原題:THE MAN WHO WASN'T THERE

髪型を変えるように少しだけ人生を変えたい 床屋が思いついたほんのちょっとした恐喝は 思いもよらぬ悪夢の始まりだった……

第54回カンヌ国際映画祭公式出品作品 最優秀監督賞受賞 第54回英国アカデミー賞最優秀撮影賞

2001年10月31日全米初公開

2001年/アメリカ/モノクロ/116分/DTS / Dolby Digital USAフィルムズ提供/ワーキング・タイトル・フィルムズ作品 提供:アスミック・エース エンタテインメント/角川書店 配給:アスミック・エースエンターテイメント

2002年12月21日よりDVD発売開始 2002年4月27日より恵比寿ガーデンシネマ、シャンテシネにて公開

(C)2001 USA FILMS.LLC ALL RlGHTS RESERVED.

公開初日 2002/04/27

配給会社名 0007

公開日メモ 髪型を変えるように少しだけ人生を変えたい。床屋が思いついたほんのちょっとした恐喝は思いもよらぬ悪夢の始まりだった……

解説


デビュー作『ブラッドシンプル』以来、無限大の創造性で常に「新しい分野」の作品を世に送り続ける“映像の魔術師”ジョエル&イーサンのコーエン兄弟。実際に起きた犯罪事件をユーモラスに描く『ファーゴ』や、人違いから始まる誘拐をポップに見せる『ビッグ・リボウスキ』などで観客を魅了してきた彼らが、笑いと幸福感いっぱいの冒険物語『オー・ブラザー!』を発表し世界的大ヒットを記録したことは記憶に新しい。そして最新作『バーバー』は、9本目にして初の“全編モノクローム映画”!人間への愛を深く深く綴ったハードボイルド・ワンダーランドの登場だ。2001年第54回カンヌ国際映画祭でお披露目となった本作は、世界の映画人の絶賛を浴びて見事、最優秀監督賞を受賞。これまでのどの作品よりも「コーエン兄弟の実態」を浮き彫りにし、人生の滑稽さ、哀しさ、不思議き、そして愛しさがジワりと溶み出る最高傑作がこに誕生した。

北カリフォルニア、サンタ・ローザ。エド・クレイソは、義兄の経営する理髪店で働く床屋。妻ドリスはデパートの帳簿係で、店のオーナーであるデイヴと深い関係にあるようだ。代わり映えのない仕事、冷え切った夫婦生活、漠然とした不満の中でただ過ぎていく日々……。ある日、理髪店に一人のセールスマンがやってくる。男はべンチャー・ビジネスの契約でこの町にやってきたが、相手の都合で話がパアになったとぼやく。“ドライクリーニング”……まったく新しい清潔産業、明るい未来。「これで俺の人生は変わるのか?」早速エドは不倫をネタにディヴに金を要求する。しかし、ちょっとした恐喝は様々な悪夢を巻き起こし事態は思いもよらぬ方向へ。壊れはじめたエドの運命は、どんな結末を迎えるのだろうか……。

『バーバー』は、コーエン兄弟が満を持して世に贈り出した初の全編モノクローム映画である。舞台は1949年、国民の誰もが“アメリカン・ドリーム”を夢見ていた最も豊かな時代。コーエン兄弟がこだわり抜いた“光と影”は、古き良きアメリカの空気感をダイレクトに伝え、色のない世界ゆえの奥行きがイマジネーションを刺激する。
動脈と静脈(カラーならば赤と青)が回転する理髪店のポールをじつくりと映し出すオープニング・シーン、“ドライクリーニング”という新しい産業を“床屋”の人生と結びつけるコーエン兄弟ならではの突飛な発想、次々に登場する魅力的でユニークなキャラクターたち、それら全てのモチーフが浮遊感を帯びたグラデーションの中で展開する。床屋が蟻地獄にはまってもがけばもがくほど、観る者もまたコーエンの仕組んだ巧妙な魔法にはをっていくのだ。
物語は、主人公エドの淡々とした独白で語られていく。不倫、恐喝、殺人、自殺、妊娠、そして……目の前でどんな悪夢が起ころうと、スクリーンの中の彼はほとんど言葉を口にせず、全く表情を変えず、一度も笑顔を見せない。しかし、その内側にはとてつもない“熱情”が秘められている。彼の心の声は途切れることなく続く。死んでしまった後も永遠に続くかのように……。徐々に活気を帯びていくエドの内なる声が、人間の強さと弱さ、喜びと悲しみ、そして愚かさと愛しきに溢れた作品世界へと昇華させている。

