14歳
ひとかけらの嘘もない映画『14歳』
第28回ぴあフィルムフェスティバル 第16回PFFスカラシップ作品 第36回オランダ・ロテルダム国際映画祭コンペティション部門「タイガー・アワード」NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)受賞
2006年/日本/カラー/114分/ 配給・宣伝:ぴあ 宣伝協力:アルバトロス・フィルム
2008年03月29日よりDVDリリース 2007年5月19日より、ユーロスペースにてロードショー(全国順次公開)
公開初日 2007/05/19
配給会社名 0148
解説
ひとかけらの嘘もない映画『14歳』
本作は、映像ユニット「群青いろ」=高橋泉と廣末哲万=の劇場デビュー作品である。
2006年夏に完成。その後世界各国の映画祭で賞賛され、いよいよ一般公開を迎える。
映画『14歳』は、決してあの頃を忘れない大人たちの映画であり、14歳前後で大人の感覚を持ち始めた者たちのための映画であり、さらに、まともな大人になろうと日々悩む多くの人々に伝えたい映画である。
作中のエピソードは、脚本を担当した?橋泉の記憶に基づいている。
脚本に生身の人間のリアルな息遣いを与えたのは、監督&主演の廣末哲万。
「群青いろ」のこの切実な作品に一層の深みを与えるのが、自らの規律に従いながらも煩悶する教師を演じる香川照之、息子を絡めとるように愛する母役の藤井かほり、娘を理解することに興味を示すことのない母の渡辺真起子という絶妙の役者陣。また、前作『ある朝スウプは』で廣末と共に主演を演じた並木愛枝が今回も精神分析医に通いながら教師を続けるひたむきな女性という難しい役どころを演じている。そして、厳しいオーディションによって選ばれた14歳の中学生を演じる子役たちは、それぞれ天性の煌めく才能を披露している。
映画は、理解されることを希求する子供たちと、教師であることに悩み惑う教師たちの集う、学校という閉塞された空間の息苦しさ。同時に、学校の外でかつて14歳だったときの記憶に窒息しそうな大人たち。の、ふたつの世界が描かれる。
大人と子供のコミュニケーションは、理解すること、は可能なのか?
人の記憶は、関係をつくることに役に立つのか?
人は、人にどこまで関われるのか?
「群青いろ」の作品は、一貫して「普通」という概念に収まることの出来ない人々の織り成す、未来への予感とかすかに射しはじめる希望の光を提示する。
14歳は、透徹した眼で世界を捉えることの出来る年齢。
自分の力を自分で理解しはじめる年齢。
大人と子供とどちら側にも立てる年齢。
その年齢の、あの不確かで不安な日々を忘れずに、自分の力で未来を、世界を拓いていくこと。
それが現在を生きる私たちに一番必要なことなのだと、
静かにこの映画は語っている。
声高ではないが、刺さる声で、
安易な方法は決して選ばずに「希望」を語るこの『14歳』は
冒頭からエンディングまで緻密に計画された音の効果と相まって、
圧倒的な緊張感を持続しつつ
「人はいつでもやり直すことが出来る」と、繰り返し伝えてくる。
これこそが、まさに、今、この世界が必要としている映画である。
ほんとうに誠実で優しい、ひとかけらの嘘もない映画。
それが『14歳』である。
ストーリー
かつての14歳
火が燃え盛るのをみると、自分がどこかと交じり合っていくような安堵感を手に入れられるのはなぜだろう?
