クッキー・フォーチュン
原題:Cookie's Fortune
1999年/アメリカ映画/カラー/ヴィスタ・サイズ/ドルビーデジタル/上映時間118分/日本語字幕:戸田奈津子 提供:東京テアトル/テレビ東京/フジクリエイティブコーポレーション/K2エンタテインメント 配給:K2エンタテインメント オリジナルサウンドトラック:BMGファンハウス
2000年2月中旬より公開
公開初日 2000/02
配給会社名 0070
解説
シニカルでブラック。そして心にしみる暖かさ。でっちあげの「殺人事件」を巡って右往左往する人々の、あまりにも奇妙な行動を描く、ロパート・アルトマンの最高傑作の登場である。
ディテールを緻密に重ねていく完壁な構成はハリウッドの反逆児、アルトマンにしかできない完全犯罪といえるだろう。カンヌを制覇した『M★A★S★H』から90年代の『ザ・プレイヤー』『ショート・カッツ』『プレタポルテ』まで、アルトマンの作品の武器である皮肉な語り口はいよいよ鋭さを増している。だが決定的に新しいのは、暖かい人間愛に満ちたまなざしが登場人物に注がれていることだ。その芳醇な味わいは”フォーチュン・クッキー”(運試しの占いクッキー)さながらの幸福感にあふれている。
何十人もの主要登場人物を巧妙に、理知的に捌くのがアルトマン流だが、今回は舞台のサイズに合った少数精鋭の芸達者が絶妙なアンサンブルを見せてくれる。『危険な情事』から『マーズ・アタック!』まで、シリアスと笑いの紙一重の差を心得ているグレン・クローズが、自分の嘘に酔うカミール役で抱腹絶倒の大怪演を披露。そのカミールとことことく衝突する家出娘、エマに『アルマケドン』のリヴ・タイラー。町の因習に反発し、奔放なセックスシーンを見せながらも、愛する人を信じるピュアなあぱずれ娘をキュートに演じている。人を傷つける真実ならば、秘密のままにしておこうとする、心優しき黒人にトニー賞の常連、チャールズ・S・ダットン。物語の発端となるクッキーにパトリシア・ニール。『ハッド』で1963年のアカデミー最優秀主演女優賞を獲得、『ティファニーで朝食を』など輝かしいキャリアを持つショウピズ界の伝説的女優だ。恋人のエマに振り回される、間抜けな新米保安官に『バットマン&ロピン』のクリス・オドネル。カミールの忠実な共犯者である妹、コーラを演じるのはジュリアン・ムーア。『ショート・カッツ』『ピッグ・リボウスキ』『ブギーナイツ』とクセ者系では定評ある実力派が見せるおバカ演技の裏に、巧妙な復讐劇とも受け取れる不気味な伏線が見え隠れするのも目が離せない。
この奇妙な人々の物語をまとめあげた脚本家はアン・ラップ。スピルバーグ、ポラック、カズダン、ルメットら巨匠のスクリプターとして長いキャリアを持つが、本作が脚本家としてのデピュー作である。この1本でラップを絶賛したアルトマンは、準備中の次回作でも彼女を指名している。撮影監督は大島渚監督の『御法度』でも撮影を担当する日本人カメラマン、栗田豊通。もうひとつの主人公ともいえるこの「町」の深い闇と南部の陽光、旧館のたたずまいを魅惑的な光でとらえている。全編をディープ・サウス、ミシシッピのブルージィな音で埋め尽くしたのは、10年ぶりの再結成が話題になっているユーリズミックスのデイヴ・スチュワート。エンドロールに流れる”クッキーのテーマ”にはサックスのキャンディ・ダルファーをゲストに迎えている。
99年4月に限定10館で封切られ、噂が噂を呼んで公開3週目には559館に拡大。瞬く間にインディペンデント系では異例の全米興行収入ベスト10にランク・イン。イギリス、フランスなどヨーロッバをブラックな笑いに巻き込みつつ、この春、日本に上陸する。
ストーリー
復活祭目前の週末。ウィリスは大好きなワイルド・ターキー一杯でご機嫌になると、前々から頼まれていた古い銃の手入れをするために、母屋のクッキーを訪ねた。銃も、飾り棚も、女主人のクッキーも、古くなってだいぶガタがきている。その晩クッキーが、死んだ夫バックの想い出ばかリ話すのがウィリスには気になった。最近町に舞い戻ったエマが一緒に暮らしてくれると安心だ、と思うが、エマは母親のいる家にも寄り付かず、パンで寝泊まりする気楽さが気にいっているらしい。ちょっと風変わりな娘だが、エマは大伯母さんにあたるクッキーにもウィリスにも可愛がられている。
翌日、ウィリスは復活祭のご馳走を準備しようと買い物に出た。クッキーとエマに自慢の料理をふるまうのだ。ひとりになったクッキーは何十年も一緒に過ごし、家族同様の存在だったウィリスに最後の手紙を書く。「バックに会いにいくわ。悲しまないで。エマをよろし<ね」お気に入りの宝石で身を飾ると、クッキーは静かに引き金をひいた。
