原題:The Navigators

2001年/イギリス・ドイツ・スペイン/カラー/1:1.85/ドルビーデジタル/96分/ 配給:シネカノン

2007年04月25日よりDVDリリース 2002年8月31日より銀座シネ・ラ・セットにてモーニングショー公開 同時公開『ブレッド&ローズ』。

公開初日 2002/08/31

配給会社名 0034

解説



仕事に誇りを持ってますか。家族の愛を感じてますか。

●リストラが人生を変えていく
1993年、英国鉄道民営化法が制定され、誇り高き“鉄道員”たちは“会社員”として働く事になる。それは昨日まで仲間として働いていた者が明日からはライバル会社で数字を競い合い、同じ会社でも現場と管理する側の立場に分かれ、そして何よりも多くの鉄道員たちがリストラによって仕事を失うという事を意味していた。
1995年、南ヨークシャー。民営化の波に飲まれ、失業の危機に怯えながら過酷な選択を強いられた男たちは、非力ながら会社に立ち向かい、互いの友情を見つめ、そしてそれぞれの家族の絆を確かめ合う。しかし職場からは一人、また一人と仲間が去っていく。そして…。

●胸を打つ衝撃のラストシーン
ともすれば悲惨で暗くなってしまう話を、ローチ監督は独特のユーモア感覚で労働者たちの滑稽なやりとりを全編にちりばめ、全体を快活な笑いで包み込んでいる。そしてその皮肉を込めた笑いは、政府に対する強烈な批判でもあるのだ。観客は、経営者が机上で考えた理論によってもたらされる不条理な不幸を、笑いながら実感する事になるのだ。そして笑いの後に訪れるその衝撃的な、あまりにも“人間的な”ラストシーンには、誰もが言葉を失い、あらためて「人間とは?」と自らに問いかける事だろう。
それはケン・ローチが観る人全てに投げかける問題提起であり、痛切なメッセージなのだ。

●今の日本社会が直面する問題
ケン・ローチ監督が『ブレッド&ローズ』に引き続き撮り上げたこの作品は、実際に鉄道関係の仕事をしていた脚本家が自らの体験を物語にしたものだ。そしてイギリスではこの映画の内容をなぞるかのように鉄道事故が多発して、今や世論は民営化は間違っていたという意見が多数を占め、政府の政策見直しも始まっている。しかしそれは遠いイギリスだけの話ではない。国労の問題がいまだに解決されず、郵政民営化が取り沙汰され、多くの会社が大規模なリストラを断行している、正に今の日本の社会が直面している大きな問題でもあるのだ。

