製作:バンダイビジュアル・TOKYO FM / オフィス北野 配給:オフィス北野、東京テアトル 宣伝:P2 2004年/日本/カラー/35mm/ヴィスタサイズ/107分/ドルビーSR

2006年01月27日よりDVDリリース 2005年8月13日、『夏休み』テアトル新宿にて、以降全国順次ロードショー

公開初日 2005/08/13

配給会社名 0020/0049

解説



この夏いちばんの問題作『七人の弔』
しかし、この作品は悪趣味なフィクションなどではなく、現在の我々が決して目を逸らすことなく向き合わねばならないノンフィクションをベースとして誕生したものである。

 北野武の『3−4x10月』『みんな〜やってるか!』、黒沢清の『蜘蛛の瞳』、青山真治の『チンピラ』……。日本映画の中核をなす監督たちの作品で、唯一無二の異彩を放ってきたダンカン。『生きない』では脚本家としての実力も見せつけた彼が、満を持して、ついに監督デビューを飾った。
『七人の弔』。そのタイトルからして、一筋縄ではいかない不穏なムードが漂うが、その内容は予想をはるかに超えて衝撃的かつ多義的だ。
 児童虐待。最近、新聞やテレビでよく目にする耳にする事件のベースにある家族の実態を出発点に、映画は子供の臓器を親が売る、という恐るべき設定を用意して、観客を迎え入れる。
 舞台となるのは、田舎のキャンプ場。そこでは、七組の親子が集い、レジャーを楽しんでいる。どこにでもある、ごくありふれた風景。だが、その場は、ある特殊な売買のために用意された空間だった。謎の指導員の下で、子供を欺きながら、親として“最後の演技”をこなす大人たち。普段は親に虐げられているのに、そのごく普通の家族のような休暇に不信感を抱く子供たち。やがて、両者は思いもかけない運命をまっとうすることになる——。
 物語だけを追えば、一見猟奇的にも思えるが、これは決しておどろおどろしい作品ではない。まず、映画は、児童虐待という非道な行為を一個人の実情として静かにあぶりだしていく。その上で監督ダンカンは、親の非情な“本音”を、人間性の滑稽な発露として活写する。さらに、肉体的には“捨てられている”にもかかわらず精神的には“慕わずにはいられない”子供の親に対する悲痛な思いを、そこに重ね合わせていくのだ。けれども、相反するふたつの要素が奏でるのは不協和音ではない。それは、私たちがかつて味わったことのない感情のシンフォニーであり、いかようにも解釈可能な“開かれた”悲喜劇である。社会的なリアリティを基盤に置きながら、人間の普遍的な愛憎関係を紡ぎ出す映像文体は、陰々滅々としたものではなく、のどかなユーモアが漂う不思議なやわらかさに包まれている。個人の内面を覗きながら、しかしその切羽詰った事情が集団と化したときもたらされる笑いが、実に見事な緩急で繰り出されるのだ。構成作家として長年活躍してきたダンカンならではの人間観察が冴えわたる。とりわけ、ラスト・カットで響きわたる『にんげんていいな』の合唱がもたらす意外な“余韻”は、感動と戦慄が同時に押し寄せると呼んでも過言ではない。
 一種、異様な“ファミリー映画”でもある本作は、集団劇だけに俳優陣のコンビネーションが絶妙。バスで始まりバスで幕を下ろす構成に『生きない』を想起する人も多いかもしれないが、『生きない』の添乗員を思わせる指導員役で登場、作品のフォルムを規定し、物語のフィクサー的に映画を牽引していくダンカンを始め、演技派、個性派がズラリ揃った。渡辺いっけい、高橋ひとみ、山崎一、温水洋一、有薗芳記、いしのようこ、保積ペペ、水木薫、山田能龍が演じる大人たちは、どこかやさぐれていながら、どこかチャーミングで、憎みきれないキャラクターばかり。だからこそ、その“普通人”が見せることになる“真実”はせつなく辛いのだ。一方、七人の子供たちも注目株ばかり精鋭ばかりで、親との縦のつながりと、同じ境遇の子供との横のつながりとを、表情豊かに妙演している。
 また、『いま、会いにゆきます』で多くの観客を号泣させた松谷卓が音楽を担当。先の見えない映画の展開に、多くの示唆と温もりを与えている。

