スプリング−−春へ
原題:The Spring
1986年ファジル映画祭審査員特別賞、新人賞(メヒディ・アサディ)
1985年/イラン/カラー/ヴィスタ/35mm/86分 配給:ビターズエンド
2002年11月22日よりDVD発売&レンタル開始 2001年12月26日より三百人劇場にてロードショー公開
公開初日 2001/12/26
配給会社名 0071
公開日メモ イラン・イラク戦争の最中。少年ハメドが戦火を逃れて、森へやってきた。彼の住んでいたボスタンが軍隊に占拠されてしまったからだ。森番をしている老人が彼の面倒を見ることになった。
解説
イラン・イラク戦争の最中。少年ハメドが戦火を逃れて、森へやってきた。彼の住んでいたボスタンが軍隊に占拠されてしまったからだ。森番をしている老人が彼の面倒を見ることになった。まだ両親が残っている故郷を想い、沈みがちなハメド。しかし徐々に森の暮らしにも慣れ、老人と心を通わせてゆく。長編二作目である本作は非常にドラマチックな秀作だ。”ドキュ・ドラマ”と称される独自の手法で映画を撮り続けているジャリリには珍しく、劇的な出来事の積み重ねにより、物語は進行してゆく。だが、離れた両親を案じながら、慣れない森で過ごす少年の不安を描き出す点など、現在も彼が一貫して選び続けているテーマと通じている。現代の虐げられた子供たちと、戦争により虐げられた子供たちとは時代が異っても、守るべき存在として同一なのだ。また、現在のジャリリ作品と同様に彼は本作においても音や背景など、自然の設定にこだわりを見せている。’舞台となっているのはイランの北部、カスピ海の近くである。森が多く、南部とは全く雰囲気が違う。その森の美しさをあますことなく、ジャリリは映しとった。雪の降る泉、木々の間を行く舟など、その風景の美しさは圧巻である。
●戦争終結への願い
1980年9月、イラクのサダム・フセイン政権がイランヘの侵攻に乗り出したことから、イラン・イラク戦争は始まった。この戦争は、イスラム革命が自国へ波及することを恐れた湾岸アラブ諸国がイラクを支援したことや、米軍がイラク側に有利に動いたことなどと併せて、イランの国際的孤立を招いた。88年8月、国連による停戦監視が始まり、長期にわたった戦争の幕が閉じた。最も辛い戦況であった85年に製作された本作には、戦争終結への願いが込められている。国や民族によって人を分けることは意味がない、とジャリリは言う。世界中の人間が一つの民族として共生するべきだ、と考えているのである。
●一切の妥協を許さない監督、アボルファズル・ジャリリ
本作のために、ジャリリはロケを行なう泉を探していた。大勢の人が様々なところへ案内したが、どれも彼の期待に添わなかった。そこで、彼は泉のセットを作ることにした。イメージにあった場所を選んで、村人を雇い、ショベルカーやクレーンを使用するほどの大作業を経て、ようやく泉が完成した。水草や藻をつけ、橋を渡し、泉の横には小さな小屋を建てた。完壁なセットができあがった。だが、村人たちが美しい泉の完成を喜んでいるのも束の間、主人公が夢で見たように、ジャリリはその小屋を爆破してしまった。「一切の妥協を許さ
ない監督」と呼ばれている由縁のひとつである。現在でも、出演者との関係を築<ためには打ち解け合うまで何ヶ月もかけ、イメージに合ったキャストが見つからなければ撮影に入らず、気に入ったロケ地を探すためには何ヶ月も旅をする。そのこだわりゆえに、イラン国内での上映が許されなくても、彼は妥協することなく、撮りたい映画を撮り続けているのである。
ストーリー
戦地の両親を想う少年、孤独に暮らしていた老人、美しく静かな森の中、2人は心を通わせてゆく
イラン・イラク戦争の最中。シナに連れられハメドは森へとやってきた。ハメドの住んでいた街爪軍隊に占拠され逃げてきたのだ。森番をしているシナが彼の面倒をみることになり2人は共に暮らし始める。静かな森で余生を送っている老人と、戦争を目の当たりにしてきた少年。泉での洗顔、食べ
なれない食事など、街とはまったく違う生活にとまどうハメド。この森ではイラク軍を見ることもないという。両親が残っているボスタンを想い、泣き出してしまうハメドに「立派な男は泣くものじゃない」とシナは諭す。森についてハメドに教えるシナ。冬は寂しいが、春になれば花が咲き乱れ、この森も美しいという。無許可に木を切るものがおり、見張るのが森番の仕事だ。また、春には鴨が海へやってきて、小屋までその列が続くという。昔、シナはこの海で妻と鴨を眺めていたが、妻はコレラで死んでしまった。「でも、今年はハメドがいるから寂しくない。春になったら2人で鴨を見よう」と話すシナ。.明け方、誰かが木を切っている音で目覚めるシナ。ハメドと共に2人で犯人を捜すが見つけられない。
ラジオを聞きながら、鴨がやってくる海を想像し、絵を描くハメド。ある日、シナが帰るとハメドは地下室にいた。「警報を聞いて地下室に隠れた」というハメドの言葉を聞き、シナはラジオを隠す。森まではイラク軍は来ないので、警報が鳴るはずはな
い。ハメドはラジオに異常なほど不安を抱いている。シナはそれが心配でならない。
ハメドは、以前聞いたのと同じようなのこぎりの音を聞き、森の中を必死で走り犯人を捜す。しかし、暖炉から離れている間に小屋が火事になりかけてしまった。一度は叱ったものも「のこぎりの音を聞いて森へ入った」というハメドに「一人前の森の男になった」とシナは誉める。
ある日、森の中でハメドはヤクブという名の青年と出会う。彼はボスタンにいたことがあるという。ヤクブの話を聞き、郷愁の念を募らせてゆくハメド。「ヤクブと共にボスタンへ向かう」というハメド。シナは肩を落とす。ハメドはシナの様子を見て、旅立つのをやめる。ヤクブを見送った帰り道、嵐のためにハメドは道に迷う。シナの声を頼りに歩くが足を滑らせ川へ落ち、ハメドは高熱を出してしまう。シナは妻が死んだ時を思い出し、必死で看病する。ハメドはうなされながら「母さん…。ボスタン…」と繰り返す。地下室からラジオを出して聞いてみると、ボスタンがイラク軍から解放され、自由になったとのニュースが伝えられていた。いそいでハメドに聞かせるシナ。そのニュースを聞き、ニ人は抱き合って、解放を喜ぶのだった。
スタッフ
監督:アボルファズル・ジャリリ
撮影:メヒディ・ヘサビ
録音:ハッサン・ザヘディ
音楽:モハマド=レザ・アリゴリ
プロデューサー:ナセル・ペゼシキ
キャスト
メヒディ・アサディ
ヘダヤトラ・ナビド
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