原題:AUGUSTIN ROI DU KUNG-FU

1999年8月25日フランス初公開

1999年/フランス・スペイン合作/89分/DTS , Dolby Digital/ 配給:シネマパリジャン

2005年09月02日よりビデオリリース 2005年6月18日よりユーロスペースにてロードショー

ビデオ時に変わった場合の題名 おとぼけオーギュスタン

公開初日 2005/06/18

配給会社名 0043

公開日メモ 「おとぼけオーギュスタン」から5年。フランス版ミスター・ビーンこと、あの迷優が還ってきた。今回は美しいマギー・チャンとの一世一代の大恋愛譚。

解説

95年のカンヌ映画祭《ある視点》部門で上映されるや、“フランス版MR.ビーン”と全世界で話題沸騰、日本でもロングラン・ヒットを記録した傑作『おとぼけオーギュスタン』、待望の続編がついにやって来る!どこまでも飄々と、マイペースなオーギュスタンが引き起こす騒動の数々を、ペーソスあふれるオフビートな笑いに包んで描いた前作から一転、9年ぶりの日本公開となる本作『オーギュスタン/恋々風塵』は、実は紛れもないラヴストーリーなのだ。カンフースターを夢見るオーギュスタンの相変わらずのおとぼけぶりもさることながら、美人鍼灸師にプラトニックな恋心を抱くオーギュスタンの純粋な思いの深さにラストではほんのり涙を誘う、詩的な美しさに満ちた感動的な愛のロマンである。
カンフースターに憧れるオーギュスタンは、幻覚でみたカンフーマスターの一言をきっかけに、パリのチャイナタウンでのカンフーの修行を決意する。ところが、オーギュスタンは他人と接触することが大の苦手。こうしてこの難題を解決するため向かった診療所で、彼は美しい鍼灸師のリンと出逢う。“パリの中国人”という孤独な影を隠し持つリンと、パリで中国人になりたい矛盾を抱えるオーギュスタン。奇妙な異邦人同士のふたり。やがてオーギュスタンは彼女に淡い恋心を感じ始めるのだが……。
オーギュスタンを演じるのは、前作に引き続きジャン=クレティアン・シベルタン=ブラン。濃い眉に肉厚の唇、ひょろひょろとした痩身体躯が醸し出す味わい深いおとぼけぶりは本作でも健在だ。彼が披露するカンフー演技は抱腹絶倒間違いなしだが、ひたすらカンフースターになるため、“パリの中国人”になろうとチャイナタウンで暮らし始めた彼が、生涯唯一の恋を知った。今まで、他人の感情には無頓着で、自己の世界で完結していた彼が、こうして一歩、外の世界に足を踏み出す。その成長は、時にオーギュスタンを“二枚目”にも見せ、思いがけないラストシーンは誰もが深い感銘を受けるのは間違いない。
そして、何といっても注目なのは、オーギュスタンのマドンナ、リンを演じるマギー・チャンである。『欲望の翼』『花様年華』などウォン・カーウァイとのコラボレーション作で、フランスのシネフィルにも高い人気を誇る彼女は、昨年のカンヌ国際映画祭では、フランス映画『クリーン』で見事、最優秀女優賞を射止め、文字通り国際的スター女優となった。そんなマギーが、満足にフランス語を喋ることのできないままフランス映画に初挑戦、その渾身の体当たり演技で、“異邦人”の悲哀を儚い美しさを身にまとい、清らかに体現しているのは、ファンならずとも必見だ。
