原題:Million Dollar Baby

本年度アカデミー賞 7部門ノミネート! 作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・助演男優賞・脚色賞・編集賞 ゴールデングローブ賞2部門受賞! 最優秀監督賞、最優秀主演女優賞・ドラマ部門

本国イギリスにて、2005年1月14日公開

2004年/アメリカ/133分/カラー/DTS /ドルビーデジタル/ SDDS 日本語字幕:戸田奈津子 配給:ムービーアイ、松竹

2005年10月28日よりDVDリリース 2005年5月28日、丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にてロードショー公開

(C)2004 Lakeshore International. All Rights Reserved.

公開初日 2005/05/28

配給会社名 0366/0003

解説



 全米中にわき上がる絶賛の声。アカデミー賞2部門に輝く『ミスティック・リバー』から1年、ハリウッドの頂点を極めたクリント・イーストウッドのまぎれもない最高傑作が、いまここに誕生した。
 ゴールデン・グローブ賞の監督賞と主演女優賞の受賞に続き、本年度アカデミー賞では、作品・監督・主演男女優・脚色など、主要7部門にノミネート。「本年度のNO.1」(NYタイムズ)、「イーストウッドの最も感動的でエレガントな映画」(LAタイムズ)と、全米中のメディアの絶賛を浴びた本作は、実の娘に縁を絶たれた初老のトレーナーと、家族の愛に恵まれない女性ボクサーのあいだに育まれる崇高な絆の物語を、慈しむようなまなざしでみつめたヒューマンドラマ。ラスト30分、とめどなく流れる涙を、誰も抑えることはできない。そんな心に染みわたるような感動を、見る者の胸に深く刻みつける珠玉の名編だ。

 トレーラー育ちの不遇な人生の中で、自分がひとつだけ誇れるのは、ボクシングの才能だけ。その思いを胸に、ロサンゼルスへやって来た31歳のマギー。彼女は、名トレーナーのフランキーに弟子入りを志願するが、フランキーは「女性ボクサーは取らない」と言ってマギーをすげなく追い返す。だが、これが最後のチャンスだと知るマギーは、フランキーのジムに入会し、黙々と練習を続ける。そんな彼女の真剣さに打たれ、ついにトレーナーを引き受けるフランキー。彼の指導のもと、めきめきと腕をあげたマギーは、試合で連覇を重ね、瞬く間にチャンピオンの座を狙うまでに成長。同時に、ふたりのあいだには、同じ孤独と喪失感を背負って生きる者同士の絆が芽生えていく。だが、彼らは知らなかった。その絆の真の意味を、試される時が来ることを……。

「これはシンプルなラブストーリー、父と娘のラブストーリーだ」。そう語るイーストウッドは、幼いころに唯一の理解者だった父を亡くしたマギーと、娘とのあいだに修復不可能な過去を持つフランキーが、おたがいの中に「家族」を見出していく過程を細やかに描写。フランキーから「モー・クシュル(マイ・ダーリン)」という新しい名前を与えられたマギーの人生が、試合に勝つことではなく、フランキーに愛されることで輝きを帯びて行く様を、繊細なエピソードの積み重ねを通じて丁寧に描き上げていく。そして、エキサイティングなファイト・シーンの後に用意された衝撃の結末。提示されるのは、あまりにも悲しく、あまりにも切ない愛の形。自分のすべてを投げうって、マギーのたったひとつの願いをかなえようとするフランキーの思いは、イーストウッド自身が手がけた心揺さぶる音楽にのせ、私たちの心の奥深く、最も神聖な場所へと運ばれ、生涯消えることのない感慨となって残り続けていく。
 シンプルなストーリーは、役者の演技によって重厚な輝きを放つ。そのことを誰よりも知っているイーストウッドは、自らフランキーに扮してカメラの前に立ち、重い十字架を背負った男の意地と苦悩、そして、マギーを育てることに贖罪の機会を見出していく男の生き様を、物の見事に演じきり、アカデミー主演男優賞にノミネートされた。そんなイーストウッドに勝るとも劣らない名演を見せるのが、『ボーイズ・ドント・クライ』のオスカー女優ヒラリー・スワンクだ。3カ月のトレーニングを経て、マギー役に挑んだ彼女は、全編吹き替えなしでボクシング・シーンに挑戦。その肉体的なチャレンジもさることながら、ボクサーというタフな役柄の中に、けなげさ、愛らしさが滲み出る堂々たるヒロインぶりを見せ、ゴールデン・グローブ賞をはじめとする数々の主演女優賞を受賞。アカデミー賞にも堂々の2度目のノミネートを果たした。

