原題:Learning to Drive

人生の一旦停止。 それは新たな自分に出会う、“まわり道”のはじまり。

2014年トロント国際映画祭観客賞次点作品

2015年8月21日全米公開

2014年/アメリカ/カラー/90分 配給:ロングライド

2015年8月28日(金)よりTOHOシネマズ日本橋&TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国公開!

(c)2015,BPG Releasing,LLC.All Rights Reserved.

公開初日 2015/08/28

配給会社名 0389

解説


名女優パトリシア・クラークソン×イサベル・コイシェ監督が、                      人生の道標を見失った女性の“再発進”を祝福する、ハートフルな物語!

 2014年のトロント国際映画祭にて、ちょっと風変わりなビジュアルの新作が注目を集めた。そのシーン写真には、車のフロントガラス越しに品のいい笑みを浮かべた白人女性(パトリシア・クラークソン)とその隣に鮮やかなピンク色のターバンを巻いたインド人男性(ベン・キングズレー)が座っている。しかもハンドルを握っているのは女性の方……。目を留めた誰もが「どんなストーリーなのか?」と好奇心をそそられるその映画は、実際にトロントで上映されるや大好評を博し、数多ある出品作のなかから、ベネディクト・カンバーバッチ主演の鳴り物入りの大作『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』に次ぐ観客賞の2位に選出された。それがニューヨークを舞台に、ひとりの女性の人生の“再発進”をハートフルに綴った『しあわせへのまわり道』である。
 マンハッタンのアッパー・ウエストサイドで暮らす売れっ子書評家、ウェンディの順風満帆の人生は突然あっけなく崩壊した。長年連れ添った夫がすきま風の吹いた結婚生活に見切りをつけ、浮気相手のもとへ去ってしまったのだ。どん底の悲しみのなか、車を運転できない現実に直面したウェンディは、インド人タクシー運転手ダルワーンのレッスンを受けることに。伝統を重んじる堅物の男性だが、宗教も文化も階級も対照的なダルワーンとの出会いは、過去の美しい想い出にしがみつくウェンディの心の針路を変え、未来に踏み出す勇気を与えてくれるのだった……。
 原作は、2002年に雑誌“ニューヨーカー”に掲載されたキャサ・ポリットの実体験に基づくエッセイ。プロデューサーのダナ・フリードマンと脚本家サラ・ケルノチャンが、独自のアレンジを加えて仕上げたシナリオに実力派女優パトリシア・クラークソンが心底惚れ込み、『エレジー』(08)で意気投合したイサベル・コイシェ監督とベン・キングズレーにその企画を持ちかけたことで映画化が動き出した。『死ぬまでにしたい10のこと』などで日本でも多くのファンを持つコイシェ監督は、私的な人生観を投影させたオリジナル脚本による映画作りで知られるが、手渡されたシナリオに感銘を受けてオファーを快諾。編集にはマーティン・スコセッシ監督とタッグを組んだ3作品でアカデミー賞を獲得している伝説のセルマ・スクーンメイカー。かくして女性クリエイターたちの愛着と情熱がひしひしと伝わってくる珠玉作が完成した。

ありのままの自分と向き合って、再びまっさらな私になる。
まわり道のその先に、きっと“しあわせ”が待っているから。

 本作の最大の面白さは、登場人物のまったく意図しない形で自動車運転の教習が“人生のレッスン”へと変わりゆくストーリー展開の妙にある。思いもよらない夫の浮気、離婚協議という緊急事態に見舞われた主人公ウェンディは、怒りと悔しさと悲しみに打ちひしがれ、現実をまったく直視できない。そんな彼女が車の助手席に座るインド人の男性教官との交流を通して、それまで想像することもなかった他人の人生に思いを馳せ、自らの生き方をも見つめ直していく。ウェンディがおそるおそる運転を学んでゆくシークエンスには、心のよりどころという道標を見失った彼女の精神状態が反映され、観るものはそのユーモラスで切実な奮闘ぶりに共感を覚えずにいられない。やがて幾多のまわり道を経て、ありのままの自分自身を見出したウェンディが、まっさらな“しあわせ”へと走り出そうとする姿には、いつだって人生は再出発できる、あなたの進む先にこそ道があるという作り手のメッセージが託されている。

 数々の映画賞に輝いた『エデンより彼方に』『エイプリルの七面鳥』の名演で絶賛され、多くの映画人のリスペクトを集めるパトリシア・クラークソンは、「とにかく、この映画に出演したかった」と長年切望していた主人公ウェンディを、虚飾を排したしなやかな演技で体現。妻であり母親であり、知識と言葉を武器に完璧なキャリア&ライフスタイルを築き上げてきた女性が、エレガントな外見からは想像できないほどのパニック的な混乱に陥りながらも、次第に本来の心の強さと美しさを取り戻してゆく過程を哀歓豊かに演じ切っている。

 そのクラークソンと本格的な再共演を果たしたベン・キングズレーとの抜群の相性のよさも、本作の成功の源と言えよう。運転指導と人生訓を重ね合わせたウイットに富んだセリフを、大真面目ないかつい顔つきで、時には茶目っ気たっぷりの表情で発するキングズレーの妙演に、さすがはオスカー俳優と唸らずにいられない。そうした名優ふたりの掛け合いを愛おしそうに見つめ、“人生のドライブ”を親密かつすがすがしく紡ぎ上げたイサベル・コイシェ監督の手並みもお見事。ニューヨーク・ロケのもと、男女それぞれのまったく異なる背景にしっかりと目配せしたドラマには、人と人との相互理解やそこに芽生える人生の豊かな可能性といった視点も息づいている。

