私を迎えに来たのは、 若くて美しい男。 彼は、父の恋人だった。

2005年日本/製作:『メゾン・ド・ヒミコ』製作委員会 (アスミック・エース エンタテインメント、IMJ エンタテインメント、日本テレビ放送網、S・D・P、カルチュア・パブリッシャーズ) プロダクション:アスミック・エース エンタテインメント、IMJエンタテインメント 配給:アスミック・エース

2006年03月03日よりDVDリリース 2005年8月27日、シネマライズ、新宿武蔵野館、池袋シネマサンシャイン他ロードショー

公開初日 2005/08/27

配給会社名 0007

解説


ファンタジックな世界観と普遍的でリアルな恋愛感情を活写し、観客の心を魅了した『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心監督×渡辺あや脚本コンビの第二弾は、五年もの時をかけて温め続けたオリジナル・ストーリー『メゾン・ド・ヒミコ』。
理解しあえるはずのない父と娘。愛しあえるはずのない男と女—-そんな彼らの心情を通して、
生と死、愛と絆、欲望と希望を鮮やかに綴っていく。
そっと抱きしめたくなるような、美しく狂おしくいとおしい“愛の感動作”が、ここに誕生した。

私を迎えに来たのは、若くて美しい男。彼は父の恋人だった。
ゲイである父親を嫌い、その存在さえも否定して生きてきた沙織。
ある雨の日、彼女が働く塗装会社に春彦という男が訪ねてくる。
彼は、沙織の父が癌で死期が近いと言い、父の営む老人ホームを手伝わないかと誘う。
“メゾン・ド・ヒミコ”—-ゲイのための老人ホーム。賑やかで、哀しくて、温かな場所。
死にゆく父親、その父親を愛する春彦。そんな二人を見つめる沙織。
理解しあえるはすのない彼らに、いつしか微妙で不思議な関係が芽生えていく…。

人はみんな孤独なもの。
そして誰かといることはどこまでも優しく温かい。
癌に冒されている父親とその恋人である若い男、そしてゲイである父を嫌う娘—-一見、衝撃的ともいえる設定に挑戦している本作だが、実は誰にでもあるごく普遍的なことを描いている。人と人との間にはどうにもならない“壁”があること。そして、その壁の向こう側の人をふと好きになってしまう瞬間があるということ。どうしてもその人を感じたいという衝動を抑えられない気持ち。だからこそ、人間は可笑しくていとおしい—-。
さらに本作に描かれるのは、人生の中で繰り返される些細なようで大切な出来事たち。嫌悪が愛に変わる瞬間、憎悪が絆に変わる瞬間、偏見が憧れに変わる瞬間、そんな私たちの毎日に溢れているたくさんの愛すべき“瞬間”を、映画はまるで現実の世界をそのまま切り取るかのようにスクリーンに映し出していく。そして、観客は登場人物たちと一緒になって戸惑い、泣き、笑い、そしてクライマックスには温かな涙を流す—-人はみんな孤独なもの。そして誰かと一緒にいることはどこまでも優しく温かい。だから、その温もりを探して明日も生きていこう。見終わった後には、そんな感動がじんわりと心に染みてくる。
『ジョゼと虎と魚たち』がピュアで切ない“恋”の物語なら、『メゾン・ド・ヒミコ』は深く大きくいとおしい“愛”を描く究極の人間ドラマなのだ。

最高のキャストと錚錚たる才能たちのコラボレーションで、新しい日本映画の扉を開く。
ゲイの青年・春彦に、『アカルイミライ』『血と骨』のオダギリジョー。もの哀しい笑顔の裏側で欲望を求めて彷徨う男という難しい役どころをナチュラルに魅惑的に演じる。
卑弥呼の娘・沙織には、『着信アリ』『世界の中心で、愛をさけぶ』の柴咲コウ。そばかすや眉毛を書いたメイクダウン姿で役に挑み、あらたなチャーミングさを披露する。
そして、死と向き合う卑弥呼には、『たそがれ清兵衛』『隠し剣鬼の爪』の田中泯。犬童一心の一目惚れで本作に参加、舞踊で培った全身の美しさと内面から溢れ出る情熱で圧倒的な存在感を放つ。

ストーリー



塗装会社の事務員として働く吉田沙織、24歳。ある事情で借金を抱え、夜はコンビニでもバイトをしているが、いっそ風俗で働こうかと思い悩んでいる。身近な男性では専務の細川が気になるが、彼は同僚のエリナと不倫中だ。
ある雨の日、彼女のもとに若くて美しい男が訪ねてくる。名前は岸本春彦。
彼は、沙織が幼い頃に沙織と母親を捨てて出ていった父の恋人だった。
沙織の父・吉田照雄は妻子のもとを離れた後、ゲイバー「卑弥呼」の二代目を継いだが、今は神奈川県大浦海岸近くにゲイのための老人ホームを創設、その館長を務めているらしい。春彦は、その父が癌で余命幾ばくもないと言
い、ホームを手伝わないかと誘う。父を嫌い、その存在さえも否定して生きてきた沙織だが、破格の日給と遺産をちらつかされて、老人ホームの手伝いに行くことを決意する。

