原題:Maelstrom

愛を殺すものは、愛に殺される。

ベルリン国際映画祭 国際映画批評家連盟賞 カナダ ジニー賞最優秀作品賞主要5部門独占 モントリオール映画祭最優秀観客賞、最優秀芸術貢献賞

2000年/カナダ/86分/ドルビーデジタル/ビスタサイズ 配給:ギャガ・コミュニケーションズ Gシネマグループ

2001年7月28日より銀座テアトルルシネマ他、全国順次ロードショー

公開初日 2001/07/28

配給会社名 0025

公開日メモ 新鋭デニ・ビルヌーブが奇抜なヴィジュアルとアイデアに富んだシナリオ展開で描く悪夢的世界…。世界の映画祭で絶賛を浴びた本作は「水」「輪廻」といった様々なイコンで観客を奇妙な世界へと誘う。

解説



新鋭デニ・ビルヌーブが奇抜なヴィジュアルとアイデアに富んだシナリオ展開で描く悪夢的世界…。世界の映画祭で絶賛を浴びた本作は「水」「輪廻」といった様々なイコンで観客を奇妙な世界へと誘う。

デヴィッド・クローネンバーグ、アトム・エゴイアン・・・・・・。これまでもとびぬけてユニークでエキセントリックな映像感覚とストーリーテラーぶりで観客を虜にするカルトな映画作家を生み出してきたカナダから、またもや世界を驚嘆させる新たな才能が登場した。
『Maelstrom〜渦〜』はカナダの新進映画作家デニ・ビルヌーブが、極めて刺激的な題材と話方に挑戦した第2作。すでに本年度のカナダ・ジニー賞主要5部門の独占、モントリオール映画祭で最優秀カナダ映画賞、観客賞、最優秀芸術貢献賞を受賞、さらにトロント映画祭でも最優秀カナダ映画賞を受賞するなど、カナダの主だった賞を独占する勢いを見せたばかりか、2001年度ベルリン映画祭でも国際映画批評家連盟賞に輝くなど、世界的な注目度も急激に高まってきている。
物語は一度見たら忘れられない異様なプロローグから語り起こされる。そこがどこかも定かでない空間に投げだされ、今まさに研ぎすまされた刃物で解体されようとしているグロテスクな姿の一匹の魚。彼の口からこんな言葉が漏れ始める。「これはありふれた”出発”から始まる物語。一人の若い娘が真実を求めて長い旅に出た……」
ビビアンはある大女優の娘で、雑誌などのメディアからも注目を浴びる存在。彼女は、ある夜酒を飲んで一人で家に戻る途中誤って男を車で礫いてしまう。パニックを起こした彼女はそのまま被害者を置き去りにして走り去った。新聞が男の死亡を告げる。罪の意識に苛まれ、一人苦悩するビビアン。はたして彼女はこの窮地から救済されることになるのだろうか……。
現代社会を生きる孤独な女性の苦悩と再生の物語を、複雑で斬新な話法と独自の映像感覚で捉えた監督+脚本はデニ・ビルヌーブ。MTVでの数々の受賞を経て劇映画の分野に進出、長編デビュー作『August 32nd on Earth』が1998年度のカンヌ国際映画祭で
「ある視点」部門に選ばれるなど高い評価を受けた。本作では前作に続いて監督と脚本を担当。物語を複数の視点から見つめるアプローチや偶然性を重視するストーリー展開など、現代の映画界で最先端を走る映画作家たちとも共通する主題に才能を発揮する逸材だ。
撮影のアンドレ・タービンは若手だが、映画のなかで鍵を握る”水”につながる青を基調とした画面の色合いや光と影の鮮やかな対比などが素晴らしく、彼が本作で果した役割は大きい。
物語中、語り部の魚は「ノルウェーの猟師は網の代わりに音楽で魚をとる。私はグリーグの調べに捕まえられたのだ……」と印象的につぶやくが、多彩な音楽の使用が『Maelstrom〜渦〜』の魅力の一つでもある。音楽を担当したピエール・デロシェールは著名な現代音楽の作曲家で、ビルヌーブとは『August 32nd on Earth』に続いてのコラボレーションになる。また、ロジェ・フラビエとリュック・バンダルという二人のカナダを代表する世界的プロデューサーが製作に当たっている。
役者陣では、主人公のビビアンを演じたマリ・ジョゼ・クローズに注目が集まる。力強さと脆弱さを合わせもちながら、冷徹な現代社会を懸命に生きのびようとする女性を好演している。本作での演技が国際的に高い評価を受けており、今後の飛躍が約束されたといっていいだろう。また、彼女を支える友人役として、エゴイアンの『スウィート・ヒアアフター』(97)で知られるステファニー・モーゲンスターンが出演、脇をしっかり固めている。

