2013年/日本/カラー/??分/ 配給:アステア

2014年8月2日、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国順次ロードショー!

©2013シェリー製作委員会

公開初日 2014/08/02

配給会社名 0820

解説


1992年——、
僕が僕であるために、なにをすべきか探し求めていたあの頃。そばにはいつも、尾崎の歌があった。

 90年代初頭。バブル景気の余波がまだ色濃く残っていた頃、売り手市場の若者たちは、望めばなんにでもなれると信じられた時代。同時にそれは、望まずともなにかになれた時代でもあった。なりたい「夢」に思いを馳せるより、手を伸ばせばそこにある未来がいくらでもあったのだ。だからこそ、十代の若者たちは、「ここにいる自分の価値」を求め、惑い、あがき、時代に抗ってみせた。
 彼らを象徴する存在——それが尾崎豊であった。高校を自主退学した彼は、1983年にシングル『15の夜』とアルバム『十七歳の地図』でデビューした。学校や社会の不条理を問い、生きることの意味を探し求め、青臭くともまっすぐに「真実の愛」と「夢」を語る“心の叫び”は、口コミによって次第に広がり、多くの少年、少女の共感を集め、彼は“十代のカリスマ”と呼ばれるまでになった。
 尾崎豊の“心の叫び”は、絶大な力を獲得したのだ。しかし、それは彼自身が、惑い、あがき、抗ってきた、社会に取り込まれることでもあった。ふたたび生きるべき道を見失った彼は、最愛の妻と子を設けながらも、迷路から抜け出すことなく、26年の短い生涯を終えた。
あれから20年あまりの時が過ぎて——。いま、ふたたび彼の生きざまが見つめ直される時が来た。
 映画『シェリー』は、尾崎豊と同時代を生き、彼の歌を心の支えにする青年の姿を通して、現代を生きるわたしたちにも通じる、いまを生きる意味と、明日を生きる希望を描いた物語である。

あなたがくれたたくさんの愛を、僕はずっと忘れない‥‥。
「シェリー」——それは愛すべきもののために歌うラブソング。

 人と人との「絆」が見つめ直されている現在、わたしたちは、この社会をどう生きるのかと共に、誰と共に生きるのかを、日々、問われている。その最小単位が、家族であり、恋人であろう。
 『シェリー』で描かれるのは、青年と幼なじみの女性との愛、そして、夫の死後、女手ひとつで息子を育てた青年の母との絆である。
 主人公の佐藤潤一は、自分の進むべき道を見つけられず、大学にも行かずにバイトに明け暮れる日々を過ごしていた。将来のために大学に通えと、口うるさく厳しいばかりの母・江利との関係も、すっかり冷えきってしまっている。そんな彼の心の支えとなっていくのが、久しぶりに再会した幼なじみの藤村智子であった。しかし、その智子にも潤一には明かせない悲しい過去があった。そんなある日、母の江利が病に倒れたことで、それまで気付かずにいた母の深い愛情に触れて、潤一は、自分よりも大切な誰かのために生きることの素晴らしさを知らされる。そのことで潤一は、自分の人生に正面から向き合いながらも、智子や周囲の人びとがかかえる悩みや苦しみを受け止める勇気を得ていく。
そんな時、彼の心にいつも響き渡るのは、同時代を生きる尾崎豊の“心の叫び”——愛すべきもののために歌う「シェリー」であった。
 青年の心の軌跡と共に、時代を越えたこの名曲が、現在を生きるわたしたちの心にも、大切な「絆」を問いかけてくる。

韓国の実力派シンガーMayDoniの尾崎豊のカバー曲に乗せて綴られる、もうひとつの愛の形。
イノセントな魅力溢れる森崎ウィンと、母性と少女性を併せ持つ真行寺君枝による、初恋にも似た母子愛。

 母と息子の関係。時にそれは、初恋にも似たときめきと別れのせつなさを孕んでいる。息子にとって、母は最初に出会う女性であり、愛する女性が現れた時には、必ず別れが待っている。母親という存在は、いずれは自分の元を巣立っていく息子のために、無償の愛を注げる生き物なのだ。
 主人公・佐藤潤一には、音楽クループPrizmaXに所属し、09年のドラマ「ごくせん卒業スペシャル」に続いて、同年の映画『ごくせん THE MOVIE』でスクリーンデビューを果たした森崎ウィン。尾崎豊をも彷彿させるイノセントな魅力溢れる佇まいで、十代の多感な心情をヴィヴィットに演じている。
 潤一の母・江利には、16歳で資生堂の秋のキャンペーンモデルとしてデビュー以来、映画『風の歌を聴け』をはじめ、舞台、映画、ドラマと活躍し、モデル、アーティストとしての顔も持つ真行寺君枝。年を重ね、母性の風格を備えながらも、デビュー以来変わらぬ神秘的な少女性で、息子にとって永遠の恋人ともいえる母親像を鮮烈に演じてみせる。
 ふたりの親子関係に大きな変化をもたらす、潤一にとっての最愛の人=「シェリー」となる藤村智子には、ミスFLUSH2012ファイナリストに輝く清水みさとが、本作でスクリーンデビューを果たす。
 さらに、江利の義理の弟で、彼女の主治医でもある孝治には、『聯合艦隊山本五十六』『アナザ—another』の袴田吉彦。そのほか、永倉大輔、元・ミニスカポリスの福山理子、さとう珠緒、ガッツ石松、ビートきよしなど、多彩な顔ぶれが色を添えている。
 監督は、石原真理子(現・石原真理)監督作品『ふぞろいな秘密』でプロデューサーを務め、「これが北方領土だ!」(TBS)などのドキュメンタリーの問題作を手掛けた笠原正夫。脚本は、フジテレビヤングシナリオ大賞出身で、「家なき子」「星の金貨」「高校生レストラン」などの話題作を手掛けてきた、山崎淳也があたる。
主題歌の「シェリー」を始め、「I LOVE YOIU」「卒業」ほか、尾崎豊の楽曲をカバーしたのは、韓国の実力派シンガーMayDoni(メイ・ダニ)で、2013年11月29日にCD,DIGTALにてリリースを果たした。