ストーリー


1993年イギリス、メイジャー首相の時代.英国鉄道民営化法が制定され、誇り高き“鉄道員”たちは“会社員”として働く事になる。それは、昨日まで現場の仲間として働いていた者が、明日からはライバル会社の一員となって数字を競い合い、同じ会社でも現場と管理する側の立場に分かれるかもしれない、ということを意味していた。
1995年、ヨークシャー州南部.保線会社で働くポールは、離婚後ポールの紹介でこの仕事に就いた同僚のミックの家に転がり込んでいた.いつものように出勤すると、英国鉄道再編のあおりを受けて会社名が変わっていた.主任のハーピックが大事なことを伝えるためにみんなを集めたが、今まで一緒に働いていた出向社員は全員退室させられてしまう。彼らは今後ライバルになる会社からの出向だったのだ。これからは各社の競争が始まり、会社の利益が何よりも最優先されるのだ。
新しい会社の方針を伝えたハーピックは、最後に全員に手紙を渡した。そこには新会社の取り決めが書かれていた。しかしそれは冗談としか思えないほどひどいもので、その新たな規則に基づいてこのまま仕事を続けるか、希望退職を申し出て増額された退職金を受け取るかを選択させられる、体のいいリストラだった。その日のうちに多くの仲間たちが辞表を提出した。
ポールは2人の娘に会いたくて花束を持って別れた妻リサを訪れるが、その家で会うのは規則違反のため拒絶されてしまう。
そしてドア越しに「あなたに頼りたくないので社会保障局に行っている」と告白される。
今日は年長のレンが辞表を提出し、荷物の整理をしている.レンは帰り際に、かつて同じ日に仕事を始めたビルにバッタリ出会って別れを告げた。そんなビルも今は管理職として働いていたが、過去のやり方を全く受け入れず、すぐに辞表をちらっかせる新しい社長と現場の間に挟まれて、戸惑いを隠せなかった。
現場のリーダー格だったジェリーは、信念を貫いて今迄のやり方にこだわって仕事を続けていたが、何度も急に変更される規則に反発して、問題児としてマークされる事になる。
結局現場の仲間で会社に残ったのはポールとミック、ジェリー、現場のまとめ役になったジョン、真面目で性格の優しいジムの5人だけだった。
ポールは娘に会う日に、スケート靴をプレゼントして親子3人で滑りに行った。そして家に送りに行くとリサから「社会保障だけではやっていけないので、養育費徴収局にも相談したので何とかしてほしい」と相談される。
5人は今まで使っていた手に馴染んだ機材を、全て外に出して壊すように命令される.中には修理したばかりの道具や新品同
様の機材もあったが、新会社の方針という事で従わざるを得なかった.その時ドールで脱線事故があったと連絡が入る。
損傷状態を調べるために急いで現場に駆けつけるが、既にライバル会社が数社調査を始めていた。また運行会社の調査員は、保線会社の責任だと言い張り、現場は混乱するばかりだった。
そんな中で5人は、レンを始め会社のかつての仲間たちと現場で顔を合わせる。話を聞くと彼らは派遣会社と契約して仕事の依頼を受けているという。しかも時給は想像を遥かに超える高額で、会社に残っている5人にとっては大きなショックだった。
全く無駄に時間を過ごして会社に戻った彼らは給料を配布される。ポールは明細を見て、養育費徴収局から徴収されている額が予想以上に多いのに偶然とし、レンから聞いた話も考えてすぐにも辞めると言い始めた.数度のリストラの末にやっと落ち着いてきたミックは迷っていたが、ジョンもポールに賛同した.ジェリーとジムは派遣では仕事が不定期だし、有給休暇なども一切付かないから冷静に考えるようにと引き留めたが、結局ポールとジョンは辞めることになってしまう。
皮肉な事に数日後、彼らが働いている事業所の閉鎖が決定した、という社長からの通達が伝えられた。しかも今となっては希望退職は受け入れられず、閉鎖までの猶予は3ヶ月だった。
ミックとジムは会社を辞めて派遣会社に登録する。早速ミックにも仕事が回ってきた。現場へ行くとメンバーの中には昔の仲間もいたが、現場を知らない素人が混ざっている上に頭数も2人足りなかった。しかし監督自身も現場を知らない人間で、無理矢理仕事を片付けようとしたため、ミックが文句を言うと逆に目を付けられてしまう。
ミックが家に帰ると、ちょうどポールが新しい家に移るところだった。ミックは妻の伝言で派遣会社に電話をすると、明日の現場には行かなくていい、という派遣先の会社からの伝言を伝えられた。次の日からミックは職を失い家事の手伝いをするが、かえって仕事を増やしてしまい、もう一度派遣会社に相談に行くことにした。
ポールが娘達を新しい家に案内しているところに、仕事の依頼が入る.現場に行ってみると監督はジェリーで、他のメンバーはミック、ジム、ジョンだった。久しぶりにかつての5人が顔を揃え、仕事も楽しく済ませ、美味いピールに話がはずんだ。次の仕事はジェリーを除く4人で、監督は知らない男だった。そしてまた仕事の内容に対して頭数が少なかったが、男は4人が仲間だと知って、この仕事が上手くいけば4人に仕事を回してやると持ちかけた.経費削減のシワ寄せば全て現場に回ってきたが、先行きの不安な4人は誘惑に勝てなかった。仕事は夜にまで及び、列車の見張り役がいないままでは大変危険な状態だった。そして事故は起こった.ジムが列車に轢かれかれたのだ。ジョンはすぐに救急車を呼びに走ろうとしたが、ミックが呼び止めた。「事故調査をされたら安全規定に違反していた事がばれてしまう」。危険な状態のジムを見てポールは早く救急車を呼ぼうと言ったが、ミックは「上まで運んで車にひき逃げされた事にしよう」と提案する。3人は誰にも言わないと約束して、瀕死の状態のジムを上まで運んで救急車を呼んだ。
翌日3人は閉鎖の迫った会社を訪ねた.彼らはただ一人残ったジェリーに、ジムの形見を母親に渡してもらうように頼んで、葬儀での再会を約束して言葉少なにその場を離れた。

スタッフ

監督:ケン・ローチ
製作:レベッカ・オブライエン
脚本:ロブ・ドーバー
撮影:バリー・エイクロイド/マイク・エリー
美術:マーティン・ジョンソン
音楽:ジョージ・フェントン
配給:シネカノン

キャスト

ジョー・ダッティン
トム・クレイグ
ヴェン・トレイシー
スティーヴ・ハイソン
ディーン・アンドリュース
ショーン・グレン
アンディ・スワロー
チャーリー・ブラウン

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