原題:Peace on the Tigris-Iraq War and 10 years of life in Baghdad-

2014年/日本/カラー/108分 配給:東風

2014年10月25日(土)よりポレポレ東中野にて公開、ほか全国順次公開

(C)ソネットエンタテインメント/綿井健陽

公開初日 2014/10/25

配給会社名 1094

解説


この戦争を日本が支持したことを憶えていますか?
ジャーナリスト綿井健陽が描く戦乱の 10 年。

大量破壊兵器保有を口実に、2003 年 3 月の米英軍によるバグダッド空爆から始まったイラク戦争。2011 年にオバマ米大統領が「イラク戦争終結」を宣言し、米軍はイラクから撤退したが、いまなお混乱は続き、2014 年 8 月に米軍はイラク北部を再び空爆した。おびただしい死者と引き換えに、イラクの人々が時折抱いた希望は、浮かんでは消え、“イラクの春”は、砂塵と爆音のかなたにかすむ。日本も支持した戦争は何をもたらしたのか?
2013 年 3 月、ジャーナリストの綿井健陽は、これまで出会ったイラク市民の写真を手にバグダッド市街を走り回っていた。開戦前夜、空爆、米軍による制圧と占領、宗派抗争、爆弾テロ……様々な局面を取材し続けてきた綿井が、彼らの人生の「その後」を追い、戦乱の 10 年を描き出す。

出会いと、別れ——あるイラク人家族との 10 年の記録。

10 年前、チグリス川周辺を襲ったあの激しい空爆の翌日、綿井はバクダッド市内の病院で多くの空爆犠牲者たちと出会った。全身血だらけの娘シャハッド(当時 5 歳)を抱きかかえるアリ・サクバン(当時 31 歳)。彼はこの空爆で 3 人の幼い子どもを失った。同世代のアリに魅かれ、その後もサクバン一家を追い続けた綿井は、開戦から 10 年目に再会するはずだったが……。
本作は、ある家族と綿井との 10 年の記録でもある。「爆弾テロでイラク人が何人死亡」とだけ報じられるニュースの向こう側で、かつての少女は大人になり、ともに戦火をくぐりぬけ、親交を深めた友は命を落としていた。開戦当時三十代だった綿井自身が不惑を過ぎた。生き残ったイラクの人々は、終わることのない戦乱に疲れ果てていた。それでもなお、「戦争の日常」を懸命に生きる彼らの姿と表情と言葉を映像に刻みつける。

ストーリー










イラクの首都バグダッドを南北に流れるチグリス川に、人々が憩う。川面も川岸も穏やかな時間が流れている。

2013 年 3 月、イラク戦争開戦から 10 年後のバグダッド市内は、新しい車が行き交い、商店街には多数の電化製品や食料品が並んでいた。本屋ではサダム・フセイン元大統領を礼賛するもの、あるいは批判するものまで、あらゆる本を読むことができる。
かつて米軍によって星条旗を被せられたフセイン像が倒される様子をテレビで見ていた子供たちは十代になり、今では台座だけになった銅像の跡地広場で遊んでいる。

10 年前の 2003 年 4 月 9 日に撮影された、バグダッド陥落の瞬間。当時 20 歳のアリ・ファリスがフセイン像の足元に立って、親指を立てた両手を掲げる。
彼はその銅像を引き倒すための縄をかけた。
「まるでサッカーの W 杯でイラクのチームが優勝したような気持ちだった」
10 年が経ったいま彼は言う。「しかし、あのとき望んでいたことは何も得ていない」。

イラク戦争開戦前の 2003 年 3 月、ジャーナリストの綿井健陽は滞在中のバグダッド市内のホテルで、これが最後となるだろう米・英・スペインの三カ国首脳会議が開かれたことを告げるラジオニュースを聞いていた。国連による大量破壊兵器査察活動も行き詰まり、米国のブッシュ大統領はイラクへの軍事攻撃に踏み切る姿勢を一段と強めていた時期だ。
にもかかわらず、開戦 5 日前の 3 月 15 日、フセイン政権下のバグダッドはフセインをたたえるデモ隊とそれを笑顔で見守る兵士たちで沸き立っていた。
開戦2日前の3月 18 日、人々は大統領の演説を聞きながらいつも通りの日常を送り、夜になっても街はにぎわっていた。口々に「サダムは偉大だ」「愛している」という。
しかし3月 19 日、開戦前日になると商店街のシャッターはほとんど閉じられ、こわばった表情の人がまばらに店を開けていただけだった。
この翌日からバグダッドは連日空爆に襲われる。

ホテルの窓から一望するバグダッドの夜景の上空に、対空砲火の激しい瞬きと破裂音が一斉に始まるやいなや、地上に大きな火柱があがった。英米軍のトマホークミサイルと爆撃機による空爆が、大統領官邸のあるチグリス川の対岸を瞬く間に爆音と煙で覆い尽くした。街へ出ると、商店は軒並み破壊され、親子の靴が転がる脇にまだ乾かない大きな血だまりがあった。

亡くなった市民たちの遺体が安置される所を見せてくれた病院のスタッフは、「これが大量破壊兵器なのですか?」と綿井に訴える。遺体は安置所に入りきらず、強い陽射しとハエにさらされている。上空の戦闘機をビルの窓から怯えて見上げる市民。大統領宮殿から走って逃げる兵士の姿。バグダッドはいよいよ米軍地上部隊にも包囲されつつあった。

開戦から3週間後の 4 月 9 日、街の中に米軍の戦車が進軍してきた。バグダッドが制圧され、24 年にわたるフセイン政権が崩壊した。「これは虐殺じゃないのか」と言いながらカメラを廻す綿井に米兵が答える。「イラクの人々を解放しに来たのさ」フセインの銅像が引き倒される瞬間、歓声を上げる人々と、それを淡々と遠巻きに眺める人々。米軍装甲車によって倒されたサダム・フセインの像は、米軍兵士ではなく、イラク市民たちによって足蹴にされている。像の前には、湾岸戦争前の旧イラク国旗が、男たちの手によって掲げられていた。周囲からはこれまで何度も聞いた諧調の歌が聞こえてくる。
「私たちの命をイラクにささげます」
つい数日前まで、その歌詞の「イラク」の部分は、「サダム」だった。報道陣が集まる場所で連日繰り返されたデモで、それは大人から子供まで必ず唱えだす歌だった。しかし、最後はイラク国民からも見放されて、フセイン政権は崩壊した。

スタッフ

監督:綿井健陽
プロデューサー:小西晴子
撮影:綿井健陽
ポストプロダクションプロデューサー:安岡卓治
編集:辻井潔
製作:ソネットエンタテインメント

キャスト

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