原題:The Moon

日本人の心故郷 浅草を舞台に、 母娘の心の交流を描いた女性映画の秀作誕生!

2000/日本映画/上映時間:1時間53分/ 製作:ニューウェーヴ、グルーヴコーポレーション 配給:ニューウェーヴ株式会社

2000年11月10日よりDVD発売 2000年11月10日よりビデオレンタル開始 2000年7月8日(土)新宿トーア他全国ロードショー公開

公開初日 2000/07/08

配給会社名 0379

解説

殺伐とした暗いニュースばかり目立ち、日本人が日本人の心を見失いがちな今。時代の波に抗するかのように今も大衆娯楽の“故郷”であり続ける東京・浅草。その浅草の象徴とも言えるストリップ劇場を舞台に、勝手気儘に生きてきたスタータンサーの母と彼女に捨てられ、祖母の手で育てられた娘。温かな下町の人情と風情を背景に母娘の再会と別れ、それぞれの愛と生きざまをしっとりと情感豊かに描ききった傑作登場。

 「決めるのは母さんだよ。あたしで失敗したんだとしたら、やり直す最後のチャンスだよ」義理と人情の切ない板挟みの中で、恋に踏み切れないヒロインの心を解き放ったのは、頑なな心を抱え、反抗的だったひとり娘のそんな一言だった。時に激しく、辛辣な言葉を浴びせかける母と娘。しかしそこには、親子だからこその、何ものにもかえがたい愛情があふれる。
 母は浅草の花形ストリッパー、娘は田舎から出てきたぱかりの東京一年生。幼くして別れて暮らし、考え方も、生き方もまったく異なるが、お人良しで、自分のことよりついつい他人の世話を焼いてしまうのは、やはり母娘、どこか似ている。
 下町の人情あふれる浅草を舞台に、対照的な母娘の葛藤を通して、どこまでも“女”として愛に生きる母親の性、そして彼女に反発しながらも、やがてその生き方を理解することになる娘の愛を、詩情豊かに描く感動のドラマである。
 ヒロイン、立花遥は、世知辛い世の中に絶望した男たちに、舞台の上から元気を与え続けてきたことに誇りを感じているが、故郷にひとり娘・夏海を置き去りにしていた。小さな港町で、祖母と2人暮らしの夏海は、高校卒業の春、病床にいた祖母が死んだことで、東京で遥と暮らすことを決意する。初めて、遥のステージを見て、圧倒させられる夏海だったが、私生活では10数年ぶりに同居する母娘との間にはいざこざが絶えない。遥は何かと娘の世話を焼こうとするが、そのたびにことごとく裏目に出て、一方の夏海はそんな母の面倒になりたくないと、頑なな心を崩すことなく、意地を張り続ける。そんなとき、遥の恋人・松尾が借金で首が回らなくなり、夏海も劇場で働く照明係の青年・下園と恋におちる。
 映画『失楽園』(97)『破線のマリス』(2000)と話題作が続き、テレビ、CMと、今、女優としてノリにノッている黒木瞳が、立花遥を熱演。テレビドラマ「イマジン」でも思春期の娘を持っキャリアウーマンを好演したばかりの黒木だが、本作では何と“浅草の月”と呼ばれる子持ちの人気ストリッパーという異色役に挑戦。華やかなライトに照らされ、妖艶なステージ姿に大人のセクシーさをみなぎらせる一方で、触れたくても届かない娘の心に戸惑う切ない母心、あるいは、恋人を信じて、一途な愛を注ぐひたむきな女心をそこに忍ばせて、見事に新境地を開いた。
 遥の娘・夏海には、映画『洗礼』(94)でデビュー後、単なるアイドルに留まらず、本格的女優として注目を集めている今村理恵。自由奔放に生きる母に反発しながらも、自ら恋を知ることで成長し、やがてどこか頼りない遥の背中を押し、ひとりの対等な女性として理解していく複雑な役どころを、フレッシュな魅力で演じている。遥の意志を継ぐラストシーンの大胆なパフォーマンスも見どころだ。
 ヤクザの組長の息子でありながら、父親に反発し、司法試験の勉強をしながら、劇場の照明係として働く下園達也に、ドラマ、バラエティと活躍する加藤晴彦。夏海を励ましながら、いつしか恋におちてゆく青年を、持ち前のナイーヴな魅力で好演している。
 借金が原因で妻に逃げられた「松寿司」の主人で、遥の恋人である松尾悌一に、『釣りバカ目誌』シリーズ等の実力派俳優、中村梅雀。本来の瓢々とした魅力に加え、愛する女性を幸せにできない情けない男の姿に、さりげない大人の色気を匂わせ、新たな一面を見せつける。
 ストリッパーとしての遥を発掘し、浅草・大衆文化の生き証人ともいえる劇場経営者・富田社長に、『欽ちゃんのシネマジャック』(93)で映画界に新風を吹き込んだ大ベテラン、萩本欽一。自らも浅草の芝居小屋で芸人としてのスタートを切っただけあって、人情味あふれる社長役を、思い入れたっぷりの説得力で演じ、感動をよぶ。
 監督は、永瀬正敏主演の『喪の仕事』で長編デビューし、『ルビープルーツ』『おしまいの日。』などで揺れる女性心理を繊細に描き出す君塚匠。大衆文化の伝統が今なお息づく浅草六区界隈、詩情豊かな浅草寺と仲見世、そして隅田川添いの屋形船など、浅草ロケをふんだんに織り込みながら、母娘と彼女たちをめぐるさまざまな人間模様を、流麗な映像美の中で、丁寧にすくい取っている。
 また、浅草のストリップ劇場の草分け的存在「浅草ロック座」の全面協力によるステージ・パフォーマンスの華麗さ、群舞のあでやかさも見どころのひとつ。セクシーなだけではない、本格的ショーの醍醐味を垣間見ることができる。
 なお、エンドクレジットに流れる主題歌は浜崎あゆみの「Who…」である。

