目をつむると、会えるひとがいる。

2001年/日本/1時間52分/ビスタサイズ/ドルビーステレオ/ 配給:日本ヘラルド映画

2002年1月25日DVD発売/2002年1月25日ビデオ発売&レンタル開始 2001年6月23日よりシネスイッチ銀座にてロードショー公開

公開初日 2001/06/23

配給会社名 0058

公開日メモ 「絶対音感」の著者、最相葉月氏のエッセー「なんといふ空」をモチーフにした作品。テーマ曲は、スガシカオの同名の曲。SMAPに提供したヒット曲。

解説


ボロボロに傷ついた私に、手を触れることもなく、「ま、ええんとちゃいますか」と微笑むあなた。この出会いは夢のように、風のように、一瞬で過ぎ去ってしまったけれど、あなたの存在が確かに残っている。あなたがココニイルコト、そして私がココニイルコト。何億光年離れても、そのことを忘れない———。

大阪を舞台にした不思議なラブ・ストーリー『ココニイルコト』は、ある青年の思い出を哀惜を込めて綴った、わずか1200字余りのエッセイから誕生した。骨董品と阪急プレーブスと明石天文台をこよなく愛した「大阪君」。ノンフィクション『絶対音感』の著者、最相葉月の「わが心の町 大阪ミナミ・新世界」と題されたこのエッセイは、別冊文藝春秋の1998年夏号に掲載された。これを目にした『ホワイトアウト』のプロデューサー、小滝祥平の中に、それから何か気になる存在として「大阪君」が住みついた。やがて「大阪君に会いたい」という、それだけの想いから映画『ココニイルコト』がラブ・ストーリーとして製作されることになる。

志乃役を瑞々しく演じているのは、これが本格的女優デビューとなる真中瞳。テレビ「進ぬ!電波少年」での世界一周ヒッチハイクや「ニュースステーション」のスポーツキャスターとしてお茶の間で人気急上昇中の彼女は、もともと女優志望。長い髪をばっさり切って映画初出演・初主演に挑み、これまでのイメージを一新する美貌と、新人離れした堂々たる演技を披露、新しいヒロイン像を見事に創り上げた。
実在の「大阪君」をモデルにしたもう一人の主役、前野悦朗役を演じるのは、”小劇場演劇界のプリンス”として人気を博し、NHK朝の連続テレビ小説「オードリー」にレギュラー出演を果たした演技派の注目株、堺雅人。宮崎生まれだが大阪弁をマスターし、端正な風貌に温かさを全身ににじませ、忘れえぬ感動を残してくれる。
周囲の人々の個性豊かな味わい深い演技も心に残る。怒鳴ったり呆れたりしながらも二人をさりげなく応援する上司に、『金融腐蝕列島 呪縛』の中村育二。新入りの志乃を目の敵にするが、しだいに頼もしい先輩となる女子社員、渡部あつこに、『クリスマス・イヴ』の黒坂真美。骨董屋のおやじとしてほんの一瞬、絶妙の”演技”を見せるのは笑福亭鶴瓶。阪急ブレーブス好きの玩具屋の社長に、吉本新喜劇の島木譲二。さらに、新人の原田夏希、『バカヤロー!4』の久保京子らが脇を固めている。
監督は、岩井俊二監督の『Love Letter』などでプロデューサーを務め、田中麗奈主演の『はつ恋』では脚本家として高く評価された長澤雅彦。満を持しての監督デビュー作となった本作でも、共同で脚本を手がけている。
撮影は、鈴木清順、崔洋一、中原俊といった日本映画界を代表する監督たちとの仕事で知られるベテラン、藤澤順一。『はつ恋』に続いての顔合わせとなった長澤監督の意向を汲んで、大阪の街を透明感のある美しい映像で捉えている。照明は『Love Letter』『スワロウテイル』『トキワ荘の青春』の中村裕樹。録音は、森田芳光や伊丹十三の作品で知られ、『ホワイトアウト』も担当した小野寺修。美術は、『夢二』などで池谷仙克に師事した大阪生まれの若手、富田麻友美。編集は、岩井俊二作品をはじめ多数の作品を手がけている掛須秀一。
本作のタイトル『ココニイルコト』は、テーマソングとして流れるスガシカオの同名曲から採られた。この曲は、SMAPに提供された「夜空ノムコウ」とともに、日本のミュージックシーンをリードするスガシカオの代表曲として知られているが、彼が23歳のときに初めて書いた記念すべき曲でもある。