あの14歳の時、学校の飼育小屋に火をつけたのはわたしだったのだろうか? それとも誰かが火をつけたのを見ていただけだったのだろうか? 12年経ったいまでも私にはわからない。それほどに14歳のわたしは私にとって、曖昧な年齢だ。できることなら、14歳のわたしともう一度出逢ってわたしを助けたい。切実に、いまはただそう願う。
12年前起こった飼育小屋の放火事件。犯人は特定されなかったものの、理科室で頻繁にビーカーの中の紙を燃やしていた深津稜が疑われていた。さらに深津を突き詰める教師の背中を、彼女が彫刻刀で突き刺した事件はそれ以上の衝撃をもって伝えられた。理科室で紙を燃やす深津も、彫刻刀で教師を刺す深津の姿も目にした同級生の杉野浩一にはいまでも生々しい記憶として脳裏に焼きついている。
事件以来、精神科に通うことになった深津(並木愛枝)は、医師(石川真希)の影響で教職の道を選び、いまは中学の教師となっている。真剣に人と向き合う、そう決心した深津にそれ以外の職業はないように思われた。しかし毎日のように起こる生徒同士のいじめ問題や警察沙汰、そして彼らの大人への憎しみや不信感を背に、疲弊していくばかりの日々だ。ひとり部屋の中で、マッチに火を灯す。そして飼っているハムスターに油を注ごうとする。やがてはこの部屋、建物すべてまでをも燃やしてしまうのだろうか。境界線がズルズルと手繰り寄せられることに恐怖を覚える。
杉野(廣末哲万)は電気会社の測量士になっていた。果てまで続く道を数値で意味づけしていく、そんな仕事だ。起点からいくら杉野が進もうが、それは距離が堆積していくのではない。後ろに置き去りにしているだけなのだ。少年たちに偶然、つけられた白いシャツの鮮血のシミがどうしても消えないように、すべては消えず、置き去りにされていく。
夢中になれることはない。ただ14歳の頃の彼は、ピアノを弾くのが好きだった。好きという域を超えていたはずなのに、音楽教師のさりげない言葉からその道を断念したのだった。「そろそろ真剣に進路のことを考えないとな」という一言。教師にとってはそんな何気ない一言が、杉野の人生を決めた。
受験勉強のためバレエを辞めさせられた生徒・一原のために家庭訪問した深津は、12年ぶりに杉野と偶然出会う。杉野はアルバイトのピアノ教師として大樹の家を訪ねた帰りだった。大樹も深津の生徒だ。ふたりは14歳だった過去の自分と、現実の14歳を生きる彼らに同時に向き合わざるを得ない。
いまの14歳
14歳の大樹
受験勉強も大切だけど、いまの僕にはピアノのレッスンも大切だ。ピアノを弾いていると疲れることがない。学校のいやなことも、女の子の甘い香りからも逃れられる。それにママ(藤井かほり)が喜んでくれるのがなによりもうれしい。ほかのやつらにはないピアノの才能があればどんなにうれしいだろう。一原みたいに、バレエがしたくても母親に辞めさせられたやつだっているんだ。一原はだから僕をすごく妬んでる。その妬みが怖い。ピアノ教師の杉野は学歴はないけれど、ピアノはすごくうまい。やつは中学でピアノを辞めたって言ってた。あんなにうまいのになんでだろう? それに、なんでかわかんないけどやつは僕を蔑んでいる気がするんだ。この前も、ママの胸元を見てついレッスン中に勃起してしまったとき、やつにそれを目ざとく見られた気がする。だってその後にトイレに駆け込んで笑っていたから。
14歳の一原
そんなに受験が大切なの? わたしはバレエがしたくてたまらない。足が自然に動いてしまうほど。なのにママ(渡辺真起子)は受験のためにバレエを辞めさせた。「バレエじゃ食えないから」だって。大人の言うことは信用できない。担任が家に来てママを説得したけど、まったく効き目なし。それに担任はこう言ったんだ。「勉強はバレエと違って遊びじゃないから」って。最低。軽蔑する。なんにもわかってない。生徒に迎合するふりだけしやがって。あいつが精神科に通っているってこと、みんなにばらしてやる。
みんなは部活とかしてるのに、わたしは塾に通うだけの日々。それまで時間が余るから、路子を無理矢理でも付き合わせる。でもあいつ頭悪いうえに、見た目もありえない。今度ママが通う美容室で髪切ってあげるってからかったら、本気にしちゃって家に押しかけて来て大変だった。その後学校休んでいるから、わざわざ見舞いに行ってあげたのに、シカトしたうえに、ドアに大切な足を挟んだんだ。しかも唾まで吐きかけて。あたしより下のレベルのやつにそんなことされて、ほんと許せない。
