原題:Clara

2008年/ドイツ・フランス・ハンガリー合作/ドルビーSRD/ビスタサイズ/109分/字幕翻訳:吉川美奈子 配給:アルバトロス・フィルム

2009年7月25日、bunnkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

公開初日 2009/07/25

配給会社名 0012

解説


ドイツ・ロマン主義華やかなりし19世紀ヨーロッパの音楽界に咲いた一輪の名花、クララ・シューマン。世紀を代表する2大作曲家、ロベルト・シューマンとヨハネス・ブラームスのミューズとして知られるクララは、彼女自身も作曲家、そしてプロのピアノ演奏家として広く活躍する才気あふれる美貌の音楽家だった。
『クララ・シューマン 愛の協奏曲』は、2人の作曲家との波乱に満ちた愛の日々を生きたクララのキャリアと家庭との相克を、ロベルト・シューマンの「ピアノ協奏曲イ短調」や「交響曲第3番 ライン」、ブラームスの「ピアノ協奏曲第1番」など、おなじみの名曲をふんだんに散りばめて格調高く描いた真実の物語である。精密な時代考証のもとに再現された豪華セットと衣裳も、観る者の眼を大いに楽しませるに違いない。
19世紀半ば、「子供の情景」「幻想曲」など後世に残る数々の名曲を輩出した天才作曲家ロベルト・シューマンの妻クララは、ピアニストとしてヨーロッパツアーを回りながら、妻として、7人の子供の母として、多忙な日々を送っていた。そんなとき、彼女の前に若き新進作曲家ヨハネス・ブラームスが現われる。クララに永遠の敬愛と賛美を捧げる陽気なヨハネスは、日常生活の苦労が絶えない彼女にとって太陽のような存在となる。同時に体調不良に悩めるロベルトにとっては、唯一の芸術的理解者となり、自身の後継者として彼を世に送り出そうとするが——。
これまでクララ・シューマンの生涯は映画、テレビなど、さまざまなかたちで劇化されてきた。中でも映画では、キャサリン・ヘプバーンが『愛の調べ』(1949)、ナスターシャ・キンスキーが『哀愁のトロイメライ』(1985)でと、実力と人気を兼ね備えた大女優が演じてきた。本作でこの難役に挑むのは、『マーサの幸せレシピ』でドイツ映画賞主演女優賞など国内外の映画賞を総なめにし、アカデミー賞外国語映画賞受賞作『善き人のためのソナタ』での美貌の舞台女優クリスタ役で国際的に脚光を浴びたマルティナ・ゲデック。かつては芸術家同士の尊敬で結ばれた夫ロベルトとの絆はもはや儚く、若き崇拝者ヨハネスからの情熱的な賛美に心揺さぶられながらも、彼とは夫の死後も互いに人生の支えであり続けた。ゲデックは、運命的な愛の出逢いと別れを生きたヒロインを、まろやかな大人の円熟と馥郁たる美しさで官能的に演じ、女優として新境地を拓いたと絶賛された。
一方、男性陣にはフランス映画界の新旧の実力派が顔を合わせ、クララをめぐる息詰まる愛の三角関係をスリリングに銀幕に息づかせる。まず、ロベルト・シューマンには、『王妃マルゴ』『愛する者よ、列車に乗れ』など鬼才パトリス・シェローの諸作品で知られる名優パスカル・グレゴリーが、『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』で演じたピアフのマネージャー、ルイ・バリエに続いて実在した人物像に挑戦。ヨハネスと緊密な関係を深めるクララに嫉妬する反面、最大の理解者のヨハネスを妻に奪われる焦燥を、澄み切った瞳に天才の狂気を宿して熱演する。対する、ヨハネス・ブラームスには、フランソワ・オゾンの『焼け石に水』で女性のみならず男性をも魅了した美青年マリック・ジディ。逆立ちを得意とする奔放な軽やかさを振りまきつつ、「一日中ずっと、昼も夜も、あなたを想います」とクララへ捧げる愛をひたむきに演じ、その初々しいまでに一途な情熱は、クララのみならず女性ファンの心をも虜にするのは間違いない。
監督は、『ドイツ・青ざめた母』『林檎の木』など、80年代以降のニュー・ジャーマン・シネマを代表する名匠ヘルマ・サンダース=ブラームス。彼女はその名からも判るとおり、ヨハネスの叔父から連なる正統なブラームス家の末裔に当たり、これまでタブーとされていたクララとヨハネスとの関係にも肉親ならではの畏れを知らぬ大胆さで深く切り込み、本国ドイツで大きな反響を巻き起こした。また、「芸術家であり、女性であるクララに個人的にも繋がりを感じる」と語るように、女性の社会進出が困難だった時代、自らの才能を発揮するため闘うと同時に、家庭をも守るクララの相克は、現代に通じる女性の葛藤として、観る者に大きな共感を誘うはずだ。とりわけ劇中、楽団員から「女性では空気が乱れる」などと嘲笑されながらも、いざタクトを振るうや否や、指揮者として見事な才気を示すクララの晴れ姿は、彼女に共感したサンダース=ブラームスらしい目配せといえるだろう。
果たして、最愛の夫の死という癒しがたい喪失から再生したクララが見い出した幸福とは? そして、ヨハネスが生涯を通して貫いたクララへの殉愛のゆくえは? この3人の究極の愛のかたちには、今なお私たちの胸を深く揺さぶる感動と衝撃がある。

