集:深田晃司、平田健
MAオペレーター:村上浩
制作デスク:市川高穂
編集協力:長野徹志、金子知加
取材協力・通訳:山崎恭宏
資料撮影:原絵美
制作助手:上村久美、河本雪野、藤井光
特別協力:Pierre et Eliane Blot 、Claude Blot 、Roland et Marie-Louise de Mieulle 、Jean-Francois de Mieulle、水野峻、水野堯
協力:谷本道昭、藤田誠広、Philippe Chatelain 、Thomas Humeau 、久志利津男、劇団青年団、(有)レトル、アクティブ・シネ・クラブ、鹿島茂事務所、カトリック中央協議会
制作協力:アトムエックス
制作:ウィズ
製作:東映アニメーション

キャスト

ガストン:志賀廣太郎
ブランドン夫人:ひらたよーこ
ルイズ:堀夏子
ルネ:山口ゆかり
ピロトー師:平林冬樹

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