原題:Heart,beating in the dark

2005年バンクーバー国際映画祭特別招待作品

2005年/日本/35mm/カラー/ヴィスタサイズ/DTSステレオ/104分/ 配給:オフィスシロウズ、スローラーナー

2006年10月27日よりDVDリリース 2006年4月8日、渋谷シネ・アミューズにてレイトショー!全国順次公開

公開初日 2006/04/08

配給会社名 0220/0048

解説


23年ぶりに再会する中年の男と女。
生まれた子供を殺して彷徨う若い男と女。
終わりのない夜。
青い夜明け。
取り返しのつかないことがある。
誰も時間を戻ることはできない。

1982年、1本の8mm映画が完成した。長崎俊一監督作品『闇打つ心臓』。荒れた画面には、自分たちの幼い子供を殺して逃げる若い男・リンゴォと女・伊奈子が、彷徨い、お互いを傷つけあい、夜の底で息を潜める姿が写し出されていた。リンゴォを演じたのは、まだ20代の内藤剛志、伊奈子を演じたのは、室井滋だった。あれから23年。また1本の映画が撮られようとしていた。長崎監督、そしてあの時と同じ役で出演する内藤と室井。それぞれの思い。過ぎ去ってしまった時間…。

リンゴォと伊奈子が再会する。リンゴォは、結婚して電気店を経営し、落ち着いた暮らしをおくっていた。
そこに、23年ぶりに伊奈子が訪ねてくるというのだ。同じ頃、自分の子供を殺して逃げている若い男と女がいた。透と有紀。二人は、逃げ込んだアパートの部屋で、息を潜め、罵りあい、抱擁し、蛇口から落ちる水滴の音と、どこからか聞こえてくる赤ん坊の泣き声に怯えていた。取り返しのつかないことがある。
殺してしまった子供をめぐって男と女の擦れ違う思いと、埋められらない距離を抱えながら、二組の男女の夜が過ぎていく。狂おしい後悔とその痛み…。誰も、人生をリメイクすることなどできはしない。時間を逆に巻き戻すことなどできはしない。“また出会う”ことを除いては…。

80年代の8㎜映画の金字塔『闇打り心臓』を折り込みながら、取り返しのつかない“痛み”と、ささやかな“願い”を抱いた長崎俊一監督の傑作が誕生した。
『闇打つ心臓』は、1982年に作られた8mm版『闇打つ心臓』のリメイクではない。あれから23年を経て製作された、『闇打つ心臓』は、8mm版の映像を折り込みつつ、取り返しのつかない“痛み”と、ささやかな“願い”を抱いたフィルムとして誕生した。監督は、8mm版の監督であり、『8月のクリスマス』が公開されたばかりの長崎俊一。80年代初頭を、8mmや16mmのカメラを武器に疾走した若い映画監督たちがいた。石井聰亙(『DEAD END RUN』)、矢崎仁司(『ストロベリーショートケイクス』)、犬童一心(『メゾン・ド・ヒミコ』)、黒沢清(『LOFT』)、手塚眞(『ブラックキス』)、塚本晋也(『ヴィタール』)…。それは、現在活躍する映画監督たちの出発点でもあったのだ。長崎俊一もまた80年代インディーズシーンのトップランナーのひとりである。8mm版『闇打つ心臓』は、数多いインディーズ・ムービーの中でも、“金字塔”と呼ばれるにふさわしい伝説的な傑作なのだ。

内藤剛志、室井滋、本多章一、江口のりこなど俳優たちのアンサンブルと、大友良英、カヒミ・カリィの音楽が織りなす“心の闇”。

主演は、23年前と同じリンゴォと伊奈子に、内藤剛志と室井滋。また、リンゴォたちを繰り返すように子供を殺して逃げる若い男女・透と有紀を、期待の新人・本多章一と江口のりこ(タナダユキ監督『月とチェリー』)が演じている。音楽は、田ロトモロヲ監督『アイデン&ティティ』、安藤尋監督『blue』などを手掛け、世界的なターンテーブル奏者、ギタリストである大友良英。エンディングテーマをカヒミ・カリィが作詞・ボーカルを担当している。

