原題:HOTOKE

人は僕のことをホトケと呼ぶ。まだ、一度も怒ったことがない。

2001年第3回ドーヴィル・アジア映画祭 最優秀イマージュ賞受賞 2001年第51回ベルリン国際映画祭正式出品作品 2001年シアトル国際映画祭正式出品

2001年/日本/35mm/113分/ビスタサイズ/カラー 配給:ソ二一ピクチヤーズ・エンタテインメント

2002年11月22日よりDVD発売開始 2002年1月11日ビデオレンタル開始 2001年8月25日よりシネマスクエアとうきゅうにてロードショー公開

(C)2001 ソニー・ミュージックエンタテインメント/フジテレビジョン/ケイエスエス/ソニーPCL/JINSEI FILM SYNDICATE

公開初日 2001/08/25

配給会社名 0042

公開日メモ 「ほとけ」のモチーフは、生と死、暴力、コミュニケーションの不全、そしてある種の宗教性...それは辻が小説で追い続けてきたモチーフであり、同時に私たちが「いま」という時代に向き合う時、決して逃れ切れないテーマでもある。

解説



(創作の中心は「詩」。詩が長くなったのが「小説」で、音楽がつくと「ロック」。「映画」はその要素が全て詰まっている立体的な世界)と語る辻仁成にとって、映画は愛してやまない表現手段であり、映画を撮るということは宇宙を創るようなものだ。「千年旅人」(1999年ヴェネッィア国際映画祭・国際批評家週間正式招待作品)に続く劇場長編第二作『ほとけ』のロケ地は北海道・函館。小説「函館物語」「世界は幻なんかじゃない」にも登場するこの港町で、辻は多感な青春時代を送った。エキゾチックな洋館、煉瓦造りの倉庫や塀、造船所、漁港、汐に白く焼けた板壁の家々と、函館にはロケセットにはうってつけの建築物がいまも数多く残っている。

映画という宇宙の構築を考えるとき、辻がまず協議すのが美術監督。彼の頭の中にあふれだすイメージを、美術の種田洋平がデザイン画にまとめ、繊密なディスカッションを通してスクリーンに定着させる「絵」を創り上げていく。

「ほとけ」で重要な位置を占める「絵」は、「船員会館」と「巨大な鉄仏」。無住のまま荒れ果てていた建物の外装は一度きれいに磨き上げられてから、わざわざ汚された。そして、シバ(大浦龍宇一)一味がたむろし、ユマ(yuma)がマッサージ師として働く船員会館へと生まれ変わった。正室のがっしりしたドアを開けて中に入ると高い天井のホール。左手にバーカウンター、正面に二階に続く擦りへった階段、そして右手にマッサージ室が配置されている。木製の窓枠、黄ばんだ壁に貼られた注意書き、おしぼりいれ、扇風機…マッサージ室は細部まで一つの時代を切り取っている。
もう一枚の「絵」は鉄仏。映画中で武田真治演じるライが街中の鉄くずをリヤカーで拾い集め、密かに造り上げる巨大な鉄の仏だ。監督とのセッションの後、アトリエで種田が描き上げたデザイン画をもとに建立したのは職人・坪井一春。「仏殿」は青函海峡に面する海岸に建つ自動車修理工場。遠く海の彼方、西方浄土を見晴らす金色の目を持つ、高さ5.7m、重さ6.5㌧の巨大な鉄仏。廃棄されていたテレビや冷蔵庫を組み合わせた蓮台の上に、V字鋼、パイプ、鉄筋、サッシなど、ありとあらゆる鉄材を溶接して胴体部を造り、頭部の螺髪(らほっ)はボルト、光背は赤く錆びたトタン板を流用している。

「絵」を創った後に綿密に練り上げられたシナリオを、辻は現場で惜し気もなく変えていく。シーンを切り、台詞もカットも変える。傍目には思いつきのインスタレーションとも見えそうだが、その実、演出は丹念で粘っこい。俳優への、とりわけて感情の表出についての演出は微細だ。まずその場の状況を飲み込ませ、台詞を吐く瞬間の目線の使い方を、声の調子や息使いまで、その瞬間のタイミングから説明する。言葉をつかって微細な感情や心理を表現する小説家ならではの演出だ。