14歳の路子
わたしは頭が悪い。授業についていけないから毎日担任の補習を受けてる。家でも勉強してるのに、最低ランクの高校でさえ危ないって、担任が言う。高校くらい、わたしだっていきたい。みんなと同じになりたい。ずっと自分を変えたくてしょうがない。でもなかなか人とうまく話せないし、友達は一原さんだけだ。この前の放課後、戻るまで絶対待っててって一原さんに言われたから、夜になるまで教室で待っていたのに、彼女は来なかった。それに、一原さんが今度美容室に連れて行ってくれるって言ったから、彼女の家に約束通り行ったのに、美容室のことも勘違いだってわたしを逆に責める。一原さんがなんかお化けみたいに思えて、どんどん膨れ上がっていく。だから足を挟んでやった。唾も吐きかけたんだ。そうしたらお化けが消えるかと思って。
14歳の道菜
いつの頃からかあいつらが俺を標的にし始めた。なにが原因かはわからない。担任の小林(香川照之)もあいつらも俺の目を直接見ないから、そういうことが原因なのかもしれない。それで毎日殴られ、待ち伏せされ、犬のように扱われた。でも俺は毎日やつら以上の暴力で立ち向かうことにした。やつらが木片で殴りつけてきたら、もっと太い木刀で殴りつける。カッターの刃の部分まで素手で受ける俺をみんな怖がっている。その恐怖心を盾にとるしか、俺に生き延びる道はないんだ。どっちが悪いんだ? どっちが暴力的だ? なぜ俺の目を誰も見ない? でも母親だけは何も言わない。学校で疲れ果てて、部屋でうたた寝していると母親が入ってきた気配がした。母親は少し泣いている気がした。気のせいかもしれないけど。
やがて、繋がっていく道
精神科へ通っていることが知れ渡った深津への生徒たちのいじめはエスカレートし、休職に追い込まれていた。
もうひとりの教師・小林は道菜の目を見れないことで罪悪感をいだく日々だ。その不安を別の生徒にぶつけていき、やがて自らを気が狂ったように殴りつける。
杉野は消えないシミのついたシャツを前に、クリーニング店で奇声を上げる。それは消えない記憶に立ちふさがれて、行き場を失った者の声だった。
杉野は深津を河原に呼び出し、木片を積み上げ、火を点火する。炎は風を受けて大きくなる。その炎に浄化されるように、ふたりの感情のこわばりもささやかに溶解していく。杉野は才能のない大樹にかつて自分がされたように言葉で追い込んだことを悔やんでいた。深津は、あの過去の事件をゆっくり咀嚼し始めていた。かつて14歳だった大人が、自分たちも14歳であったことを思い出した瞬間であった。そうすることでしかふたりの前に道は見出せなかった。
大樹から杉野宛に電話が入った。レッスンを再開してほしい、という。電話口の大樹の横には一原がいた。何かを察知した杉野は意を決したように大樹の家に向かう。大樹の家の玄関を、向かいの家に住む一原がじっと見つめる。杉野が到着すると、家の窓越しに大樹に合図する一原。玄関で待ち伏せする大樹は、ドアが開くとともに剪定鋏を手に杉野に襲いかかる。しかし杉野は大樹を組み伏せ、ピアノの椅子に彼を座らせると「お前がなにかを求めるならそれに応えてやる。お前らがなにを考えているかもう思い出せないけど、僕にできることがあるならやってやる」と力強く言い放つのだった。その様子を窓から見ていた一原はなにかを諦めたように窓を離れる。
リノウムの、磨かれた廊下をひとりの教師が教室に向かう。力のない後姿。しかし戸惑いなくドアを開ける。深津の姿だった。
スタッフ
監督・主演:廣末哲万
脚本:高橋泉
プロデューサー:天野真弓
撮影:橋本清明
照明:清水健一
録音:林大輔
美術:松塚隆史
編集:廣末哲万、普嶋信一
音楽:礎英記
製作:PFFパートナーズ=ぴあ、TBS、TOKYO FM、IMAGICA、NTTレゾナント、ヒューマックスシネマ
キャスト
深津 稜(26歳)並木愛枝
杉野浩一(26歳)廣末哲万
雨宮大樹(14歳)染谷将太
一原知恵(14歳)小根山悠里香
芝川道菜(14歳 )笠井薫明
林 路子(14歳)夏生さち
村田茂夫(14歳)椿 直
島村美枝(14歳)相田美咲
深津 稜(14歳)河原実咲
杉野浩一(14歳)榎本宇伸
上村久代(50歳)石川真希
谷屋真吾(23歳)松村真吾
雨宮純子(38歳)藤井かほり
芝川多恵子(50歳)牛腸和裕美
一原京子(39歳)渡辺真起子
小林 真(46歳)香川照之
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