ストーリー



「これはありふれた”出発”から始める物語。一人の若い娘が真実を求めて長い旅に出た・・・」
闇に浮かび上がる、噴出する水飛沫のイメージ。どことも知れない不気味な場所で、むくつけき男が刃物を研ぎ澄ましている。彼の前にはグロテスクな姿の魚が血まみれで横たわり、近づく死を前に私たちに語りかける……。
「もう、あまり時間がない。こと切れる前のわずかな時間に君たちにこれを話しておきたい。すばらしく美しい物語を……」
画面は一転、現代的な医療設備の整った無機質な病室へ。ちょうど、語り部の魚が息絶えようとしているのと並行するようにして、そこに一人の若い女性が横たわり中絶手術を受けている。手術が無事終わり、彼女が病院を立ち去るとまた魚の声が聞こえてくる。
rこれはありふれた”出発”から始まる物語。一人の若い娘が真実を求めて長い旅に出た・・・・・・」
美しい彼女の名前はビビアン・シャンパー二ュ(マリ・ジョゼ・クローズ)。大女優の娘として生まれたこともあって、まだ25歳の若さでブティック、”スマトラ・チェーン”のオーナーだ。しかし、経営状態は思わしくなかった。それまで彼女のビジネスを支えてきた投資会社を経営する実の兄からこれ以上は投資できないので店をたたむよう告げられる。
混乱や絶望を紛らわすために親友クレール・ガンダーゼン(ステファニー・モーゲンスターン)から慰めやアドバイスを受け、クラブにくりだし酒をあおるビビアン。深夜に一人で車を運転して帰宅する途中、誤って男を礫いてしまうが動揺した彼女はそのまま逃げ去ってしまう。
その男は年老いた魚の卸売り業者で、仕事からの帰り、自宅の目前で事故に遭った。何とか自力で立ち上がり家までたどり着いたが、台所に座り込んだまま翌朝までに死亡してしまうのだった……。男は自宅で一人暮らしをしているので、職場の同僚が無断欠勤を不審に思って部屋を訪れるまで事件は発覚しなかった。ビビアンは見えない誰かにいつも強迫されるかのような不安に苛まれ、生活は混乱を極めていく……。
その朝も欠勤を告げるため、ブラリと店に足を延ばすと「ラヴェニール」誌のベテラン女性記者が彼女の取材に訪れていた。「若き実業家の未来」特集だという。記者は若いビビアンヘの冷ややかな敵意もあらわに執拗に母親との関係やビジネスヘの情熱の性的メタファーについて問い質す。ビビアンの孤独と焦りはつのるばかりだ。
ビビアンはクラブで知り合った男と一夜限りの関係をもつ等刹那的行為を繰り返しながら懸命に混乱した生活を立て直そうとする。しかし、彼女を支えるものは何もない。そんなとき、地下鉄内で見つけた雑誌の記事で、自分があの夜に礫いた男の素性と、彼が自宅で孤独に死亡した事実を知る。ビビアンは人気のないホームでたまたま隣りに座った行きずりの中年男に尋ねる「自首すべき?」。「(相手が)死ねば何をしょうと、何も変わらん。事故は事故だ。それにあんただっていずれは死ぬ。俺があんただったら、口は閉ざしておく。おやすみ」と男は答えて立ち去る。
夜のダム貯水池。ビビアンは忌まわしい事件の記憶から手を切るため、車を水底に沈めて処分しようとする。ところが、車は思うように落ちてくれず、彼女は自分の運命を天に委ねようと決意する。運転席に座ってエンジンをふかし車に乗ったまま、まっ逆さまに水に飛び込むビビアン。魚のつぶやき声が聞こえる。「助かれば、生きる権利があるということだ……」。
ビビアンは奇跡的に助かった。そして、せめてもの償いをする為に自分が礫いた男の死体が安置された場所に出かける。そこで彼女はエビアン(ジャン・ニコラス・ベロー)と運命的な出会いをする。彼はいったい何者なのか。そして、彼は失意のどん底にいるビビアンの心と体を癒すことできるだろうか?

スタッフ

製作:ロジェ・フラピエ/リュック・バンダル
監督:デニ・ビルヌーブ
脚本:デニ・ビルヌーブ
編集:リシャール・コミュー
撮影監督:アンドレ・ターピン
作曲:ピエール・デロシュール
録音:ジル・コルベール
美術監督:シルバン・ジングラ
衣装:デニ・スペリドークリス
音響:マシュー・ボーデン

キャスト

ビビアン:マリ・ジョゼ・クローズ
エビアン:ジャン・ニコラス.ベロー
クレール:ステファニー・モーゲン・スターン
魚の声:ピエール・ルボー
地下鉄の男:マルク・ジェリナス
フィリップ:ボビー・ベシュロ
サラ:バージニー・デュポア
写真家:シルビー・モロー
雑誌記者:マリ・フランス・ランベール
一夜の相手:クレルモン・ジョリクール

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