横たわるクッキーを最初に「発見」したのは、カミールだった。同じ町に住む親戚なのに全く反りが合わず、行き来も絶えていたクッキーの姪だ。カミールはウィリス宛ての手祇を見付けると、咄嵯にそれを口に放り込んだ。妹のコーラに手紙を見られてはまずいからだ。口いっぱいに紙をほおばったおそろしい顔で、姉は妹に言い聞かせる。「伯母さんの死は自殺じゃない。うちの人間はみっともない自殺なんかしない。これは強盗殺人よ!」カミールもヘンだが、言う事をきくコーラもヘンだった。復活祭の出し物「サロメ」の演出家として、素人相手に演技論を振りがさじて悦にいっているカミールの”演出”には迫力がある。一方のコーラは[サロメ姫」役でも、私生活でも、一から十まで姉の指図がないとなにもできない女なのだ。カミールは早速”強盗”の逃走経路や宝石荒らしを”演出”し(ついでにいくつかは頂戴し)、クッキーの手から銃をつまみ上げると裏庭に放り投げた。
保安官はやむなくウィリスを逮捕した。ドアにも、銃にも彼の指紋がついていたからだ。保安官はそれでもウィリスが無実だと信じている。なぜなら彼は釣り仲間だからだ。町でただひとりの弁護士も駆けつけた。彼もウィリスは無実だと考えている。釣り仲間だからだ。そこにエマも駆け込んで<る。ウィリスを逮捕するのなら私だって駐車違反のお尋ね者よ!という理由で、扉を開け放してある留置場に勝手にはいって来てしまったのだ。コーヒーも飲み放題。エマはボーイフレンドで新米保安官のジェイソンと愛を交わすこともできる。ここはそんなに悪い場所じゃない。
一方のカミールとコーラ姉妹は警察の”立入り禁止テープ”を無視してクッキーの家に居座ってしまった。この広大な屋敷を相続したつもりで有頂天だったのだが、鉢合わせしたエマに「ここはあんたの家じゃない!この汚いクソパパア」と罵られる。怒鳴られたカミールはエマの伯母で、おろおろしているコーラはエマの母親だ。
”事件”を解決すぺく、本部から腕利きの警部タッカーがこの町にやってきた。買い物に行ったというウィリスの立回リ先を調べ始めるが、頭を抱えてしまう。酒場も、酒屋も、エマが働いているなまず屋でも…。ウィリスが来たことは覚えているが、誰も彼も1時半ぐらいかな、と言うだけであてにはならない。この町では時間を気にしている人間はいないのだ。
町では皆、復活察のご馳走を食べている。留置場でも、保安官の差しいれのご馳走を食べながら「俺の爺さんは白人で、孫のうち20人が黒人で14人が白人だ」というウィリスの話にエマはびっくりしている。やがて日が暮れ、教会では「サロメ」が始まった。ウィリスのアリバイ証明は難航している。そこに重大な目撃証言が現れた。あの日、銃を裏庭に隠すカミールを見ていた少年がいたのだ。鑑識からは「銃には被害者と別に、ABマイナスの血液が付着」という報告が入る。病院にカミールの血液型を間い合わせると、ABマイナスだった。教会に駆け付ける保安官。舞台では兵士のジェイソンが自殺し、弁護士のへロデ王が、コーラのサロメ姫に踊りを命じている。舞台袖のカミールのかばんには、クッキーのお気に入りだったネックレスがはいっている。保安官は今度こそ確信した。この女が犯人だ。カミールは留置場に入れられる。すかさず扉を閉める保安官。カミールは家に何慶も電話をかけるが、コーラはいっこうに電話に出ない。
町でただひとりの弁護士は多忙だ。舞台衣装のまま留置場にかけつけると、クッキーの遺言を取り出した。そこには故人に縁のあるカミールもエマも、家族同然定ったウィリスも揃っているからだ。「自殺だとわかれは私は釈放される。コーラが来れぱすぐに証言してくれる。そして伯母さんの遺産は私のもの」そう確信し、必死に冷静を装うカミールは呆然とする。読み上げられた遺言には驚くべき事実が書かれていたのだ……。
スタッフ
監督:ロバート・アルトマン
脚本:アン・ラップ
製作:ロバート・アルトマン、エッチー・ストロー
共同製作:デヴィッド・レヴィ、ジェイムズ・マクリンドン
製作総指揮:ウィリー・ベア
撮影監督:粟田豊通
音楽:デイヴ・スチュワート
プロダクション・デザイナー:スティーヴン・アルトマン
コスチューム・デザイナー:ドナ・グラナダ
編集:アブラハム・リム
キャスティング:ハム・ディクソン・マイケルソン
キャスト
カミール・ディクソン:グレン・クローズ
コーラ・デュバル:ジュリアン・ムーア
エマ・デュバル:リヴ・タイラー
ジェイソン・ブラウン:クリス・オドネル
ウィリス・リッチランド:チャールズ・S・ダットン
ジュエル・メイ・“クッキー”・オルカット:パトリシア・ニール
レスター・ホイル:ネッド・ビーティ
オーティス・タッカー:コートニー・B・ヴァンス
ジャック・パーマー:ドナルド・モファット
マニー・フッド:ライル・ラヴェット
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