ストーリー



東京の中堅広告代理店に勤めていた駆け出しのコピーライター、相葉志乃(真中瞳)は、ある日、上司の橋爪常務の夫人(久保京子)から手切れ金を渡され、大阪支社へ飛ばされた。橋爪本人からは何の連絡もない。ショックを受けながらも、志乃は黙って従った。願ったり信じたりしても無駄、そう思っていれば傷つかずにすむ。
初めての大阪。新しい職場での配属は営業局。そこには志乃のほかにもう一人、中途採用で入った前野悦朗(堺雅人)という新人がいた。彼は初出社の日に堂々と遅刻し、上司の山田(中村育二)に怒鳴られても屈託なく笑っている。志乃はホテルに1ヵ月の滞在予定でチェックインした。手切れ金の50万円を使い果たしたら帰るつもりだ。しかし、ハンサムな前野をめぐって渡部(黒坂真美)ら女子社員から吊るし上げられそうになったり、熊のぬいぐるみを着せられてCMの撮影に駆り出されたり。終わりにしよう。そう決心して競艇で一気に手切れ金をスッてしまおうとするが、逆に1千万円もの大穴を当ててしまう。
志乃は慣れない接待の席で失態を演じた。玩具屋の丸山社長(島木譲二)の前で、自社のCM企画を下品だとけなしてしまったのだ。窮地を救ってくれたのは前野だった。彼が阪急ブレーブスの話題を持ち出すと丸山社長は大喜び。しかも前野は、ブレーブスが日本一になった1975年は志乃の生まれた年、1988年に最後の試合が行われた10月23日は彼女の誕生日であることを披露し、さりげなく引き立ててくれた。志乃が礼を言うと、「ま、ええんとちゃいますか」。それが彼の口癖だった。
丸山社長は、クリスマスのCM企画を志乃に練り直させたいと言ってきた。思わぬチャンスだったが、橋爪とばったり再会した志乃は動揺し、会社を飛び出してしまう。前野はそんな彼女を馴染みのホルモン焼き屋に誘う。彼と店主の軽口の応酬に、初めて笑顔を見せる志乃。前野は、志乃がプラネタリウムを好きなことも社内報で読んで知っていた。しかし観察眼の鋭い彼は、靴を見ただけで男性との関係が終わったことを言い当て、志乃を怒らせてしまう。その夜、ホテルには”Happy Birthday”と書かれたプラネタリウムのチケットが届いていた。
25歳の誕生日、志乃はプラネタリウムを訪れた。そこには前野が待っていた。阪急ブレーブスの命日だと言って涙ぐんでいる。生きてる喜びを感じる所へ行こう、と彼が連れていってくれたのは路地裏の骨董屋・大門。居眠りしている店主(笑福亭鶴瓶)のそばには安物の蛙の置物。来るたびに、これがあると勝った気になる、と前野。やたらと「勝負」の好きな彼だった。会社をサボって二人は一日中、楽しく遊び歩いた。しかし日付が変わると、「あたし、負けちゃった」と志乃。初めて橋爪さんから何も貰えなかった。電話もなかった……。すると「橋爪のアホー!」と東京の方角を向いて叫び始める前野。志乃が靴を川に投げ捨てると、物に当たるなと叱り、濡れながら拾い上げる。「あたし、こんなんで生きてっていいのかな」「ま、好きなように生きとったら、ええんとちゃいますか」
翌日から前野は会社を休んだ。志乃が心配してアパートを訪ねると、古道具やがらくたでいっぱいの部屋の窓際に置かれたベッドの上で、前野はじっと何かを眺めている。昼なのに、星が見えるのだという。だが志乃には見えなかった。急に若い女性が訪れ、前野の恋人と早合点した志乃は慌てて退散する。
その女性が会社に志乃を訪ねてきた。彼女は門倉めぐみ(原田夏希)、前野の妹で19歳の既婚者だった。前野は心臓病の悪化で入院したという。阪急ブレーブスの命日とは、彼が最初の大手術を受けて九死に一生を得た日だった。めぐみは志乃に、兄が手術を受けるよう説得してほしいと頼む。
病院を訪れると、ただの盲腸炎だと言って元気そうにしている前野。幼い頃に父を亡くしたつらさを忘れられない志乃は、そのときのことを彼に打ち明ける。家族で星を見に行ったら雪が降ってきた。雪を無理やり星に見立ててお願いしたけれど、叶わなかった。それ以来、何かを願ったり信じたりすることをやめたのだと。すると前野は言う。自分のことを信じられなければ願いも叶わない、願えること自体が幸せなのでは……?志乃が手術のことを切り出すと、前野はとんでもない賭を持ちかけた。彼の預金全額を志乃が競艇に賭けて勝ったら、手術を受けると。
前野のおかげで遠い昔の幸せな記憶が蘇った志乃は、大切にしまっておいた家族の記念写真を使ってCMの企画を作り上げる。問題は、まだ季節ではない雪景色が必要なこと。
はたして志乃は前野に手術を受けさせることができるのか。そして、CMを無事に完成させることができるのか……。

スタッフ

製作:安田匡裕/坂上直行/伊達寛
企画:木村純一/遠谷信幸/川城和実
プロデューサー小滝祥平/千野毅彦/古川一博
監督:長澤雅彦
脚本:長澤雅彦/三澤慶子
原案:最相葉月『なんといふ空』(中央公論新社刊)
撮影:藤澤順一(J.S.C.)
照明:中村裕樹
録音:小野寺修
美術:富田麻友美
装飾:福澤裕二
編集:掛須秀一
助監督:落合俊一
製作担当:氏家英樹
音楽:REMEDI0S
音楽プロデューサー:慶田次徳
テーマ曲:『ココニイルコト』(キティMME)
歌・作詞・作曲:スガシカオ

キャスト

相葉志乃:真中瞳
前野悦朗:堺雅人
山田武史:中村育二
大伴尚之:小市慢太郎
渡部あつこ:黒坂真美
門倉めぐみ:原田夏希
藤井明久:阿南健治
土屋誠:不破万作
福田恒夫:近藤芳正
橋爪久美子:久保京子
宇田川政樹:俵木藤汰
江藤由希子:臼井静
川藤大輔:井之上チャル
四方田悟:稲森誠
工藤友康:重松収
丸山亀吉:島木譲二
大門幸三:笑福亭鶴瓶

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