ストーリー



その夜、満場の聴衆が詰めかけたハンブルクのコンサートホールで、ピアノを演奏するクララ・シューマン(マルティナ・ゲデック)を、固唾を呑んで見守るふたりの男がいた。1人は名作曲家として知られる夫、ロベルト・シューマン(パスカル・グレゴリー)。そしてもう1人は、当時はまだ無名の若き作曲家、ヨハネス・ブラームス(マリック・ジディ)。
演奏を終え、拍手喝采を浴びるクララに紹介されて壇上に引っ張り出されたロベルトは、しかし「人気取りは嫌だ」と憮然と舞台から降りる。そして、押し掛ける観客たちにもみくちゃにされるシューマン夫妻は、背後から見知らぬ男に呼び止められた。それがヨハネスだった。作曲家だという20歳の彼との運命の出逢いを感じたクララは、ロベルトの制止を振り切るように、アメリカへの移民がたむろする波止場の薄暗い居酒屋に足を運ぶ。そこでピアノを演奏するヨハネスの才能を瞬時にして見抜いたクララは、豪奢なコンサートドレスに縫い付けられた真珠を切り取る貧民など気に留まらぬほど、彼の演奏に聴き惚れた。
翌日、デュッセルドルフに到着したシューマン一家を待っていたのは、ロベルトの地元交響楽団の音楽監督就任と、これまで暮らしたことのないような大邸宅だった。家政婦と料理人にかしずかれた新生活は、クララには家事の多忙さから解放され、未来の幸福を約束しているように見えた。しかし、新しいピアノを前に、「作曲を再開したい」と顔を輝かせるクララにロベルトは、「私の妻では不満か?」と問いただすのだった。
その頃から、ロベルトの持病である頭痛が悪化の一途を辿り始める。指揮はおろか、交響曲「ライン」の作曲さえままならない夫の一大事を救わんと、クララは指揮者として楽団員の前に立つ。「女性の指揮など前代未聞」「世の笑い者だ」との嘲笑にも耳を貸さずタクトを振り続けるクララは、コンサートマスター、タウシュの意に反して、たちまちオーケストラから見事な演奏を引き出した。
そんなある日、シューマン邸を思いがけない来客が訪れた。ヨハネス・ブラームスだ。軽々と逆立ちを披露し、たちまち夫妻の子供たちの人気者になるヨハネス。こうして、シューマン一家とヨハネスとの奇妙な同居生活は始まった。
常日頃からクララへの敬愛を隠すことのない陽気なヨハネスは、日常生活の苦労の絶えない彼女の心を明るく輝かせると同時に、楽団に馴染めないロベルトの最大の芸術上の理解者となる。こうして、ロベルトが苦心の末に完成させた「ライン」第2楽章は、それを弾くヨハネスのピアノ演奏を聴いた料理人さえも涙させる見事な出来栄えだった。クララは夫をこう称賛する。「私たちが幸せだった頃を思い出すわ」。しかし、クララの願いを裏切るように、割れるような頭痛に襲われ深酒に溺れるロベルトは、やがて鎮痛剤の*アヘンチンキが手放せない状態にまで陥ってしまう。
ヨハネスが妻に寄せる愛情を察知し、クララに嫉妬をぶちまけながらも、同時に「唯一の理解者を私から奪うな」と相反する感情に苦悩するロベルト。そして、妊娠を告げるクララに「私の子か?」と暴言を吐き、酔いに任せて彼女を殴り倒してしまう。そんな修羅場に直面しながらも、ロベルトとクララの絆はかろうじて持ちこたえ、ふたりの共同指揮による交響曲「ライン」の初演は大成功を収めるのだった。
「聴衆は夢中になった」「不朽の名作」——そんな栄光の中で、ロベルトは、ヨハネスを自身の後継者として音楽界に紹介する。そしてクララには、彼らの秘めた思いを見透かすように、こう告げるのだった。「私がいなくなってもヨハネスがいる。彼はきみがすべてで、崇拝している」
この緊迫に満ちた三角関係に耐えられなくなったヨハネスは、ついにシューマン家から立ち去る決意をする。「私を独りにしないで」と引きとめるクララに、ヨハネスはこう誓うのだった。「一日中ずっと、昼も夜もあなたを想います」。同じ頃、ロベルトは交響楽団の音楽監督の座を野心家のタウシュに奪われてしまう。失意の夫を見捨てることができないクララは、「私は落伍者だ、それでも私を?」と嘆くロベルトを、「ええ、愛しているわ」と優しく慰めるしか術がなかった。
いよいよ仕事もなく、家計が逼迫するばかりのシューマン家において、今や作曲家としての名声をほしいままにするヨハネスからの仕送りだけが頼りだった。クララがコンサートツアーで生活費を稼ごうと決意したちょうどその頃、カーニバルの喧噪に紛れるように、ロベルトが橋のたもとからライン川に身を投げてしまう。幸いにして一命を取り留めたロベルトは、ボンの脳専門医、リヒャルツ医師のクリニックに入院することになる。やがて、独り出産を終えたクララの心の支えとなるべく、ヨハネスが彼女の傍に戻って来た。
再びコンサートツアーに出たクララのもとに、ロベルトの危篤の報が届く。恐れに震えながらも、ヨハネスに励まされ、クリニックに向かうクララ。「クララ、決して終わらないよ。私の花嫁」。ロベルトはこう言い残して、最愛の妻の腕の中で静かに息を引き取った。
ついにその時がきたと、ヨハネスはクララに求愛するが、ロベルトと生きた日々は、あまりにも大きな喪失となってクララの心を苛んだ。ベッドに横たわるクララを愛撫しながら、ヨハネスは囁き続ける。「僕はきみとは寝ないよ。それでも、きみをこの腕でずっと抱き続ける。命が尽きるまで。きみが死んだら後を追う。死の世界へお供する」
クララとヨハネスの友情は、クララの生涯の最期まで続いた。そして、それから約1年後、ヨハネスもまた黄泉の国へと旅立っていった。生前の約束通り、最愛の彼女を追いかけるように……。

