扉をたたく人
原題:The Visitor
恵比寿ガーデンシネマ15周年記念作品
2007年/アメリカ映画/1時間44分/35mm/1:1.85/カラー/ドルビーデジタル/原題:The Visitor/日本語字幕:太田直子 提供:東宝、ロングライド 配給:ロングライド 宣伝:ムヴィオラ
2009年6月27日、恵比寿ガーデンシネマほかロードショー
(C)2007 Visitor Holdings, LLC All Rights Reserved
公開初日 2009/06/27
配給会社名 0389
解説
扉を閉ざしたニューヨークーーーー
移民の青年との出会いと“ジャンベ”の響きが
孤独な大学教授の心の扉を開く。
4館から270館へ
初老の大学教授と移民の青年との心の交流を描いた小規模な映画が、2008年のアメリカ映画界に思いがけぬ大旋風を巻き起こした。アメリカでの封切り時の上映館は、わずか4館だったが、その感動が、人から人へと伝わり、最終的には270館まで拡大。公開から6週目には全米興行収入トップ10にランク・イン、12週に渡ってトップ20をキープし、6ヶ月間に及び上映されたのだ。それがトム・マッカーシー監督の『扉をたたく人』だ。無気力な毎日を送っていた主人公が、友情、ジャンベ(アフリカン・ドラム)、ロマンスを通して、心の扉を開き、ふたたび生きる意味を見出す姿を描いた、いつまでも忘れ得ぬ物語。その評価の高さは、インディペンデント・スピリット・アワードの監督賞受賞、主演リチャード・ジェンキンスのアカデミー賞ノミネートなどで証明された。
俳優生活40年の名脇役が初主演にして
アカデミー賞ノミネート
主演はリチャード・ジェンキンス。これまでに50本以上の出演作があるものの、常にスクリーンに溶け込んでしまうため顔と名前が一致しない、でも不思議と印象に残る、脇役の鏡のような存在だったが、俳優生活40年目にして初の主役を演じている。予期せぬ人々との予期せぬ出会いにより、頑なな男の心に、さざ波が広がっていくさまを繊細に表現。非凡な才能を存分に発揮している。
監督、脚本はトム・マッカーシー。廃駅を舞台に孤独な人々の交流を描いた前作『The Station Agent』でインディペンデント・スピリット・アワード、英国アカデミー賞(BAFTA)脚本賞など、数々の映画賞に輝いた。監督としては本作が2作目だが、『父親たちの星条旗』など多く出演作を持つ俳優でもあり、長年尊敬していたリチャード・ジェンキンスのために、ウォルターという人物を書き上げた。
新しい人生の扉を開くのは、思いもよらぬ訪問者
愛する妻に先立たれて以来、すべてに心を閉ざして生きてきた大学教授のウォルター。仕事への情熱を失い、同僚や生徒とも関わりを持とうとしない。久しぶりにニューヨークにある別宅の扉を開けると、そこには見知らぬ若い移民のカップル、タレクとゼイナブが暮らしていた。それがウォルターと、シリア出身のジャンベ奏者、タレクとの出会いだった。ウォルターとタレクの友情はジャンベを通じて深まっていくが、その矢先、ウォルターの目の前でタレクは不法滞在を理由に拘束されてしまう。以来、ウォルターは毎日タレクに会うため、入管の拘置所を訪れる。一方、ミシガンに住むタレクの母モーナも、連絡のつかない息子を案じ、ウォルターのアパートの扉をたたく。年齢も職業も文化も異なる、今までに接点のなかった人々。彼らとの出会いによって、いつしかウォルターは、新しい人生の一歩を踏み出す。
もうひとりの主人公“ジャンベ”の持つ役割