 そしてもうひとり、忘れてならないのが、フランキーの唯一の友であり、マギーにハートのあるボクサーの素質を見出すスクラップを演じて4度目のアカデミー賞候補になったモーガン・フリーマンだ。彼の3度目のオスカー候補作『ショーシャンクの空に』と同様、物語はスクラップを語り部に進行していくが、そうした神の視点を持つキャラクターに、今回もフリーマンは抑制のきいた演技を見せ、唯一無比の存在感を発揮する。
 F・X・トゥールの短編集「Rope Burns」におさめられた短編をベースに、セリフのひとつひとつが深い意味を持つ脚本を書きあげたのは、TVシリーズ「thirtysomething」でエミー賞、ヒューマニタス賞などを受賞し、映画デビュー作にあたる本作で、アカデミー賞候補にあがったポール・ハギス。スタッフには、撮影監督のトム・スターン以下、『ミスティック・リバー』を手がけたイーストウッド組のメンバーが集結。本作が記念すべき25本目の監督作となるイーストウッドを、力強くサポートしている。

ストーリー



 私の名は、スクラップ(モーガン・フリーマン)。ロサンゼルスのダウンタウンにある小さなボクシング・ジム、ヒット・ピットで、住み込みの雑用係をやっている。ボスのフランキー・ダン(クリント・イーストウッド)とは、かれこれ23年のつきあいになる。知り合ったのは、私がまだボクサーとしてリングにあがっていた時代だ。私が片方の目を失って現役を引退するまでの2年間、彼は、カットマンとして試合に付き添い、傷の手当てをしてくれた。その後、フランキーはトレーナーとなり、このジムを買い取って何人もの秀れたボクサーを育てた。そう、カットマンだったころと同じように、トレーナーとしての彼の腕も一流だ。だが、マネージャーとしては、お世辞にもやり手とは言えない。なぜなら、フランキーが愛しているのは、試合ではなくボクサーだからだ。「自分を守れ」。フランキーが、選手たちにたたき込む第一のルールが、これだ。タイトル・マッチのような大試合につきものの再起不能のリスクを、フランキーは、自分の選手に冒させようとしない。だから、成功を求めるボクサーたちは、みんな彼の元を去って行くというわけだ。

