原題:able

渡辺元、19歳。ダウン症。高橋淳、17歳。自閉症。 二人の少年が、アメリカ、アリゾナでホームスティをした。

2001年/日本/35㎜/カラー/ビスタサイズ1:1.85/101分/モノラル 芸術文化振興基金助成事業/ 配給:「able」の会/配給協力:イメージフォーラム

2002年4月6日よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー

公開初日 2002/04/06

公開終了日 2002/04/26

配給会社名 0271

公開日メモ 「able」は、知的発達障害のある青年2人のある日常を迫ったヒューマン・ドキュメンタリー作品です。

解説


アリゾナに住むキャサリンとマーク夫妻は、知的障害のある日本の少年二人をホストファミリーとして受け入れ、数カ月間、一緒に暮らすことを決めた。年長のゲンは、リハビリテーションセンターで仕事のトレーニングを始める。年下のジュンは地元のハイスクールへ通う。そして二人とも、スペシャル・オリンピックスのバスケットボール・ゲームに参加することになった。
映画rable/エイブル』は、ここ数年の映画の中で、とびぬけて魅力的な2人の登場人物を主人公にしたドキュメンタリーである。2人の十代の少年には「知的障害」がある。この映画は、彼らが言葉も習慣も違うアメリカでそれぞれの可能性を広げていく冒険映画であり、日々の暮らしの中で彼らが周囲の人と信頼関係をつくっていく可能性を綴った日常の記録だ。カメラは丹念に優しく、2人のそれぞれに際立つ個性をすくいあげていく。私たちは、「障害者」という言葉で彼らをひと括りにしてしまいがちだが、彼らの個性は鮮やかに異なり、どちらも魅力的なキャラクターを発揮する。瞬間瞬間を楽しむのが上手で、見事なダンスを披露するゲン。イルカを触るのは嫌なのに、イルカを眺めているのは大好きなジュン。2人ともユーモアのセンスは抜群だ。この映画で、2人は堂々の主役なのだ。私たちは、彼らを見ながらふと思う。「知的障害」と「健常者」の違いとは何なのだろう、と。
監督は、話題作『日本鬼子リーベン・クイズ』のプロデュースが記憶に新しい小栗謙一。製作は、知的障害者のスポーツを振興するスペシャル・オリンピックス日本理事長を務める細川佳代子で、この映画の製作のために「able基金」を設立し、多くの方の寄付によって映画を完成させた。
映画化のきっかけとなった、スペシャル・オリンピックス世界大会について、監督の小栗はこう語る。「大会場に集まった観衆の誰もが、”障害者に良いことをしよう””障害者を支援しよう”といった気持ちで来ているのではなかった。誰もが、普通のスポーツ競技会を楽しむようにやってきていた」。
当初、小栗は、障害者への注目を集めるために、たとえば映画『レインマン』のダスティン・ホフマンのように数を覚えることに際立った才能がある、また障害者でありながら100メートルを10秒で走る抜ける、といった「出来る=able」が一目でわかるような登場人物を配した方がいいのではないかと逡巡したという。
しかし、最終的に、小栗は、無口でどこも特別には見えないゲンとジュンを選んだ。誰か特別な障害者の物語ではなく、どこにでもいる、でもそれぞれに特別な個性を持った少年の「可能性=able」の物語がこうして生まれた。撮影は、2001年の2月から初夏まで。撮影テープは100時間にも及んだ。
これはある意味で、いわゆる健常者とよばれる人間が知らず知らずに意識している「知的障害」というラベルを破って、彼らひとりひとりとつきあっていく「可能性=able」の物語でもあるといえるだろう。

