原題:TSOTSI

出口のない人生に神様がくれたのは、生まれたばかりの贈りもの。

2006年アカデミー賞外国語映画賞

2005年/イギリス・南アフリカ/95分/SR,SRD/35ミリ/シネマスコープ/カラー/全6巻/8820フィート/日本語字幕:田中武人 後援:南アフリカ大使館、アムネスティ・インターナショナル日本、「ほっとけない 世界のまずしさ」/提供:日活、インターフィルム/ 配給:日活、インターフィルム/宣伝:ムヴィオラ

2007年10月05日よりDVDリリース 2007年4月14日より TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー

(C)Tsotsi Films(Pty)Ltd.2005

公開初日 2007/04/14

配給会社名 0006/0653

解説



世界中が胸を打たれた、パワフルな感動のドラマ
“ツォツィ”——”不良””チンピラ”を意味する南アフリカのスラング。
 2006年、アフリカ映画初のアカデミー賞外国語映画賞受賞の快挙を成し遂げた『ツォツィ』。元南アフリカ大統領のネルソン・マンデラ氏は、ギャビヴィン・フッド監督と出演者たちに対面した際、「自分もかつてはツォツィだった。南アフリカを世界に知らしめたのはこの作品だ」と彼らを讃えた。
 南ア最大の都市ヨハネスブルク。その最大のタウンシップ(旧黒人居住区)ソウェトのスラム街にツォツィと呼ばれるひとりの少年がいた。本名は誰も知らない。暴力の中で無軌道な生活を送る彼は、仲間と徒党を組んでは窃盗を働き、銃を振りかざしてはカージャックを犯し、その日をただ、怒りと憎しみを糧に生き延びるかのように暮らしていた。名前を捨て、過去に口を噤み、未来から目を逸らして…。
 ある日、少年はひとつの小さな命に出逢う。「生きること」の意味を見失っていた少年は、その小さな命と対峙することで、図らずも「生きること」の価値を見つめ、最後にはそれを選びとることとなる。
アパルトヘイトその後。「世界一の格差社会」といわれる南アの過酷な現状のリアリティ。
 アパルトヘイトが終焉して10年余。国際社会は南アフリカを忘れてしまった。しかし、その悲惨な現状は、まだ終わってはいない。豊かな生活を手に入れた黒人はほんの一握りに過ぎず、これまでの人種格差に黒人内の格差も加わった空前の格差社会となったのだ。それに伴い社会犯罪は激化し、エイズ孤児の問題も暗い影を落としている。
 豪邸に暮らす黒人がいる傍らには、水道や電気が通っていないボロボロの家を住処とする黒人がいる。映画『ツォツィ』の中では、奪う側も黒人ならば、奪われる側も黒人だ。かつて黒人が簡単に出入りできなかったダウンタウンは、今や世界で一番危険な街、とさえ呼ばれている。『ツォツィ』は、アパルトヘイト後の知られざる南アフリカの”いま”を、鋭くリアルに切り取った初めての映画だ。
「忘れないが、許そう」——岐路に立つ主人公ツォツィに母国・南アフリカの希望を重ねて。
 監督は、南アフリカのヨハネスブルク出身で、本作の成功により次作「RENDITION」(原題)でメジャーデビューを果たすギャビヴィン・フッド。作品のテーマである「贖罪と寛容」を強く訴えるために、60年代が舞台であった原作を現代に置き換え、そして暴力を派手に描くのでなく、リアリティと率直さにこだわって、個々の登場人物の人間らしさに焦点をあてた。「私は寛容とセカンド・チャンスへの小さな希望を見出したかった。今の南アフリカが、様々な問題をかかえる中で、希望をいだいているように」。映画のラストに込めた監督のこの思いは、かつてマンデラ元大統領が「忘れないが、許そう」と語って踏み出した南アの希望と、まさに重なりあっている。
主人公ツォツィに扮するのは、映画の舞台であるソウェト出身の新星プレスリー・チュエニヤハエ。伝統的に演劇がさかんな南アの舞台でキャリアを始めた彼は、肌で知ったリアリティと圧倒的な存在感で、ツォツィを体現している。原作は南アフリカを代表する劇作家、アソル・フガード。差別する側の「白人」でありながら、反アパルトヘイト運動に身を投じていた彼は、アパルトヘイトをテーマにした戯曲を数多く書き、黒人たちと舞台を演じることによって、国の抱える問題を広く世界に知らしめた。また南アフリカを席巻している、タウンシップから生まれた南ア流ヒップ・ホップ「クワイト」がツォツィの魂に息吹を与えている点も必聴だ。加えて南アフリカにおけるクワイトの”スーパー”スターでもあるZolaが出演。全面的に楽曲提供をしているだけでなく、彼の音楽がこの作品のスタイルを決める上でインスピレーションとなった。
 アパルトヘイト後もなお続く南アフリカの過酷な現状と、その先にある希望を見つめ、トロント国際映画祭をはじめとする各映画祭で観客賞を受賞、オーディエンスからの熱い支持を得ているパワフルな感動のドラマ、それが本作『ツォツィ』である。