ストーリー



1982年、1本の8mm映画が完成した。長崎俊一監督作品『闇打つ心臓』。荒れた画面には、自分たちの幼い子供を殺して逃げる若い男・リンゴォと女・伊奈子が、彷徨い、お互いを傷つけあい、夜の底で息を潜める姿が写し出されていた。リンゴォを演じたのは、まだ20代の内藤、伊奈子を演じたのは、室井だった。あれから23年。また1本の映画が撮られようとしていた。長崎監督、そしてあの時と同じ役で出演する内藤と室井。内藤は、20年前の自分を現在の自分が“殴る”というかたちで罰したいのだ、と言う。室井は、ロケ先のビジネスホテルで、ふとこの作品のことを思い出すのだ、と言う。それぞれの思い。過ぎ去ってしまった時間…。

リンゴォと伊奈子が再会する。リンゴォは、電気店を経営し、妻とは別居しているものの、17才になる娘の父親であり、平凡な暮らしをおくっていた。そこに、23年ぶりに伊奈子が訪ねてくるというのだ。
昔から二人のいきさつをよく知る島本は、そんなリンゴォを冷やかすのだ。

同じ頃、自分の子供、夏美を殺して逃げている若い男と女がいた。透と有紀。二人は、透の知り合いである律子の斡旋で、アパートの空き部屋に転がり込んだ。しかし、ここも二人にとっての安住の場所ではない。明日には、この部屋を出ていかなければならないのだ。二人はつかの間の安息を得たものの、蛇口から落ちる水滴の音と、どこからか聞こえてくる赤ん坊の泣き声に怯えていた。

23年前、リンゴォと伊奈子もまた、透と有紀と同じように、生まれた子供を殺し、島本の斡旋した部屋に逃げ込んだ過去を持っていた。部屋に伊奈子が好きな矢沢永吉のポスターを貼り、息を潜め、傷つけあい、子供を殺した苦しみを忘れようとするかのようにセックスし…。
再会したリンゴォと伊奈子。リンゴォは、伊奈子を一人暮らしの部屋に誘い、ドンペリと精一杯の男の手料理で伊奈子を迎えた。そんなリンゴォに伊奈子が言う。「子供出来た時さ、怖くなかった?」
そして、伊奈子は、今度新しい商売を始めるのだと言う。ペットの卸し。その資金をリンゴォに出資しないかともちかけるのだ。再会の甘い気持ちが冷めていくリンゴォ。そのリンゴォを、高利貸しに追い詰められている伊奈子は責めるのだ。「忘れちゃってるよね?芳子のこと。忘れてるでしょ?」
「お前だってそうだろ?時間が経ったんだよ」

夜の部屋の中で、あの時と同じように時間が止まり、淀みはじめる。語られるそれぞれの過去。リンゴォは、この20年間をどう生きてきたのか。そして、伊奈子の20年間。伊奈子は、リンゴォに言う。
「リンゴォ、つまんなくなったね」

透によって語られる、有紀との出会い。そして、夏美を殺した時のこと…。
擦れ違う思いと、埋めることのできないお互いの距離を抱えながら、二組のカップルの夜が過ぎていく。

やがて、朝が来る。
それぞれのカップルは、一瞬交わり。
そして、またそれぞれの方へ。
絶望的な若い二人を前にして、リンゴォも、そして伊奈子も23年前の自分たちではなかった。
誰も時間を戻すことはできない。
過ぎて来た時間が、リンゴォを走らせる。
走って、走って。
それは、もう若くないリンゴォが、若い二人を抱きしめることに似ていた。

スタッフ

監督・脚本:長崎俊一
製作:佐々木史朗、川城和実
プロデューサー:東快彦、河野聡
撮影:猪本雅三(J.S.C)
音楽:大友良英

エンディング・テーマ:「闇打つ心臓」
           作詞:カヒミ・カリィ
           作曲: 大友良英
           歌:カヒミ・カリィ



オリジナル『闇打つ心臓』1982年版制作スタッフ
撮影:武藤紀一
助監督:諏訪敦彦
撮影助手:川崎欣也、国松達也

キャスト

内藤剛志
室井滋
本多章一
江口のりこ
諏訪太朗
水島かおり

LINK

□公式サイト
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す