コーエン兄弟が「ジェームズ・M・ケインの世界」と評する本作のオリジナル脚本は、これまで同様に彼らが共同で書き下ろし、製作をイーサン、監督をジョエルが担当。彼らにとって大きな挑戦となった秀逸なモノクロームの世界は、驚くべき名演技と凄腕のクルーによって成功に導かれた。
主人公である無口な床屋エドには、監督・脚本家・俳優・歌手と多彩な才能を持つビリー・ボプ・ソーントン。コーエン作品初主演となる彼は、脚本を読む前から出演を快諾し、鋭い眼差しと抑制の利いたナレーションで存在感のない床屋を見事に印象付け、2001年ゴールデン・グローブ賞主演男優賞ノミネートほか数々の賞を受賞している。エドの妻ドリスにはジョエルの妻であるフランシス・マクドーマンド。『ファーゴ』で見事アカデミー賞主演女優賞に輝いた彼女が、高級志向で上昇志向の強い女性像を華麗に演じている。ドリスのボスで不倫相手となるビッグ・デイヴには、ジェームズ・ガンドルフィーニ。主人公エドとは好対照の存在感溢れる役柄を熱演。また、エドが恋する高校生バー力には若手女優の注目株であるスカーレット・ヨハンスン。後半の大きな鍵を握る重要な役どころを持ち前の度胸と愛嬌で堂々と演じている。さらに、怪しいセールスマン役のジョン・ポリドリをはじめ、喋りっぱなしのエドの兄フランク役のマイケル・バダルコ、豪腕の弁護士リーデンシュナーダー役のトニー・シャルーブら、コーエン作品常連組の快優たちがスクリーン狭しと暴れまわっている。
美しいモノクローム映像を映し出したのは、『バートン・フインク』以来6作目のコーエン兄弟とのコラボレーション、4度のアカデミー賞撮影賞ノミネートに輝くロジャー・ディーキンズ。彼は今回、カラーのネガフイルムで撮影し、ハイ・コントラストのタイトル用ネガフイルムに現像するという特別な手法を採用。優しい照明がすべてを包む立体感のある映像を作り上げた。プロダクション・デザインのデニス・ガスチーは『ミラーズ・クロッシング』以来5作目、そして衣装のメアリー・ゾフレスは、『ファーゴ』以来4本連続となる、ともにコーエン兄弟を支えてきた名手たち。モノクロームの中で登場人物が最も際立つ環境と衣装を構築した。音楽はデビュー作『ブラッドシンプル』以来6作目となるカーター・パウェル。主人公を虜にしたべートーべンのピアノソナタをメインに、モーツァルトの『フィガロの結婚』など優麗な音楽がいつまでも印象に残る。編集は『ファーゴ』でアカデミー賞にノミネートされロデリック・ジェインズ(実はコーエン兄弟の別名)とイーサン夫人のトリシア・クークが担当。製作総指揮はコーエン兄弟とは『未来は今』以来5作連続となるワーキング・タイトル・フイルムズのティム・ビーヴァソ&エリック・フェルナーがあたっている。

