DOWN UNDER BOYS
原題:The Boys
落ちていくしかない男たち。彼らがたどりついたのは、犯罪だった。
1998年ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品 1998年オーストラリア・アカデミー賞4部門(監督・助演男優・助演女優・脚色)受賞 1999年オーストラリア映画批評家協会賞3部門(作品・監督・脚色)受賞
(初公開:ベルリン映画祭1998年02月19日公開)
1998年オーストラリア/86分/1:1.85ヴィスタサイズ/ドルビーステレオ/ 日本語字幕:石田泰子 配給:ビターズ・エンド
2000年10月28日よりシアター・イメージフォーラムにてレイトロードショー! 2001年5月25日ビデオ発売
公開初日 2000/10/28
配給会社名 0071
解説
落ちていくしかない男たち。彼らがたどりついたのは、犯罪だった。
オーストラリア。シトニー郊外の、何の変哲もないさびれた町。傷害事件で投獄された長男ブレットが、仮出所で戻ってきた。彼か不在の1年の間に、家族の関係は大きく変化していた。彼は、かつての支配力を取り戻そうと、家族を仕切りはじめる。途方に暮れる母親、去っていく恋人たち、長男の影響下に置かれる2人の弟。無為な時間の中で、生きる目標さえ見つからない兄弟3人は、徐々に精神的なつながりを深めていく。そして、ブレットの帰宅から18時間後。夜の街に出た3人の男たちは、ついに、恐るべき事件を引き起こした。
犯罪の瞬間を描かない、全く特異な”犯罪映画”
本作品では”フラッシュ・フォーワード”と呼はれる編集技法が用いられ、現在の時間の流れの中に何の説明もなく突如”何時間後”とクレジットの乗った画面が現れる。この手法によって、見る者は、起こりつつある出来事を息をつめて見つめることになり物語の世界へと鮮やかに引き込まれていく。そして、くくもったアラーム音のような喚起的な音楽とクローズアップを多用した盗撮のような撮影スタイルが醸し出す、極度の緊張感。ラストでは、そうした手法を駆使して語られてきた”事件の予感”が頂点に達し、犯罪へ踏み出す兄弟の心の”闇”が静かにえぐり出されていく。何よりもこの映画が特異なのは”事件の予感”の頂点で映画が終わりを告げ、決定的瞬間としての暴力=犯罪の瞬間を一切描かないことだろう。しかしこのことかさらに”目に見える暴力”をはるかに超える恐怖感を与えていく。ラストシーンが残す余韻の恐ろしさは、見る者を捉えて放さないたろう。
多彩なキャストの魅力
主演を務めるデイビッド・ウェンハムはオーストラリアを代表する俳優で本作の元となった舞台「The Boys」でも主演、映画化にあたってはアソシエイト・プロデューサーも務めている。近年は『ダーク・シティ』(98)などハリウッド・メジャー作品にも出演する実力派で、導火線をしりしりと焼いていく火のような潜在的な暴力を漲らせるブレッドを、確かな表現力て演じている。また『オスカーとルシンダ』(97)で知られるベテラン女優リネット・カランも、サンドラ役で舞台に続き出演している。映画化からの新たなキャストとしては、『ベルベット・ゴールドマイン』(98)のマンディ役の好演や『シックス・センス』(99)のリン・シア一役で99年度アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたことも記憶に新しい、トニ・コレットが出演、憎しみと情欲を持って恋人を迎えるミシェル役で、新境地を開拓する強烈な演技を披露している。『DOWN UNDER BOYS』の舞台である。シドニーの西郊外に育ったという彼女は、舞台の上演以来この映画化に強く興味を持っていたといい、ミシェル役を「今まで演じた中で、一番生々しい役」と語っている。
大ヒット舞台の映画化