本作には、音楽への愛、特にジャンベに代表されるアフリカン・ドラムへの愛があふれている。監督自身も音楽をもうひとりの主人公とみなし、音楽は私たちを感情的にさせると述べている。ウォルターの閉ざされた心に変化をもたらすのは、オープンで人懐こい青年タレクであり、彼が教えるジャンベだったが、その昔、コミュニケーションの手段だったといわれるドラムや太鼓は、たたくたびに友情が深まる彼らの関係を象徴している。また、公園で繰り広げられる大勢でのセッションは、エネルギーが漲り、生命力に満ちている。人々を踊らせ、開放させる。その中に、満面の笑みを浮かべたウォルターがいる。まるで閉ざされた心から閂が取り外され、喜びの波が押し寄せているかのようだ。その喜びは、時に癒しへと変わり、時に怒りへと変わるが、ウォルターの心の扉は確実に開かれていく。
9・11以降の扉を閉ざしたニューヨーク
2001年に起きた9月11日に起きたテロ以降、アメリカは移民政策の方針を大きく変え、移民希望者や不法滞在者に対して非常に厳しい措置を取るようになった。難民申請をし、アメリカで学校も卒業したタレクのようなケースは、かつてであれば合法的移民とされた可能性もあったかもしれない。しかし9・11以降、アメリカには不寛容な空気が増し、「人種のるつぼ」と言われたニューヨークでさえも、その扉はかたく閉ざされてしまった。映画の冒頭、妻の死以来、すべてに対して拒絶的なウォルターは、その体現者のように見える。しかし彼は新天地を求めてアメリカにやってきた人々との出会いにより、奥底に眠っていた人間らしさを取り戻していく。そして、忘れていた愛や情熱をも取り戻すのだ。
ウォルターは、決して聖人でも、特別な人間でもない。しかし、行き場もない、罪もない若者を放り出すことはできなかった。なぜならタレクがウォルターの扉をたたいたから。ゼイナブがモーナが、ジャンベが扉をたたいたから。他者への思いやりが、扉を開く少しの勇気が、人と人とをつなぎ、人生の扉を開く鍵なのだということを、『扉をたたく人』は観る者に思い出させてくれるだろう。
ストーリー
「忙しくない。ちっとも忙しくないんだ。
何年もまともな仕事はしていない。
何もかも、・・ふりだけ。忙しいふり、働くふりで何もしていないんだ。」
コネティカットにある大学の経済学教授ウォルター・ヴェイルは、62歳。愛する妻が5年前にこの世を去って以来、すべてに心を閉ざし、孤独に生きていた。ひとり息子はロンドンに住んでいるため、滅多に会うこともない。かつては本を出版したこともある優秀な学者だったが、今やただ惰性のように大学に行き、何年も変わらぬ講義をする。同僚との関わりもできるだけ避け、レポートの提出が遅れた学生の歎願にも耳を貸さない。無気力なウォルターの唯一の関心事といえば、ピアノの習得だけ。しかしそれすら、教師にさじを投げられてしまう。
ウォルターは同僚の代理で学会に出席するため、ニューヨークへ出張することになる。久しぶりにマンハッタンにある別宅のアパートを訪れると、そこには見ず知らずの若い女性の姿が。彼女の悲鳴を聞きつけた恋人の青年が駆け付け、強盗と勘違いされたウォルターは殴られそうになるが、自分はこの部屋の持ち主だと、必死に説明する。若いふたりはここに越してきたばかりだったが、実は詐欺にあっていたのだった。シリア出身の移民青年タレクは、警察だけは呼ばないでくれと頼み、素直に荷物をまとめて出ていく。タレクも、セネガル出身の恋人ゼイナブも、グリーンカード(永住許可証)を持たないため、もし警察沙汰になれば国外追放になってしまう可能性があるからだ。
ふたりを見送ったウォルターだが、忘れ物に気づき彼らの後を追う。そこで今夜の宿もなく途方に暮れるふたりを見つけ、しばらく部屋に泊めることにする。そのやさしさに感激したジャンベ奏者のタレクは、アフリカン・ドラムに興味を示したウォルターにジャンベを教える。ふたりがジャンベを通じて友情を深めていく一方で、警戒心の強いゼイナブはウォルターにどこか心を許せずにいた。