ストーリー






サインを見逃さないで———運転を習うことは、生き方を学ぶこと

 言葉をこよなく愛し、ニューヨークの文芸評論家として成功を収めたウェンディ(パトリシア・クラークソン)は、今まさに人生の充実期のまっただなかにあった。そんなウェンディの何もかも満ち足りた日常が、ある日突然崩壊する。21年間連れ添った夫のテッド(ジェイク・ウェバー)が、いつの間にかすきま風が吹いていた結婚生活に見切りをつけ、浮気相手のもとに去ってしまったのだ。いくつもの幸福な想い出が染みついたマンハッタンのアッパー・ウエストサイドにある広々とした自宅にひとり取り残されたウェンディは、悔しさと悲しみのどん底に沈み込んでゆく。

 それでも夫との復縁の可能性を信じようとするウェンディだったが、現実は想像以上にシビアだった。心配してバーモントの農場からやってきたひとり娘のターシャ(グレース・ガマー)からは、テッドが別居の法的手続きを始めたと聞かされ、しかも彼の浮気相手がこともあろうに自分のお気に入りの女流作家だと知ったウェンディはショックを隠せない。

 まったく仕事が手につかない苛立ちのなか、これまで車の運転を夫任せにしてきた自分が免許証を持っていない現実に直面したウェンディは、忘れ物を届けに来てくれた親切なインド人のタクシー運転手ダルワーン・シン・トゥール(ベン・キングズレー)のもとで教習を受けることに。ところがおっかなびっくりハンドルを握り、アクセルを踏んだウェンディは、運転中もどこか上の空。習い始めて早々に「やっぱり私には無理よ。家まで送って」と泣きそうな顔でネガティブ発言を連発し、「自分で運転しなさい。私が手伝うから」とダルワーンに諭されてしまう。さらに離婚協議を担当する弁護士から夫の身勝手な金銭的要求を聞かされたウェンディは、怒り心頭になりながらも、書物とパソコンにばかり向き合って結婚生活をおろそかにしてきた我が身を嘆くのだった。

 そうしたウェンディの内なる雑念を見抜いたかのように、ダルワーンは教習中に「運転中は平常心を保つことが大切だ。もちろん普段の生活でも」などと告げてくる。いつも頭にターバンを巻き、立派なヒゲをたくわえ、パリッとしたシャツを着ているダルワーンは、礼拝通いを欠かさない厳格なシク教徒である。他人からの説教が大嫌いなウェンディも、ダルワーンの誠実な人柄には好印象を抱き、ふたりはレッスンを通して少しずつ心を通わせていった。「人生で何が起こっていようと、路上には持ち込むな。今を生きる君の人生だ。大切にしてほしい」。それがこの日の指導を締めくくるダルワーンの助言だった。

 後日、ダルワーンが甥っ子とともに暮らすクイーンズに車を走らせたウェンディは、実は自分も幼い頃、多くの低所得者層が住むこの街で育ち、野球好きの父親が家出した苦い記憶をダルワーンに打ち明ける。ダルワーンもまた自分がシク教徒であるために母国で理不尽な仕打ちを受け、アメリカに亡命してきた過去を告白した。そのクイーンズからの帰り道、雷鳴に脅えて事故を起こしてしまったウェンディは、相手の運転手や警察に差別的な態度を取られるダルワーンを必死にかばう。しかしこの夜のダルワーンには、大急ぎで空港に向かい、出迎えなくてはならない女性がいた。故郷の村にいる妹が選んだ花嫁ジャスリーン(サリター・チョウドリー)である。ダルワーンはウェンディのアドバイスを参考に購入したワーズワースの詩集をジャスリーンにプレゼントするが、この日が初対面の彼女は英語がさっぱり読めなかった。

 その後、ウェンディはようやく新居探しを始め、ダルワーンはジャスリーンとの新婚生活をスタートさせる。そして、いよいよ運転免許の試験日がやってきた。頭の中は不安だらけのウェンディは、「緊張したら私の声を思い出して」とダルワーンに送り出されるが、結果は合格点にほど遠い無残なものだった。すっかり自信を喪失したウェンディは、周囲を注意深く見渡すことができない運転オンチぶりと、夫を無視してきた自分の振る舞いを自虐的に重ね合わせ、もう免許の取得は諦めると言い出す。「これでお別れか」「そういうことね。あなたは最高の先生だった」。
 こうしてふたりのレッスンの日々は終わりの時を迎えるが、幾多のまわり道を経験してようやく過去の思い出を断ち切れるようになったウェンディには、挫折を乗り越えようとする勇気が残っていた。ダルワーンに改めて運転指導を依頼したウェンディは、以前よりもしっかりとハンドルを握り締め、新たな人生を踏み出すための再試験に挑戦するが……。

スタッフ

監督:イザベル・コイシェ
原作:キャサ・ポリット
脚本:サラ・ケルノチャン
編集:セルマ・スクーンメイカー
音楽:ダーニ・ハリソン
ポール・ヒックス
音楽監修:メアリー・ラモス

キャスト

パトリシア・クラークソン
ベン・キングズレー

LINK

□公式サイト
□IMDb
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す