発熱天使

古い写真一枚を手がかりに始まった異国での友人の捜索
日本人の男が、失踪した友人の捜索のため、一枚の写真を手に夏の北京を旅する。20年前に撮られたというその写真には、人民解放軍の衣装を着た少年が写されていた。友人が時折取り出しては、懐かしそうに眺めていたものだという。そして旅人もまたその写真を取り出しながら、瞳に切ない影を浮かべていた。女流画家ニュムとの出会いをきっかけに、捜索は彼女の友人である現在の中国アートシーンを代表するアーティストたちへとバトンリレーされていく。旅人が探しているのはいったい…？
一人の“旅人”の目に映し出される、“今”の中国アートシーンの真実の姿
フィクショナルな存在である“旅人”以外は、すべて北京に在住するアーティストたちが実名で出演。彼らの溜まり場である実在のカフェ、郊外の芸術村、都心の撮影スタジオ等へカメラが迫る。国内での発表を禁じられるも、海外で絶大な評価を得る画家リウ・ウェイ。昨年の国内ナンバーワンヒットアルバムを発表したロックミュージシャン、ツン・チェン。五つの映像プロダクションを経営する現在の中国において最も成功した人物の一人であるＣＭプロデューサー、ツン・ハオ。そして、少年期より舞踏の才能を認められ全中国を代表して米国への留学を果たし、また中国における性転換手術の第一号であることでも知られる天才ダンサー、ジン・シン。欧米と関わる芸術活動に対して厳しく制限されてきた中国。そこでなお表現活動をすることを選んだアーティストたち。彼らを表現へと駆り立てるものは何なのか。彼らの絶望と表現への渇望、孤独と芸術が交錯する。
1989年６月４日・天安門事件から10年。
激動する現代中国に露出し始めた“私”の存在。
かって天安門広場で自由を切望した若者たちには“我々”しかなかった。しかし今、“私”が激しく露出し始めた。個人が個人の孤独と正面から向き合い始めた。
人が孤独な存在であると素直に認めるとき、そこから愛が生まれ、芸術が生まれ、優しさが生まれるのかもしれない。激動する中国の真の姿を捉えるため、本作品ではドキュメンタリー・ドラマの手法が取られた。物語という共通言語が介在することにより、逆に真実の言葉が引き出されるのである。監督は、これまでＣＭ、ＴＶドキュメンタリー番組、劇画原作等を手がけてきた前田和男。真実の言葉を引き出す触媒としての旅人を、映画・ドラマ・ＣＭ等でその独特の存在感で活躍する椎名桔平が好演している。当初、一様に本質部分には堅く口を閉ざしていたアーティストたちが、異邦人である旅人を前に10年前の事件を、現在の自分自身を語り始める…。