ストーリー



夏。山があり、川のあるキャンプ場。そこで、七組の親子が遊んでいる。だが、どこか様子がおかしい。これは、休暇ではなく、お受験のための強化合宿のようなものなのだろうか……。
 愛想のない指導員、垣内仁(ダンカン)が無表情のまま、親だけを集めて説明を始める。これは、単なる親子ツアーでもなければ、特別合宿でもない。子供たちの臓器を売買する秘密の“契約場所”だったのだ! ここに集ったのは、いずれも子供とは不幸な関係しか結べていない大人たち。
 虐待死させて警察に捕まる前に、どうですか? 子供の臓器を私どもに提供してくださったら? 内密に処理しますし、報酬もたっぷりお出しします。金銭面でもお困りなんでしょう? 
 児童相談所のデータを入手し、親たちにそんな誘い水をかけた垣内。ここにいるのは同意した親ばかりだ。もちろん、子供たちはそのことを知らない。
 2泊3日のキャンプで臓器の健康をチェックし、“最後の晩餐”を済ませた後、子供たちを眠らせる。そんなスケジュールと手はずが説明された後、親から質問が出る。
 「キャンプの途中で脱落する子が出たら、ひとりアタマの取り分は増えるんでしょうか?」
 カレーライスの食事会、山登り……ごくありふれたキャンプのメニューをこなすうち、親たちの胸に去来する“真実”の数々。
 愛人、住田昇(山田能龍)と暮らしている中尾君代(高橋ひとみ)は、のろまな娘、晴美(川原真琴)が気に入らない。
 新興宗教にハマっている前田憲夫(有薗芳記)は、いくら信心してもうまくいかない物事の八つ当たり場所として、息子、正一(石原圭人)に当たっているが、彼自身、幼い頃、親に虐待を受けていた。
 通報を受け、児童相談所が乗り込んできても平然と良きママを演じる橋本染子(いしのようこ)と、そんなときでも母親をかばい愛を表明する息子、慎一(松川真之介)。
 子沢山で経済的に苦しい柳岡秀男(山崎一)は、あくまでも体罰だと思っている。金のためにやむなく“手放す”ことを決意した息子、三郎(戸島俊季)はしかし、父親との旅行がうれしく、得意のなぞなぞ作りに余念がない。
 娘、翔子(柳生みゆ)が寝ている前でも、後妻、美千代(水木薫)とベタベタしている西山政彦(保積ペペ)は、前妻によく似ている翔子が鬱陶しくてしょうがない。
 ギャンブル狂の河原功一(渡辺いっけい)は、息子、潤平(中村友也)を“軍資金”にすることしか考えていない……。
 やがて、この旅の異様さに気づいた子供たちは、事の真相を問いただすために、垣内に詰め寄る——。

スタッフ

監督・脚本:ダンカン
音楽:松谷卓

プロデューサー:森 昌行、吉田多喜男
ラインプロデューサー:小宮慎二

撮影:村埜茂樹
照明:舘野秀樹
美術:稲付正人
録音:白取 貢
助監督:松川嵩史
編集:太田義則
記録:森 直子
製作担当:岩谷 浩
キャスティング:吉川威史

キャスト

(謎の指導員・垣内 仁):ダンカン
(父・河原功一):渡辺いっけい
(母・中尾君代):高橋ひとみ
(母・橋本染子):いしのようこ
(父・柳岡秀男):山崎 一
(父・横山春樹):温水洋一
(父・西山政彦):保積ぺぺ
(父・前田憲夫):有薗芳記
(君代の愛人・住田 昇):山田能龍
(継母・西山美千代):水木 薫
【子役】
(河原潤平):中村友也
(中尾晴美):川原真琴
(西山翔子):柳生みゆ
(横山一樹):波田野秀斗
(柳岡三郎):戸島俊季
(前田正一):石原圭人
(橋本慎一):松川真之介

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