2006年 アカデミー賞(R)外国語映画賞受賞
2005年 イギリス・エジンバラ国際映画祭 最優秀作品賞/観客賞受賞
2005年 カナダ・トロント国際映画祭 観客賞受賞
2005年 アメリカ・AFIロサンゼルス国際映画祭 観客賞受賞
2005年 アメリカ・デンバー国際映画祭 観客賞受賞
2005年 アメリカ・セントルイス国際映画祭 観客賞受賞
2005年 南アフリカ・シテンギ映画祭 批評家賞受賞
2005年 ギリシャ・テサロニキ国際映画祭ギリシャ議会人権価値賞受賞
2006年 アメリカ・サンタバーバラ国際映画祭 観客賞受賞
2006年 アメリカ・ゴールデングローブ賞 外国語映画賞ノミネート
2006年 イギリス・BAFTA カール・フォアマン賞&外国語映画賞ノミネート
2006年 アメリカ・パンアフリカ映画・芸術祭 批評家賞受賞

ストーリー




紫煙がゆれる。ダイスを転がして賭けをするチンピラ風情の青年たち。窓際に立ち背を向けていた少年に声がかかる。「ヘイ、ツォツィ(=不良)!」。

南アフリカ──ヨハネスブルクにある旧黒人居住区ソウェトの貧しいスラム街。ツォツィは、自分の過去と本名を封印している。彼は幼い頃から、たったひとり、社会の底辺で生きてきた。名前も、過去も、未来もなく、怒りと憎しみだけを心の中に積もらせて。ツォツィの仲間は、なりそこない教師のボストン、冷血でキレやすいブッチャー、そして人のいいデブのアープだ。
“仕事場”のヨハネスブルク中央駅に向かうツォツィたち。きょうの獲物は、背広を着た恰幅のいい黒人男性だ。電車の中で、男の財布を奪う。思わず声をあげる男。ブッチャーは躊躇せず、素早くその腹にアイスピックを差し込んだ。

スラム街にあるシェベーンと呼ばれるバー。殺人のショックがおさまらないボストンは、リーダー格のツォツィをなじりはじめる。「品位(decency)って言葉をお前は知っているか?お前の本当の名前は何だ?両親はいるのか?」。なじり続けるボストンが「おまえは捨て犬か?」と叫んだ途端、ツォツィの怒りが噴き出しした。ボストンを血だらけになるまで殴りつける。

過去の記憶を振り切るかのように、街中を狂ったように駆け抜けるツォツィ。気づくと彼はスラム街を抜け、豪邸が建ち並ぶ通りに立っていた。その視界に、車で帰宅した黒人女性の姿が飛び込む。ツォツィは持っていた銃を引き抜いて女性を脅し、そのBMWを盗む。そして、追いすがる彼女に銃弾を浴びせた。