*アヘンチンキ:意志の処方箋に基づき使われる鎮静剤で、アヘンを含有する水薬

スタッフ

脚本・監督:ヘルマ・サンダース=ブラームス
撮影:ユルゲン・ユルゲス(BVK)
プロダクションデザイン:ウーヴェ・スツィラスコ
アートディレクター:イシュトヴァーン・ガランボス
衣装:リッカルダ・メルテン=アイヒャー
音声:ヤーノシュ・チャーキ(H.A.E.S.)
編集:イザベル・デヴィンク
プロデューサー:アルフレート・ヒュルマー
共同プロデューサー:
ヘルマ・サンダース=ブラームス
マルティーヌ・ド・クレルモン・トネール
ヤーノシュ・ロージャ
フランツ・クラウス
アントニオ・エクサクストス

音楽:ロベルト・シューマン、クララ・シューマン、ヨハネス・ブラームス
演奏:ダヌビア交響楽団
指揮:イシュトヴァーン・デネシュ

提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム

キャスト

クララ・シューマン:マルティナ・ゲデック
ロベルト・シューマン:パスカル・グレゴリー
ヨハネス・ブラームス:マリック・ジディ
娘マリー:クララ・アイヒンガー
娘エリーゼ:アリーネ・アネシー
娘オイゲニー:マリーネ・アネシー
息子ルートヴィヒ:サーシャ・カパロス
ヴァジレフスキー:ペーター・タカツィ
タウシュ:ベラ・フェストバウム
ベルタ:ブリギッテ・アネシー
ヘンリエッテ:クリスティーネ・エスターライン
リヒャルツ:ヴァルター・タイル

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