ストーリー



1949年夏、北カリフォルニア、サンタ・ローザ。エド・クレインは、妻の兄フランクが経営する小さな理髪店で働いている。もともと床屋だった訳ではなく、結婚してたまたま得た職業だ。喋りっぱなしの義兄、代わり映えのない仕事、漠然とした不満の中でただ過ぎていく毎日。
妻ドリスはデパートの帳簿係。金の出入りを付ける仕事を楽しみ、店の高級品を1割引で手に入れ、火曜の夜は教会でビンゴに没頭する。ドリスのボスであるデイヴもまた、エドと同様に、デパートの跡継ぎ娘と結婚してその座を得た。自分の戦争体験をひけらかし、英雄気取りで大意張り。店の景気は良く、ドリスを新しい支店の支配人にと考えている。エドはデイヴと妻が深い関係にあることに気づき始めていた。
ある日の閉店間際、見知らね客が理髪店を訪れる。100%人毛の高価なカツラをまとったそのセールスマン、クレイトン・トリヴァーは、べンチャー・ビジネスの契約でこの町にやって来たが、契約相手の都合で話がパアになったとぼやく。“ドライ・クリーニング”……資金1万ドル。まったく新しい清潔産業。明るい未来。
その夜、エドはトリヴァーのホテルを訪れ、資金を工面すると告げる。男は大喜びし、こともあろうにエドをベッドに誘うが、エドはそれをクールに撥ねつける。エドはドリスとの不倫をネタにデイヴに脅迫状を送り、雇われ社長のデイヴは浮気が妻にバレて今の地位を失くすことを恐れ、それに従った。あっけなく1万ドルを手にしたエドは、早速トリヴァーの元へ契約に行き、あっさりドライ・クリーニング店“トリヴァーズ”のオーナーとなった。一方、支店の話がなくなって支配人の道を断たれたドリスは荒れていた。従妹の結婚式に出席しても、祝福するどころかイヤミを言い出す始末。
ある夜、デイヴがエドをデパートに呼び出す。今回の恐喝に疑問を抱いていたデイヴは、トリヴァーからいきさつを聞きだし脅迫状の送り主がエドだということを突き止めていた。エドの裏切りに怒り狂うデイヴ。追い詰められたエドは、手にしていた葉巻ナイフで思わずデイヴを刺し殺してしまう。
翌朝、刑事が床屋にやってきてデイヴの殺人容疑でドリスが逮捕されたとエドに告げる。エドは知り合いの弁護士ウォルター・アバンダスに相談に行き、州都サクラメントで最も腕の立つ弁護士はリーデンシュナイダーであることを聞き出す。
ドリスの弁護を引き受けたリーデンシュナイダーは、裁判のために打合せがはかどらず苛立つ。アリバも証人もなしでは話が進まない。エドは、この事件を裏付けられる唯一の人物であるセールスマンのトリヴァーを訪ねる。しかし、彼は姿を消していた。金も消え、デイヴも消え、ドリスも消える……。それでも、裁判費用の支払いのために来る日も来る日も髪を切るエド。そんな彼の気持ちを癒してくれるのは、ウォルターの娘バー力の存在で、彼女が奏でるべートーべンのピアノソナタの音色がエドにとって束の間の幸福だった。
そしていよいよ初公判の日。ところが……

スタッフ

監督・脚本:ジョエル・コーエン
製作・脚本:イーサン・コーエン
製作総指揮:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー
共同製作:ジョン・キャメロン
撮影:ロジャー・ディーキンズ
プロダクション・デザイン:デニス・ガスナー
衣装:メアリ・ゾフレス
音楽:カーター・パウエル
編集:ロデリック・ジェインズ、トリシア・クーク

キャスト

エド・クレイン:ビリー・ボブ・ソーソトソ
ドリス・クレイン:フランシス・マクドーマンド
フランク:マイケル・バダルコ
ビッグ・テイヴ:ジェームズ・ガンドルフィーニ
アン・ナードリンガー:キャサリン・ボロウィッツ
クレイトン・トリヴァー:ジョン・ポリト
バーディ・アバンダス:スカーレット・ヨハンスン
ウォルター・アバンダス:リチャード・ジェンキンス
フレディ・リーデンシュナイダー:トニー・シャループ
カーカノグス:アダム・アレクシ=モール

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