 いま、リングの上で戦っているビッグ・ウィリー(マイク・コルター)も、まもなくフランキーの元を去る運命にあるボクサーのひとりだった。タイトル・マッチに「待った」をかけ続けるフランキーの言葉に忠実に従っていたウィリーだったが、ここにきて、自分が栄光のチャンスを逃がしかけていることに気づいたらしい。まもなく彼は、やり手マネージャーのミッキー・マック(ブルース・マクヴィッティ)に引き抜かれ、タイトル・マッチの誘いに応じることになる。
 そんなウィリーと入れ替わるように、私たちのジムにやって来たのが、マギー・フィッツジェラルド(ヒラリー・スワンク)だった。
「私のトレーナーになって」。それが、マギーからフランキーへのプロポーズの言葉だった。だが、フランキーには、女性ボクサーを育てる気などさらさらない。彼はにべもなく断ったが、マギーは私に半年分の会費を前払いすると、手首をへし折りそうな勢いでサンドバッグを叩き始めた。
 マギーの出身は、ミズーリ州のセオドシア。苦労の多い人生を歩んできた娘であることは、ひと目見ればわかる。ウェイトレスの仕事をかけもちしながら、残りの時間をすべて練習に費やしている彼女は、やる気ではこのジムの誰にも負けていなかった。何の助言も受けられず、深夜までひとり黙々と練習を続ける彼女を気の毒に思った私は、サンドバッグの叩き方のコツを教え、フランキーの使い古したスピードバッグを貸し出してやった。
 だが、フランキーは、そんな私の善意がお気に召さなかったらしい。マギーがスピードバッグを叩いているのに気づいた彼は、「俺の道具を使っていると、俺がトレーナーだと人に誤解されかねない」と言い、マギーのいちばんの急所に言葉のジャブを浴びせた。その急所とは、31歳という年齢と、一度も正規のトレーニングを受けていないことだ。「プロを育てるには4年必要だ。31歳でバレリーナを志すか?」。毒を含んだフランキーの言葉に、マギーが唇を噛みしめる。するとフランキーは、急にスピードバッグを取り返す気力をなくしてしまったようだ。この勝負は、マギーの勝ちだ。
 そんなフランキーとマギーの関係に大きな変化が生じたのは、ビッグ・ウィリーのタイトル・マッチがテレビで放映された夜のことだった。ウィリーの勝利に終わった試合のあと、チーズバーガーの差し入れを持って私の部屋を訪ねて来たフランキーは、マギーがひとりジムに居残って、新品の自分のスピードバッグ相手に誕生日を祝っていることを私に聞かされると、彼女の様子を見に行った。「いくつになった?」。フランキーの問いに、マギーが答える。「32歳」。そして彼女の口からは、堰を切ったように言葉が溢れ出た。「また1年が過ぎたわ、13のときからウェイトレスをし続けてね。知ってる? 私の弟は刑務所。妹は不正申請で生活保護。父は死に、母は145キロのデブ。本当なら故郷へ帰って、中古トレーラーで暮らすべきなのよ。でもこれが楽しいの。年だなんて言わないで」