ストーリー

 アメリカ・アリゾナ州の新興住宅街ギルバートに住むキャサリン・ルビとマーク・ルビ夫妻は、知的障害のある日本の少年2人をホストファミリーとして受け入れ、一緒に数ヶ月間、生活することを決めた。これは、二人にとっても冒険だった。
 事前に日本から送られてきた情報では、19才のゲン・ワタナベはダウンシンドローム、17才のジュン・タカハシは自閉症がある。2人とも、スペシャル・オリンピックス日本のアスリートであると紹介されていた。キャサリンは、障害については、それまでほとんど知識がなかった。そこで、2人のために、規則正しい日常のシステムをつくり、それにそって生活をつくらなければならないと考え、勉強会に出席したり、インターネットやさまざまな人からのアドバイスを受けた。準備期間の2ヶ月は瞬く間にすぎた。
 少年達を出迎えたキャサリンは、戸惑いを覚えた。日本語しか判らないゲン。目を合わさず言葉を話さないジュン。家に向かう車の中でもひとことの会話も成立しない。家に帰ればいきなり眠り込んでしまう。しかし、夫マークが帰宅し、夕食が始まると、不安は薄れた。2人の旺盛な食欲には唖然とさせられたが、彼らとうまくやっていけそうな気がしてくるのだった。その夜、少年たちの寝顔を見ていたキャサリンは、自分が母親ではないことはわかっていても、責任感と守ってあげたいという母親のような気持ちが強く湧いてくるのを感じた。明日から新しい冒険と挑戦の日々が始まる覚悟ができた。
 17歳のジュンは地元のハイスクールのスペシャル教育クラスに通うことになった。学校のクラスは、楽しそうだった。クラスメートにチャドという少年がいた。チャドは、7歳の時に交通事故に遭い、脳の損傷から重複障害を抱えている。彼は、自らを「BigChad」と命名し、心の大きなリーダーを目指しているにふさわしく、何かとジュンの面倒を見てくれた。
 ゲンは40年の歴史を持つペリー・リハビリテーションセンターで仕事のトレーニングを始めた。その初日、与えられた仕事を難なくこなしていたゲンだが、一人で寂しさのあまりか、仕事を張り切りすぎたのか、テーブルの上に涙の水たまりができるほど泣いてしまった。しかし泣いたのはその日だけだった。ゲンもジュンも職場や学校を楽しむようになっていった。
 キャサリンは、2人をアメリカでもスペシャル・オリンピックスのスポーツプログラムに参加させたいと考えた。そして、いろいろな競技種目の中から、自分一人で行う種目ではなく、攻撃と防御の両方があるチームプレイのバスケットボールを選んだ。練習が始まると、ジュンは、誰かがボールをくれるのを待っていた。ゲンは、おとなしくしていたが、一度エンジンがかかればハッスルした。
 コーチは、彼らをウォームアップから、ストレッチ、ジャンピング、腹筋、そして、コートの端から端までランニングして行ったり来たりと、的確に指導していた。ゲンもジュンも楽しげにマイペースでついていった。
 そんなある日、家族4人でシー・ワールドにイルカショーを見に行った。そこで、カリフォルニアに住む中国人・レイテェルに出会う。彼女は自閉症の息子ジョシュアのために熱心に活動している母親で、自閉症についての体験的な話をいろいろと聞かせてくれた。家に帰ったキャサリンは、もっと、自閉症についての知識を得たいと、インターネットで、「馬と自閉症の関係」という興味ある項目を探しだす。そして、ある専門家に連絡をとってみると、その人は、2人の少年のためにセラピー乗馬を強く勧めてくれた。
 キャサリンは、声をほとんど発しないジュンに、毎日まいにち話しかけていた。「グッド・モーニング」「グッナーイ」・・・・・。そしてある日、ついにジュンが声をだした。「グッ..ド..ナ…イ」。あまりの嬉しさにキャサリンは思わず涙をこぼした。
 スペシャル・オリンピックス・アリゾナが主催するバスケットボール大会に、2人が正式なアスリートとして出場できる通知が来た。マークとキャサリンは、近所の公園に2人を連れていき、バスケットボールの練習を開始した。
 ゲンはとても順調に作業をつづけていた。ペリー・センターでは、ゲンを一般の社会で仕事をさせることの検討会が開かれた。結果、ゲンは、フェニックスのレキシントンホテルで働くことになった。ホテルには、多くの知的障害者が働いていた。一方、ジュンも学校で野球をしたり、コンピューターで学んだり、調理や粘土細工など、毎日忙しく授業を楽しんだ。チャドからは、人々のために扉をあけてあげる優しさを学び、それをも楽しむようになっていた。
 スペシャル・オリンピックスのアリゾナ州大会の日が来た。ジュンは絶えず大きな微笑みを浮かべて、一応コートを端から端まで走るのに比べて、ゲンは後方でうろうろとしているだけ。他の選手たちはとても積極的なのに、相手のボールを取ろうとしない2人。キャサリンは日本語で「トッテ」と叫んだ。「トッテ」「トッテ」「トッテ」…..,.。キャサリンとマークの熱心さに押し出されるように、2人は次第に積極的にプレイするようになる。優勝はできなかったものの、2人の顔は晴れやかだった。
 日本へと帰る日を前にして、キャサリンとマークは2人が結婚した場所セドナヘ、ゲンとジュンを連れてピクニックにでかけた。自然を楽しみ、ランチを食べ、写真を撮りあって遊ぶ4人。ゲンは素晴らしいカメラマンぶりを発揮し、キャサリンを驚かせた。ペリー・センターでのさよならパーティーでは、ゲンは見事なダンスも披露して皆の喝采をあびた。そしてジュンもクラスの皆にさよならをする。チャドはスーパーマンのTシャツをつくってプレゼントしてくれた。皆にさよならの手を振った後、しばらくしてジュンの目から涙がこぼれた。
 ついに別れの日がやって来た。「2人にとって、良い日々をおくってこれただろうか?」
 キャサリン夫婦は自らの数ヶ月の奮闘を思い返し、少年たちが眠りについた夜、2人だけの部屋で静かに語り合い、そして泣いた。今、2人は、少年たちとの生活に誇りとたしかな可能性を感じていた。

スタッフ

製作・監督:小栗謙一
製作総指揮:細川佳代子
撮影:K.P.マロン
音楽:トルスチン・ラッシュ
製作:羽根石実佳
撮影助手:松永朋広
演出助手:花井ひろみ、細川裕子、百田佳恵
整音:久保重朗
効果:岩波昌志
キネコ:中村眞
色彩調整:廣瀬亮一
英語翻訳:羽根石実佳、リック・ニクソン
製作協力:able基金に寄付を寄せた全ての人々
ペリー・リハビリテーションセンター
ギルバート・ハイスクール
スペシャルオリンピックス・チャンドラー
スペシャルオリンピックス・アリゾナ
スペシャルオリンピックス・インターナショナル
スペシャルオリンピックス日本
ベストバディーズ・アリゾナ
製作:able基金、株式会社ディレクターズシステム

キャスト

渡辺元
高橋淳
キャサリン・ルビ
マーク・ルビ
レイチェル・チェン
チャド・アーサー

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