猛スピードでBMWを走らせていると、車内に突然、赤ん坊の泣き声が響く。後部座席に生後数ヶ月ほどの赤ん坊が乗っていたのだ。ツォツィは車のコントロールを失い、道を外れて標識に衝突する。車から這い出たツォツィは、一度はその場を立ち去ろうとするが、踵を返して後部座席を覗き、車内にあった紙袋に盗めるものを詰め込む。赤ん坊がかけていた毛布まで剥ぎ取った。泣き声がいっそう大きくなる。動揺するツォツィ。次の瞬間、ツォツィは赤ん坊を抱き上げ、紙袋に入れて、歩きだした。

スラム街の自分のバラック。ベッドの下には、紙袋に入れた赤ん坊。泣き叫ぶ赤ん坊にコンデスンミルクを与えると、なんとか泣きやんだ。その頃、警察も赤ん坊誘拐の捜査に動きだしていた。

ツォツィは、いつもの”仕事場”、中央駅で車椅子に乗った物乞いのモリスとひと悶着をおこす。モリスの後を追い、廃虚のような街で彼を呼び止めるツォツィが銃を取り出す。モリスの目に恐怖が走る。「何で俺につきまとう?」。ツォツィは人に蹴られて背骨を折った犬の話をした。「犬みたいになって、なぜ生き続ける?」。モリスは答えた。「俺は太陽の光を感じたい」。ツォツィは、彼を殺さずに去っていく。

部屋に戻ると、コンデスンミルクのせいで、赤ん坊に蟻がたかっている。困ったツォツィは、赤ん坊を抱いた若い女性ミリアムに目をつけ、その後をこっそりつけていく。強に彼女の家に入り込んだツォツィは、怯える彼女に銃をつきつけ、彼の赤ん坊にお乳をあげるように命令する。
ミリアムは夫を亡くしたばかりで、女手ひとつで赤ん坊を育てていた。最初はツォツィに怯えるミリアムだったが、オムツの代わりに新聞紙を巻きつけた赤ん坊を見て、気丈にも世話を申し出る。赤ん坊に優しく語りかけながら体を拭いてやるミリアム。ツォツィの中にふと甦る記憶があった。

自分のバラックに帰り、赤ん坊をベッドに寝かしつけたツォツィはあることを思い出していた。

幼い頃の記憶。エイズに冒され、寝たきりだった母。差し伸べられた母の手をツォツィが握ろうとした時、それを阻んだ冷酷な父。ツォツィが可愛がっていた犬の背骨を蹴り上げてへし折った父。自分も犬のように殺される……思わずその場を走り去った。その日から少年は一人で生きることを選んだのだ。

ツォツィは赤ん坊を入れた紙袋を持って、土管が並ぶ丘の上へ行った。土管の中には貧しい身なりの子どもたちが住み着いている。ツォツィも昔、1人でここに流れ着いた時、土管を住処にしていたのだった。

ぐずる赤ん坊を連れ、ツォツィは再びミリアムの家を訪れる。ミリアムに赤ん坊の名前を聞かれ、思わず「デヴィッド」と答えた。それは、自分の本当の名前だった。ツォツィは一晩、赤ん坊を彼女に預けることにする。「金は払う」。金はいらないというミリアムに、ツォツィは念を押す。「忘れるな、俺の子だ」

金を稼ぐために一仕事しなければならない。仲間のもとに向かうと、そこではツォツィに殴られた傷が癒えないボストンがシェベーンの女主人にかいがいしく面倒をみられていた。ツォツィは、ボストンを自分のバラックに連れていく。ボストンの面倒を見るのは自分だ。そう思いたかった。ツォツィはボストンの教員試験のための金を工面すると約束する。

金が要る。ツォツィが選んだのは、あの赤ん坊の家に強盗に入ることだった。アープとブッチャーを連れ、豪邸に押し入る。折しも帰宅した父親を縛り付ける。金目のものを盗もうと家探しする3人。だが、ツォツィには、別の目的があった。赤ん坊の部屋を探しあてたツォツィ。ここには、すみずみまで両親の愛があふれている。その時、非常ベルが鳴り響いた。赤ん坊の父親が押したのだった。怒りにかられたブッチャーが父親に銃を向ける。その瞬間、ツォツィの銃が火を噴いた。