「ほとけ」のモチーフは、生と死、暴力、コミュニケーションの不全、そしてある種の宗教性…それは辻が小説で追い続けてきたモチーフであり、同時に私たちが「いま」という時代に向き合う時、決して逃れ切れないテーマでもある。

主人公ライを自然体で演じるのは、『御法度』(99・大島渚監督)での沖田惣司役がすがすがしく印象的だった武田真治。その兄でバイオレントだが、一本気なシバを大浦龍宇一。シバを慕う盲目の少女ユマをyuma。シバをめぐってユマと張り合うモエを本作がスクリーンデビューとなる不二子。シバの子分ですぐにキレる真蔵に津田寛治。シバのライバル・ムジには城尚輝など、フレッシュで個性的な若手演技派をキャストした。これを囲んで井川比佐志、根岸季衣、千石規子など名うての芸達者たちが脇を固め、至福のラストヘとドラマを盛り上げる。

ストーリー




異様な陰影が漂う風景美、古い時代の面影を残した港町。ライ(武田真治)はリアカーを引いては、道端の鉄屑を集め、花の種を蒔いている。ライのあだ名は「ホトケ」。怒りや悲しみといった感情をその表情に表わすことがなかった。街のワルたちに小突か肌、殴られても、いつも微笑みを浮かべているのだった。
兄のシバ(大浦龍宇一)はきっぷもいいし、腕力もある。アワビの密漁で小金を稼ぐ若者たちのリーダーとして真蔵(津田寛治)たち仲間からは慕われ、敵対し、対抗するムジ(城尚輝)のグループからは恐れらていた。その存在はライとは対照的だった。
ユマ(yuma)は港のそばの船員会館でマッサージ師として働いている。母の千鶴子(根岸季衣)と飲んだくれの義父。その一家の暮らしを支えるのはユマだった。幼い頃の悪夢のような夜の出来事がユマの瞳から光を奪った。近所の子供たちに苛められ、泣きじゃくるユマを救ったシバの『大きくなったら嫁にしてやる」という言葉を信じ続けていた。いつの日かシバとふたりでこの街から出て行くことをユマは夢みていた。
何年もかけて拾い集めた鉄屑でライは巨大な仏をつくっている。「おまえはまだ人を殴ったことがない。人に愛されたことがない」届かない想い、魂を鉄仏へと込めるライ。それは、なき母の「墓」だ。鉄造(井川比佐志)の浮気に悩み、荒れ狂う海にその身体を投げたまま帰らなかった母のための….。
人間が無駄にした鉄屑で造った仏に魂が込められた時、仏は立ち上がり、この汚れに満ち満ちた世界を破壊し、くだらない連中を一掃するのだとライは信じている。
ユマを覗き見、ユマのことを想うとき、いつもライは息苦しさを覚えて仕方がない。それが「人を好きになる」ということだと船員会館のシナ子婆さん(千石規子)は言うが、ライにはわからない。その想いをうまく伝えられなかった。シバはユマの気持ちを弄びクラブ「エデン」のモエ(不二子)とも付き合っていることも、ライの気持ちを複雑なものにしていた。
「強い男が好き」というユマ。その目に光が戻ったことをライが知った時、鉄の仏の眼が妖しく光り、ライを世界の破滅へと導くのだった….。

スタッフ

製作:ソニーミュージック・エンタテインメント/フジテレビジョン/
   ケイエスエス/ソニーPCL/JINSEI FILM SYNDICATE

原作・脚本・監督:辻仁成
製作協力:SUPLEX INC.
企画:JINSEI FILM SYNDICATE
企画・プロデュース:佐谷秀美
プロデューサー:原岡賢一郎/臼井裕詞/服巻泰三/烏澤晋
ラインプロデューサー:山本章
製作担当:鶴賀谷公彦
撮影:蔦井秀晃
照明:石田健司
録音:橋本泰夫
美術:種田陽平
装飾:赤塚佳仁
スタイリスト:宮本まさ江
編集:掛須秀一

キャスト

ライ:武田真治
シバ:大浦龍宇一
ユマ:yuma
ムジ:城明男
モエ:不二子
真蔵:津田寛治
千鶴子:根岸季衣
しな子:千石規子
鉄造:井川比佐志

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