 そのときフランキーは気づいた。マギーの人生からボクシングを取り上げたら、彼女には何も残らないという真実に??。結局彼は、ちょっとばかり自分の正気を疑いながらも、マギーのトレーナーになることを引き受けたのだった。
「何も質問するな。泣き言は聞かん」。フランキーの言いつけに、彼を「ボス」と呼ぶマギーは素直に従った。そして、瞬く間に試合に出られるまでに腕をあげていったが、それは、フランキーが彼女を手放すことも意味していた。最初から、マギーの試合のマネージメントはやらないと決めていたフランキーは、彼女をなじみのマネージャーのサリー(ネッド・アイゼンバーグ)に紹介する。「あとは俺の知ったことじゃない」というわけだ。
 だがフランキーは、マギーの初試合を観に行かずにはいられなかった。そして、サリーが別の試合を有利に組むために、マギーを強豪選手と対戦させたのを知ると、リング・サイドに駆け込んでサリーを追っ払い、自分がマギーのマネージャーだと名乗りをあげた。もちろん、フランキーに見捨てられたと感じていたマギーは、大喜びだ。「うまく相手を誘いこんで、”右から来る”と思ったら、サッと体をかわし、フックで仕留めるんだ」。ボスのアドバイスを胸に、リングに飛び出していくマギー。そのラウンドで、彼女は見事なKO勝ちをおさめた。
 それからというもの、マギーは負けなしの快進撃を続けた。ひとつだけ困ったことは、彼女が第1ラウンドの立ち上がりで相手をKOしてしまうことだ。そのせいで、マギーは対戦相手に事欠くようになり、フランキーは、彼女に試合をさせるべく、相手のマネージャーに袖の下を払うはめになった。
 やがてマギーはワン・ランク上の級へ進出。最初の試合で鼻をへし折る大苦戦を強いられたものの、連続12試合KO勝ちをおさめた彼女の元には、WBAウェルター級のタイトル・マッチや、英国チャンピオンからの試合のオファーが来るようになった。しかしフランキーには、それに応じるリスクを負うだけの覚悟はない。そのことを知っている私は、ある晩、マギーをダイナーに誘い出し、それとなくミッキー・マックに会わせることにした。彼女もそろそろ、フランキーの元を巣立つ潮時だと思ったからだ。だがマギーは、出会い頭にミッキーに先制パンチを食わせた。「私にはダンさんがいる。話しても時間のムダです」と言って。
 フランキーが、英国チャンピオンとの試合を引き受けることにしたのは、その直後のことだ。何がきっかけかは、わからない。もしかしたら、彼が娘に出した何100通目かの手紙が、いつものように送り返されてきたことが原因かもしれない。ともかくも、マギーとふたりでイギリスに乗り込んでいったフランキーは、まったくもって彼の柄にないことをした。女性にプレゼントを??「モ・クシュラ」というゲール語の刺繍をほどこした試合用のガウンを、マギーに贈ったのだ。
 マギーには、「モ・クシュラ」の意味がさっぱりわからなかったが、それは、会場のほとんどを占めるアイルランド人観客の心を捉えた。自分よりも若く、強く、経験豊富な相手に、果敢に立ち向かっていくマギーの姿に、観客たちは熱狂。会場には「モ・クシュラ!」の大声援がわきあがった。それを背に、マギーは英国チャンピオンに快勝。さらに、その後のヨーロッパ転戦でもめざましい戦績をあげ、「モ・クシュラ」というマギーの新しい名前は、あまねくボクシング・ファンのあいだに知られるものとなった。
 マギーが、フランキーのアドバイスに忠実に従う人間であることを証明したのは、彼らがアメリカに凱旋してまもなくのことだ。「小金が貯まったら家を買え」というフランキーの言葉どおり、マギーは、母親のためにミズーリに小さな家を購入したのだ。フランキーを連れて母のアーリーン(マーゴ・マーティンデイル)に会いに行ったマギーは、母と妹を新しい家に案内すると、誇らしげに鍵を手渡した。だが、予想に反して、そこに感動的な光景は見られなかった。「家ではなく、金をくれればよかったのに」とゴネる母親の姿は、マギーに、自分の本当の家族が誰であるかを知らしめることになった。
 気まずい思いでたどる帰り道、マギーはフランキーに言った。「私には、もうあなたしかいない」。「頼りにしていい、いいマネージャーが付くまではね」。そう答えたフランキーも、心の中ではこう言っていたはずだ。「俺にもお前しかいない」と。
 そしていよいよ、100万ドルのファイトマネーを賭けたタイトル・マッチの日がやって来た。対戦相手は、汚い手を使うことで知られるドイツ人ボクサー、”青い熊”ビリーだ。会場はラスベガス。いつものように「モ・クシュラ」のコールが巻き起こるなか、グリーンのガウンをひるがえして、マギーが颯爽とリングにあがる。だが、その時の彼女は、まだ知らなかった。自分の前に、どんな過酷な運命が待ち受けているのかを……。

スタッフ

監督:クリント・イーストウッド
脚本:ポール・ハギス
原作:F・X・トゥール
製作:クリント・イーストウッド
   ポール・ハギス
   トム・ローゼンバーグ
   アルバート・S・ラディ
製作総指揮:ロバート・ロレンツ
      ゲイリー・ルチェッシ
共同製作:ボビー・モレスコ
撮影:トム・スターン
美術:ヘンリー・バムステッド
編集:ジョエル・コックス
音楽:クリント・イーストウッド
原作:F・X・トゥール『ミリオンダラー・ベイビー』 ハヤカワ文庫刊
サントラ盤:ジェネオン エンタテインメント ランブリング・レコーズ
提供:ムービーアイ+ポニーキャニオン+松竹+博報堂DYメディアパートナーズ+テレビ東京+WOWOW  
配給:ムービーアイ・松竹共同配給

キャスト

クリント・イーストウッド
ヒラリー・スワンク
モーガン・フリーマン
アンソニー・マッキー
ジェイ・バルチェル
マイク・コルター
ブライアン・F・オバーン
マーゴ・マーティンデイル
ネッド・アイゼンバーグ
ブルース・マクヴィッティ

LINK

□公式サイト
□IMDb
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す