ストーリー

尾崎だけが支えだった。尾崎だけがわかってくれる。
尾崎は俺の代弁者だった。

 1991年の11月、季節はまた冬を迎えようとしていた——。
 バブルの終焉に差し掛かりながらも、人々はまだその享受のもとに、豊かな生活を謳歌していた時代。
 大学生の佐藤潤一(森崎ウィン)は、自分の進むべき道を見つけられず、大学にも行かずにバイトに明け暮れる日々を過ごしていた。人付き合いも苦手で、バイト先の居酒屋でも、接客よりは厨房の中で働くことが性に合っている。そんな彼にとっての心の支えは、バイトからの帰り道、バイクに乗りながらウォークマンで聴く尾崎豊の歌だけだった。家に帰るまでの束の間は、唯一の心の休まる時間。尾崎を聴きながら走る帰り道だけが、潤一の孤独を癒してくれた。
 明け方近く家に帰れば、いま仕事を終えたばかりの酒臭い息で、母の江利(真行寺君枝)が、いつものように口うるさく言い募る。
「尾崎だか、矢崎だか知らないけど、くだらない音楽を聴いてる時間があるなら、ちゃんと自分の将来を考えなさい!」
 江利は、夫の死後、女手ひとつでスナックを経営しながら潤一とその姉・陽子(福山理子)を育ててきた。陽子はすでに就職をして社会人として立派に独り立ちしていたが、潤一の将来のことを考えると心配でならなかったのだ。父親のいない家だからなんて言われないように、子供たちにはしっかりとした人生を歩んでほしい——それが江利の願いだった。
 だけど、いまの潤一には、そんな江利の期待は、“うるさいノイズ”にしか聞こえなかった。今夜もまた江利と言い争いになって、潤一は部屋に閉じこもってしまう。うんざりするような日常が、いつものように過ぎていく。いつもと違うのは、今日、潤一が19歳の誕生日を迎えたことだ。
『19歳——尾崎と、バイト先の厨房と、口うるさい母親、それだけが俺の世界のすべてだった。このまま、あと一年で十代の俺じゃなくなる。だから、苛立っていたんだ‥‥』
 そんなある日。バイト先の先輩・国重(永倉大輔)に、人手が足りずホール・スタッフに回された潤一は、慣れぬ接客に閉口していた。そんな中、大学のコンパで来ていた女性客に声を掛けられる。彼女——藤村智子(清水みさと)は、潤一の小学校時代の同級生だったのだ。
 再会早々、智子は積極的に潤一の家に遊びにやって来た。バイト以外は部屋に閉じこもりきりの潤一は、興味津々に潤一の様子を窺う江利の目を避けるように智子と共に家を出た。智子の屈託ない明るさに触れるうちに、無愛想な潤一もいつのまにか、口を開きはじめていた。ギターも、煙草も、バイクも、みんな尾崎に教わったこと。父を小学校に上がる前に亡くして、智子が両親に手を引かれて小学校のに向かう姿を羨ましく見つめていたこと。
 いつのまにか、智子のペースに乗せられて、潤一は智子との日々を過ごすようになっていく。智子と一緒にいる時間は楽しくて、いつもすぐに過ぎていった。潤一の人生の中に、いままでになかった輝きが訪れた。智子は、潤一が大好きな尾崎豊の「シェリー」も大好きになってくれた。
 クリスマス・イヴの夜、智子がこう言った——「わたし、シェリーになってあげる。シェリーになって、尾崎の曲みたいにわたしが可哀想な潤一くんを支えてあげる。わたしがシェリーなら、もうひとりぼっちじゃないよね。もう寂しくないよね」その夜、ふたりは結ばれた。だけど、その夜が智子と過ごした最後の夜になった。それきり、連絡が途絶えてしまったのだ。
 1992年——潤一の周囲にも、大きな変化が訪れていた。昨年末から、江利は、亡き夫の弟で医師の孝治(袴田吉彦)の勧めで検査入院を繰り返していた。バイト先の先輩の国重は、長らく続けてきた演劇活動をやめて結婚を機に就職することになった。結婚の理由は、「ガキが出来たから」であった。それでも、国重はその言葉を聞いた時、嬉しかったと語った。「ガキが出来て嬉しかったし、ガキが出来て嬉しいって思える自分にも嬉しかった。あっけないくらい簡単に芝居よりも生まれてくるガキだって思えた」自分よりも大切だと思える存在を得た国重の言葉に、潤一も考えた。いままで、口うるさいだけだと思っていた母の江利が、姉や自分のために生きてきた人生について。
 そんな時、姉の陽子から、一時退院していた江利が店で倒れたという連絡が入った。病院に駆けつけた潤一は、江利の病状の重さをはじめて知らされた。江利に残された時間は、もう残り僅かしかなかったのだ‥‥。
誰とでも、心を分かち合えるわけではない。誰かに、心を分かち合える誰かに会いたかった。気がつけば、潤一は智子のもとにバイクを走らせていた。

スタッフ

監督・脚本:笠原正夫 
脚本:山崎淳也
挿入歌:MayDoni

キャスト

森崎ウィン
真行寺君枝
清水みさと
永倉大輔
福山理子
ガッツ石松
さとう珠緒
ビートきよし
袴田吉彦

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