こころの湯
原題:SHOWER
心が疲れた時に見てほしい、きっと暖かい涙で癒される親子の物語
1999年トロント国際映画祭国際批評家連盟賞受賞 1999年テサロニキ映画祭グランプリ(Golden Alexander)&観客賞受賞 1999年サンセバスチャン国際映画祭監督賞&OCIC賞受賞 2000年ロッテルダム国際映画祭観客賞受賞
1999年/中国映画/92分/カラー/ドルビーSR 配給:東京テアトル/ポニーキャニオン
中国映画の全貌 2007にて上映::http://www.ks-cinema.com/schedule.html 2002年03月15日 よりビデオ発売開始 2001年7月7日より日比谷シャンテシネにて公開
公開初日 2001/07/07
配給会社名 0049/0068
公開日メモ 心が疲れた時に見てほしい、きっと暖かい涙で癒される親子の物語
解説
《中国の国宝と呼ばれる名優チュウ・シュイの心にしみわたる演技》
チュウ・シュイという名前を聞いてすぐにピンとこなくても、NHKドラーマ「大地の子」で日本人孤児の養父役に扮した俳優と言えば、誰もがわかると言っても過言ではないだろう。”あのお父さんにはボロボロに泣かされた”という人も、きっと多いに違いない。そんな”中国のお父さん”チュウ・シュイの主演最新作が、『こころの湯』である。
チュウ・シュイは、北京人民芸術院創立当時からの名優で、中国では国宝とまで言われている。映画出演を望む熱い声を長い間断ってきたが、54歳にして映画デビューを果たす。それ以後は慎重に作品を選び、現在までわずか6本の作品にしか出演していない。なかでも主人公の少年の祖父を演じた『心の香り』や、大道芸人という難しい役に挑んだ『變瞼〈へんめん〉この櫂に手をそえて』は、世界各地の映画祭で絶賛されている。
前作から5年、再び我らが”お父さん”が帰ってきた。今回も普段は温和だが一本筋の通った父親像を味わい深く演じ、知的障害を持つ次男アミンヘの深い愛情にまたしても涙を誘われる。そして、人生の様々な側面を見てきたような慈愛に満ちた眼差しひとつで、観る者の心を優しく包んでくれるのだ。
《心が疲れた時に見てほしい、きっと暖かい涙で癒される親子の物語》
父が下町で営む銭湯「清水池」を継がず、都会で働くターミンは、弟のアミンから1枚の葉書を受け取る。知的障害のあるアミンは、文章の代わりに父が横たわる絵を描いてきた。それを見たターミンは、もしや父が倒れたのではと心配し、久しぶりに帰郷する。
幸い父に変わりはなかったが、アミンが迷子になったり、父が風邪で倒れたりの”事件”が続き、ターミンは滞在を延ばして銭湯を手伝う。毎日やって来るお客さんの幸せそうな顔を見ているうちに、ターミンは初めてこの仕事を愛する父の気持ちを理解するのだった。ところがそんな矢先、地域の開発のため銭湯の取り壊しが決まってしまう……。
長男ターミンが、自ら遠ざけてきた家業、銭湯。大人になって都会で働く彼は、疲れきった表情で不義理を続けた故郷に帰ってくる。最初は居心地悪そうなのに、銭湯を手伝うにつれてその表情は生き生きと輝き始める。ターミンが都会でなくしてしまったもの、それはまさに銭湯に象徴される、人と人との裸の付き合いであり、心身ともに癒される場所だったのではないだろうか。
日本の経済も急激に成長を遂げ、それと引き換えに多くのものを失ってきた。銭湯を始め人との触れ合いを大切にした古きよき文化が跡形もなく消え去り、親子の断絶が問題視され、家族の崩壊が言われて久しい。21世紀を生きる私たちは、まさにターミンそのものなのかもしれない。
《アメリカで異例の大ヒット、世界中の観客に愛された映画》
監督は『スパイシー・ラブスープ』でデビューした新鋭チャン・ヤン。今までの中国映画とは全く違う斬新な作品で、本国で爆発的にヒットした。その要因の一つには、プロデューサーがアメリカ人のピータ—・ローアーであることも大いに関係があるだろう。
ニューヨーク生まれのローアーは日本、台湾で音楽や映像の仕事に携わり、後に北京に渡り、97年に中国で初めて正式に認められた独立系映画製作会社を設立する。その初プロデュース作『スパイシー・ラブスープ』で大成功を収めたローアーが、再びチャン・ヤンとコンビを組んだのが本作である。