共演は、オーギュスタンに中国雑貨店員としての心得を教授するレネに、50年代から映画や舞台でコメディアンとして活躍するダニー・コール。オーギュスタンと疑似親子なのか疑似恋人なのか渾然一体としたこのレネ役での好演で、第二の黄金期を迎えた彼は、セザール賞名誉賞を受賞したヴェテランである。ちなみに彼はその後、『巴里の恋愛協奏曲』での怪演で03年度の同賞助演男優賞を獲得した。そして、リンのフランス語の教師で、“妻ひとすじ”でありながら彼女との微妙な感情に戸惑うブティノに、フランスのコメディ集団《レザンコニュ》のメンバーで、モリエール賞にも輝くベルナール・カンパン。これまで即興的な舞台演技を得意としていた彼にとって新境地を拓くことになった本作でのナイーヴな演技が認められ、その後、『記憶の森』では03年のセザール賞主演男優賞候補となるなど、多彩に活躍している。
監督は『ドライ・クリーニング』『恍惚』と衝撃の問題作を立て続けに発表するアンヌ・フォンテーヌ。彼女の独自のビター・スイートな魅力が、これまでのおとぼけのオーギュスタンの世界に色濃い陰影を与えている。人間として成長し、未知の世界に旅立って行くオーギュスタンの挑戦を、観るものの心を揺さぶらずにはおかない静かな余韻とともに見事に描き出した。また、前作ではオーギュスタンのオーディションの相手役としてティエリー・レルミットが本人役で特別出演したように、本作では『恍惚』でフォンテーヌと組んだファニー・アルダンと、『ピエロの赤い鼻』の名優アンドレ・デュソリエが、オーギュスタンのNGによって名演を台無しにされる映画スター役で出演。そしてオーギュスタンに怒り心頭の監督役には、『美しき諍い女』『ジャンヌ』などジャック・リヴェット作品の脚本家として知られ、自らも『アンコール』『ロベールは無関係』など監督作を発表しているパスカル・ボニツェール。
フォンテーヌとともに脚本を執筆したのは、やはり『恍惚』でも組んだジャック・フィエスキ。実は本作がふたりの初コラボレート作となる。さらに、脚本協力で『ドライ・クリーニング』のジル・トーランが参加、前作よりいっそう成熟した大人の愛のロマンを生み出したのは、ふたりの功績が大きいだろう。
撮影は『愛の世紀』『やさしい嘘』のクリストフ・ポロック、編集は『中国の小さなお針子』『イザベル・アジャーニの惑い』のリュック・バルニエ、美術は『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』のカティア・ウィスズコップ、衣裳は『リディキュール』『歓楽通り』などパトリス・ルコント作品で手腕を発揮するクリスチャン・ガスクと、一流スタッフが揃った。製作は、デビュー作以来、アンヌ・フォンテーヌとは公私にわたるパートナーのフィリップ・カルカッソンヌ。彼は、リ・マー名義で、本作の音楽も担当している。
なお、オープニングで挿入されるジャッキー・チェン主演の『酔拳』の一場面にオーヴァーラップされる漢字クレジットは、実は本作のものである。(原題「オーギュスタン、カンフーの王様」=奥古斯丁功夫王)。そんな遊び心もお見逃しなく!