崩れ落ちたのはブッチャーだった。なぜ?ブッチャーが人を殺すのを、これまで気にしたことなんかなかったのに。ツォツィは、父親に銃を向ける。だが引き金を引くことができない。父親から車のキーだけを奪い、アープと2人で逃走する。盗んだ車を売り払うツォツィに、アープは「俺は殺されたくない。さよならだ」と別れを告げる。アープに金を握らせ、ツォツィは去った。

ツォツィが向かった先は、ミリアムの家。ミリアムは、彼が赤ん坊をさらったことを新聞で知っていた。赤ん坊の家から盗んできた哺乳瓶と粉ミルクを掲げてみせるツォツィにミリアムは言う。「赤ん坊を返してあげて。あなたは母親にはなれないのよ」。自分が返してくる、というミリアムの申し出をツォツィは断る。しかし、家を出ていく時「もしも赤ん坊を返したら、またここに来ていいか」とミリアムに聞くのだった。

翌日、何かを決意した表情のツォツィは、赤ん坊を入れた紙袋をさげ、中央駅に向かう。モリスがいた。ポケットから金を差し出し、彼に渡すツォツィ。

赤ん坊の家には警察が張り込みに来ていた。退院した母親をベッドに寝かし、父親が優しく面倒を見ている。張り込みの刑事が、表の玄関にツォツィの姿を認める。スラム街に捜索に来ていた刑事に連絡が入った。犯人は赤ん坊の家だ!

ツォツィは、赤ん坊を玄関に置いて立ち去ろうとした。しかし、どうしてもそれができなかった。玄関のベルを押し、赤ん坊を玄関に置いたことを告げる。その頃、刑事の車は全速力で向かっていた。そして、急に大声で泣きだした赤ん坊をツォツィが抱き上げ、あやそうとした時──

「動くな!」。刑事たちの銃がツォツィを狙う。しかし、赤ん坊の父親が出てきて、刑事たちに「落ち着け。私の赤ん坊だ!」と叫び、刑事たちの銃をおろさせた。母親も車椅子で出てきた。母としての威厳が周囲を圧倒する。この父もこの母も、誇り高く、子供への愛情にあふれている。

ツォツィの瞳から、涙がこぼれ落ちた。緊張が走る。一瞬の静けさの後、ツォツィは門から出て来た父親に赤ん坊を渡した。

「両手を上にあげろ!」ふたたび銃がツォツィ狙う。両手をあげなければ、射殺される。捕まるのか、それくらいなら命など捨ててしまうのか。
……ツォツィは、両手をあげた。パトカーのライトがツォツィを照らす。掲げた両手が、一瞬輝いて見えた。

スタッフ

監督・脚本:ギャヴィン・フッド / Director,Writer:Gavin Hood
プロデューサー:ピーター・フダコウスキ / Producer:Peter Fudakowski
共同プロデューサー:ポール・ラレイ / Co-Producer:Paul Raleigh
製作総指揮:サム・ベンベ、ロビー・リトル、ダグ・マンコフ、バジル・フォード、ジョセフ・ドゥ・モレー、アラン・ホーデン、ルパート・ライウッド /  Executive Producer:Sam Bhembe,Robbie Little,Doug Mankoff,Basil Ford,Joseph d' Morais,Alan Howden,Rupert Lywood
撮影:ランス・ギーワー / Director of Photography:Lance Gewer
プロダクション・デザイン:エミリア・ウィーバインド / Emelia Weavind
作曲:マーク・キリアン、ポール・ヘプカー / Original Score:Mark Kilian,Paul Hepker
原作:アソル・フガード / Based on the novel "Tsotsi" by Athol Fugard

キャスト

ツォツィ:プレスリー・チュエニヤハエ / Tsotsi:Presley Chweneyagae
ミリアム:テリー・ペート / Miriam:Terry Pheto
アープ:ケネス・ンコースィ / Aap:Kenneth Nkosi
ボストン:モツスィ・マッハーノ / Boston:Mothhusi Magano
ブッチャー:ゼンゾ・ンゴーベ / Butcher:Zenzo Ngqobe
フェラ:ZOLA / Fela:ZOLA
モーリス:ジェリー・モフォケン / Morris:Jerry Mofokeng

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