原題:SOLAS

母ローサ、娘マリア、犬と暮らす老人 三人の心が寄り添うとき、一条のひかりが射す

1999年ベルリン映画祭観客賞、国際批評家連盟賞受賞 1999年東京国際映画祭最優秀男優賞(カルロス・アルバレス=ノボア)、最優秀女優賞(マリア・ガリアナ)受賞 2000年ブリッセル国際映画祭最優秀女優賞(アナ・フェルナンデス)ほか受賞

1999年5月5日(スペイン)

スペイン/98分/35ミリ/1'85ヴィスタ/ドルビー/原題=SOLAS/日本語字幕=松岡葉子/後援:スペイン大使館/配給:ザジフィルムズ

2002年2月8日DVD発売/2002年2月8日ビデオ発売&レンタル開始 2001年3月17日より有楽町シネ・ラ・セットでロードショー

公開初日 2001/03/17

配給会社名 0089

公開日メモ 母ローサ、娘マリア、犬と暮らす老人 三人の心が寄り添うとき、一条のひかりが射す

解説


信州の母は東京の息子の家に来て、彼が結婚していたことを知る(小津安二郎監督『一人息子』)。苦労して育て上げ大学まで出した息子だったが、東京での暮らしは決して楽ではなさそうだ。母は失望を静かに胸に包んで信州に戻っていく。スペインの母親は、都会に出た娘がイライラしながら不幸そうに暮らしているのを見て、驚く。だが、彼女はそれほど失望しない。失望続きの人生に慣れているからか。いや、そんな風にしか彼女を見ることができなければ、人生の未熟者と笑われるだろう。
母ローサにはいろんなことが見える。娘のマリアのことだけでなく、都市の貧困も孤独も実によく見える。だが、ローサはそのことで少しもひるんだりしない。自分をめんどくさそうに扱う娘にも腹を立てたりせず、かといって憐れんだりもせず、ローサは自分の自然を娘にも与える。殺風景な部屋に鉢植えの花を揃え、料理をこしらえ、生活のあたたかい匂いを運ぶのである。その匂いに惹かれるように同じアパートの犬と暮らす老人がローサと親しくなる。二人のあいだに通う感情はまぎれもなく<愛>である。
入院中のローサの夫は、ある時彼女に「男の匂いがする」と言う。別の日には「同じ男の匂いがする」と。一瞬後退りするローサ。彼女はカルロスへの愛を意識していたのだ。初監督のベニト・サンブラノは何という心にくい演出をするのだろう。食あたりをおこして身体を汚した老人をローサが風呂に入れるシーンもいい。その時彼女は「私のようなおばあさんに何が恥ずかしいんですか」と言うが、夫の最初の言葉があってからのできごとだから、観客にはこれが二人にもたらされたささやかなロマンスであることがわかるのである。ローサの動きは家の中でも通りでもゆっくりしている。せかせかしていた娘がやがて母と同じリズムで話したり、食事をするようになる。母は娘が妊娠したことや、経済的な困窮の度合いは知らずに田舎に帰っていく。娘は母の人生がたまらなくつらいものだと思っていた。ある夜、娘は母に「もしもう一度生まれてきたら?」と聞く。「たったひとつだけ変えたいことがある…」と母が言うと、娘は寝てしまっている。それは多分夫のことだと思うが、映画がそれをあからさまにしない以上、言葉にするのはよそう。ローサ自身は言葉にするまでもないと思っていたかもしれない。
静かで豊かな映画だ。

ストーリー



スペインの大都市。暴力的な父の元を離れるため、田舎での生活を捨てて一人で暮らすマリア35歳。父親に進学を反対されたため思うような仕事に就けない。今は掃除婦をしている。付き合う男性も、大嫌いな父親のような人ばかり。昼間からバーに入り浸り、半ばアルコール中毒となっている。しかも、愛してもいない相手の子供を身ごもってしまったのだ。
ある日、その父親が倒れ、マリアの住む街の病院に入院した。彼の介護をするため、母親も田舎から出て来てマリアのアパートに滞在する。
母ローサは娘のことが気掛かりだが、娘はそんな母を受け入れようとしない。ローサは娘が留守の間に、部屋を片付け、料理をする。少しでも潤いのある生活ができるよう、鉢植えの花を買う。時間があれば編み物をしている。
ローサは買い物に出かけたスーパーで、アパートの階下の老人に出会う。老人は、妻に先立たれ愛犬アキレスだけを話相手に毎日を送っていた。鍋をこげ付かせた老人を見かね、料理を作ったり、具合の悪くなった彼の面倒を見たりと、いつしか、ローサと老人の間に友情のような愛情が育まれていく。
ほどなくマリアの父親は退院。ローサも一緒に田舎に帰ることになった。ローサは老人に別れを告げる。字の読めないローサは手紙を書く事ができない。娘マリアに少しばかりのお金とマリアが子供の頃一緒に写した写真を添えて田舎へ帰っていく。
一人になったマリアを老人が訪ねる。ローサが二人を結びつけたのか。二人はその晩、食事をし酒を飲みカード遊びをする。
酔ったマリアはお腹の子供のことを口にする。産みなさい、と言う老人。産みたいけれど、産めないと言うマリア。二人は激論を交わす。そして夜明け前に二人が出した答えは…。

スタッフ

製作会社:マエストランサ・フィルムス
製作:アントニオ・P・ペレス
監督・脚本:ベニト・サンブラノ
撮影:トテ・トレナス
音楽:アントニオ・メリベオ
製作主任:エドゥアルド・サンタナ
美術:ララ・オブレロ
録音:ホルヘ・マリン
編集:フェルナンド・パルド

キャスト

マリア:アナ・フェルナンデス
母:マリア・ガリアナ
老人:カルロス・アルバレス=ノボア
医師:アントニオ・ペレス=デシェント
父:パコ・デ・オスカ
フアン:フアン・フェルナンデス
バーのマスター:ミゲル・アルチバル

LINK

□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す