ストーリー

自転車を繰って意気揚々とパリの街を横断するオーギュスタン(ジャン=クレティアン・シベルタン=ブラン)。俳優志望の彼は、CMやドラマのエキストラ応募に余念がない。そんな彼が今、夢中なのはカンフーだ。カンフー映画の大スターを夢見るオーギュスタンは、ジャッキー・チェン主演のカンフー映画が上映中の映画館に入り浸って、旧式の大型テープレコーダーにその音声を録音している。そして帰宅後、それを再生して自己流カンフーの練習に励んでいるのだ。とはいえ、ひょろひょろと長身のオーギュスタンの披露するカンフーは滑稽で、まったく様になっていない。
そんなある日、ウェイター役で、大スター、ファニー・アルダンとアンドレ・デュソリエの共演シーンにエキストラ出演したオーギュスタンは、せっかくのシーンをNG連発で台無しにし、監督(パスカル・ボニツェール)から怒鳴られる。しかし悪びれることなく、飄々とマイペースを崩すことはないオーギュスタン。撮影の合間に、ファニー・アルダンから声をかけられた彼は、胸を張ってこう夢を語るのだった。「カンフー映画に出演したいんです。可能性を信じています、道は開ける、と」
その夜、カンフーの練習をするオーギュスタンの前に、幻覚のようにカンフーマスターが現われ、彼にこう告げる。「修行を積め。これまでの生活を捨て、未知の世界に旅立つんだ。カンフーが生まれた土地へ……」。翌朝、全財産を自転車に積み込んだオーギュスタンは、軽やかにパリの街並みを超えてゆく。そうして夜になり、ようやくパリ13区の中国人街に到着した彼は、《ホテル上海》に新居を構える。こうしてオーギュスタンの修行の日々の幕は切って落とされた。
早速、カンフー道場の門を叩くオーギュスタンだったが、彼はひとつ重大な問題を抱えていた。他人と触れることが苦手なのだ。目眩が起きて、悪寒に苛まれ、身体が麻痺してしまう。カンフーを習得するには、これは致命傷だ。何とかこれを克服しようと、オーギュスタンは街中にそびえる団地の一室を訪ねた。そこは、中国から1年半前にパリにやってきた鍼灸師リン(マギー・チャン)の診療所だった。鍼の恐怖に脅えながらも、そのときオーギュスタンはすでにリンへほのかな恋心を抱いていたのだろう、“中国2000年の歴史”を信じ、彼は治療を受けることを決意するのだった。
一方、少しでも多くの中国人と知りあいたいと願うオーギュスタンは、地元中国人向けの雑貨店《激安アジア》の店員になるべく、オーナーに直談判する。店員補充の予定はないとケンもほろろなオーナーの態度を一変させたのは、オーギュスタンのこの一言だった。「タダ働きでかまいませんから」。こうして見事、店員の座を射止めたオーギュスタンは、店長のレネ(ダニー・コール)から商売のコツを叩き込まれるが、その最中に居眠りをしてしまう。どうやら、鍼治療の副作用らしい。
体調が悪化したのを何とかしてもらおうと、オーギュスタンはリンを訪ねてブッダ教会に足を踏み入れる。そこで彼は、リンのフランス語教師であるブティノ(ベルナール・カンパン)と知りあった。ブティノは、19世紀の中国を舞台にした小説を執筆するため、リンからディテールのアドヴァイスを受けていたのだった。こうしてオーギュスタンは、ブティノから中国語を学び始めるようになる。
やがて、オーギュスタンに対するリンの治療は本格的になってゆく。「あなたを知りたいけど、本に書いていないの」とオーギュスタンのツボを探すリン。そしてこう続ける。「長い間眠っていたものを目覚めさせるの」。診療台に横になり、顔に布をかぶせられたオーギュスタンは、次第に呼吸が荒くなり、突発的にお腹に刺さった鍼を抜き取るや、リンが止めるのも聞かず、診療所から飛び出してしまう。その頃、仕事面でも変化があった。レネがオーナーを説得したのが功を奏し、有給で正式採用になったのだ。その夜、珍しくレネとダンスを踊るオーギュスタンの表情は、いつになくリラックスして見える。
そんなある日、オーギュスタンはリンからブッダ協会の設立10周年パーティに誘われる。「接触の悩みが消えたかどうか判るわ」とリンとダンスを踊るオーギュスタンだが、その最中、彼は昏倒し、意識不明になってしまう。オーギュスタンが運ばれた病院で、リンはレネから「彼に及ぼす影響力を理解していない」と叱責される。そしてオーギュスタンとの面会を拒否されたリンには、「明晩、カフェで待っている」とレネにオーギュスタンへの伝言を頼むのだった。翌日、オーギュスタンは《ホテル上海》を出て、レネのアパートで暮らすことにする。髪を撫でつけ、香水をまとうレネは、「他人と眠るのは久しぶりだ」といつになく気分を高揚させている。その頃、カフェでひとり待ちぼうけのリンは、所在なく煙草をくゆらせていた。
翌朝から、何くれとなくオーギュスタンの世話を焼くレネは、まるで恋人のように彼に接する。息苦しさを感じたのか、オーギュスタンはふと自転車とともに中華街を彷徨い、ふらりと映画館に立ち寄る。スクリーンを眺めるオーギュスタンの眼に映るのは、カンフースターとなり、妙技を駆使するリンの姿、そして薄紅色の花びらが舞い散る中、彼女と口づけを交わすオーギュスタン自身だった。ようやく、リンへの愛に気づいたオーギュスタンは、夜の帳の降りた街を自転車で走る、彼女のもとへと……。

スタッフ

監督・脚本・台詞:アンヌ・フォンテーヌ
共同脚本・台詞:ジャック・フィエスキ、ジル・トーラン

キャスト

ジャン=クレティアン・シベルタン=ブラン
マギー・チャン
ダリー・コール

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