本作は、前出のように、80年代中ごろシドニーで実際に起きた3人の兄弟による若い看護婦の強姦殺人事件をもとにつくられた、舞台「The Boys」の映画化である。シドニーのグリフィン・シアターで1991年に初演されたこの舞台は、劇場の売上け記録を塗り変える大ヒットとなったばかりでなく、批評においても激賞を浴び、権威あるオーストラリア劇作家組合賞(AWGIE)の最優秀戯曲賞オーストラリア批評家協会賞の最優秀演出賞を受賞している。舞台の製作を担当したロバート・コノリーがこの映画化を企画、また、製作には『ビジル』(84ヴィンセント・ウォード監督)『エンジェル・アット・マイ・テーブル』(90ジェーン・カンピオン監督)などを手がけた、オーストラリア・ニュージーランドを代表する製作者、ジョン・メイナードが加わり、万全の体制で製作が進められた。
長編デビュー作でベルリン国際映画コンペティション
新鋭ローワン・ウッズ監督
監督は、16ミリの短編「Tran the Man」がクレモン・フェラン、エジンバラなどの映画祭で注目された、新鋭ローワン・ウッズ。この作品が長編デビューながら、本作はいきなりベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出され、さらに1998年オーストラリア・アカデミー賞4部門(監督・助演男優・助演女優・脚色)と、1999年オーストラリア映画批評家協会賞3部門(作品・監督・脚色)を受賞、各国のジャーナリズムがこぞってその才能に注目している。閉鎖的空間での息詰まるような緊張感の中、怠惰と焦燥から犯罪へと走っていく兄弟の姿を、クローズアップ、時制の交錯など、独特の映画的な手法を用いて描き切った腕前は、舞台の映画化作品という範疇を越え、全く新しい映画的才能として、要チェックの存在だ。
ストーリー
ブレット・スプラーグ(デイヴィッド・ウェンハム)は、傷害罪で12ヶ月服役後、仮出所で家に戻ってきた。しかし、かつてブレットが一家を仕切っていた時とは、全く様子が変わっていた。弟のグレンはジャッキー(ジャネット・クローニン)と結婚し家を出、彼に代わるように末弟スティーヴィ(アンソニー・ヘイズ)の彼女ノーラが身重の体で同属していた。さらに母のサンドラ(リネット・カラン)には、マオリ族(アボリジニ)のジョージ(ピート・スミス)という新しい愛人がいた。12ヶ月の間、ブレットに面会に行った家族は誰もいない。全員がブレットの不在に安堵していたのである。
ブレットの彼女のミシェル(トニ・コレット)も、スプラーグ家で彼の出所を迎えたが、ブレットは自分の服役中に彼女が浮気をしたのではないか、という疑いを抱いてしまう。彼女もやはり面会に来なかったのである。また、彼は自分の部屋に隠しておいたドラッグがなくなっていることに気づき、弟たちに対しても不信感を持つようになる。何も信じないブレットは燃えるような眼で、疑いを一つ一つ突き詰め、家族に自分がこの家の権威者=”神”だということを思い出させようとする。
3人の兄弟は禁止されているにも関わらず、傷害事件を起こした酒屋に向かう。店主に罵倒され追い払われる時、ブレットは復讐を口にする。
ジャッキーは、仕事にも行かずに、兄にばかり気を遣うグレンに愛想をつかし掛て行く。ブレットはミシェルを抱こうとし、浮気が事実だったことを知って暴力を振るう。ミシェルもそれをきっかけに出て行った。そして、最後には他に拠り所のないノーラまでもが出ていってしまう。
女たちにも捨てられた3人の男たちは、次第に苛立ち、ついにはジョージに対しても一方的に暴力を振るい、それまで何とか息子たちをかばってきたサンドラからも見放される。
兄弟3人は、孤立無援な存在となって、改めて精神的なつながりを確認していき、ついに新たな犯罪への道を歩き出す。夜の街へと車を走らせる三人。ヘッドライトに照らし出されるのは、人気のないバス停に立つ若い女性……。
スタッフ
監督:ローワン・ウッズ
製作:ロバート・コノリー+ジョン・メイナード
原作戯曲:ゴードン・グラハム
脚色:スティーヴン・スーウェル
アソシエイト・プロデユーサー:デイヴィッド・ウェンハム
撮影:トリスタン・ミラーニ
音楽:ザ・ネックス
キャスト
フレット:デイヴィッド・ウェンハム
ミシェル・トニ・コレット
サンドラ:リネット・カラン
グレン:ジョン・ポルソン
ジャッキー:ジャネット・クローニン
スティーヴィ:アンソニー・ヘイズ
ノーラ:アンナ・リーズ
ジョージ"アボ":ピート・スミス
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