ストーリー

 さびれた港町に、母の死を知った立花遥(黒木瞳)が帰郷した。しかし葬儀に遅刻したうえ、派手な服装の遥に、娘の夏海(今村理恵)はあきれ顔だが、遥は小学5年生のときに別れたきりの夏海の顔さえも満足に覚えていない。
 夏海は高校3年生だ。卒業を間近にしているが、祖母が倒れてからは受験勉強を諦めて、夏海が看病を続けていた。祖母の残してくれた貯金で東京の予備校に通うという夏海に、なぜか遇は当惑顔だ。
 実は、遥は浅草「ロマン座」の花形ストリッパーだったのだ。その日、田舎の家を引き払って、ひとり浅草にやってきた夏海は、こっそり遥のショーを見ていた。華やかでセクシーな舞台上の母の姿を、初めて目の当たりにして圧倒される思いの夏海は、衝動的に劇場を飛びだしてしまう。
 遥は最近、「松寿司」の主人・松尾悌一(中村梅雀)の世話を焼いている。遥は、初舞台の頃、世話になった松尾が、借金が原因で妻に逃げられたのをみかねて、「ロマン座」の社長・富田良作(萩本欽一)に前借りを頼み込むが、さすがの富田もいい顔はしない。
 偶然、「ロマン座」の照明係・下園達也(加藤晴彦)と出会った夏海は、遥の住むマンションを教えてもらう。司法試験の勉強をしている下園は、「ロマン座」の若手芸人たちと、アパートに住み込んで働いていたのだ。
 ほろ酔い加減で帰宅した遥は、突然現われた夏海の姿に、冷水を浴びせかけられた思いだ。数日後、予備校に通い始めた夏海は、屋形船の配膳係のアルバイトを始める。これ以上、遥の世話になりたくないという夏海の意地なのだ。
 遥と夏海の同居を知った富田は、松尾に肩入れする遥の身を案じつつ、こう打ち明ける。「お前さんが現役引退するとき、それがこの小屋を畳むときだと心に決めてんだ」ある日、夏海のバイト先に下園がやって来た。
 遥から夏海の相談相手になって欲しいと頼まれた下園は、「長いこと離れてたんだ。何もかもしっくりってわけにはいかないよ」と夏海を励ますのだった。そんなとき、黒塗りのベンツから眼光鋭い男が降り立ち、下園の前に立ちふさがった。その男・梶原(白竜)に対して、下園の態度はけんもほろろだ。どうやらわけありらしい。
 下園の第二次司法試験の合格祝いの夜、酔っ払った富田は、自分が遥を舞台にあげ、“浅草の月”と愛称のつく花形ダンサーになったことを、夏海に告白する。「舞台の上からお客さんの顔がいろいろ見えるようになって…そういう男がみんな、私の舞台見て、元気になったの…それが私の誇りだった」と胸を張る造の言葉に、夏海は少しばかり母の気持ちが分かるような気がした。