ある日、タレクはゼイナブとの予定の前に、ウォルターを誘い、ジャンベの演奏に出掛けるという。遅刻常習犯のタレクにゼイナブは、「アラブ時間はだめよ」と窘めると、タレクは笑顔で「分かってるよ、ハビティ」と応える。分が悪くなるといつも“ハビティ”と呼ぶのだ。ハビティとは、“愛しい人”という意味だった。タレクと連れ立ってセントラルパークへ行ったウォルターは、はじめこそ躊躇したものの、大勢の輪に入り、ジャンベをたたく。今までにない高揚感。ウォルターの表情には喜びがあふれていた。しかし帰りの地下鉄の駅で思いもかけぬ事件が。ゼイナブとの約束に急いだタレクが無賃乗車を疑われ、ウォルターの目の前で逮捕されてしまったのだ。タレクはメトロカードを持っており、単なる誤解だったのだが、警察は彼をまるでテロリストであるかのように扱い、ウォルターの発言にも取り合わない。タレクは「ゼイナブを頼む」と言い残し、警察に連行された。
タレクは警察から、入国管理局の拘置所へと移送され、彼を救いだすためウォルターは弁護士を雇う。以来、ウォルターは、毎日クイーンズにある収容施設へ面会に行くようになる。かつて拘束された経験のあるゼイナブは入管に捕まる恐れがあるため、面会に行くことができないのだ。タレクはアメリカ入国の際に難民申請を却下されていたが、その後の移民手続きは正常にしていたと主張した。
数日後、ウォルターの部屋を美しい女性が訪ねてきた。それはタレクの母モーナだった。ミシガン州に住む彼女は、連絡がつかなくなった息子を心配し、ニューヨークまでやって来たのだ。タレクのルームメイトだと自己紹介したウォルターは、モーナと既にいとこの家に移ったゼイナブとを引き合わせることにする。モーナもまた、息子に会うことのできない身だった。そんなふたりに代わってウォルターはタレクを訪ね、ある時はゼイナブやモーナから預かった手紙をガラス越しに読ませ、またある時は音楽が必要だというタレクと共にジャンベに見立てた机をたたき、彼を励ます。
モーナとウォルターは弁護士に相談に行くが、タレクが入国後、移民面接の召喚に応じないなど、手続きに不備があったのではないかと指摘する。モーナはすべて従ったというが、それでも移民法が厳しくなった現在では、タレクが自由の身になれるか、それともシリアへ強制送還されるか、弁護士にもわからないという状況だった。
モーナの夫は新聞記者だったが政治犯として投獄され、そこで患った病がきっかけで死んだ。国に絶望したモーナは少年だったタレクを連れ、アメリカへ渡ったのだ。モーナと親しくなるにつれ、ウォルターはその気丈さ、やさしさに惹かれていく。不安になるモーナを慰めるため、ウォルターは彼女を誘いミュージカル「オペラ座の怪人」を観に行く。タレクは母の誕生日に「オペラ座の怪人」のCDを送っており、モーナはこのCDを繰り返し聞いていたのだ。久しぶりに楽しいひとときを過ごしたふたりだったが、翌朝、悲痛な知らせが届く。タレクが強制送還されてしまったのだ———。
スタッフ
脚本・監督:トム・マッカーシー
プロデューサー:メアリー・ジェーン・スカルスキ
マイケル・ロンドン
エグゼクティヴ・プロデューサー:オマー・アマナット
ジェフ・スコール
リッキー・ストラウス
クリス・サルヴァテッラ
音楽監修:メアリー・ラモス
音楽:ヤン・A・P・カチュマレク
衣装デザイン:メリッサ・トス
美術:ジョン・ペイノ
撮影:オリヴァー・ボーケルバーグ
編集:トム・マクアードル
キャスト
ウォルター・ヴェイル:リチャード・ジェンキンス
モーナ:ヒアム・アッバス
タレク:ハーズ・スレイマン
ゼイナブ:ダナイ・グリラ
バーバラ・ワトソン:マリアン・セルデス
ジェイコブ:リチャード・カインド
チャールズ:マイケル・カンプスティ
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