翌日曜の朝、沙織はおそるおそる老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」の門をくぐった。西欧のリゾート風プチ・ホテルを改装した建物には、個性的な住人ばかり。生まれ変わったらバレリーナ
と相撲部屋の女将になることを夢見る陽気なニューハーフ・ルビイ、洋裁が上手く女性的で心優しい山崎、元・小学校の教員で今は将棋が趣味の政木、ホームのパトロンの元・部下で家庭菜園
に精をだす木嶋、ギターがうまく背中には鮮やかな刺青を入れている高尾、ゲイバー「卑弥呼」の元・従業員でTVドラマに夢中なキクエ、春彦と一緒に老人たちの面倒を見ているいつも元気なチャービー。みんな明るく賑やかに迎え入れてくれるが、実の父・卑弥呼は娘との予期せぬ再会に戸惑い、沙織はその場所すべてに嫌悪感を抱くのだった。

日曜日ごとに沙織はホームへ出向く。
最初は奇妙な住人たちと距離を保っていたが、彼らの底抜けに明るい日常とその裏側に隠された孤独感や悩みを知り、少しずつ心を許すようになる。
しかし、平穏な日々に翳りが見えはじめる。ホームに資金を提供していた半田社長が脱税容疑で逮捕されて援助が絶たれ、その後すぐにルビイが脳卒中で倒れた。介護費用を割こうものなら、ホームは閉鎖に追い込まれる。
愛する人が作ったホームの存続を願う春彦に対し、卑弥呼は冷ややかに閉館を口にする。その無責任な父の態度に、沙織は怒りを爆発させる。沙織の借金は、3年前に癌で死んだ母の入院費と手術費で背負ったものだった。そして今度は、老人たちを見捨てようとしている……。父への不信感を強くした沙織だったが、ホームのラウンジで、ある写真を発見する。それは最盛期のゲイバー「卑弥呼」にいる母の写真だった。しかも、40歳の誕生日に沙織がプレゼントした帽子をかぶってすましている。父と母は離婚してから音信不通だったはずなのに、なぜ……。

ある日の夕方、沙織の会社に春彦から電話が入り、卑弥呼が大量の血を吐いたと告げる。薄暗い部屋のベッドに静かに横たわる卑弥呼。愛する人を失うことへの不安と絶望を吐露し、鳴咽する春彦。そんな二人を見つめる沙織。
卑弥呼の病状も落ち着き、静けさを取り戻したホームに、大きな荷物が届く。それは山崎が沙織のために用意した様々なコスチューム。バニーガールに看護婦、チャイナドレスにスチュワーデ
ス—-沙織と山崎はとっかえひっかえ衣裳を替え、心の底から笑いあった。
「ねえ、遊びに行こ」真っ白なドレスに身を包みメイクも決めた山崎を、沙織はダンスホールへ誘う。エスコートはビシッと正装した春彦と住人たち。しかし、ダンスホールに到着すると間も
なく、山崎は偶然居合わせた元部下に「やっぱ、あんたオカマだったの?」としつこく罵声を浴びせられ、脅えながら倒れる。「謝れ!」本気で怒る沙織だったが、春彦に優しくなだめられるうち、怒りが泣き笑いに変わっていく。不穏な空気を吹き飛ばすように踊り、心を通わせる二人。そして、照明の落ちたフロアの隅で、春彦は沙織にキスをする。「なんであたしに……」混乱する沙織。

翌日、春彦は沙織を二人だけの部屋に誘う。ベッドに座り、静かに、不器用に、優しく唇を重ねる二人。春彦は少しずつ沙織を横たわらせるが、ぎこちなさを隠せない……。キスをやめて沙織が笑うようにつぶやく。「触りたいとこ……ないんでしょ」目を伏せる春彦。沙織は黙って部屋を出て行く。
お盆の日の朝。ホームのラウンジには住人たちの親族の遺影、灯篭やおはぎが並び、迎え火の準備が始まった。卑弥呼の部屋に母の遺影を取りにいった沙織が父に問いかける。「ママを苦しめ
たこと後悔したことある?あたしのことが恋しかったことある?会えないのが寂しくて泣いたことがある?」
卑弥呼は娘に一言だけ告げる。「でも、あなたが好きよ」

その日、ルビイを息子家族が迎えに来た。息子たちにはルビイがニューハーフであることを隠したまま送り出したことを知った沙織は、受け入れる家族の苦しみを思い、「……こんなとこ嘘じゃん。インチキじゃん!」と住人たちを強く非難する。しかし春彦は「関係ないんだけど、お前は。ここはゲイのための老人ホームだから」と冷徹に告げる。沙織はそのままホームを飛び出していく。
日が暮れる頃、会社へやってきた沙織は、誰もいない事務所でそのまま細川に抱かれる。同じ頃、ホームの庭では迎え火が焚かれ、春彦の指揮で住人たちの合唱が始まる。めまぐるしく過ぎた夏が、静かに終ろうとしている。
沙織はもう、ホームに戻らないのか?
そして、ホームの未来は……?

スタッフ

監督:犬童一心
脚本:渡辺あや
音楽:細野晴臣
プロデューサー:久保田修
        小川真司
エグゼクティブ・プロデューサー:椎名保
                三木裕明
共同エグゼクティブ・プロデューサー:平井文宏
                  細野義朗
                  島本雅司
ライン・プロデューサー: 田口聖
撮影:蔦井孝洋
美術:磯田典宏
照明:疋田ヨシタケ

キャスト

オダギリジョー
柴崎コウ
田中泯
西島秀俊
村上大樹
新宿洋ちゃん
森山潤久
井上博一
柳澤愼一
青山吉良
歌澤寅右衛門
大河内浩
草村礼子
藤井かほり
岡庭淳志
沖中玲斗
峯村淳二
枝光利雄
高橋昌也
筒井康隆(声の出演)

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