ホテル・スプレンディッド

○愛と料理は人生をかたちづくるばかりか、世界に風穴をあける。
脚本・監督を担当したグロスはこれまでCF、ミュージック・ビデオ、短編映画などに才能を発揮してきた。
初めての長編劇映画にあたって、彼は愛と食の欲望がもたらす世界への反乱というモチーフを打ち出し脚本化。純愛から肉欲愛、歪んだ愛までさまざまな愛のかたちを内包しながら、管理化されたホテル(世界)を強烈にカリカチュアしてみせた。
その卓抜した仕上がりに感動したプロデューサーのイルディコ・ケメニーが、イギリスのフィルム・フォー、フランスのカナル・プルスに持ち込み、興行的な実績がないにも関らず、即座に映画化の運びとなった。
この脚本はキャスティングにも大きな影響を及ぼした。脚本を読んだ俳優たちから出演を望む声が続出し、その数の多さゆえ選ぶことに苦労したという。
その成果は魅力的なキャスティングに現れている。ヒロイン、キャスを演じるのは『ミュリエルの結婚』で注目を浴び、『シックス・センス』でアカデミー助演女優賞にノミネートされたトニ・コレット。
彼女の活き活きとした個性と容姿、演技力が画面にみなぎっている。
また相手役のロナルドには『エリザベス』のダニエル・クレイグ、デズモンドには『ブラス!』のスティーヴン・トンプキンソンと、イギリス映画界の個性派男優が居並ぶ。これに加えて、『キャリア・ガールズ』などマイク・リー監督作品でおなじみの
カトリン・カートリッジ、『三銃士』のヒュー・オコナー、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のヘレン・マックロリー、『プライベート・ライアン』のジョージ・スタドラー。
そして『理想の結婚』の名優ピーター・ヴォーガンまで、役柄に合わせたヴァラエティに富んだ顔ぶれである。
グロスをサポートするスタッフも素晴らしい。撮影は自らも監督しての実績を誇るハンガリーの俊英、ギュラ・パドス。美術のアリソン・ドミニッツは『狼の血族』に参加したことでも知られている。CM、舞台、映画と幅広い活躍をみせる衣装のミシェル・ペルネッタを含めて、3人とグロスのコラボレーションは、テリー・ギリアムの世界を彷彿させる世界に結びついている。
編集は『ブラス！』や『白い嵐』などのベテラン、マイケル・エリス。音楽は『魅せられて』に参加し、UK音楽シーンでも活躍目覚しいマーク・シャンツ。
まさにイギリス映画界のさまざまな才能が結集した、おいしい逸品。
毒とユーモア、人間賛歌のスパイスが効いた愛のフルコースをとくとご賞味あれ。