『スパイシー・ラブスープ』で北京の急速に発達した姿を描いたチャン・ヤンは、今までの中国映画に比較すると物質的に非常に豊かに見えるという意見に対し、これが現在の北京の当たり前の姿だと語っている。が、その一方で、変化には必ずよい面と悪い面があるということにも言及していて今回、豊かな都会の生活のために取り壊されるものにスポットをあてたのが本作である。
また、チャン・ヤンは単に古きよきものをノスタルジックに描くのではなく、銭湯という舞台を水と人間の関わりというテーマにまで昇華し、国境や文化を越えて人々の心に訴えかける物語を作ることに成功した。その結果、世界中の観客に愛される作品となり、テサロニキ映画祭とロッテルダム映画祭では観客賞を受賞、観客に愛される作品であることを証明した。
ストーリー
北京の下町でリュウ<劉>(チュウ・シュイ)が営む銭湯「清水池」は、今日も常連で賑わっていた。リュウのマッサージを気持ちよさそうに受ける客、コオロギを闘わせて遊ぶ老人、シャワーを浴びながら歌の練習をする青年……。知的障害のある次男のアミン<阿明>(ジャン・ウー)は、楽しそうに父の仕事を手伝っている。
そんなある日、深圳で妻と暮らし、ビジネスマンとして働く長男のターミン<大明>(プー・ツンシン)が、突然帰郷する。ターミンはアミンから届いた葉書に描かれた横たわる父の絵を見て、もしや父が倒れたのではと心配して帰ってきたのだ。元気な父の姿を見て安心したターミンは、2、3日ゆっくりすると妻に電話する。
ターミンはアミンを連れて、帰りの航空券を買いに町中へ行く。ところが、少し目を離した隙に、アミンはどこかへ消えてしまう。夜になっても戻らないアミン。いても立ってもいられずに探しに出かけるリュウは、追いかけてきたターミンを怒鳴りつける。「わしゃわしの仕事を見下してもかまわない。お客さんが喜ぶ顔を見ればそれで満足なんだ。」それは、ずっとわだかまっていた息子への気持ちだった。「弟のことなんか眼中にないんだろう。わしはアミンまで失いたくない。」ターミンは一言も言い返せなかった。
翌朝、アミンがふらりと帰ってくる。埃まみれになっていたが、いたって元気だ。アミンの笑顔でいつもの清水池の朝が始まる。その夜、台風がやってくる。夜中に屋根に登って天窓を補強するリュウを手伝うターミン。本音をぶつけたおかげで、逆に親子の心は近づいていた。翌日、雨にぬれて風邪をひいたリュウに代わって、ターミンが清水池を開ける。そしてその翌日も……。ターミンは、心から楽しそうなお客さんたちの顔を見て、初めて父の仕事を理解し始めていた。
借金取りに追われた常連の一人を助けて金を貸してやったり、喧嘩の絶えない夫婦の仲を取り持ってやったり……リュウと息子たちの毎日はそれなりに忙しかった。そんな中、この地域の再開発が決まり、周囲の民家はもちろん清水池も取り壊されることが決定してしまう。しかし、リュウは親子3人で銭湯を切り盛りすることが楽しく、泰然と構えていた。
そんなある日、リュウは風呂にまつわる話を客の一人に語って聞かせる。内陸の陜北地方には年に一度しか雨が降らない。そのためこの地方の人々は、普段は風呂に入らない。しかし、昔ながらの風習で、花嫁は婚礼の前の日に風呂で体を清めなければならない。花嫁の父は穀物と引き換えに、村中の人々から少しずつ貴重な水を集める。そうやってリュウの許へ嫁いできたのが、二人の息子の母親だったのだと……。
銭湯を閉めた後のリュウとアミンの日課であるジョギングに加わるターミン。3人にとって、親子水入らずで客が帰ったあとの風呂に入るのが何よりの楽しみだった。充実した毎日を送るターミンは、深圳に帰るのを先延ばしにしていた。そんな3人の幸せな暮らしは永遠に続くかのように思えたが、清水池の取り壊しの日は刻々と迫っていたのだった……。
スタッフ
監督:チャン・ヤン
製作:ピーター・ローアー
脚本:リュウ・フェントウ/チャン・ヤン/フォ・シン/ティアオ・イーナン/ツァイ・シャンチュン
撮影:チャン・チェン
編集:ヤン・ホン・ユー
録音:ライ・チー・チャン
キャスト
リュウ(劉/父さん):チュウ・シュイ
ターミン(大明/兄):プー・ツンシン
アミン(阿明/弟):ジャン・ウー
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