 しかし、そんなささやかな幸せも長くは続かなかった。「松寿司」が食中毒の疑いで臨時休業することになったのだ。借金に首が回らなくなった松尾のために、遥は夏海の学費のための貯金にまで手をつけてしまう。「人のお金に手つけて、それでも親なの?あんな借金まみれの人間が、返してくれるわけないじゃない!」と言い放つ夏海の頬に平手打ちした遥は、こう叫ぶ。
 「必死で仕送りしたのは誰だと思ってるの!」
 こうして、遥のマンションを飛び出した夏海は、下園たちの住むアパートに転がり込んだ。昔、遥の住んでいた部屋に入った夏海は、壁に貼っていたデビュー当時の遥のポスターを、真っ二つに引き裂くのだった。
 その頃、夏海は下園の父が末期ガンに冒されていることを知る。下園の父はヤクザの組長だったのだ。「このまま会えなくて後悔しないの」と、夏海は食い下がるが、「自分はどうなんだ。他人のことはいいから親のとこ帰りな!」と言われ、返す言葉がない。しかし結局、下園の父は息子の手を握りながら息を引き取った。
 数日後、下園が司法試験に合格した。「ロマン座」を辞めるという下園に、夏海は自分が照明の仕事を引き継ぐと宣言する。そしてその夜、2人は結ばれた。
 遥の20周年記念公演で、「ロマン座」が盛り上がっている頃、松尾が自殺未遂し、入院したと知らせが入る。目覚めた松尾に、夏海は「死ぬ勇気なんてないくせに。ホントにそう思うなら、母さんの前から消えて」と冷たく告げる。果たして、松尾が病院から抜け出し、行方不明になった。抜け殻になった遥は、公演の練習にも身が入らない。遥は松尾の子を妊娠していたのだ。うつろな表情で浅草をさまよう遥。
 下園に説得され、遥のマンションに戻った夏海は、中絶に踏み切れない遥にこう言った。「決めるのは母さんだよ。あたしで失敗したんだとしたら、やり直す最後のチャンスだよ」
 そんなとき、遥のもとに松尾から電話がかかってきた……。

スタッフ

企画:小椋正樹
製作:成澤章
エグゼクティブ・プロデューサー:笹岡幸三郎、山田一夫
プロデューサー:荻原達
監督:君塚匠
脚本:鍋島久美子
音楽:梶浦由記
主題歌:「Who...」浜崎あゆみ(avex trax)
撮影:前田米造
照明:森谷清彦
美術:金勝浩一
録音:塩原政勝
編集:太田義則
スクリプター:杉山昌子
助監督:芝祐二
製作担当:福塚孝哉
協力:菊水酒造、プラーカ
制作協力:ボノボ、エイベックス
製作:ニューウェーヴ、グノレーヴコーポレーション
配給:ニューウェーヴ、グルーヴコーポレーション

キャスト

黒木瞳
今村理恵
加藤晴彦
鈴木清順
小倉一郎
白竜
戸田昌宏
清田正浩
中村梅雀
萩本欽一

©2000 ニューウェーヴ、グルーヴコーポレーション

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